【FGA:14】1on1
1on1とは。
恐らくバスケを一度でもやったことがある人間ならば──その言葉を知らない人は居ないだろう。
そう断言できるにはもちろん──明確たる理由があるからだ。
第一に。
バスケのみならず他のスポーツ──否、どの事柄についても言えることだが──必ず己のスキルを確認しなければならない時が来る。
今までの自分はどれほどか、これは使えるか、あれはどうだ、これはどうだ……そうやって人はスキルを身につけ、どんどんと成長していくのだが──
言うならば。
バスケットプレイヤーにとってその場が"1on1である"事は──言うまでもない。
普段のドリブルの練習やシューティング、ディフェンス、戦術、自分に求められてる役割……それら一まとまりを確認できるものこそ──1on1である。
もちろん、それらの事は別段1on1だけが確認できる術ではないが──
第二に。
ここまで偉そうに講釈を垂れてきたが──実際のところ、普段のスキルの確認、それだけに焦点を当てるならば──別に1on1を絶対にやらなければならいないという訳ではない。
3対3や5対5をやっても確認はできる。では何故1on1なのか、何故1on1は好まれるのか──
それは。
誰が1番強いか────バスケをやる人間、否、誰であろうと、どんなスポーツであろうと誰もが思う事に唯一答えを見つけられる勝負方法であるからだ。
もちろん。
これもまたバスケに限った話ではないが個々人の力だけが絶対に勝ちに繋がる訳でない事は明記しておこう(特に集団競技はチームプレーや司令塔、汚れ仕事を進んでやる人間などが必要である)。
だが、だがしかし──純粋な個人の力比べをしたならば──誰が1番個人として強いのか。それを知りたくない人間は果たしてスポーツを観る人間にいるだろうか。否、居ないであろう。居ないと断言できる。絶対に。
現に。
どのスポーツ界も誰が最強か?という議論が活発になされる様に──誰しもが、聴衆も、実際そこでプレーする人間でも──"誰が1番なのか"知りたいと思うものだ。
閑話休題。前座はここまでとして。
単純な話、"どっちが強いか勝負"である1on1を──今まさに絶賛、実行中のレオン王子こと"レオリオラ王国第一王子『レオン・レンドール・レオリオラ』"と日本1のバスケットボールプレイヤーと名高い"藍葉 亜蓮(身体は神戸 雷人のものである)"だが────
弱い。
雷人はレオン王子と相対しながら、ドリブルを突きながら──このままだとアクビが出てしまいそうなほど相手にならない王子に心中にそう一つ思っていた。
雷人は軽く身体を前後に揺らす。
ゆらゆらと空へ舞っていく雌の蝶を追いかける雄の様に──レオン王子は雷人の身体の動きに釣られ一歩踏み出した────刹那、雷人はまるで街中の消火栓を"さっ"と避けようとする自転車乗りの様に、勝負だというのにまるで涼しげな顔で──たった一歩。それで王子を軽く抜き去るとそのまま無人のゴールリングに早歩きで行くとそのままレイアップを決めた。
「ロッカーモーション……」
「うおおおお!」と雷人のプレイにざわめく民衆たちの中で──そう突として静かに呟やいた父親に娘は「ほぇ?」と思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
周囲の人にジロジロ見られて赤面するテレサを尻目にジェラミーは相変わらず太い腕を組みながら静かに雷人の次のプレイを見定めるかの様に見つめる。
「ロッカーモーション……自身の身体を前後に揺らし相手DFとのずれを作り──相手DFが釣られて前に出過ぎたところを一気に加速して抜く技だが──完成度が段違いだな!」
そんなジェラミーとは転じて、興奮の声を抑えない派手な4人組のうちの1人、紅髪の少年はそう高らかに叫ぶと雷人のそのプレイに賞賛を贈ったのか──"ぎゅっ"と拳を握ると天高く放った。
「ホンマやなぁ……あんなレベルの高いドリブルヘジテーション、ウチ今の今まで見たことあらへんかもなぁ」
同じ様に──だがローテンションで紅髪の少年の真隣でさっき"カフェ・レオナイル"で購入したフランスパンを齧りながら呟く──茶髪の少女はそう言うと更に隣の白髪の少女に「食べへん?」と聞いた。
「う〜〜ん、すっごい上手だね亜蓮くん! 私たち、闘ったら勝てるかな〜〜?」
白髪の少女は「ありがと〜〜」と同時に茶髪の少女に礼を言うとフランスパンを齧った。
"ぽろぽろ"とパンくずがその少女の高い身長ゆえか、下の方に無差別に落ちていくのに気付かず──その白髪の少女の隣にいた人周り小さい青髪の少年は「お前……うざいぞ、それ」と言うと少女の大きな乳房を叩いて(少女は「いった〜〜い!」と涙目になった)その行為を咎めると自分は「あたかもその質問には興味ないです」と主張するかの様に不躾に少女の問いに答えた。
「負ける訳ないだろ……ボク達だぞ? 100年間一緒に闘ってきたボクらが今更……あんなぽっと出の人間なんかに負ける訳ない」
「も〜〜ほんと、ツンデレなんだから! でも私の胸叩草のはダメだよ〜〜!」と言いながら白髪の少女(その乳)に揉まれる青髪の少年を見て"ゲラゲラ"と笑う茶髪の少女たちを横目で見ながら──紅髪の少年はボソリと「あっちの少年が目醒めなければ勝てるな」と意味あるげに呟き────
「あの動き……彼は只者ではないですね。正直なところ、カイシュと同じか──いや、カイシュよりも遥かに上かもしれない」
弟の勝負が始まり妹と共にハジに避難していた王女──レイア姫ことレオリオラ王国第一王女"レイア・レンドール・レオリオラ"はそう呟いた。
妹のレア姫ことレオリオラ王国第二王女"レア・レンドール・レオリオラ"は「お姉様?」と静かに何か考え込む様に顎に手を当て沈思黙考する姉を心配すると──突如、民衆をかき分けるように怒声と"ガチャガチャ"と大きな鉄が動く音が聴こえてきた。
「あ、お姉様……見つかっちゃいましたよ!」
レア姫はその鉄の音が聴こえてもまるで動じない姉に警告する様に慌てながら伝えると"ばっ"と一点も入れられない兄と先ほどからレオンを軽く抜く事と点を決める事しかやっていなかった相手の間に飛び出すと「も、もうやめてくださ〜〜い!」と勝負を止めに入った。
突如、飛び込んできたレア姫に「あっぶね!」とぶつかるまいと途端に身体を捻った雷人 に──同時に民衆の輪を裂き終わったにも関わらず怒涛の勢いで騒ぎの中心に雪崩れ込んできた"鉄の音"の正体が不幸にもぶつかる大きな音を共有すると──2人とも同じように後ろへ倒れ込んだ。
「いって〜〜!」とその鉄にぶつかった雷人が頬をさすると、その鉄も──いや、鉄を纏った──鉄の鎧を身に纏った人間も痛みに唸ると「がちゃり」と深呼吸のためか大きな面を外す。
それを見た途端──その顔を見た途端──レオン王子の顔は血の気が引くように"さっ"と青くなるとあたかも悪い事をしたところを親に見つかった子供の様に"あわあわ"と慌て始めた。
雷人は「なんだコイツ……」とその鉄の鎧と無様に慌てるレオンに呆気に取られるとフォローすべく代わりに──すかさず魂が「貴方は?」とその鎧に聞いた。
その鎧を纏った人間、青年は"すっ"と鎧の重さなどない様に軽く立ち上がると「ぱんぱん」と一つ、泥を落とすと──
「カイシュ・スティブル・ホットスパーズ……この国の親衛隊隊長です」
と、言った。