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海月の異世界漂流記  作者: みかみ かん
第一章『チュートリアル』
45/51

回想終了#42

 そう聞いた瞬間、私の脳内はハテナマークで溢れかえった。

 なんだそりゃ。それってつまり、『俺は俺!』って、言ってるようなもんじゃないか?

 本名も自己申告してくれたお陰で『リーダー憑依されている説』の可能性は薄まったけどさぁ。でもとっくに私の中ではそんな説忘れ去られてたんだけどな。

 それはともかく!


「はい質問!」


 私は元気よく手をあげる。


「ナンダ」


 質問に答えてくれるらしい。


「言ってる意味が全く分かりません!」


「帰レ」


 即座に退去命令が下された。


「……よおわかったわ。ウチからちゃんと伝えよう」


 ザックが腰をおろすに伴って、ツウィーカも腰をおろす。それにつられて皆も座った。

 私はふと気になってちらっとツウィーカのお仲間の方をむいたが、さっきアッパーパンチした人と目が合ったのであくびをしてごまかしながら正座した。

 ふう。なんか今もすげえ視線感じるけど危なかったぜ。


「じゃあ、お前のことは、なんて呼べばええんや?」


 確かに。あの部屋に行ってからザックは、リーダーのことを名前で呼ばなかった。


「ん、エット、『カイル』だカラ……」


 この会話で、始めてリーダーがうつむいた。悩んでるのか?


「まア、イイヤ。ルイカって呼ンでクレ」


「まんま『カイル』を逆にしただけやんけ!」


 私は覚えやすくていいと思う。

 あれ?それにしても、リーダーって、名前偽称してたのか。これで本名ばれちまったな。リーダーっぽいといえばぽいけど。それに私も大概だけど。あ、今はルイカか。


「ほんなら、ルイカっち。頼みを聞く代わりにこっちの頼みも聞いてもらうで?」


「ア?」


「あったり前やろ。まあ、大丈夫や。簡単なことやよ。ただ、襲ってきたバンパイア以外傷つけんなって話」


「ワカってる」


 よかった。リーダー、お咎め無しか。てか、『俺は俺!』だから、リーダーって呼んでもルイカって呼んでもいいのかな。いや、この場合はルイカって呼ぼう。


「ああ、ウチも確かにバンパイアやけど、ウチはやめてな? ほら、この通り、人畜無害やから」


 さらっとバンパイアであることを話すザックに驚いたのか、ルイカの眉がわずかに動いた。動揺を隠してるのか、『バンパイア』の特性がよくわからないのか。


「ルイカっちの言うように、これには主犯がおる。この子……ツウィーカっちが着ている服、見たことあるやろ? この子達の襲撃がこの事件の引き金になったんは、薄々気がついとるはずや」


「もチろん」


 いや、私は今そう思った。全然考えてなかったぜ。


「ウチとしては、()()()()()任されるんは……」


「「ベラ・ヴァーヴニル(さんっすね)」」


 ダグラスとグレイの声がシンクロする。付き合ってんのかよてめぇら……て、


「えええ!!!」

 

 以外な人物の名前に、私は驚く。とはいっても、驚いたのは私だけだったようで、皆から白い目で見られた。おお、なんか心の内壁が震えたぜ。


「ヤっパリ、オマエ帰レ」


「ナシよりのナシ」


 きっぱりと答えて、手でバッテンを作る。てか、帰るところないし。


「ジャア黙ってロ。トコろで、さっきのバンパイアどもの行動はベラ・ヴァーヴニルの魔法ってことカ?」


「あ、ああ、せやな。なあ、タッちゃん」


「おう、ザックも知ってたのか。こんなことできるのはあいつの『(ドレット)』の固有魔法しかない。うん。間違いない」


 皆、この世界の基礎知識で確信にいたったてたらしい。おっと、思わぬハンディキャップ。確かに私もティアから聞いてたけどよくわかってなかったもんな。


「ん、じゃあ決まりやな。ルイカっち、いっしょにベラを拘束しに行ってくれるか」


「ナンでオレサマが?」


「強いやんけ。ウチより戦いなれてそうなバンパイアを八つ裂きにしとったやん。戦力的には問題なしや」


「さっキ言っテたコトと違うゾ」


「サリア、おっと、ダグラスはルナって呼んどったな。ずるいわ。ええなそれ。よっしゃあ! おいルナっち。出番や! 君に決めた!」


「えっ!? なんで私の……」


 はッ! さっきいきなり話を振られたツウィーカって、こんな気持ちだったのか! うっっわ。マジごめん。


「え、えっと、リーダー、じゃない、ルイカ。なんか、子供たちと会うとき、なんかあの、怖がらないようにかな、出てる口の数減らしてくれてありがとうございます。上半身裸の露出狂になったけど」


「最後ガ余計ダ」


 いや、事実じゃん。装備品はビリビリに破けたズボンだけじゃん。パンツははいてんだろうけど。


「着ます? 私のワンピース」


 あまりにも粗末すぎてかわいそうになってきた。自分のワンピースに指をさして言う。


「ソノ目をヤメろ。人の血液で染マッタ服なんて気持ち悪イ」


「おいおい。誰のせいだとおもってんだよ。 百パーお前のせいだろ? ボケたのか? それともすっとぼけてんのか?」


「ナニ言ってンダ、白一張羅にイいアクセントにナッタじゃないカ」


「いやいやいや!? 背中に未知の赤い半島なんてどなた様向けのデザインなんだよ!  痛み分けでももっと反省しろよ! 反省の『は』の字もないじゃないか!」


「アア、ハイハイ。ゴメンゴメン」


「歯ぁ食いしばれ? ぶっ倒す」


「オ? ヤンのか?」


「どぅどぅどぅ。落ち着け落ち着け」


 立ち上がろうとして、重心が前にずれていた時だった。そんな声が聞こえたのは。

 次の瞬間、抗いがたい力によって私たちは押し付けられる。


「ウッ!」

「うへッ!」


「ほ~ら。暴力は無しやで。平和的に解決しいや。仲直り仲直り。ええ子ええ子」


 そう言われながら頭をナデナデされる。

 うっわ、なんか胸に当たる感触がゴツゴツしてるぜ。牙か?全部牙か? え!?抱きつかされてる!?


「気色ワルい!!」


「うおッ!」


 私の後ろから前に風が吹き抜け、そのまま岩壁に激突した。


「おほ~う」


 突き飛ばされたようだ。頭がガンガン……しない。

 飛ばされたけど、頭のとこにブルーシートが置いてたもんだから、痛くなかったのか……って、こんなか、おっきいタオルが詰まってんじゃねえか!捨てないよな!?え!なに!?これだけ油の臭いする!人の臭いじゃねぇ!うっわっ!くっっさ!


「だ、大丈夫っすか!?」


「ルナっち生きとる!?」


「生きろ! ルナ! オレのクビが飛んじまう!」


 おい。なんだ最後の。ろくでなしがいたぜ。己の保身しか考えてないクズがいたぜ。なんだ、ちょっと死んだふりして驚かせててやろうか。あ、このタオルはすげえいいにおいする。もう一枚は無臭。


「ケッ! 狸寝入りダロ。どうせ」


 今のを聞き逃すのは私のプライドが許さねぇ。


「お・ま・え・なぁぁぁぁ…………」


 裾についた砂を無視して、ブルーシートの横にあった、尖った岩を……は、さすがにヤバイから、ワンピースを一枚脱ぐ。許しちゃおけん。制裁を加えねば。

 ちゃっちゃと広げてふりかぶる。助走をつけて……


「……天誅ッ!!」


 ぼすっ


 そして、目標に突撃した。


「……一体、ナニをしたいンダ」


「かわいいなって。グフフッ」


 ぐっじょぶ!自分にGood job!

 ワンピースをそのまま着せてやった。

 フリルつきのひらひらワンピース。

 十才以下じゃないとかなり恥ずかしいデザインだ。

 それなのに、いつもどこか悲壮感が漂うリーダーの顔には似合わなさすぎて、思わず笑ってしまった。


「全てにオイテ人知を低迷してんナァ、馬鹿」


「お前もな」


 ゼロ円スマイル。


「中指立テルナヨ、子供が見てルぞ」


 目線を移すと、船に乗ってこちらに背中を向けている子供たちの姿があった。アズの持つトランプに見入っている。なんか今、ティアのスカートのポケットからトランプが出てきて歓声が聞こえたから、手品だと思う。


「見てねぇぜ?」


「……なかなかやルじゃナイか、日の出兄妹……」


 日の出兄妹とは、アズとティアのことだろう。


「ふへへぃ、ばーかばーか」


 指をさしてバカにする。

 ここぞとばかりにバカにしないとするタイミングが見つからないのだ。


「……いや、オマエはまず、ソノ岩に気づクべきだ」


 ん?岩?ああ、あれか。

 少し走って、あの岩を拾いあげる。ついていた小さな石の破片をとり、ルイカに見せる。


「ふぁ? これっすか?」


 ただの岩だ。壁から剥がれ落ちたものじゃないだろうか。人殴ったら殺しそうなくらい尖ってること以外不思議なことはないけど。


「え……あっ! ヤバイやんけ!?」


 ザックの声がしてその方向に向くと、目を見開いたザックがいた。ザックと同じ方向を向いている奴らもなにやら動揺した顔をしている。

 へ?なんかあんのかな。私も同じ方向を向く。


「は~……へえ!?」

 

 岩が落ちてきたであろう岩壁を見ると、岩壁には、私の身長ほどの大きな亀裂ができていた。

 嘘だろ!こんな静かに崩壊って始まんのか!?


「うわッ! やべえッ! おい皆! 荷物捨てて逃げろ今すぐ! Run awey! And go outside!」


 そう言いながら、私はティアたちの近くにいる子供に駆け寄る。


「黙れ! お前が指図すんな平面顔!」


「……ッ!」


 船に乗り込み、子供を二人抱えたところで後ろからそんな声がして振り返る。

 あはぁ、ツウィーカさん、やっぱしゃべれてんじゃないですか……。


「ルナちゃん、やめなよ、その意味深な笑顔……」


 その言葉は承諾できない。表情筋が勝手にゆるむんだ。生理現象である。


 ツウィーカは口をへの字に曲げ、一、二歩下がる。そして、ツウィーカにスッと近寄ったザックは、手をツウィーカの肩に置き、親指でどやどやと機材をまとめている人たち、階段、という順番で、指を指す。

 その後、なにやら諦めたような視線を向けながら私を指さし、首を振った。


「どーゆーイミですか? 最後の行動」


「いや、『ウチはノルド帝国組と船で避難するから、ツウィーカっちは仲間といっしょに逃げろ』って意味や」

 

 すげえ。あんなジェスチャーでそんなコミュニケーションを……。


「ん? でもさっきの諦めたような顔は……」


「さ! ツウィーカっち! はよ行け皆行ってまうで! おいこらぁ! ダグラスもグレイも突っ立ってないでとっとと来いやぁ!」


「ねぇ……」


 声をかけるも無視された。あの焦りよう、やっぱりヤバい状況なのだ……って、騙されると思ってんのか。私はそんなバカじゃないぞ!かわいそうなものを見る目で見んじゃねぇ!うれしかったんだよ予想が当たって!いいだろ笑ったってさ!


「じゃ、任せた」


「ん、任せろ」


 そう言って、ツウィーカはお仲間といっしょに出ていってしまった。


 何を『任せた』なんだろうか。単純に、ツウィーカにとって警戒対象である私を『任せた』なんだろうか。それともかわいそうな頭の私を『任せた』なんだろうか。


 どっちになるかによって私のMP(マインドポイント)の減りかたが変わるぜ。


「おいオマエ」


「わぎゃぁぁぁぁ!!!!!」


 背後をとられて驚いた私は反射的に手が出てしまった。


「んグッ!」


「うわ! ゴメンリーダー! じゃないルイカ!」


 胸を抱えて、船を停めてある桟橋にうずくまってうめく。子供たちが心配そうに見ていた。

 これは、あばらとあばらの間を突いてしまったから相当痛そうだ。

 抱き抱えていた子供をおろし、私もルイカに近づく。


「…………ネ」


「ふぇ?」


「ネズ、ミ……」


 そう言って震える手でルイカは砂色のネズミを差し出す。食べたいのか? あれ、でもこれってどこかで……。


「は、走ってキて……」

  

 あえぎつつその時の状況を説明するルイカ。まったく。プロ忠犬だよ、お前。


『ヤホー! 元気で何よりだよぉ!』


「うっっわっ」


 この間延びしたした言い方。ヤツだ。ブレイド語だ。

 私とルイカだけでなく、ティアとアズ、ひょっとしたらザックにもわかる言語である。

 逆を言えば、ダグラス、グレイ、子供たちにはわからない……。


『どーもどーも! お集まりいただいたおバカ様ぁ! 今までのチュートリアルはどうだったのさぁ!?』


「はぁ? え? これって防水ですっけ?」


「壊そうとしないで聞こうよルナちゃん」


 ティアに言われたらしょうがない。衝動を押し留める。

 ティアの言葉で私の真意に気づいたアズは、驚いて口をパクパクさせる。

 私はその口をつまみつつ、ムダに足をシャカシャカ動かすネズミに話しかける。


「なんですか? 『チュートリアル』って」


『いやぁ、彼ら――――黒い軍服をさぁ、ここの施設に侵入させるときにさぁ、研究協力ってことで君たちの前身のサリアとNo.129くんが呼ばれてたのさぁ』


 ん?待てよ。ひょっとして、こいつはあいつら敵を入れたのか? じゃあ、カナヅチはノルドにとって敵?


『んで、ぼくと時間差でサリアがルナで129が(かい)になるという唐突な転生でぇ、君たちの視点に立ってぇ、ぼくはこれをチュートリアルっていう表現をしたのさぁ――――』


 くっくっくっ、と、空気が細切れに吐き出される音がした。


『ま、ぼくが言えたことじゃないけどさ、()()()()()()()()君たち、この世界でも、やっていけるんじゃないかな。ケンカしたり別々にならなければ。ねぇ』


 マジでこいつが言えたことじゃなかった。


『ぼく、結構頑張ってどうにかしたけど、サイレント爆弾のせいで、ひょっとしたら、万にひとつでも、本当にその洞窟とか施設といっしょに島の一部になっちまうかもしれないから、早く逃げた方がいいよぉ。でもアイちゃんならそろそろ……』


「準備できたで! ルイカっち、それと子供! はよ乗れ!」


『うん。やっぱりねぇ。じゃ、色々落ち着いたときに話そうかぁ』


 そしてそのままブチッと音がした。


「よし、じゃあ、こいつ壊すかぁ」


「イヤ、さすがにモウいいだろ。ソレハ」

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