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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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続・僕を調査に連れてって③

「カトレアの会長って……大鳥おおとり輝宏きひろ?」

「そう。――茉理まつりさんも知っていると思うけど、大鳥会長の魔術道楽は裏では有名な話だ。僕も自分の作品をいくつか買ってもらっている。自宅に魔導具のコレクションルームがあるって噂だけど、それが本当でも僕は驚かないね」

 氷魚ひおにしてみれば、一流企業の会長が魔術に傾倒しているなんて、にわかには信じられない。しかし、協会の人々にとっては驚くに値しない話のようだ。これもまた、世の中の知られざる一面なのだろうか。

「ありがとう。有益な情報だったわ」

 言って、茉理は優雅に微笑む。

「どういたしまして。お役に立てたのなら、よかった」

「それじゃあ行きましょうか、2人とも」

 茉理に促され踵を返しかけた氷魚は、カウンターの近くにあみぐるみが置かれていることに気づいた。

「これって――」

 氷魚は白い鳥のあみぐるみを手に取る。昨日いさながキャンプ場の管理棟で購入した物と同じ物のように見える。

「ああ。それ、沢音さわねの手作りよ。氷魚くんが手に取っているのはシマエナガね」

 茉理がさらりと言った。

「え、日渡ひわたりさんの?」

「ええ。彼女、編み物が趣味なの。ご覧の通り、お店に置けるぐらいの腕前よ。結構売れているみたいね」

「すごいですね」

 沢音が編み物をしている姿は、さぞや絵になるだろうなと思う。

 このあみぐるみを買った人は、まさか絡新婦じょろうぐもが編んだものだなんて、想像もしないに違いない。

「きみ、沢音さんと知り合いなのかい?」

 沖津おきつが意外そうに尋ねた。

「はい。よくしてもらっています」

「へえ、大したものだ。沢音さんに気に入られるなんて」

「気に入られたかどうかはわかりませんが……」

「沢音は、気に入らない人間は家に泊めないわよ」

 茉理が茶化すように言う。

 それはつまり、氷魚だけ追い返されていた可能性もあったということだろうか。ひとり寂しく帰路につくことにならなくてよかったと思う。

「泊める?」

「ええ。今、氷魚くんは沢音の家に泊まっているのよ。ついでに、私たちもね」

「――だからか。次の食料の注文の量が増えているわけだ」と沖津は納得したように呟く。

「というと?」

「沖津ちゃんは、沢音の家に食料や日用品を届けているの。現地での監視役も兼ねてね。ついでにあみぐるみを受け取って、ここで売ったり他の土産物屋に卸したりしているっていうわけ」

 氷魚の疑問に、茉理が答えてくれた。

「要は、協会の体のいい使いっぱしりさ」

 沖津は肩をすくめてみせた。

「両方から信頼されてなきゃできない仕事でしょ」

「だといいんだけど」

「自信を持っていいと思うわよ。沢音だって――」

「あ、見てこれ、かわいい」

「ええ、そうかな。何か怖いんだけど」

 茉理の言葉の途中で、新しいお客さんが店に入ってきた。

「いらっしゃいませ」と沖津が声を上げる。

「これ以上は邪魔になるわね。出ましょうか。それじゃあね、沖津ちゃん」

「ああ、また」


「お師匠、次はどうしますか」

 店を出たところで、かなでが口を開く。

「どうすると思う?」

 奏を試すような口ぶりで、茉理は言った。

「んー、カトレアの会長のところに乗り込む、っていうのはどうですか」

 本気ではなかったのだろう。軽い口調で言って、奏は笑う。

 氷魚も、さすがにそれはないと思う。

 相手は大企業の会長だ。会おうとしても、簡単に会えるものではないだろう。

「あら、あなたも私の考えに慣れてきたみたいね」

 しかし茉理は携帯端末を取り出し、自信ありげに笑ってみせた。

「――え?」


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