表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
124/281

今、ここにある危機④

 ほどなくして、部屋のドアが開いた。

「……お待たせ」

 顔面蒼白のいさなが立っていた。氷魚ひおの背筋が一瞬で冷たくなる。

「そ、その顔色、まさかいさなさんも吸血されたんですか!」

「え? ああ、これは違うの。心配しないで」

 いさなは額を押さえる。そうは言っても、具合が悪そうだ。

「ただの魔力切れだ。ここまですっ飛ばしてきたからな」

 いさなの影から凍月いてづきの声がした。

「すっ飛ばしてって、どうやって……」

 かなでが通話を終えてから、5分も経っていない。いくらなんでも早すぎる。

「大きくなった凍月いてづきに乗せてもらったの。わたしの魔力じゃすぐにガス欠になるから、あまり持たないんだけどね」

 納得した。鎧武者に憑いていた蛇と対峙した際の凍月の大きさを考えれば、人ひとり乗せて運ぶなど朝飯前だろう。

「凍月さん、自動車より速いんですね」

「当たり前だ。俺があんな鉄の塊に負けるかよ」

「それで、電話で大体の状況は聞いたけど――」

 いさなは、茉理が横たわっているベッドに目を留めた。

 一瞬だけ不安そうな顔になったいさなだったが、すぐに表情を引き締め、部屋を見渡す。

 開け放たれている窓に近寄ったいさなは、首を出して下を覗いた。

沢音さわねさん、玄関の鍵って、施錠してました?」

 すぐに首を引っ込めて、いさなは沢音に尋ねる。

「してたぞ」

「わたしが来た時には、鍵がかかってなかった……」

「ってことは、誰かが鍵をこじ開けて侵入したってことですか」

 氷魚が言うと、いさなはうなずいた。

「そうだね。つまり、壁抜けができる類の怪異ではないってことになる。まあ、窓が開いている時点でその可能性は限りなく低いわけだけど」

「鍵を開けるって、人間みたいですね。そんなに器用なのかな」

「みたい、というか、十中八九人間の仕業ね」

「え、でも、茉理まつりさんの血と妖力を吸ったんですよね」

「そっちは怪異で間違いないよ」

 氷魚は首をひねる。どういうことだろう。

「――あ! この部屋で呼び寄せたんですね!」

 奏が声を上げた。

 呼び寄せる――魔道書に載っていた呪文で怪異を召喚したということか。

 魔道書というのは、つくづく物騒な代物のようだ。もっとも、使い手次第ではあるのだろうが。

「うん、わたしはそう考えた。――氷魚くん、胸が痛んだって聞いたけど、どれくらいの時間痛んでいたか、わかる?」

「痛くて寝てられなくて起きて……たぶん、10分未満だったと思います」

「それで、起きた時に悲鳴を上げた」

「はい」氷魚はうなずく。

「犯人が逃げたのはその時ね。氷魚くんの悲鳴を聞いて、誰かが来るのを警戒して咄嗟に窓から逃げた」

 ここは二階だが、魔術を使えばどうとでもなるのかもしれないし、そもそも訓練している人間だったら問題なく飛び降りられそうだ。試してみようとは思えないが。

「だから今回の怪異――汚れたものを呼んだのは、人間と断定していいんじゃないかな」

「人間……」

 やはり、魔道書を盗んだ人物なのだろうか。

 しかし誰が、一体なぜ。わからないことがどんどん増えていく。

「あとは外を調べてみようか」

 言うなり、いさなは部屋を出ていった。

「あ、先輩!」

 ついていこうとした奏だったが、ドアの前で足を止めた。茉理が気になるようで、ベッドの方を窺う。

「わしがここで茉理を見ているから、おぬしたちは行くといい」

「ありがとうございます。お師匠をお願いします」

 沢音の言葉で踏ん切りがついたようだ。

 沢音に向き直り、一礼した奏は部屋を出ていく。

「氷魚、おぬしも行っていいぞ」

 沢音に言われて部屋を出ていきかけた氷魚だったが、さきほどの奏同様、ドアの前で足を止めた。

 振り向く。

「あの、日渡さん」

「なんだ」

「おれ、考えておきます。さっき、沢音さんの訊かれたことの答え」

 きょとんとしていた沢音だったが、すぐに合点がいったようで、微笑んでうなずいた。

「――ああ、楽しみにしている」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ