夢の中!#4(2021,1,14修正)
「・・・へー、そーなんだ」
ティアは思ったより薄いリアクションを返す。教えろっつったんはそっちじゃん。
ティアはかまわず出発する。顔をあげ、空模様を確認する。確かにもう、日が沈みそうだ。だが、箒はチンタラチンタラのんびり進む。
「おーい?」
声をかけるが返事はない。また無視かよ。
「すまないな、ルナくん。もう少しで夜になってしまうのでな。箒の操作が妹は不得手なのだよ。だから余裕を持って村に向かっていたのだが・・・。僕が会話を引き継ごう」
兄のアズが代わりに返事を返してくれた。私はこんなのよりかわいい女の子と話をしたいのだが。まあいいか。こっちも迷惑かけてるし。反応してくれるんだったら話してやろう。
「んん?今、何か失礼なことを考えなかったかね?」
「んにゃ、なにも」
兄妹そろって勘がいい。勘のいいガキは嫌いだよ。まったく。ガキは鼻水ぶらさげて走り回っとけっての。私もガキだけど。4分の1くらい。
「率直に言うが、僕は君の言うことは、信じられない」
「ふざけんな。失礼っつったんはどの口だ?お前の脳ミソはスポンジだろ?」
まあそうだよね。わかる、わかるよ、その気持ち。
「え! ありがとう!」
あれ!?建前と本音が逆になった!?やっべ!とりあえずとぼけとけ!
ん?『ありがとう』?
「いや、そんな誉め言葉をもらえるとはつゆ知らなんだ。すまないな。君がそんないい人だとはね」
大丈夫かこいつ。悪口なのだが。一体生涯で何回騙されるんだろ。完全に他人事だが心配だ。
あれ?ひょっとして、さっきのって、誉め言葉になるのか?
「おっと、話を戻そうか・・・確かに、万が一にも君の言うことはもしかすると本当かもしれない」
まあ、その可能性も考えるわな。
「が、僕たちにとってはこれは夢ではなく、現実なのだよ」
アズは私を見る。つり目な茶色の目が、夕焼けのオレンジに反射する。瞳がトパーズのようにかがやく。眩しくないのかな。
「かっこよく決まったって思ったか?」
私は、冗談混じりに聞く。これは彼らにとっては現実でも、私にとっては夢なのだ。私は会話を楽しもう。
「ああ、少し・・・」
「あはっ思ってんじゃねえか」
かっこ悪いお兄ちゃんだなぁ。
・・・お兄ちゃん、か。びっくりどころじゃねぇだろうな。急に家を飛び出してった妹がトラックにひかれてポックリ逝ったんだもんな。
「どうした?」
「・・・」
「ああ・・・」
おっと、だまっちった。重い、重い。空気が重いよ。
私は、『ごめん、聞いてなかった』と言った。
◆ ◆ ◆ ◆
「ああ、ルナくん。あれが僕らのホームタウンだ」
アズは、その方向を指さす。
おー、見えてきた、見えてきた。土の塊みたいな村が。
「お兄ちゃん!村がっ!」
「はい!?」
返事を返すアズ。村が?村がって?
「――――っ!」
「うっ!」
ここに来る前の記憶が呼び覚まされる。
何が起こってたというんだ?もしや、これで、ティアの方は捕まえられて眠らされたのか?じゃあ、アズはどうなんだ?いっしょに寝てたっけ?いっしょだよな!?ティアだけ生きてるんじゃあ・・・これは・・・。
彼らが村というそれは、崩れていた。壊されている。跡形もなく。本当に土の塊だった。どおりで家と認識できなかったわけだ。砂漠だから土メインで作られた家だったんだろう。壊すのは簡単だったんだろうな。
・・・もう、砂漠の一部になっている。人も見当たらない。一人も。
じゃあ、まさか彼らの親も・・・。
・・・いや、大丈夫。私にとっては夢だ・・・
私は、自分に言い聞かせる。だが、彼らにとってそれは、現実なのだ。我ながらひどい。
だが、もし、今考えたことが現実だとしたら。
悪夢だ。
彼らもそう思ったのか、乗っている箒のスピードが上がる。
そして・・・村には、たくさん、血だまりが、ついて、いる。ゆっくりと、その、血だまりが、どろどろ、広がって、いった。
「んなこと・・・」
ひどすぎる。ティアは夢から覚めるだろうか。そして?彼女は?どうなる?
私のなかで、嫌な予感がした。まさか。
ティアとアズは、村のこの惨劇に鉢合わせたのか?
私と会わなかったはずだ。本当は。これがティアの記憶からの夢だったら・・・いや、ほとんど記憶からできてるだろ。夢は。それにやけにリアルだ。『私』の意識がはっきりと、考えられている。
もし、私と会わなかったら、ここに到着する時間が早まってこうなる時に、鉢合わせる。そして、ティアは捕まったのかもしれない。あの血だまりが証明している。
まだ乾いていない血だまりが、あったであろう惨劇が、ついさっき起こったことを。
たくさんの血だまり。あのコンテナにいたティアはともかく、アズは?
その時。
ヒュンッザクっ
んぐっと。
くぐもった声が聞こえて、
「・・・・」
「お兄ちゃん!ルナちゃん!」
私は、その声で我に帰る。アズが?
アズは倒れない。だらん、と腕を垂らして上を向いている。頭に、キラキラ光るものがつながっている。
糸?いや、針?
それが私の頭のすぐ上を通っている。
それが、赤く染まっていく。
染まって、染まって、染まって・・・。
殺され、た。
「ヤバい」
逃げなければ。
殺される。
「っ!」
ヤバい!
「危ない!ティアっ!」
私は反射的にティアにかけより、体当たりをする。
ヒュンッザクっ
ティアは地面に倒れたが、私は倒れなかった。
アズの方を見ると、支えがなくなったようにくずおれていた。