巡り巡って巡り会う#30
「ん~っ!このサンドイッチモドキ、そこそこの再現力だねぇ!!」
「よく見ろ!?これはなんだ!?サンドイッチだろ!!まぎれもなくサンドイッチだっ!!!」
なんだよッ!?『モドキ』って!?別にダグラスのを真似しようとしたわけじゃないもん!冷蔵庫見たけどこれしか思い付かなかったんだもん!!
それに、レタスとトマトとハム!そしてスクランブルエッグと手作りマヨネーズあえを薄く切った食パン二切れで挟んだのだ。これをサンドイッチと言わずしてなんと言おう?
「まぁまぁ。ぼくは真実を言っただけだよぉ」
「そんなに気に入らないのなら、一回鉄郎さんの腹を殴って胃の中リセットいたしましょうか?えぇ?おい」
「おぉ、こわぁ。猛獣だぁ」
OK.こいつとは仲良くなれないッ!
だってまず、こいつがこうだもん!無理だって!!なんなんだよこいつ!!私と仲良くする気さらさらないじゃん!ふざっっけんなよっ!もういっそのことスクランブルエッグの代わりにこいつをスクランブルにしてパンにぬりたくってやろうか!?
「『さしすせそ』さえそろっていれば・・・」
私がここで使えるのは、砂糖と塩しかねぇ。他にも色んな香辛料とか、味付けと思われるワインとかがあるが、私は和食人間だ。全くもってわからない。
「砂糖と塩だと・・・」
そうだ。ベッコウアメだ。前からどうなるか気になっていたし、いっそ、ベッコウアメに塩まぶして食わせるか?甘さが感じやすくなるかもしれねぇ。スイカみたいに。
・・・無理か。
「サトウトシオがそんなに無能なのかぁい?」
「あなたなんかに名前を呼ばれてサトウさんもさぞお怒りでしょうね!」
わざわざ日本語訳してボケないでほしい。こんなのにサトウトシオさんが侮辱されるなんて、その方の一生の恥になるじゃないか。そして私はそんなつもりで言ったわけではない。
独り言は私の悪い癖なんだ。
「ルナちゃん、寝てる間も独り言すごいもんね」
ティアは、私が作ったサンドイッチとダグラスが作ったと思われるサンドイッチを食べ比べながら私にツッコむ。比べられると負ける気しかしないからやめてほしい。
が、それを言うと自信がないと思われるから言いたくない。
「マジかよ!」
「えぇ~ヤバ~い。ヘンタァイ」
私が驚きを言い表すと同時に鉄郎は私に悪口を言った。その瞬間、私は頭をフル回転。
「輝けお前」
私の中で最適解の悪口だ。
「それはまだ出来ない」
『輝く』のスペルはローマ字で読むと『Shine』だ。
こいつにはわかったみたいだが、ティアにはわからないだろう。
今、私と鉄郎は、ティアもわかる言語ではしゃべっているが、ティアはサンドイッチを食べ比べるので忙しい。その上、まずローマ字読みは日本語が理解できないと理解出来ない代物だ。
ん?待てよ、今までティアの言語をしゃべってた?
じゃあ、こいつ・・・。
「そういや、私の名前ってどこで知ったんですか?」
謎その一だ。『私』の情報の出どころ。この言語をしゃべれる人はそう多くないだろう。私があった人では確か・・・。
「自分、モグ、で、モグモグ、考えな、モグモグ、よぉ。モグ」
てめえ、結局そのサンドイッチ食ってんじゃねぇか。
でも悔しいかな、ちょっとうれしい。
人に自分が作ったものを味わって食べてもらえるというのはけっこううれしいものだ。
「ヒントは、モグモグ、お」
「おっぱいお姉さん!?」
『お』で思い出した!
「「誰だよ」」
冷静なツッコミが左右からスピーカーのように聞こえた。高音質で立体的な音声。
「ぼくは、『お前らはすでにそいつに会っている』と言おうとしたのだけどぉ・・・でもまあ、答えは合ってるか。確かにおっぱいが大きかったもんなぁ」
「でしょう!?」
思わぬところで味方してくれた!まさかこんなところで通じあえるとは・・・っ!感激だ。光栄ではないけど。
「まあ、ぼくなんだけどさぁ」
「「嘘でしょう!?」」
今度は私が対のスピーカーのひとつになった。
えぇ?これが?こんなのが?糸目の癖に?
「普通こんな短期間で整形出来るかね?」
「出来ないよね、ルナちゃん」
「君達そんなに馬鹿なのかぁい?」
えぇ?でも輪郭とかもっとシュッとしてたぜ?髪はも違うし。声も。
「なぁ、ティア。なんか科学で解決できないことはたいてい魔法がなんちゃらかんちゃらって言ってたよな?」
「言った記憶はないけど、その通りだとは教わったよ?」
「あ、そっか」
あれは私の夢の中での出来事だ。ティアは覚えてないんだっけ。てか、それもまだ百パー確実に『記憶を夢としてみた』と言いきれないんだっけ?
「なんかそういう系の魔法なんすか?」
「ぼくは、『そういう』とか、他人の理解力に頼っている言い方は嫌いさぁ」
シンプルにうざい。なんか言い返してやろうか。
「つまりこの聞き方では理解できないと?」
「すごく煽るねぇ」
「踏んだ場数が違うんで」
売られたケンカは必ず買う。
一体何回、やんちゃしたお兄ちゃんをぶちのめしたか。
一体何回、逆恨みしたお兄ちゃんの敵をぶちのめしたか。
一体何回、ケンカが強いお兄ちゃんの人質にするために誘拐されたか。
ちなみに、いまの出来事は記憶を遡っているので、時系列的にはまったくの逆になっている。
助けられるだけのお姫様にはなれない私だ。
「話はわかるよぉ。ぼくの魔法はそんなんじゃないよぉ」
「自分が相手の理解力に頼ってんじゃないですか」
「君に言われた言葉をそっくりそのまま返すよぉ」
うッ!やらかしたッ!!
「ドンマイ、ルナちゃん」
「うええぇん、こいつやだよもおぉぉ」
「やっぱダグラスさんのサンドイッチしか勝たん」
「うええぇん」
だから食べ比べてほしくなかったんだぁぁ。勝てるわけないじゃんよぉ。あんなプロの味にさぁぁ。
「だからぁ、あれはぼくの化粧姿で・・・」
「うええぇ」
「・・・ドンマイ」
もーやだ。もーどーでもいい。私はバカだよ、なんにも出来ないぜ。さぁ嗤え。嘲笑え。指でも何でも指して笑うがいい。
「なにお前こんなのに気を使われてんだ馬鹿が」
聞いたことのない幼い声で、しかし聞いたことがあるような口調で、私に叱咤が飛んできた。
「なぁん?」
気の抜けた声をだしながら私はその声の方向をむく。
「カイルくんッ!探していた女性がいきなり見つかったのは喜ぶべきことだが、その言い方はダメだッ!不躾ではないかッ!!」
「黙れ」
「ええ!?お兄ちゃん!?」
「うわぁッ!ティアか!?」
「おお~、感動の再会だねぇ」
「なんだ、これでお前との仲も白紙だな」
「なに!?ひどいではないか!!僕達は出会ってからからすぐに固い絆で結ばれていたではないか!!思い出してみたまえ!あの邂逅を!!」
「目を覚ませ。その絆は錯覚だ」
「お兄ちゃん、この子は?」
「ああ、彼はカイルといって、僕の竹馬の友だ!」
「二度は言わない。それに、会ってまだ三十分もたってないだろ?」
「道に迷ってもっと時間がたったではないかッ!そもそもなぜ素直にここに来ず他の場所も見回ったのだ!?もっと時間を取って落ち着いて見なければ重要なことも見逃してしまうではないか!?そうしない自信があるのはわかるが、万一ということがある!実際僕もそれで・・・」
「うるせぇ!!!!黙れこのタコあたま!!!!!」
マジでしゃべり過ぎだろこいつら!特にティアのお兄ちゃん!!生きてたのはうれしいが、お前のせいで会話が二倍、もっと言えば三倍くらい膨れ上がってんだよ!!!
「それと・・・」
私は私の問題に向き直る。
「五十嵐海」
一瞬の沈黙。
「なぜ、お前がここにいる?」
再び沈黙。
一呼吸置いて、そいつはくちを開く。
「悪かった」
「・・・開口一番それかよ」