命の危機#1
「・・・・・ンガッ!」
頭を打った。うっわっ!頭へこんだ!? 頭をさわる。良かった。へこんでない。
んっ?
「髪が・・・白い・・・だと・・・っ?」
視界に垂れてきた頭髪は白かった。
えっまじか!?私、おばあちゃんになっちゃたの!?まさかあの女、私がなにも言わずに許してやったてーのに、私をおばあちゃんにしやがった!?
私は鏡を探す。あった。スーツケースの金具部分。
「んっ・・・!」
なにこれ、真っ白。目以外全部白いじゃん。
しょせん、スーツケースの金具なので歪みまくっていたが、おそらく目も白に近い色をしているだろう。
だが、こうして頬をさわる限り、おばあちゃんではない。あ、そういえば、あの人、同年代の女の子に憑依させるとかなんとか言ってた?よな?たぶん。
私は、あの人のことを思い出す。・・・何でだろう?
『きれいな女の人』としかおもいだせない。まあ、あの人の正体はおおよそ予想はついているが。
たぶんあの人は神は神でも死神だ。あの人は、私を迎えに来ただけで、私を殺めてしまったわけではない。たぶん。
・・・・謝罪もなかったし?
あー、でも『可愛い顔にしろ』とか『頭よくしろ』とか、そうでなくても『家族に宝くじが当たるようにしろ』とかいっとくんだったなぁ。というか、謝罪がないというだけで殺してないって証拠にならねーし。
でも・・・家族か。おにいちゃんたちに朝ごはんを作ってあげたかった。そもそも、リーダーの言い付けを破ってちゃんと朝ごはんを作っていたらこんなことにはならなかったはずだ。おい、リーダー、三年の特権で二年に仕事押し付けんなよ。
でも・・・。
「もう、遅い」
・・・・・・・・。・・・・・・・・・・。
「・・・ケッ」
あーもう!カッコ悪い、カッコ悪い!くよくよすんな!女だろ!私は!くよくよしている女はかわいそうなだけだ!
「よしっ!」
大丈夫。私の家族は上手くやる!私より長生きしているじゃん!心配ない心配ない!
私は勢いよく立ち上がる。紙切れが、はらりと落ちる。
「?」
紙切れにはわけのわからない文字が書いてあった。でも不思議と読める。・・・まるで長年連れ添ったパートナーの心のように。
「ふっ・・・つまんねっ」
つまり、なぜか読めるのだ。私は紙切れを見る。
『親愛なるルナちゃんヘ
あなたは、世界のだいたい北の方の国の人間よ。サービスであなたの国とこの世界で中心的な立ち位置のアルマ国とその属国の三種類の言葉をしゃべられるようにしたわ。頑張って長生きしてね。また会いましょう。 P.S. 私は悪くないのに上からあなたに謝っとけって言われてたの。助かったわ。あなたが頭のいい子で。
上のやつらってひどいわよね。死神より』
私もそう思います!ねぇさん!全く、そうですよ!その通りですよ!上のやつらっていつでも権力を振り回して!いやになっちゃいますよねっ!
めっちゃあの人に親近感がわいた。三ヵ国の言語をしゃべれるようになるという大盤振る舞いだし。
・・・いや、騙されるな。もしかしたら嘘かもしれん。用心、用心。ただ、三か国語をしゃべられるようになったのは本当だ。私は今、日本語とプラス三か国語をしゃべることができるようだ。実感はわかないけど。
よっしゃ。とりあえず言語チート。これで九十パーセントのことができる。
だが私はあえて母国の日本語ではなく北の方の国の言葉―――文章を構成していた言語で考える。
まぁ、慣れなきゃな。
この手紙の嘘か真かは死んでから聞こう。今はそれよりも。
あの人からの手紙は理解した。『北の方の国』と国名が伏せてあったことと、『その属国』に『愉快な仲間たち』とルビがふってあったのが気になったが。
まぁ、そこはおいおい理解していこう。いつかわかるだろ。
「さあさあ!」
私は立ち上がる。ガラス窓を覗いて、辺りを見回す。大きなコンテナが規則正しく並んでいる。私はどうやら、そのなかにいるようだ。コンテナの中に。・・・どうりで狭いと思った。そして驚いたことに、中からは開けられないようだ。
今度は部屋の中を見渡す。
部屋には、目がチカチカする空間が広がっていた。
どれも金ぴかで、恐ろしくでかい。
四人寝られるようなベッド、カーテン、クローゼット、鏡、テーブル・・・。いくらで売れるんだろう?
この景観を壊しているすみっこの地味な木製の電話ボックスみたいな箱はおそらくトイレだろう。
他にも問題がある。
ひとつも開けられていない缶詰めや、保存のききそうな食べかけのパン、そしていろんな種類のチーズがテーブルの上のかごのなかに乱雑に入っている。ベッドシーツもぐしゃぐしゃだ。生活感があるどころの話じゃないくらい。
このやけに重いスーツケースは、着替えかなにかにかが入っているのか?いや、クローゼットがある。服はあのなかだろう。ということは、スーツケースの中身は水?
・・・んん?ちょっと待て。
「水を飲んでない?」
人は、数日水を取らないと死ぬらしい。
缶詰めに開けられた形跡はない。そしてスーツケースも。・・・いや。スーツケースにはこじ開けようとしたような形跡がある。金メッキが剥がれてる。開け方がわからなかったのか?じゃあ、これは置いといてほかの場所を探そう。期待をしたいから。
でかい木製の箱の扉を開けると、幸か不幸かトイレだった。ぼっとんトイレだ。さすがにここからは水分を取りたくない。と言うことは、水はやはりあのスーツケースのなかだ。
・・・もし私がこの子に入るとき死んでいる必要があったなら脱水が原因で死んだんだろうな。嘘みたいだけど、スーツケースを開けられなくて、馬鹿みたいだけど、缶詰め開けられなくて、アホみたいだけど、それに気づかず、口の水分をバカバカ・・・じゃない、ガバガバ持っていくパンを食べてたんだろうな。そりゃこうなるよ。
自殺行為だ。
「・・・」
さっさとスーツケースを開けて、水分を確保しなければ。自殺したこの子に同情はしないが、次は私がヤバい。
私は、スーツケースを開け・・・・。
「・・・鍵?」
はぇー。スーツケースって、かぎがあるんだぁ。でも鍵が無いなぁ。
「・・・・・・」
鍵を探す努力をしてたんだ!だからこの部屋がちらかってたのか!それで鍵が見つからなくてあきらめて自殺した?
ちょい待て!今はそんな場合じゃない!水がなければ詰みだ!このままじゃこの子の二の舞だっ!考えろ・・・・ッ!
・・・しょーがない。こんな案しか思い浮かばない。
私は、スーツケースの取っ手を持つ。かなり重い。やはり、水が入っているのだろう。私は窓の前に立つ。
「ふりかぶってぇー、・・・321GO!」
ガシャアアアアン!!