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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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続・僕を調査に連れてって④

 泉間の高級住宅街にある大鳥おおとり会長の家は、正しく豪邸だった。

 こんなに大きなお屋敷を、氷魚ひおはテレビでしか見たことがない。沢音の家も立派だったが、さらにその上をいっている。

 もっとも、沢音の家も元をたどればカトレアの持ち物なのだが。

 応接室のソファに座る氷魚はお尻の位置を調整する。さっきから何度目かわからない。

「落ち着かない?」

 隣に座るかなでが小声で言った。

「そうだね」

 氷魚はやはり小声で返す。

 どこかに電話をかけた後、戸惑う奏と氷魚にはお構いなしに、茉理まつりはこの大鳥邸へと車を走らせた。

 茉理は一体どんな魔法を使ったのか、大鳥邸の門扉はあっさりと開いた。そうして応接室へと通され、今に至る。

 自分がお供する必要などないと思ったのだが、大企業の会長と会うなんてめったにできない経験よと言う茉理に、氷魚は半ば強引に連れ込まれたのだった。

「お待たせしました」

 よく通る声が響いた。

 小柄な老人が応接室へと入ってくる。

 カトレアコーポレーションの会長、大鳥おおとり輝宏きひろその人だった。ここに来るまでの間、ネットで調べたので顔は知っている。

 大鳥の側には、秘書なのか長身の男性がつき従っていた。

「本日はお忙しいところ、お時間を作っていただきありがとうございます」

 立ち上がり、茉理は一礼する。奏と氷魚も茉理に倣った。

 社会的にえらい人と会うせいか、得体の知れない緊張感がある。

 まだ経験したことはないが、就職活動の面接はこういう感じなのだろうか。

「いや、時間なら有り余っていますよ。会社のことは全部息子に任せていますからね。会長とはいうが、ほとんど隠居同然だ。どうぞ、楽にしてください」

 大鳥は氷魚たちの向かいに腰を下ろした。

「では、お言葉に甘えて」

 茉理が目配せし、氷魚たちも腰を下ろす。

 ネットの写真で見た時は厳格な印象を受けたが、こうして相対してみると、大鳥は気のいいおじいさんといった感じだ。

「私の方から協会に依頼しようと考えていたのですが、直接来てくれるとは、手間が省けました」

 前置きも無しに、大鳥はそう切り出した。

「――依頼、ですか?」

 茉理はいぶかしげに言う。

「そうです。順を追って話させていただきますね。まず、私が購入したばかりの魔道書について話を聞きたいのだと伺っていますが、間違いありませんか」

「間違いありません。――『怪物とその眷属』、オークションで落札されたとか」

 言って、茉理はわずかに身を乗り出した。

「その魔道書ですが、盗まれたのですよ」と大鳥はかぶりを振る。

「盗まれた?」

「ええ、ひと月ほど前ですね。この家に泥棒が入りまして、魔導具や魔道書を保管している部屋を荒らされてしまったのです。その時に、件の魔道書もやられました」

 よほど悔しかったのだろう。それまで温厚に微笑んでいた大鳥の顔が歪む。

「すると、会長は、盗まれた魔道書や魔導具の捜索を依頼しようとしていたのですか」

「そういうことですな」

「なるほど。ちなみに、犯人やその狙いに心当たりは?」

「ありすぎて、なんとも。私が魔法の物品を蒐集していることを知る者はごく一部だが、人の口に戸は立てられない。どこから情報が漏れるかわかりませんからな。現にあなたも私が魔道書を落札したことを知っている。会員制のオークションだったのですがね」

「蛇の道は蛇ですからね」

 茉理の返しに、大鳥は苦笑して肩をすくめてみせた。

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