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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第九章 あやかしのサガ
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髪のまにまに⑰

 頭上で何か柔らかいもの同士がぶつかり合う音が響き、近くに何かが落ちてきた。目を凝らすと、凍月いてづきが小動物みたいなものともみ合っている。まるで猫の喧嘩だ。

氷魚ひおくん! 凍月!」

 驚くほど近くでいさなの声がした。見ればいさなとかなでがこちらに向かって走ってくる。全然気配を感じなかったが、2人は氷魚とつかず離れずの距離にいたようだ。

 氷魚は懐中電灯の光を凍月たちに向けた。

 凍月ともみ合う小動物は、ペットショップで見たことのあるフェレットによく似ていた。

 ただし、前足が鎌のようになっていることを除けば、だが。

「こいつ、おとなしくしやがれ!」

 鎌の一撃をかいくぐった凍月はフェレットもどきの首筋に噛みつくと、思い切り放り投げた。フェレットもどきは元理容店のシャッターに叩き付けられて、地面に落下する。

 すかさずいさなが走り、いつの間にか抜刀していた刀の切っ先をフェレットもどきに突きつけた。

「あなたが、一連の髪切り事件を起こしていたあやかしで間違いない?」

 フェレットもどきは突破口を求めてか左右をきょろきょろと伺うが、奏、凍月が油断なく目を光らせているのを見て、諦めたようにうなだれた。

「勘違いしないでほしいんだけど、わたしたちはあなたを退治しに来たわけじゃないの」

 フェレットもどきは探るようにいさなを見上げる。

「なんで人間の髪を切って回っていたのか、話を聞かせてくれない?」

 いさなが問いかけても、フェレットもどきは無言だった。

 話をするのに刀の切っ先を突きつけたままでは剣呑だと判断したのか、いさなは静かに納刀する。

 いさなの考えはわかるのだが、フェレットもどきの前足は鋭い鎌だ。危なくはないのだろうか。

「おい」

 氷魚と同じことを思ったのか、凍月が咎めるが、いさなは目線だけで制した。

「わたしは協会の者よ。悪いようにはしない。だから、理由を教えてほしいの。鎌鼬かまいたちのあなたが人の髪を切った理由を」

「鎌鼬……」

 鎌を見た時点でもしかしたらとは思っていたが、やっぱりだった。

 その名前は氷魚も聞いたことがある。旋風つむじかぜにのって現れ、人を切りつけていくあやかしだ。

「鎌鼬って、人の髪を切るの?」

 氷魚は傍らの奏に尋ねた。

「いや、聞いたことないね。――そういえば、鎌鼬って3匹で動くはずだけど」

「そりゃ場所による。確か飛騨の方の伝承だな」と凍月が答える。

「そうなんですね」

 奏は納得したようにうなずいた。

「ついでに補足しとくと、鎌鼬の伝承は雪国で特に多い。一部の地域では暦を踏むと鎌鼬に会うって言われてて、東北では、古い暦を黒焼きにして傷口につければ治るっていう言い伝えもあったそうだ」

「暦って、カレンダーですよね。どうしてなんですか?」

 氷魚が尋ねると、凍月は顎をしゃくった。

「さあな。そいつに訊いてみたらどうだ」

 全員の視線が鎌鼬に集中した。鎌鼬は居心地が悪そうに身じろぎする。

「どうしてですか?」

 代表して、氷魚が尋ねた。

「……あたしが知るわけないでしょ。人間が勝手に言ってるだけよ。っていうか、あんた、この状況でよくそんな質問ができるわね」

 鎌鼬が口を開く。女の子の声だった。

「え、女の子?」

「そうよ。悪い? あと女の子って言うな。こう見えてもあんたの何倍も長生きしてるんだから」

「こう見えてもって言われても……」

 ちょっと変わったイタチにしか見えない。

「だったら、これでどう?」

 鎌鼬がひらりと飛び上がる。空中で一回転すると同時に煙が巻き起こり、次の瞬間、氷魚と同い年くらいの少女が得意げに地面に立っていた。勝気そうな少女だ。

 氷魚は、あやかしが人に化ける瞬間を初めて見た。服を着ているけど、どういう仕組みなのかがちょっと気になる。

 そして、やっぱり年上には見えなかった。

「年齢でマウントを取ろうとするあやかしって、大抵ガキなんだよな」

「は? なにあんた。えらそうに。見たところ化け猫もどきみたいだけど」

 少女に化けた鎌鼬は腰に手を当てて凍月を見下ろす。

「あぁ? 誰が猫だ。この屁こきイタチが」

「な……レディに向かって無神経すぎるでしょ!」

「笑わせんな。ケツの青いガキのくせに」

「青くないわよ!」

「ちょ、ストップストップ!」

 火花を散らす両名の間に、いさなが割って入った。

「邪魔しないで……って、あんた、いい髪してるわね」

「ありがとう。それはそうと、ちょっといいかな」

「なに?」

 いさなは自分の髪を指さした。

「髪、理由を聞かせてもらってないわ。なんで辻斬りみたいなことをしてたの?」

「……それは、その、ああいう野暮ったい髪を放っておけなかったから」

 少女は氷魚のカツラを指さした。自覚しているのかどうかは知らないが、自分が一連の髪切り事件の犯人だと認めたのと同じだ。

「本当にそれだけ?」

 いさなは少女の目を覗き込む。少女は目を逸らし、

「……本当にそれだけ」と言った。

※7月23日追記

 設定と矛盾する部分があったので、修正しました。

 

 修正前

「そうなんですね。――ああ、だからか。父さんが教えてくれたんです。父さん、あっちの出身だから」


 修正後

「そうなんですね」


 まだ本編には出てきていませんが、奏の父親の出身は飛騨の方ではないです。

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