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この怪異は誰のもの?  作者: イゼオ
第七章 遥かなる蜘蛛の呼び声
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予期せぬ来訪者②

 応接間のソファに座っていたのは、確かに氷魚ひおがよく知る人物だった。目立たない服装をしているが、間違いない。

「お待たせ。あなたの姉弟子を紹介するわ」

 茉理まつりに背中を押されて前に出たいさなも氷魚同様に驚いていたようで、挨拶が一拍遅れた。

「――遠見塚とおみづかいさなです。よろしく」

 ソファに座っていた金色の髪の少女、弓張ゆみはりかなでは立ち上がり、テレビで見たのとまったく変わりがない笑みを浮かべる。

「はじめまして、先輩。弓張奏です」

「――茉理さん、どういうこと?」

 いさなは振り返り、困惑もあらわに尋ねる。

「彼女は私が面倒を見ている見習いなの」

「その事情も詳しく訊きたいんだけど、カナカナ……弓張さんは」

「ええ。間違いなく、あの弓張奏よ」

 氷魚やいさなと同じくらいの年代で、彼女の名と顔を知らぬ者はおそらくいない。

 奏は世界を股にかける高名な冒険家である弓張徹とおるの娘にして、一世を風靡した女優だ。

 子役でデビューした奏は、最初の方こそ端役が多かったものの、主役を務めた和風『不思議の国のアリス』とも言われる邦画、『針の城に咲く青いバラ』で一気にブレイクした。

 理不尽な出来事に巻き込まれる中、儚くも芯の強さを感じさせる演技が高く評価されたのだ。

 以降、ドラマや映画、CMと、テレビでカナカナこと奏の顔を見ない日はなかった。

 奏は歌手としても活躍しており、イギリス人の母親譲りの金髪をなびかせて、歌番組で熱唱している姿を氷魚は何度も目にしている。見ているだけで元気になる、まばゆい笑顔が印象的だった。

 そんな、飛ぶ鳥を落とす勢いの奏だったが、1年くらい前から急にテレビに出なくなった。芸能ニュースでも不自然なくらい何も触れられず、彼女は忽然と消えたのだ。

「どうして……?」

 いさなの疑問は氷魚の疑問でもあった。

 どうして奏がここにいるのか。なぜ、奏が協会と関わっているのか。

「ひとまず皆座ったらどうだ。わしは茶を持ってくる」

 言って、奏の向かいに座っていた沢音さわねが立ち上がる。

「ありがとう、沢音」

 礼を言って茉理は奏の隣に腰を下ろした。奏も再び座る。

 いさなと氷魚は奏たちの向かいに腰かけた。凍月いてづきは氷魚の肩に跳び乗る。

 茉理と奏が並んで座っている姿は映画の一場面みたいだ。氷魚の隣のいさなも今はこの場にいない沢音もそうだが、容姿が整っている人が多すぎる。

 肩の凍月に、氷魚は小声で耳打ちする。

「凍月さん、顔面偏差値が高すぎておれの場違い感がすごいんですが」

「安心しろ。おまえの顔は特徴がないのがいい。引き立て役としては申し分ないぞ」

「そうですね……」

 不服などあるはずがなかった。引き立て役を務められるかどうかは知らないが、自分の容姿は良くも悪くも平凡だ。

「さて、どこから話しましょうか」

「その前に、遠見塚さんの隣にいる方は?」

 奏がちらと氷魚に視線をよこす。

「あ……すみません。おれは席を外しますね」

 気にはなることは多いが、やはり自分がいる場所ではない。

 さっさと退散しようと氷魚は腰を浮かせかけるが、「構わないわ。座っていて、氷魚くん」と茉理に止められた。口調こそ穏やかだが、逆らいがたい響きがあった。

 氷魚は再びソファに腰かける。

「彼は橘氷魚くん。協力者よ」

 茉理が言うと、奏は紅い瞳をすっと細めた。

「協力者? 歳はいくつですか」

 あのカナカナが自分に話しかけていることが信じられない。怪異との遭遇とはまた別の意味で現実感がなかった。

 熱烈なファンというわけではないが、テレビに出るような人は違う世界の住人という意識が氷魚にはあった。

「じゅ、15、です」声が上ずった。

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