頭を診てもらえ#5(2021,1,14修正)
・・・。
浮いてる。ぶらーんって。
支えもないのに。
「困るなぁ、ボクのかわいい妹へのプレゼントなのに」る
私は、声のした方を向く。向くといっても、そのまま正面だが。
プレゼントだと?
「世界一かわいいボクの妹がボクを嫌ってしまっているんだ。君のせいだよ?君みたいな奴のせいでプレゼントを送るのが遅れるんだから。どうしてくれるんだい?」
どうもしねぇよ、自分の胸に手ぇ当てて考えろってんだ。誰が障害物だ?この異常者が。
そいつは、紺色の髪の黒い目を持つ青年だった。色とりどりのピエロのような服を着ている。ただ、手袋は着けておらず、細長い十指をこちらへ向けている。顔はかなりいい。彫りが深く、アイドルになれそうなレベルでカッコいいのだろうが、あいにく、私は野郎に興味はない。
性格はクソだし。
辺りは、暗闇に包まれていっていた。
この空には、似合わない雰囲気だ。大道芸でも今から開くみたいな。気にくわない。上から目線だし。
「まぁ、君はもうすぐ死ぬんだ。答えられないよね?」
私の浮いてる理由がわかった。私はさっきの糸みたいなものに胸の辺りを貫かれている。
どーりで反論が言えないわけだ。
「大丈夫!すぐ楽にしてあげるっ!おにーさん優しいから♡」
うわー、気持ち悪っ!オッエ!今、語尾にハートついたろ!きっしょ!空が暗くて良かった!どんな顔か見えてなくて良かった!
私は、せめてその気持ちを伝えるために舌を出す。ベーっだ。
あいつはそれに怒ったらしい。こちらに向けていた指先を勢いよく引いた。
唐突に私は、電池が切れたロボットのようにくずおれる。痛みはない。もう痛みを通り越してしまっているんだろう。砂のざらつきが頬で感じられた。早く病院に行かないと死ぬやつだ。
空は、もう夜といっても差し支えない暗さだった。あいつの顔だけでなく、行動もよくわからないのでかなりまずい。考えもわからない。待てよ?ひょっとして、あいつも病院に行ったほうがいいんじゃ?頭診てもらえよ、お前。あー、言いたいのに言えない!もどかしい!
「良い子はおねんねの時間っ!」
まじか!まだ早いと思うよ!おねんねしている夢の中で死にたくないっ!
「夜はわたしの時間」
ぼふんっと、なにか大きなものが倒れる音がした。赤い染みがじわじわと砂漠の砂に広がっていく。
まさか、この子・・・。
「・・・っあ」
「しゃべらないで、ルナちゃん」
私の前に立つ、赤毛の少女。その髪は、血で赤く染まっていたかは、私はわからない。
「・・・なにも、言わないで」
わかりました。なにも言いません。声でないし。
ピカッ!
「「――――っ!?」」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!
私は声が出せないので、心の中で叫ぶ。うわーっ!び、びっくりしたぁ、驚き、桃の木、山椒の木だぜっ!
そして、目の前には、彼岸花。
・・・あっれぇ、見たことあるぞ。ちょっと前に。
赤い、ふわふわした花が、葉っぱのない細い茎の上でゆらゆらと揺れている。まごうことなく、彼岸花だった。それが砂漠の砂の上に生えている。
「・・・なに、これ?」
「っ!―――――っ!―――――っ!(おい!不用意にさわんな!かぶれるっておばあちゃんが言ってたぞ!)」
必死の訴えもむなしく、ティアは腕を伸ばしてそれを掴む。
彼岸花が輝いた。
意識が遠のいて・・・。
そして、私は眠りにつく。
◆ ◆ ◆
「んがっ」
起きた。びっくりするくらい寒い。ああ、床で寝てるのか。
コンテナの冷たい床から立ち上がる。顔の前にたれてくる髪は白色に戻っていた。
私は伸びをする。あー、いやな夢。あれはいやな夢だったんだ。感情移入しすぎた。
「起きて、ティア」
私はティアを揺さぶる。おっと、現実では、初対面だ。
「きゃっ!」
「ぎゃあっ!」
ティアの驚いた声にもっと驚く私。夢の中であげられなかった叫び声をあげる。
ついでに飛び上がってしりもちをつく。かっこ悪っ!
「痛ってぇ!ケツ割れた!」
あ、言葉も元の言葉に戻ってる。
「あれっ!動けない!まさかかなしばり!?これがうわさの・・・っ!」
「いや違う」
天然かな?私はこの子を拘束しているベルトを外す。その女の子は薄手の制服を着ていた。夢同じだ。
「だあれ?あなた?」
なんだろう。この言葉、私が今の今までしゃべってた言葉じゃない。でも、わかるってことは、死神さんがしゃべられるようにしてくれた言語だな。
「ルナだ」
とりあえず答える。あっやべっ本名はまずいか?夢で会ったってばれる?
「んぅ、わたしはね、ティアだよ」
どうやら問題なかったらしい。まあ、ばれても別に良かったからな。
ティアは、相変わらず優しい口調で言った。
「かわいい名前だね、ルナちゃんって」
うっ、かわいい。そんなふわってほほえむなよ。ドキッてするじゃん。
「お、おおう・・・」
「んふっところで・・・」
おい、笑ったろ。今笑ったろ!突っ込みいれる隙をくれ!話変えんなよっ。
「ここってどこ?」
いや、知るか。