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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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今、ここにある危機⑤

 氷魚ひおが外に出ると、屋敷と外を繋ぐ細道の前で何事かを話しているいさなとかなでの姿があった。いさなの足元には凍月いてづきがいる。

「何か見つかりましたか」

「ええ。凍月が茉理まつりさんの妖力を嗅ぎ取ってくれたの。茉理さんの妖力と血を奪った何者かは、この道を使ったみたい」

「もう少し先に、あたしたちが乗っていた車のものとは別のタイヤの跡があったんだ。車で逃げたんだろうね」

 いさなと奏が答えてくれる。

「なるほど。――それで、追いかけるんですか?」

「もちろん」

 愚問だったようだ。

「ですよね。でも、足は?」

「車は運転できないし、徒歩しかないね。凍月に乗せてもらえればいいんだけど」

「無理だ。おまえの今の魔力量じゃ、すぐにぶっ倒れるぞ」

 影の中から凍月が言う。依然として、いさなの顔色は優れない。

「だよね……」

「魔力があれば問題ないんですか? だったらあたし、協力できますよ」

「え? 弓張さん、もしかして、魔力回復の魔導具でも持ってるの?」

「まさか。そんな貴重な物は持っていません。あたし、魔力譲渡ができるんです」

 言って、奏は手を握ったり開いたりしてみせる。

「へえ、人に自分の魔力を渡せるのか。珍しい技能だな」

 凍月が感心したように言う。

「魔術はからっきしですが、魔力量は無駄に多いので、お役に立てるかと」

「それって、弓張ゆみはりさんの身体に負担はかからないの?」

「多少は疲れますが、問題ありません。ただ、あたしが大丈夫でも、注ぎ込みすぎると先輩の身体が弾け飛ぶ危険性が――」「遠慮しておく」

「もちろん冗談です。まあ、そんなわけなので、遠慮はいりません」

 いさなに気遣わせまいという、奏なりの配慮だったのだろう。しかしちょっと怖い冗談だった。

「――なら、お願いしてもいいかな」

「はい! お任せください! と、その前に準備してきますね」

 言うなり、奏は屋敷の中へ走っていった。

「魔力譲渡って、どうやるんでしょう」

「俺も見たことがない。口移しでもするんじゃねえか」

「……え、つまり、準備って、歯磨きとか?」

「凍月、本当なの?」

「知らん。見たことねえって言ってるだろ。人工呼吸みたいなものじゃないかって思っただけだ」

「……あ、そっちか」

「おまえ、なんだと思ったんだよ」

「お待たせしました!」

 そんなことを話しているうちに、奏が戻ってきた。

 動きやすい服装に着替え、髪はポニーテールにしている。

 どうやら、出かけるための準備だったようだ。

「それで弓張さん。魔力譲渡って、どうするの?」

 玄関からの明かりに照らされたいさなの顔は、わずかに赤らんでいる。

「あたしが対象の身体のどこかに触れるだけです」

「――それだけ?」

「はい。それだけですが、なにか……?」

「いえ、なんでも。安心した」

「では、失礼して。行きますね」

 奏はいさなの手を取った。奏が握った部分が淡く光り輝く。

 1分くらいして、奏は手を離した。

「どうですか?」

「すごい。身体に力がみなぎってる」

 顔色も、すっかり元に戻っていた。

「こりゃあ大したもんだ。――小娘、この技能のこと、無闇に吹聴してねえだろうな」

「してませんよ。知っているのは身内以外ではお師匠くらいです」

「ならいいんだが……」

「知られたら、悪用されるものね」

「凍月さん、弓張さんを心配したんですね」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 やはり、凍月はやさしい。

「ばか! ちげえよ! おまえら、揃ってそんな目をするんじゃねえ!」


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