表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
119/281

続・僕を調査に連れてって⑥

「で、お師匠はどう考えてるんですか?」

「そうね。大鳥おおとり会長が魔道書を盗まれたっていうのは、本当だと思うわ」

「根拠は?」

「私に個人で依頼を受けないかと持ちかけたでしょ。あれ、暗に、犯人を見つけたら引き渡せって言ってたのよ」

「そうなんですか?」

「ええ、自分で犯人に落とし前をつけさせたいんでしょうね。協会が見つけた場合、さすがに犯人の身柄を引き渡せはしないから」

 茉理まつりが言う落とし前とは、単に謝らせるとか、そういうわかりやすい意味ではあるまい。

 一見好々爺めいた会長の、表には出さない怖さを垣間見た気がした。

「ただまあ、だからといって会長が怪異を呼んでないという保証もないんだけどね。本人が無理でも、雇った魔術師に召喚させればいいわけだし」

「それで怪異はほったらかしで、退職金代わりに魔道書と魔導具を頂いて魔術師はドロン、ですか。ありそうですね」とかなでが呟く。

「そもそも、大企業の会長が怪異を呼ぶ必要なんて、あるんですか?」

 氷魚ひおは素朴な疑問を口にした。成功した人間が、わざわざそんな危険を冒すだろうか。

「魔道書は禁断の知識の塊みたいなものだからね。人の欲望を満たす手段がわんさか載ってるの」

「欲望……」

「人がどんな欲望を持っているかなんて、傍から見ただけじゃわからないわ。一見人畜無害そうな人間でも、他人を殺したいと思っているかもしれない。――牛乳風呂に入りたいと思っているダンピールもいるかもしれないわね」

「牛乳風呂は別によくないですか?」と奏が抗議するように言う。

「もったいないでしょ。入った後で全部飲むならともかく」

「えー、でも、しずかちゃんだけじゃなくて、クレオパトラも入っていたらしいですよ。お肌にいいんですって」

「ホント? ちょっと試してみようかしら」

 茉理があっさり掌を返す。

 凍月がいたら、きっと突っ込んでいただろう。氷魚はこの場にいさなと凍月がいないことを少し寂しく思う。


 日渡ひわたり邸に戻ると、食堂でいさなが幸せそうにシフォンケーキを頬張っていた。

「あらいさっちゃん、おいしそうね。独り占め?」

 茉理がからかうように言う。

「ち、ちがっ」

 急いで口の中を空にしたいさなは、かぶりを振った。

「みんなの分もあるよ。もちろん」

「いさなはおいしそうに食べてくれるからな。作り甲斐がある」

 沢音さわねが笑いながらテーブルの上に人数分のシフォンケーキと紅茶を置く。

 礼を言って、氷魚たちは席に着いた。

「聞き込みはどうだった?」

「それがね、カトレアの会長が絡んできたのよ」

 茉理は、いさなと沢音に今日の経緯をざっと説明する。

「――なるほど。盗まれた魔道書と今回の怪異、無関係ではなさそうね」

「発生した時期的にも一致しているな。きな臭いぜ」

 姿を現した凍月がいさなの肩に跳び乗った。

「魔道書って、どういう状況で盗まれたの?」

「泥棒に入られて、部屋を荒らされたって言ってたわね」

「泥棒……。大鳥会長の家ともなれば、セキュリティは万全だよね」

「でしょうね」

「プロ、それも魔道書や魔導具の価値を知っている人間の仕業――」

 拳を顎に押し当て、いさなはなんだか怖い目で言った。

「いさな。まさかとは思うが、あいつがやったなんて考えてるんじゃねえだろうな」

 あいつ――春夜のことだろうか。

「――少しね」

 いさなはそっけなく言う。

「囚われすぎだ。見えるものも見えなくなっちまうぞ」

「わかってる」

「どうだかな」

 凍月は呆れたように鼻を鳴らした。

 いさながむっとした気配が伝わってくる。

「いさなさんたちは、今日はどうするんですか?」

 気まずくなりかけた空気を振り払うように、氷魚は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ