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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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続・僕を調査に連れてって②

 日渡ひわたり邸から最寄りの街の商店街の一角に、その店はあった。表に看板はかかっていないが、一目で雑貨屋だとわかる店だ。

「入りましょうか」

 茉理まつりに促され、氷魚ひおかなでは店内に足を踏み入れた。

 どこの国のものかよくわからない生活用品や人形、植物、アロマ――店主が自分の好きな物を好きなように並べた、といった感じの店内には、絶滅寸前のペナントや、土産物屋でよく見かける木刀も置かれていた。

 極彩色の、目がちかちかするような服もある。もし昨日いさなたちとここに来ていたら、いさなは迷わずこれを買っていたに違いない。

 ちなみに氷魚がお詫びにと買ってもらったTシャツの背中にはでかでかと『諸行無常』と書かれていた。日渡邸に戻った後、即着替えたのは言うまでもない。いさなには悪いが、おそらく今後着ることはないだろう。

「いらっしゃいませ」

 店内の隅、カウンターに座っていた男性が声を上げる。年齢は30歳くらいだろうか。穏やかそうな男性だ。

「おはよう、沖津おきつちゃん」

「茉理さんか。そちらの2人は?」

 沖津と呼ばれた男性は氷魚と奏に、幾分か警戒心の混じった目を向けた。

「女の子は私の弟子」と茉理は奏の肩に手を乗せる。

「で、男の子は私たちの協力者」と反対の手を氷魚の肩に乗せた。

 氷魚と奏は挨拶し、一礼する。

「なるほど。――お弟子さんのかけている眼鏡、もしかして天霧あまぎり先生の作品かな」

「よくわかるわね」

「同業者だからね。といっても、僕じゃ天霧先生の足元にも及ばないけど」

「天霧っていうのは、魔導具職人の大家ね。気難しいおじいちゃんだけど、甘いものに弱いの」

 氷魚の疑問に先回りしたのか、茉理が教えてくれた。

「それで茉理さん、今日は何の用だい?」と沖津は尋ねた。

 眼鏡には気づいたが、かけている人物の正体には気づかなかったようだ。もし奏が眼鏡を外したら、仰天するのではないかと思う。

「『粉』が欲しいんだけど、在庫はある?」

「あるよ。ちょっと待っていてくれ」

 沖津は奥へと引っ込んだ。

 話だけ聞くと、怪しい薬物の取引みたいだ。

「粉って、見えないものが見えるようになる粉ですか」

「あら氷魚くん、知ってるの?」

「いさなさんが使ってたんです」

「そっか。いさっちゃんも霊視ができないからね」

「粉を買いに来たということは、茉理さんや弓張さんも?」

「できないわね」「あたしも」

「隠れているものを見破ったり、存在感の薄い霊を『視る』力っていうのは、持って生まれた才能の1つなの。私はあやかしだけど、見えないものは見えないわね。そういう目を持ってないから」

「みんながみんな見える人だったら、僕の商売は上がったりだね」

 沖津が、手に小箱を持って戻ってきた。

「はい、茉理さん。これ」

「ありがと。お代はいつものように支部にツケといて。――ところで沖津ちゃん、ここからが本題なんだけど」

 茉理は店内に他の客がいないことを確認し、カウンターに腕を乗せた。

「近隣のキャンプ場の事件、知ってるかしら」

 沖津は何事か考えるように顎をさすり、

「――意識不明者が出たっていう話かな」と答える。

「そう、それ」

「詳細は知らないんだけど、粉を買ったっていうことは、そういうことかい」

「ええ。不可視の怪異である可能性が高いと思うの」

「なるほど。しかし、そんな怪異はこの辺じゃ聞いたことがないな」

「そうよね。協会のデータベースでも見つからなかったし。となると、考えられるのは――」

「誰かが『呼んだ』か」

「さすが、話が早い。でね、沖津ちゃん、心当たりはないかしら。あなた、魔道書を収集しているわよね」

「茉理さん、僕を疑っているのか? 所持している魔道書に関しては、協会に逐一報告してるぞ」

 沖津は心外だと言わんばかりに眉をひそめた。

「誤解させちゃったんだったら、ごめんなさいね。最近の魔道書の動きを知りたかったの」

 茉理の言葉を聞き、沖津は納得したようにうなずく。

「そういうことか。だったら、『怪物とその眷属』だな。一ヶ月くらい前に、オークションにかけられた。僕は競り落とせなかったけど」

「名前からして、いかにも、ね」

「ああ、召喚呪文も載っているはずだ」

「誰が競り落としたの?」

 軽々しく口にできないのか、沖津はしばし迷っていたが、「協会に情報開示を要請してもいいけど」という茉理の一言で折れた。

「カトレアコーポレーションの会長だよ」


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