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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第十章 ダンス・ウィズ・キャッツ
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僕の図書室を守って①

「電話、本当にいさなさんから?」

 部室に向かいながら、小声で尋ねる。

 かなでは首を振った。

「ううん。耀太ようたくん。小学校の電話からかけてきた」

 耀太自身の学校での問題ならば、わざわざ氷魚を連れ出したりしないだろう。

「怪異絡み?」

 氷魚ひおが問うと、奏はうなずく。

「だと思う。とりあえず、遠見塚とおみづか先輩に相談したいな」

『日常に這い寄る怪異、引き受けます』という、もはや見慣れた張り紙の貼られたドアをノックし、奏は郷土資料室のドアを開ける。

 室内では、いさなと部長の星山ほしやまが長机の上に広げた資料とにらめっこをしていた。

「あれ? 2人とも、今日はクラスの出し物の準備じゃなかったの?」

 顔を上げたいさなが言った。

「ええ、そうだったんですが……。先輩方は、資料の整理ですか」

「うん。文化祭で、鳴城の昔からある怪異スポットを紹介する新聞を発行しようと思ってね。遠見塚に手伝ってもらってたんだ」と、星山が応える。

 ぱっと資料を見たところ、知らない場所がほとんどだったが、鳴城城址や公園など、実際に氷魚が怪異に遭遇した場所もあった。

「こうして改めて確認すると、わたしが知らない場所がけっこうあって面白いね」

「お忙しいところを申し訳ないんですが、遠見塚先輩、ちょっとお時間よろしいですか?」

 それで星山といさなは察してくれたらしい。

「こっちは問題ないよ。資料をまとめたらあとは書くだけだから」

「そう? だったら、お願いしちゃおうかな」

 いさなは鞄を手に取った。そうして、3人は連れ立って部室を出る。

「耀太くんが教えてくれたんですが、芝宮しばみや小学校で怪異災害が発生したかもしれません。これから調査に行きたいので、協会の許可を取ってもらえますか」

 部室を出るなり、奏は言った。

「どんな状況?」

 氷魚も気になっていたことを、いさなが訊いてくれた。

「耀太くんの話では、今朝、図書室が荒らされていたとのことです。本が散乱して、台風が通り過ぎた後みたいになってたとか」

「図書室だけ? 他の場所はなんともなかったの?」

「そのようです。家鳴やなりでしょうか」

 奏が言うと、「どうかな」と、いさなは顎に手を当てた。

 家鳴りは氷魚も知っている。

 物が勝手に動いたり、家が揺れたりといったポルターガイストみたいな現象を引き起こすあやかしだ。

 だが、小学校の、しかも図書室限定なのは不可解だ。図書室に恨みでもあるのだろうか。

「とにかく、確認するね」

 携帯端末を取り出したいさなは、どこかに電話をかける。改まった口調でやり取りを交わし、いさなは「許可は取ったよ。この件はわたしと弓張ゆみはりさんに一任するって」と携帯をしまった。

「やけにあっさり調査許可が出ましたね」

「協会の方でも把握してたからね。警察から情報が上がってたの。学校から通報があったんだね」

「なるほど」

「芝宮小学校には話を通してくれるそうだから、このまま行っても大丈夫」

 相変わらず、協会のパイプは謎だ。猿夢事件の際にも、こうやって許可を取ったのだろうが、一体どうなっているのか。

 協力者とはいえ、一般人の氷魚が軽々しく聞けることではないし、きっといさなも奏も教えられないと思う。

「わかりました! それじゃ、さっそく行きましょう!」と奏が意気込んで言う。

 鳴城高校から芝宮小学校までは、歩いて10分くらいで着く。今からでも先方の迷惑にはならないだろう。

「ちょっと待って」

 いさなはひどく真剣な面持ちで、歩き出した奏を制止した。

「どうしました?」

 奏が問うと、いさなはお腹に手を当てた。

「どこか具合でも……」

 いや、違うよ弓張さんと氷魚は心の中で突っ込む。

 これはおそらく――

「ううん。お腹が減っただけ。途中でコンビニに寄って食べ物を買ってもいい?」

 予想通りだった。

「――どうぞ」

 いつなんどきでも、いさなはぶれないのだった。

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