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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第九章 あやかしのサガ
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髪のまにまに㉒

はくにい、あおねえ? どうして……?」

 小町こまちが大きく目を見開く。人かあやかしかはまだわからないが、どうやら2人は小町の知り合いらしい。

「あなたを迎えに来たのよ。小町」

 女性が口を開く。やさしい口調だった。

「なんで……」

 そこで小町は何かに気づいたようにいさなをにらみつける。

「いさな、協会に連絡したのね!」

「わたしじゃない。信じてって言っても無理そうだけど……」

「一体何の騒ぎだい」

 話し声を聞きつけたのか、奥から作務衣姿の道隆みちたかがのっそりと姿を現した。

「ん? そちらの2人はどちらさま?」

「名乗るのが遅れました。小町の姉の青葉あおばと申します」

「兄の白鷹はくたかです」

 2人は揃ってきれいな姿勢で頭を下げた。

「なるほど。鎌鼬かまいたち3きょうだいか」

 道隆がうなずく。

 氷魚ひおも合点がいった。2人は小町のきょうだいだったのだ。

 場所によって、鎌鼬は3人の神様と見なされているところもあると、昨日の夜寝る前に調べて知った。かなで凍月いてづきも話していたことだ。

 1人目が対象を転ばせて、2人目が素早く切り、3人目が薬を塗って立ち去る。薬のおかげで、切られても出血しないのだという。薬は河童の妙薬みたいなものなのかもしれない。

 どうして人を切りつけるのか、という理由は、氷魚が読んだサイトには書いてなかった。

「兄さん、一応聞くけど、協会に連絡した?」

 いさなが尋ねると、道隆はとんでもないというふうに首を横に振った。

「なんで僕がわざわざそんな面倒なことをするんだ」

「だよね。――ねえ小町、わたしと兄さんは、協会にあなたのことを言ったりなんかしてないよ」

「うそ。だったらなんで2人がここに来たの?」

 小町はいさなに疑いの目を向ける。

 氷魚はもちろんいさなと道隆が協会に連絡したとは思っていない。2人は小町を裏切るような真似は決してしないからだ。

 だが、小町が、いさなと道隆のどちらか、あるいは2人が揃って告げ口したと考えるのも仕方がないとも思う。昨日出会ったばかりの人間をすぐに信用するのは難しいだろう。

「それは――」

 小町に詰め寄られ、いさなは困ったように青葉と白鷹に目を向ける。

「俺たちは、協会から連絡を受けてきました」

「やっぱり!」

 白鷹の言葉を聞き、小町は身体に怒りの気配を充満させる。テレビで観た威嚇するハリネズミを連想する。昨夜いさなが言った通りだった。

 なだめようにも、部外者同然の氷魚が口を挟んだら、余計悪化させてしまう可能性があった。

 氷魚がハラハラしながら見守っていると、道隆がのんびりした口調で、

「ちょっと待って。協会って、誰から? 所属部署は?」と尋ねる。

「いえ、そこまでは……。電話ではただ、協会の者としか」

「協会の名を出したから、信用したのですが……。現に小町はこうしてこのお家にいたわけですし」

 白鷹と青葉は顔を見合わせてから、そう言った。

「妙だな。所属くらいは言うはずだけど」

 道隆は顎をさする。考える時の仕草がいさなと同じで、やっぱり兄妹なんだなと思う。

「なんにせよ、私たちは妹と一緒に帰らせてもらいます。ご迷惑をおかけしました。――ほら、こまっちゃん、帰るよ」

 静かだが、有無を言わさぬ青葉の口調だった。

「嫌。あたし、帰らない」と小町はそっぽを向く。

「小町」

「あたしがいなくてもお店は回るでしょ。それよりいいの? 2人してほっぽり出して来ちゃって。きっと、お客さん困ってるよ」

「今日は休みにした。迷惑をかけている自覚があるのなら、わがままを言ってないで帰ろう」

 白鷹は諭すように言う。

「――ごめん。それでも、あたしはまだ帰れない」

 わがままだという自覚はあるのだろう。それでも譲れないものが小町にはあるらしい。

「なんで……」

「青ねえと白にいには、きっとわからないよ」

 小町はぐっと唇を噛みしめると、瞬時に鎌鼬の姿に転じた。そのまま目にもとまらぬ速さで、ドアが開いたままの玄関から外に飛び出す。咄嗟のことで、誰も反応できなかった。

「白鷹、追いかけて!」

 一拍置いて、真っ先に我に返った青葉が言った。

「わかった」

 鎌鼬の姿に転じた白鷹が小町の後を追って駆けていく。あっという間に見えなくなった。

「やれやれ。鎌鼬は旋風に乗って現れるって言うけど、あの子はまるで台風だね」

「兄さん、言い方」

 いさなにたしなめられるように言われ、道隆は肩をすくめた。青葉が頭を下げる。

「重ね重ね、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「いえ、そんな、こちらの方こそ……」

 いさなも頭を下げる。それから、道隆に目を向けた。

「ねえ、兄さん」

「ああ、わかってる。上がってもらうといい」

「ありがとう。――青葉さん、でしたね。よければ、お茶でも飲んでいきませんか」

「ですが……」

「どのみち、白鷹さんたちを待つ必要がありますよね。朝からいろいろあってお疲れでしょう。中で少し休んでいてください」

 青葉は順繰りに氷魚たちを見やり、静かに頭を下げた。

「そう、ですね……。では、お言葉に甘えて」

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