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【FGA:20】レプテリィアン


 違う世界へ来ても夜風は変わらず気持ちがいいもんなんだな──路傍の石垣に腰を下ろし少し肌に刺さる様な冬の涼風に身を預けていた藍葉 亜蓮はその粗暴な性格に似合わず、そんな青春ソングの一節の様な──唯一無二の幼馴染、神戸 雷人が聞いても耳を掻いてしまう様な、少し青臭い事を思ってしまう。

 がやがやがや……止まぬ人々の喧騒。冬とは思えない熱気。夜に眩い閃光、閃光、変光星、閃光……。

 藍葉 亜蓮はその青臭い感情が──まるで夏祭りの様な盛り上がりと、冷めやらぬ熱気を見せる各々の屋台群やそれに群がる人々が見せてくる幻想から来る感情である事を知らなかった。

 それ故にこんな過ぎた青春を再び味わっている様な、そんな思いが"くゆりくゆり"と立ち込めてしまうのだが──



「ふーっ……なんだかカラダが冷えてくれたおかげで──怒りも自然と収まってきたな……」



 それだけ言うと亜蓮は"ぶるっ"と一つ、今は()()()()()()()()()身体を揺らす様に軽く身震いすると「さて、『試合になったら呼んでくれ』とは言ったが……さすがにオレの居場所はわからねぇよな」と、先ほどテレサにそう言った自らの言を思い出し──「ぼちぼち戻るか」と独り言を呟きそのまま再び屋台の熱気に足を踏み入れようとした────が、その時。



「ん"〜〜ん"〜〜〜!!」



 今の今までの人生の中で、()()()()()()には出逢っては来なかったが──恐らく人(さら)いや誘拐が起き、()()()()その被害者が簀巻(すま)きにされている状況だとするのならば──きっとこんな呻き声が出るのではなかろうか。

 "きゅっ"と亜蓮の身体が自然と止まる。同時に視線が横に"すうっ"と動くと視線ハジ──路傍の石垣の向こう、深い林の手前の茂みにうっすらと()()()()()()を感じる。



「今……向こうの茂み、だよな? あそこから……聞こえてきたよな? まさか、人か……? 人が捕まってんのか……!?」



 今もなお聞こえてくるその呻き声に亜蓮は──さすがに()()()()()を抑えきれなかったのか──おもむろに"ぎゅっ"と進行方向を変えるとさっさと茂みに入り込んでは草を毟っては毟りを繰り返し、やがて声の主が入っているであろう──大きな茶色の麻袋を見つけた。

 「おーい、誰か、誰か入ってんのかこれ?」と生存確認と生体確認を兼ねた掛け声と共に容赦なくその怪しく蠢く麻袋をつつく。



「ん"!? ん"っ"!! ん"〜〜〜っ"!」



 なんだか(中身が)愉快な反応(リアクション)をする奇怪な麻袋に亜蓮はしばらく「誘拐か人攫いで拉致された人が居るのではないか?」といういかにも事件性を感じるこの現状を少しばかり忘却し──つついた。何度も何度もつついた。つついては変な声を上げ、上下左右に伸びたり縮んだりする麻袋に笑い転げた。笑い転げ終わったらまたつつく。


 10分は経ったろうか────そんな単調ではあるが、笑いの()()()()()()()()であった"つんつん"にほとほと飽きてくると、やっと亜蓮はその麻袋の口を解いた。



「きゃあ! ……いった。ちょ、ちょっとアンタね……助けるなら早く助けなさいよ! 明らかにつっかれて麻袋の中でくすぐったくて悶える人を見てケラケラ笑ってる状況じゃないわよね!?」



 優しく解いたはずなのに──なんともおかしな軌道を描きながらゴロゴロと転がり麻袋から出てきたのは──年端のいかぬ少女であった。

 亜蓮は「悪い悪い」と片手間に適当な謝罪をしたが──その少女の姿()に思わず"ぎょっ"とする。

 姿格好は()()()()()()()()()()のだが──その皮膚は灰色の鱗に覆われ、綺麗で整った顔に付いた二つの目はまるで()()()()()()()縦に鋭い瞳を携えている。おまけに「私は恐竜の子孫なんです」とでも言いたげな両手の長い鉤爪が"ギラリ"と光る。

 亜蓮は遠巻きに見て、かつ話したことない人外とのはじめての遭遇にさすがに面食らったのか──人の容姿についてどうこう言える立場でもない(魂なので)が"ぽろっ"と「人間……じゃ、ねぇ!?」と本音が出てしまった。



「ん……? なによアンタ、爬虫類人(レプテリィアン)見たことないの? アンタ『魔法使いの国(オールレン)』の人でしょ? ()()()()()()()()()の馴染みじゃない……」



 面食らって固まっていた亜蓮であるが更に聞いたこともない"オールレン(たんご)"に、「は? オールレン?」と真っ当な反応(リアクション)をしたが──その疑問が解決する前にその少女が突如、両手で頭を抱えるとそれはもう大きな大きな奇声をあげた。



「って、あ"〜〜〜〜っ! お兄ちゃんが! そうよ、お兄ちゃん! ちょっとアンタ、もう一つ大きな麻袋見なかった!?」



 そう亜蓮に聞くだけ聞くとその少女は「やばっ!」と短く呟くと亜蓮に助けてもらった礼も言わず、勢いよく周りの草をさっきの亜蓮のように毟り始めた。

 長い鉤爪のおかげか──あっと言う間にそこらの雑草という雑草が根こそぎ狩られていく。

 無惨に散らばる雑草と強くなる青臭さに鼻をつまみながら亜蓮は「そんなことより──」とその少女に()()()()()()()()()原因を聞き出す。



「って……おい。その前にこの状況はなんなんだよ! てかオレは"オーなんちゃら"の人じゃなくて(一応)レオリオラっていうとこの国の人間だぞ!」



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