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海月の異世界漂流記  作者: みかみ かん
幕間『移動中』
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水を求めて#2

 割れたガラスの破片が飛び散る。鍵がついていなかったし、ただ外を確認するためだけの窓だったからすぐ割れると思ったが、本当にすぐ割れた。

 キラキラとライトに反射してまるで銀色の紙吹雪だと思った。アイドルのライブみたいにきらびやかに散る。

・・・この場合、センターはゴージャスなスーツケースが独占しているが。

 しかし、その素晴らしい光景は、コンマ一秒もたたずに終わった。ガシャガシャガシャンゴトンと美しくない音をたて、スーツケースの(もうないであろう)初ライブは終了した。


「さぶっ」


 冷たい風が入って来て、思わず身体を抱く。そういえば私はミニスカートだよ。あろうことかワンピ一枚だよ。袖はなんかヒラヒラついてるだけだし!寒いに決まってるよあの人の手紙には北の方の国とか書いてたじゃん。


 私は急ぎ足でクローゼットに向かう。クローゼットを開けると、可愛い服ばかりでコートとか防寒具がない。

 ほかの引き出しを開けても、つけただけで痒くなりそうなレースがついた下着や、マジでパンツを見て欲しいのかと思うほどの丈の短いミニスカートしかなかった。

 いったい誰を誘惑するつもりだ?ヘンな女の演技もリーダーに叩き込まれてたからできないことはないが。

 ・・・リーダーは、部長に選ばれただけあってそういうことはできたからな。横暴だけど。なぜだか自分のことをリーダーと呼ばせてたけど。でも、私はリーダー大っ嫌いなのに心の中でもリーダーって呼ぶくらい洗脳されてるな。末恐ろしいよ。てか、リーダーって、男も女も上手く演じるから、外聞だけはいいんだよ。気に入らないやつだけひどくあたるからひどいんだよ。彼に不幸あれ!死なない程度の!

 おっと、閑話休題。閑話休題。願望が溢れてるよ。

 さて、悪口は後にしよう。リーダーのせいで手遅れになることが一番頭にくる。

 私は、あのリーダーに頭の中で中指を立てながら重ね着をする。・・・やっぱ寒い。足の爪先とかふくらはぎとか太ももとかひざの裏とか腕とか。体の末端部位すべて。

 仕方がないのでそのまま出発する事にした。靴は(パンプスみたいな感じ)頼りなかったが、ガラスの破片を踏まなくてすむだけありがたかった。

 あとは、窓の残りのガラス片だ。それは・・・ああ、この無駄にでかい枕を使おう。いい感じの厚さだ。まるでこのためにつくられたみたい。

 私は、その枕をまだガラス片がついている窓にかける。私はその窓にまたがっ――――。

 

「っ!バッツ!バッツ!!」


 アブねぇぇっ!落ちるところだったぁぁっ!落ちてハリネズミみたいになるとこだったぁぁっ!!

 床まで四メートルはあった。こんな頼りない靴では絶対こける。そして最悪靴が脱げてグサッてなって素足にガラスの下駄履いたみたいになるっ!赤色のっ!

 おおお、想像すると鳥肌がたってきた。ゾワゾワッと。

 ん、ああ、そうだ。高さとガラス片が問題なんだよな?グサッてならない方法ならある。

 私は、ベッドのふとんを取って、窓から落とす。覗いて見るとある程度広がっていてガラス片で怪我する心配はない。


「あーとーはっ」


 私はまたベッドに行き、こんどはシーツをはがした。

・・・ベッドって、かなり使えるな。いや、布というものが万能なのか。全く、ものは使いようだ。シーツを裂いて結び合わせてロープをつくる。クローゼットにそれを結び、窓の外に垂らす。馬鹿みたいにでかいベッドだったので、シーツも降りるには十分な長さのロープになった。


「こんどこそっ!」


 私は、窓にまたがり、それを握った。足で壁を踏ん張りながら降りていく。あー、腕痛い。ある程度降りると、下を見るとスーツケースでもっこりしたふとんが足からあと四十センチのところに見えた。うっ、少し高い。だが、戻るには腕がもう限界だ。ま、こんくらい大丈夫っ


「I can fly!(私は飛べます!)」


 この言葉もこの世界のどこかの言葉に翻訳させてるかもしれない。たぶんアルマっていう国だろうけど。中心的なとこらしいから。

 私は、シーツから手をはなし、飛び降りる。すたっおっとっと。危ない、危ない。

 

「さて」


 辺りを見渡すと、コンテナがひとつ、ふたつ、みっつ・・・窓から見た感じより少なかった。二十個くらい?いや、けっこうあるな。私のいたコンテナは、他のコンテナの上に乗っている。このコンテナを開けてみるか。私はそれに近づき、扉の取っ手に手をかける。しっかし、ここって、船の中か?あまり大きくないな。個人が持つにはでかいけど。取っ手はバカに冷たいし。関係ないか。いや、今は水だ。水が欲しい。なんのためにスーツケースの単独ライブをプロデュースしたと思ってんだ。

 

「せーのっ」


 ばっ!と勢いよく開ける。白いもやが溢れてきた。私はそのもやをはらおうとしなかった。考えられなかった。そんなこと。


「――――――ッ!」


 死体、死体、死体、死体、死体、死体・・・・


「っだああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 死んでるぅぅぅ!!めっちゃ死んでるぅ!血、血、血がっ!

 私はしりもちをつく。痛いのも気にならない。

 だって、あれはっ!さすがにっ!いや、血がでているということは、ひょっとしてまだ新鮮?いや、違う!巻いてある白い布にシミになってくっついてんだ!!しかも四角い箱に並べられてあろうことかベルトで固定されてる!!明らかに人為的じゃんっ!で、でも、もしかしたらまだ死んでないかもしれない。あの血も、もしかしたらケチャップだったりしてっ!


 後で思ったことだが、私はバカでも考えない考えを持ったと思う。


 よ、よーし、さわるぞ、さわっちゃうぞ。


「南無三っ!」


 私は、近くに寝ていた小さい女の子に触れた。あー、やっぱ冷たい。


 ブツンッ


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