ティアちゃんは吸血鬼#16
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さあ、タヌキ寝入りしている間にこれまでの復習だ。
1,私死ぬ。
2,転生。名前はおそらくサリア・ロックガード。
3,トイレにて自分が女で前世の色違いになっただけと知る。
と、いうことが今までのおさらい。
大まかだとこんな感じだ。
私はおっぱいの大きなお姉さんからの情報をもとに、なぜ私がここに送られたかを考える。
私は2つ理由を考える。
①,労働力。
②,保護。
まずお姉さんの話から推測しよう。私の出身国はノルド帝国。『帝国』って響きにときめいた。そこの高い位らしい私はお姫様じゃん!と、思ったが、この考えはすぐに打ち砕かれた。
この国は戦争中だ。
そうなれば話は変わってくる。クーデターとかがあったら処刑対象になるということもあるが、私の血縁は少なからず殺人行為に関わっているのではないかと勘ぐってしまう。
私をおじいちゃんにあたる人が『救世主』と崇められている(少なくともあのお姉さんに)ということは十中八九、私のおじいちゃんはおやらかしなさっている。
それでも断定はできないが。
ここに入ってくるときあの掘っ立て小屋のクローゼットに、隠された入り口みたいな穴があって乙女心がくすぐられたが、あれもこの場所のカモフラージュと言える。
あのお姉さんも白衣着てたし、私たちをここに送り届けたら軽く部屋の説明をしただけでどっかに帰ってしまった。
他にも仕事があるのか?
何の仕事かはわからない。何の仕事かわかったら、ここがどういうところかもわかりそうだが、あまり考えすぎると間違った答えを出してしまいそうだ。それが一番危ない。
だが、仕事をさせられないということは、『なぜ私がここに送られたか』という自問は『①,労働力』ではない。ひとまず安心。
Myfreedom was saved. (私の自由は守られた。)
あれ、じゃあ私は②の戦争から守られるためにここに来たのか?
あのコンテナで引っ越しの荷物みたいに運ばれていたのは、私を隠すため?私が話しかけたベラという女は私の疎開先の身元引き受け人なのか?
・・・。
やっぱわからん。あーあ。どーせ私は馬鹿だよ。私がわかるのはせいぜいおっぱいのお姉さんのカップだぜ。
あれはCカップだ。そしてティアはFで私はAだ畜生。いや、ごめん。本当は全然わからない。だって私Aだもん。
チッ。世界は不平等だぜくそったれ。すべての人間はアンフェアなんだぜこのスットコドッコイが。ティアは吸血鬼らしいけど。
「そういや、ティアは人間の血とか飲まなきゃ生きていけないのか?」
ふと思いだしたがわりと重要な問題だった。私が知っている吸血鬼は血が食料だ。
ティアは日光は大丈夫みたいだし、昼行性なので私が知っている吸血鬼とはもうすでに大分違うが。
「んぅ。わたしは吸血鬼とはいえ半分だからねぇ。100%吸血鬼だったらほぼ不老不死だし、50%吸血鬼のわたしは血は必須アイテムで飲まなきゃ死ぬってことはないなぁ」
やけに遠回しな言い方だ。ティアはいつの間にか私の横に寝っ転がっている。仰向けのまま人差し指を唇にあてて考える動作が萌えポイントだ。この子に上目遣いで見られたら私は萌え死ぬ自信がある。
「んぅ・・・」
でも何かしら考えている。言葉を選んでいるのならばそれは大きな間違いだ。私はもはやティアになにをされても怒らない。っていうか怒れるはずがない!こんなかわいいのに怒れるはずがない!!
「何でも言っていいぜ?頼ってくれよ。出来る限りのことをするから」
私は心の中の熱い想いにソッと蓋をし、ティアにあくまで冷静に問いかける。
「実は、ちょっと血を飲みたいんだけど・・・」
「さぁドウゾ!!」
私は寝っ転がっているティアに向かって膝まづき、己の腕が差し出す。私の誠意よ、伝われ!ティアの笑った顔を拝みたい!!
「んぅ・・・あのね、ルナちゃん、気持ちはうれしいけど子供からは血を飲んじゃいけない決まりなんだよ」
「なっ・・・!」
「んぅ。子供は大人より血が少ないからねぇ」
単純な理由だが、どうしようもない理由だった。私にはできることがないってことかっ!ああ、なんたる無力!
「そんな落ち込まなくても・・・」
私は四つんばいになってガクッと首を落とす。残酷なことだ・・・。この!体は!まだ!子供だ!
「Oh,no…」
私はうめく。うわぁ、どーにもできねぇ。ひでえよぉ。
「ルナちゃん・・・そんなに飲んでほしいならちょっとだけ・・・」
「!?」
やったぁ!
私はバッと顔を上げる。ティアは体を起こして正座をしていた。
「じゃあ・・・首を・・・」
ティアがこっちによってきて、私の首をなでる。
「にゃはぁん、くすぐったぁい」
首はダメだ首は。思わず変な声が出てしまう。
「気持ち悪いよ、ルナちゃん」
軟体動物のように体をくねらす私を気持ち悪がりながら私のムダに腰まで伸びる髪をそっとかき分ける。
「んぅ、ちょっと座り直してくれる?」
ティアと同じく、私も正座する。おおお、ちょっとドキドキ。
「いくよ・・・」
ティアは再び私の首筋に顔を近づける。今度は息を止めてくれているようだ。私の肩にやさしく手を添える。私もティアの細い背中に手をまわす。
ぷはっと、口を開けた音が耳元で聞こえた。
・・・なんだこれ、めっちゃエロい。すげぇイケナイコトをしようとしている気分だ。
ガダンッ
「失礼します」
「「!?」」
突然ドアが開く音がしたので、私たちは抱きしめ合った姿勢からお互いのひざをあわせて正座している姿勢になった。
かなり近距離なので、はた目から見れば、よほどばれたくない内緒話をしていたのだろうと思われたはずだ。
だが、あいにく私は機嫌が悪い。今悪くなった。
誰だ!?私とティアの邪魔するやつは!?
「チッ。誰だくそったれが!?」
私は邪魔者を睨む。よっく見てみると私をコンテナから出してくれたきれいな深い青の髪の女の人だった。ベラだ。私の身元引き受け人だ。
「あら?お取り込み中だったかしら?」
ベラはドアを静かに閉めながら言った。ふと視線をそらしたかと思うと、私たちがぬぎ捨てた靴をそろえる。
お取り込み中だった。しっかりばっちりお取り込み中だった。だがその大人びた、思慮分別のある動作に私は、
「イイエ?ゼンゼンマッタク、ナンデモナイデスヨ?」
と答えた。動揺していたせいで片言になったことは認めるが、ティアがこいつ本当に脳を使ってしゃべっているのか?と言うような顔でこっちを見たのは私の被害妄想なのだろう。ティアはこの言葉わからないはずだし。
「えっと、長居するつもりは毛頭ないから・・・ごめんね?」
気を使わせてしまう私。その気遣いに傷つくんだってば!
私は謝罪の気持ちを込めて「はい、ありがとうございます。」と答える。何に対しての『ありがとう』なんだろうか。『はい、ごめんなさい。』だろうが。
『ありがとう』という不思議な言葉は、状況に応じて重みが変わる魔法の言葉だ。使いこなすのは簡単だが、誰も極められないだろう。
「後で家具とか来るから・・・ノックをするようにも言っておくわ」
うわああ!恥ずい!なんか察してる!?察してくれるなよベラ姉さん!?私も思うが確かにノックは大事だよ、地球人の偉大な発明だよ、だからそんなことをわざわざ言わなくったっていいじゃないか!?
「ルナちゃん、この人ってさっきの人だよね?」
のんきなティア。この子はここの言葉がわからないからこうしていられるのだろうが、今、私たちは盛大に誤解されているのだ。
「いや、ベラさん、私たちをそういう関係と思わないでください。(ノルド語)ティア、そうださっきの人だ(ティアの言語)」
私は2つの言語で言葉を返す。死神さん曰く、『あなたの国の言葉』と、『その属国』の言葉だ。
そして、ベラは愛想笑いで返され、ティアにはんぅ、じゃあおねがい。と、丸投げされた。
畜生、ティア、お前がお前で女の子じゃなければ私はティアのことを『マルナゲータ』とピザの『マルゲリータ』にかけて呼んでやったのに!なんだよ!なんなんだお前!なんで私はお前を憎めないんだ!?
「じゃ、じゃあね~・・・」
ベラは手をヒラヒラ振りながらドアを閉めた。話の終らし方にとまどったのだろう。本当ごめん。申し訳ない!
「・・・」
「・・・」
さっきの続きだって?出来るわけないだろ。言葉がわかるということはいいことだが、悪いこともあることを私は学んだ。
スンマセン、少しお休みします!