夢の中?#3(2020.12.23修正)
「んごっ!」
畜生、また頭ぶつけた!あれ、でも・・・痛くない?
その時、後ろから声がした。
私はふりかえる。
「ピピーッ!ふしんしゃはっけーん!」
「こらっ!ティア!彼女にも何かしらの事情があるかもしれないではないかっ!むやみにそういうのはやめたまえっ!」
「ごめんねぇ、お兄ちゃん」
箒にまたがり、学生服を着た、私と同じくらいの二人組が私を見下ろしていた。
◆ ◆ ◆
「ねぇ」
「「・・・」」
「お二人さん」
「「・・・・」」
「今日はいい天気だねぇ」
「「・・・・・」」
「きれいな夕焼けだよ」
「「・・・・・・」」
「夜の暗さと昼の明るさが混じってできた、まさに自然の神秘ってやつだよね」
「「・・・・・・・」」
「百パーセント天然素材使用!夕焼け色のレースカーテン!今なら出血大サービス!みたいな?」
「「・・・・・・・・」」
「ああ、例えが悪かったか。そもそもこの壮大な大自然の景色をレースカーテンなんかに例えるなんて、おこがましいよね。ね、ね」
「「さっきからうるさいんだよ!」」
怒られた。ずっと箒に乗っているから暇なんだよな。
最初こそ興奮したけど低速飛行の低空飛行じゃあ、もうただの自転車じゃん。乗り心地も同じくらいだし。
座りやすいようにけっこう太い棒使ってるからよけいそうだし。
最初の印象から、話しやすそうだと思ったが、暇で暇で暇で暇すぎたから、自分でもうっとうしいだろうと思うくらいえんえんと話しかけてしまい、とうとう無視されてしまった。
だって、私はついさっき家族や友達となんの前触れもなく別れてすっごく寂しかったんだ。しかも死体がたくさん並べられているホラーな現場を見たんだもん。いーじゃん。
この二人組の大きい少年は、オールバックのイカした髪型で、赤!って感じの赤い髪だ。対して小さい女の子は、おかっぱ(ショートボブって言うのかな?)で、かわいさ全開だ。抱きつきたい。めっちゃ好み。おっと、話が逸れた。この子も赤い髪色だが、淡い色をしている。雰囲気は逆だが、目は二人とも琥珀色なので、兄妹なのかもしれない。
そして一つ、気にかかることがある。なぜかこの二人組のかわいい女の子の方は見たことがある。
その子は、さっきボディタッチした、あの小さい女の子だった。
いや、あの、ヘンなところではなく、もちろん無難にほっぺたに。
触れた理由はなんとなく、一縷の望みにかけて、この子はまだ大丈夫かもしれないと思ったからだ。
おっと、また話がそれた。
私は、あることををずっと考えてたのだ。あることとは、いうまでもなく、『なぜ私はここに来たのか。』
もちろん、寂しかったからもある。だが、三割くらいはそのことを知るために話していた。だから、必然的に会話量が増え、無視されてしまったのだろう。
つまり行き詰まった。
再び暇で仕方がなくなった私は、何度目かわからない現状確認をする。
まず、私は縄でぐるぐる巻きにされ、彼らの村に連行されている。
そして、私は、体感数時間前まで着ていた学校のセーラー服を着ている。髪も白ではなく黒。言葉もなぜか日本語しか私の頭にない。
死ぬ直前の私だ。それにしても、わからない。
『わからないことは聞けっての!そんなこともわからないのか!?』
・・・。
リーダー、私のことそんなに嫌いですか?それとも私が勝手に過去に言われたセリフを思い出しただけですか?まさか、私があなたのことが好きなんでしょうか?いや、ない。それはない。リーダーの鍍金が剥がれた姿を見て、好きと思うやつはいない。絶対いない。
・・・。
聞くか。
「ねぇ、ここってどこなん?」
「クミン砂漠だ」
どこだよ!かわいい名前だなあ、おい!知らん場所じゃんっ!
「君、さっきつい乱暴な言葉を使ってしまったことは謝る。だが、もう少しだけ静かにしてくれたまえ。君は・・・少々うるさすぎる」
私を運んでいる男の子が言う。ひどい!否定はしないけど!
「いーじゃん、お兄ちゃん。この子、ここがどこかも知らないんだよ?無視したわたしたちも悪いし」
おお、ナイスフォロー。よし、会話が弾む予感っ!
「ごめん、本当はなにも知らないんだ。私は。ここにくる以前の記憶がない」
ごめん、少し嘘ついた。でも、本当のことは言っても信じてもらえないと思う。
「なにっ!記憶喪失なのかっ!それは悪いことをしたっ!縄をほど」
「お兄ちゃん、止まって」
箒が急停止する。目の前の小さい女の子はお兄ちゃんと呼ぶ、男の子の前で止まる。
その子は人差し指を立て、唇にあてる。私をじっと見る。観察する。
えっ、なにが始まるんだ?
「・・・・」
「・・・・」
なんだ?急に黙った?
女の子は押し黙ったまま、しゃべらない。
「・・・・・」
しゃべらない。
「・・・・・・・」
しゃべらない。
「・・・・・・・・・・」
しゃべらない。
すると、女の子の目は見開かれ、優しそうなたれ目はギラギラと輝く。人差し指が置かれた唇が、三日月のように歪んだ。
・・・なるほど。
「嘘ついたね」
「はい。つきました」
嘘はすぐにばれ、私はすぐに白状した。こっちのほうが楽だ。嘘を使うと頭も使う。私は疲れるのが嫌いだ。
「その代わり、信じてよ?話すから」
カクカクしかじか。
「信じられないな」
「なーるほど」
そりゃ、『女の子に触ったら意識が途切れてここに放り出された。』なんて信じられないよね。さて、もっとうまい嘘を・・・ってちょっと待て。
「おい女の子、いまなんて?」
「『なーるほど。』って言ってたよ?わたし。あと、わたしの名前はティア・サンライズだよ」
理解した?まさか。男の子は開いた口がふさがってない。
「で、お兄ちゃんはアズ・サンライズ。あなたは?」
へー、家族なんだ。確かにおんなじ赤毛だなぁ。勝手に話を進める女の子。じゃない、ティア。ニコニコとつかみどころのない笑顔だ。
「私は、ルナだ・・・わかったって?」
「たぶんここは夢の中だよ。わたしの」
「夢・・・。」
どうやったらそんな突拍子もない結論が出る?夢?この子の?
「の、中」
ご丁寧に私のセリフに付け足してくれた。やはりニコニコと微笑んでいる。
「魔法ってやつだよね。学校で、科学で説明できないことは魔法の力が働いてるって習ったもん」
魔法?魔法って、手から火がボーとか、水が空にピューとか、もっとすごいと火がドカーンとか?確かにあの死神さんは、魔法があるって言ってたけど。
「あなたの魔法ってなんなの?」
知らんよ?魔法って個人個人で違うの?わからない。
わからないなら聞けばいい。でも直接的だと怪しまれるから間接的に。
「まずは、君の魔法を教えてよ?」
「影」
もっとわからない。影?影踏みが得意なのか?
「じゃあ、アズくんは?」
「僕の魔法は光だ」
対照的だ。家族によっても違うのか?わからない。
「年子で学年も同じなのに、つり目とたれ目で性格も逆、得意教科も数字と国語、わたしはちびで、お兄ちゃんはでか。魔法まで逆だから二人そろって一人前!って呼ばれてるよね。お兄ちゃん」
「えっ!ああ、うん」
急に話を振られてびっくりするアズ。楽しそうにすんな。こっちは必死で自分の魔法名考えているんだから。
「ルナちゃん、まだ?うだうだしてると日が暮れるから出発するよ?」
「夢旅行」
「んぅ?」
私は即興で私の魔法名を考える。
「眠っている相手の夢に干渉する魔法だ」