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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第九章 あやかしのサガ
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あやかしのサガ③

「いらっしゃい。待ってたよ。上がって」

 インターフォンを鳴らすなり、ドアが開いてかなでが顔を見せた。

「――え、ええ!?」

 奏をまじまじと見た小町こまちが驚きの声を上げる。

「あなた、まさか――カナカナ?」

 どうやら、奏の知名度はあやかしにも通用するようだ。

弓張ゆみはり奏です。よろしくね。さ、どうぞ」

 挨拶もそこそこに、奏は小町と氷魚ひおの手を引いて廊下に上げる。

「ちょ、ちょっと氷魚!? どういうこと?」

「弓張さん、眼鏡をかけてたよね。あれ、魔導具なんだって。天狗の隠れ蓑みたいな効果を持ってる」

 氷魚が説明すると、奏は一応納得したようにうなずいた。

「ああ、だから気配が薄かったのね」

「効果には個人差があるみたいだけどね」

 小町にはばっちり効いていたようだ。

「にしても、あのカナカナが協会に所属していて、しかも茉理まつりさんの弟子……?」

 氷魚はようやく慣れてきたが、そりゃすぐには信じられないよなと思う。

「うん。あ、そうだ。あたし、実はダンピールなの。純粋な人間じゃないんだ」と、奏はなんでもないことのようにさらりと言った。

「――」

 小町はもはや言葉もない。

「それより、2人ともこっちこっち」

 通されたリビングでは、耀太ようたがテレビを観ていた。

「耀太くん、こんばんは。お邪魔します」

 氷魚が挨拶すると、こちらに向き直った耀太は行儀よく頭を下げる。

「こんばんは。氷魚殿」

 それから耀太は小町に目を向けた。

鎌鼬かまいたちの小町殿ですね。ぼくは半分妖狐の耀太といいます。よろしくお願いします」

「……半分。あ、う、うん。こちらこそよろしく」

 小町が助けを求めるようにこちらに視線を向ける。頭の上に疑問符が浮いているのが見えるようだった。

「弓張さんと耀太くんは一緒に暮らしてるんだ」

「――?」

 小町の疑問が更に深まった気がするが、これ以上は氷魚の口から言うことではなかった。

「あたしたちは、ある事件を通して知り合ったの。半妖同士、縁があったということで、今の生活に落ち着いたんだ」

 奏が置いてけ堀事件から今に至るまでを、ものすごくざっくりと総括する。

「不思議な組み合わせだね」

「面白くていいでしょ? さ、座って」

 奏に促され、氷魚と奏はテーブルの前に置かれたクッションに腰を下ろした。

「――あの、カナカナ、いえ、奏、さん。その……無理を言ってごめんなさい」

 飲み物を持ってきてくれた奏に、小町はおずおずと言う。

 さすがの小町も、奏相手ではどういう態度で接したらいいかすぐには決められないらしい。

「ぜんぜん。大歓迎。頼んでいたカードゲームが届いたから、面子が欲しかったの」

「カードゲーム?」

 奏は部屋の隅に置かれていた段ボールから何かを取り出した。

「これ! 『シャークインパクト』だよ!」

「なにそれ……」

 小町と氷魚の声が重なった。

 奏が持つ箱には、サメのイラストが描かれている。

「サメ映画をリスペクトしたカードゲーム。『日本サメ映画学会』のお墨付き」

 奏は水戸黄門の印籠のように箱を掲げた。いい笑顔だった。

 このカードゲームに限った話ではないが、奏はこういうのをどこで見つけてくるのか。

 サメ映画の愛好家が一定数いるのは知っているが、カードゲームまであるとは。

 それにしても、日本サメ映画学会って何だろう。

「サメ映画?」

 小町が首を傾げた。

「ほら、夏になるとレンタルショップの新作コーナーにずらりとサメのパッケージの映画が並ぶだろ? あれだよ」

「ああ……。ニッチな気がするんだけど、需要あるの?」

「あるんだろうね」

 ちなみに橘家では母と姉が結構観ている。はずれも多いが、当たると嬉しいらしい。

「さっきピザを頼んだんだ。みんなで食べながらこれで遊ぼうよ」

 魅力的な奏の提案だった。だが――

「ごめん。その前に、小町。いさなさんに連絡してもいい?」

「え――?」

「いさなさん、今頃小町を探しているかもしれないから。弓張さんの家にいるって知れば、きっと安心すると思う」

「でも……」

「もちろん、青葉あおばさんと白鷹はくたかさんには内緒にしておいてとは伝えるよ」

「……まあ、それだったら」

 渋々ながらではあるが、納得してくれたようだ。

「ありがとう」

 氷魚はお礼を言って、取り出した携帯端末でいさなにメッセージを送る。ついでに母にも弓張さん家でごちそうになるから、晩ごはんはいらないとメッセージを送った。

 携帯端末をしまう間もなく、いさなからは「了解」という簡潔な返事と、母からはなぜか「がんばって!」のスタンプが返ってきた。

 何をがんばるというのか。カードゲームで遊んでピザを食べるだけだというのに。

「おまたせ」

 氷魚が携帯端末をしまうと、奏が喜々として

「じゃあ、さっそくルールを説明するね!」と箱を開けた。

 奏のいつもより早口な説明を聞きながら、氷魚はふと思う。

 さっきいさなにメッセージを送った際に気になったことだ。

 小町が遠見塚家にいるということを、いさなや道隆みちたかが協会に報告したとは思えない。奏も同様だ。

 では、一体誰が青葉と白鷹に小町の居場所を教えたのだろう――


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