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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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続・僕を調査に連れてって⑤

「それで、依頼は受けていただけますか」

「その前に、一つお聞きしたいのですが」

「なんでしょうか」

「なぜ、盗まれてすぐに依頼されなかったのですか」

「あなたも協会に所属しているのなら、ご存知でしょう。協会に依頼したら、難癖をつけられ魔道書を没収されてしまうかもしれない。自分で取り戻せるのなら、それに越したことはなかった。残念ながら、私が手配した者たちでは見つけられませんでしたが」

 警察に被害届を出せないのは、なんとなくわかる。表沙汰にはしたくないのだ。

 代わりに人を使って探させるというのは、財力のなせる技だろう。

「没収するかは、内容によりますよ。『怪物とその眷属』は、危険な本だったのですか」

 茉理まつりの問いに、大鳥おおとりはゆるりと首を振った。

「さあ、わかりませんな。私は読んでおりませんから。私は魔道書や魔導具を集めることが趣味ではありますが、実際に魔術を使ってみようとは思わんのです。才能もありませんし」

「そうですか。わかりました。お話、ありがとうございました」

 軽く頭を下げ、茉理は立ち上がった。

花見川はなみがわさん、あなたは非常に優秀だと聞いている。もし、あなたが個人で私の依頼を受けてくれるのなら、報酬は弾みますよ」

「それはできかねます。お手数ですが、依頼は正式に協会を通してください」

「欲のない人だ」

「弟子の前ですので」

 茉理は完璧な笑みを浮かべた。


「2人ともお疲れ様。疲れたでしょ。どこかでおいしい物でも食べていこうか」

 大鳥邸を出てすぐに、茉理はねぎらうように言った。

 直接乗り付けることはしなかったので、車は住宅街外れのコインパーキングに停めてある。

「緊張しました……」

「なにもしてないけど、あたしも疲れた」

かなでは、大鳥会長の話をどう思った?」

「嘘をついている感じはしませんでした。けど、大鳥会長自身が魔道書に載っている呪文を使って、何らかの怪異を呼んだという可能性は完全には除外できないと思います」

「もしくは、会長お抱えの魔術師ね」

 どうやら、今回の怪異は人為的なものである可能性が高いということが、2人の会話の流れから氷魚にも察することができた。

「――だとしても、理由はなんでしょうか。意図的に怪異を呼んで、何か得でもあるのかな」

 思わず、氷魚ひおは口を挟んでしまった。足を止め、茉理と奏が揃って氷魚を見つめる。

「どうしたんですか?」

 自分は何か変なことを言っただろうか。

「正しくそれなのよ、氷魚くん。会長にせよ、他の誰かにせよ、なぜ怪異を呼んだのか。怪異で何をしたいのか。そこがカギね」と茉理が言う。

 動機――ミステリで言うならホワイダニットだ。

 氷魚の時は怨恨だった。葉山の恨みで、氷魚たちは猿夢に引きずり込まれたのだ。

「今回は血が吸われているんですよね。血液が欲しかったから、とか?」

 氷魚はそこで言葉を切る。

 茉理は続けて、と目線で先を促す。

「血を吸うこと自体が目的だったのか、それとも吸った血液を何かに使いたいのかで、また変わってきますね。――ただ、血を吸うだけならば、わざわざそんな怪異を呼び寄せる意味は薄いと思います」

「どうして?」

「怪異が勝手にお腹を満たしているだけじゃ、呼んだ人にメリットがないから。……あ、いや、何かの実験っていう可能性もあるのか」

 茉理は、「なるほど。聞かせてくれてありがとう」と微笑み、「じゃあ、あなたはどう考える?」と奏に視線を転じた。

「言いたいことは大体橘くんに言われちゃったんですが……」

「いいから、聞かせて」

 奏は少し間を置いて、

「――採取した血液を、魔術の触媒に使いたいんじゃないですか。どんな魔術かと訊かれたら、見当もつきませんけど」と言った。

「血のお風呂に入りたいのかもよ」

「あたしだったら牛乳のお風呂の方がいいですね。ドラえもんの映画でしずかちゃんが入っていたような」

 茉理の冗談めかした物言いに、奏は笑ってそう返す。

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