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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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今、ここにある危機⑭

「2人とも無事、なんだね?」

「はい、なんとか。弓張ゆみはりさんに助けてもらいました」

「あたしはたちばなくんに助けてもらいました」

「そう――。本当に、よかった」

 いさなは納刀し、安堵したように微笑んだ。

「まったく、ひやひやさせやがって」

 いさなの足元にいた凍月いてづきが言う。いさなだけではなく、凍月も心配してくれたようだ。

「――先輩、あたしの不注意でご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」

 前に進み出て、かなでは深々と頭を下げる。

「ううん。悪いのはわたしだよ。もっと気を配っておくべきだった。ごめん、弓張さん」

「そんな……」

 いさなの謝罪は予想外だったのか、奏は慌てたように手を振る。

 便乗というわけではないが、謝るならここしかない。

「いさなさん、すみません。また無茶をしてしまいました」

「氷魚くんは反省して」

「そうだな」

「そうだよ」

 いさなと凍月、そしてなぜか奏が立て続けに言う。

「えぇ……」

 一緒に謝ってくれると言ってくれたのに、あれは嘘だったのか。

「ごめん、冗談。――先輩、元はと言えばあたしのせいなので、橘くんのことは怒らないでくれますか」

 一転して、真面目なトーンになった奏が再び頭を下げる。

「――そうね」」

 いさなは氷魚に向き直った。

「氷魚くん。きみが誰かのために無茶をする人なのは、よく知ってる。咄嗟とっさに身体が動いちゃったんだよね」

「……はい」

「わかるよ。でも、何度でも言うね。きみが怪我したり、万が一にでも命を落とすことがあったら、悲しむひとたちがいることを忘れないで」

「はい……」

 氷魚はうなだれた。

 いさなの言葉に怒気はなかった。ただ淡々と、事実を述べていた。

 まいった。

 怒られるより、堪えた。

「――うん。わかってもらえれば、それでいいんだ」

「確かに。橘くんって、自分より他人が傷つくのに耐えられないタイプっぽいですからね。そう言われたら、そうそう無茶はできませんね」

 納得したように奏はうなずく。

 自覚はないが、そうなのだろうか。

「そうだね。――ところで弓張さん、怪我をしたみたいだけど、大丈夫?」

 奏のお腹に目を留めて、いさなは言った。

「汚れたものと交戦した時に、ちょっと。でも、もう平気です。治ったので」

 笑って、奏はお腹を叩いた。

 さっきはそれどころではなかったが、お腹を出しっぱなしでは冷やしてしまうのではなかろうか。地下であるせいか、ここは少し肌寒い。

「なら、いいんだけど」

 いさなはちらと氷魚を見る。なにか気になることでもあったのだろうか。

「いさなさんは、どうやってここに?」と氷魚は尋ねる。

「2人が落ちた後、部屋を調べたんだけど、何も見つからなくて。手掛かりを探そうと外に出たら、廊下に階段が出現してたの」

「調べるっておまえ、目につくもの片っ端から斬ってただけじゃねえか」

「ああすれば、屋敷の主が慌てると思ったのよ。どこかで見ている感じがしたからね」

「ホントかよ……」

「当たりだったでしょ?」

「罠だったけどな」

「罠?」

「階段を下りて広間に出たら、扉が閉まってな。閉じ込められたのさ。で、そこをバケモノに襲われた」

「もしかして、ゴリラもどきですか?」

 氷魚が言うと、凍月は首をひねった。

「ゴリラ? ……まあ、そう見えなくはないな。だが、ありゃ鬼の一種だ」

「鬼……?」

 そんなふうには、とても見えなかった。氷魚がイメージする鬼の姿とはかけ離れている。

「あやかしの鬼とはまた違うがな。次元を渡る、厄介な力を持ってる。おまえらも出くわしたのか」

「はい。魔力をこめた攻撃が効かなかったんですよ。橘くんの助言が無かったら危なかったです」と奏がお腹を撫でる。

「そんな特性はないはずだが、召喚した魔術師がなんかしたのかもな」

「先輩たちは普通に倒せたんですか?」

「問題なく斬れたよ」

 胸の痛みが消えたわけがわかった。いさながすぐに倒したのだ。

「こいつの刀は真っ当な刀としても切れ味がいいからな。使い手の腕さえ良ければ斬れないものはないんじゃねえか」

「話には聞いてましたけど、影無の刀って、すごいんですね。もちろん、先輩の腕も」

「刀はともかく、わたしの腕はまだまだだよ。――でも、いずれ歴代の影無にも引けを取らないようになるから」

「は、言いやがったな」

 凍月が楽しそうに笑う。いさなも笑い返した。

「これくらいはね」


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