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感情の色  作者: そつぼのろんしっし
乖離する運命 秘めた想い
51/65

51.一輪の花

――♧――



 どうやって、俺とダイヤは共謀したのか。

 どの時点でそうなったのか。

 時は俺が単独で狩りをした、木曜日の夜まで(さかのぼ)る。


「ダイヤ」

『おぉ、クローバー? どしたのぉ?』


 俺が自室で狩りの準備を完了させた時だった。

 狩装束に着替え終わってから、ダイヤに通信を飛ばした。

 スペードがダイヤに通信を飛ばす前から、先に俺の方から話しかけていたのだ。


「俺に協力してくれねえか?」

『協力ぅ?』

「スペードとハートが、お互いに好意を抱いてんのは、長年あいつらと関わってるお前なら知ってんだろ」

『んふふ、まあねぇ』


 ダイヤはメンバーのことを結構見てるからな。

 ハートとスペードが好き同士なのも、見破っているんだろうなとは思っていた。


「その二人な。俺、土曜日にデートさせようとしてんだよ」

『ほぇー? それはいいねぇ』


 スペードの好みを聞く前から、ダイヤにも根回しをしておくかとは考えていたが、今の今まで話しかける機会がなかった。

 ていうか、ダイヤを協力者にしていいのかとも疑っていた。

 二人よりもはっちゃける可能性があったからな。

 でも、そうせざるを得なくなった。

 俺一人じゃどうにもならなくなってきたからだ。


「そこでだ。お前はスペードに付け込んで、諜報活動をしてくれ」

『スパイをしろってことぉ?』

「ああ」

『なんでそんなこと頼むのぉ?』


 ダイヤに手を貸して欲しいと頼んだ理由は、二つある。


 一つ目は、デートプランの脆弱(ぜいじゃく)性だ。

 俺が考えていたプランは、実は大したプランと呼べるもんじゃねえ。

 ハートには、男は何をされたら喜ぶかを教えただけで、具体的なデートでの動きは本人に任せることにした。

 一緒に飯を食う時、スイーツを食う時、カフェで会話をする時、何かで遊ぶ時、その他諸々(もろもろ)でどうすればいいのかの作戦をハートに叩き込んだだけで、後は二人に任せようと判断した。

 だが、もしもデート中にハート、またはスペードが死にそうになった場合、誰かが陰から助けを入れてやる必要がある。

 デートが台無しになったら元も子もねえしな。

 そこで、【極楽衝動】で姿を消して誰にも見られねえように動けるダイヤは、サポートにうってつけだったってわけだ。

 俺よりずっと、二人に見つからずに動けるからな。

 だから協力を頼んだ。


 そして、二つ目の理由。

 これは俺の推測でしかねえが……


「スペードが、俺に嫉妬している可能性がある」

『えぇ? 妬きもち焼いてるのぉ?』

「そう、もっちもちだ」

『もっちもちかぁ』


 スペードに向かって「泣いたらダメ」と言ったハートの言葉が、俺はなんとなく気にかかっていた。

 外に出たスペードは、過去を気にして泣いていたのかと思っていたが、そうじゃねえと気付いたのは準備が終わった後だった。

 スペードは俺に「負けない」「勝負だ」と言った。

 まったく、俺にはそんなつもりは毛頭無えのに。

 大方、ハートにデートプランを叩き込むために一緒に居過ぎたせいで、俺がハートを好きになったとでも勘違いされたんだろうよ。

 それからハートとの接触を避け始めたのも、それが理由だ。


「お前にしてもらうことは、スペードの……」

『様子を見て、教えて欲しいってことだねぇ?』

「おう」


 スペードが傷つかないように動くには、新たに加わる第三者からの報告が必要不可欠になった。

 スペードに取り入って、奴からの信用を勝ち取るスパイがな。

 勝負は始まる前から決まってんだぜ、スペード。


 スペードから嫉妬されて、俺が見られているとしたら、迂闊な行動が出来なくなった。

 ハートに男殺しの極意を教えた後で良かったわ。

 そもそも、なんで俺がここまでやらなきゃいけねえんだよ。

 二人をくっつけるのは別に構わねえが、いちいち妬いてくるんじゃねえっつの。

 弓月が好きだっつってんだろうがよ。


 デートが終わったら、スペードにはお灸を据えさせてもらう。

 それまでは精々、楽しんどけよ。


『それじゃ、報酬は如何程かなぁ?』

「……仰せの通りに」

『わーいっ』


 こうして、ダイヤとの協力関係を結んだ俺は、獣狩りへと出発したのであった。

 その後、スペードからダイヤに通信が飛ばされたと聞いて、更なるサプライズを俺達が考案したのは言うまでもない。



――♡――



「うーん?」


 これでいいのかしら?

 クローバーが選んだ服、シンプル過ぎない?

 しかも、あたしに似合ってるのかな、これ。


 スペードは今のあたしを見て、何を思うんだろう?

 いつもと違くて、可愛い?

 ギャップ萌え大成功?

 それとも……


「……ふぅぅ」


 怖くなってきた。

 どうしてあたし、スペードに告白するだなんて決めちゃったのかしら。

 服を着替えてからずっと、胸が張り裂けそうよ。

 でも、夢の中でとは言え、あんなことをされた後じゃ……好き以外の目で見られそうもないわ。


 あたし、スペードと恋人になりたい。

 あの子が過去を悲しむなら、それを忘れられるくらいに、今を一緒に生きていきたい。

 隣にいさせて欲しい。

 あなたのおかげで、あたしは過去の闇を吹っ切れたんだから。

 今度はあたしがお返しする番よ、スペード。


 着替え終わったので、扉をノックする。


「!」


 すると、コンコンと返された。

 これがクローバーの言っていた合図ね。

 いきなり意味不明なことばっかり言ってきて、あいつは何がしたいのよ?

 もしかして、あたしを(もてあそ)んでるんじゃないでしょうね?

 なんだか今の状況、ダイヤが思いつきそうな遊びに似てるのよね。

 手の平で踊らされてるというか……


 とりあえず、試着室を出た後はスペードを探さなきゃいけないわ。

 スペードは今、どこにいるのかしら?

 案外、近くにいるかも知れないわね。


 試着室を言われた通りに無言で出ると、隣の人も同じタイミングで出てきた。

 スペードみたいに身長が高くて、青髪の、男の人だった。


「えっ……?」


 スペードみたいというか、スペードだった。

 普段の地味目な格好と違って、スラっとした長い足が印象深い、爽やかな服装だった。

 黒くて細身のジャケットを羽織り、下には無地の白Tシャツ、そしてスキニーの黒ジーンズを履いていて、シルエットだけでもカッコいいスペードが、そこに立っていた。

 なにより、髪型がいつもと違っていた。

 伏せ目がちな表情を隠すような前髪が後ろに流されていて、スペードの凛々しくも優しげな顔が、あたしの視界に映し出された。


「あっ」


 あたしは、一瞬で目を奪われた。



――♤――



「まだかな……?」


 着替え終わって声をかけた僕は、試着室に入ってきたダイヤに髪型を変えられた後、待たされていた。

 「合図を送るから、無言で出てきてねぇ」と言われたけど、あれから随分経っている。

 ダイヤは一体、何をしてるんだろう?


「それにしても……」


 この格好、本当に僕に似合ってるのかな?

 それに、髪型もここまで変えられて、ハートは僕を見て何を思うんだろう?

 カッコいいって、思ってくれるのかな。


 僕はいつも、前髪を目元まで垂らして、表情を隠すような髪型にしている。

 それは、自分に自信が無いことへの表れ……なんだろうか。

 ちょっと、心なしか今の髪型が落ち着かない。

 髪だけでも直そうかなとも思ったけど、せっかくダイヤが僕を変えてくれたんだ。

 このままで大丈夫、だよね?

 ああ……緊張してきた。


 とりあえず、試着室を出た後はハートを探すことから始めなくちゃいけない。

 ハートは今、どこにいるんだろう?

 案外、近くにいてくれたりしてね。


「!」


 コンコンと扉がノックされた。

 指示通りに無言で出ると、僕と同じタイミングで、隣の試着室が開いた。

 出てきたのは女の人だった。


「えっ……?」


 なんだろう。

 すごく……僕の顔をじっと見てきているような。

 そんなに変なのかな、今の僕って。


 少し自信が無くなって、あんまりその女の人を視界に入れないようにダイヤを探してみたけど、どこにもいなかった。

 ダイヤ、どこに行って……?


「あっ」


 あれ?

 聞き覚えのある声がしたような?

 そう、今のはハートの声だ。

 でも、僕の視界にはピンク髪の女の人しか……


「……!」


 ピンク髪という特徴で、僕の目は女の人を咄嗟に捉えた。

 ハートだった。


「ハー……ト……?」


 綺麗。

 それが、ハッキリとハートを見た、僕の頭の中に出てきた感想だった。


 ピンクという色のおかげか、それとも白くて柔らかそうな珍しい格好をしているからなのか、僕はそんなハートに見惚れてしまった。

 白いワンピースがハートの可憐さを際立てているかのように、ふわりと揺れていた。

 いつものポニーテールが一層輝いて見えて、そのあまりの眩しさに、僕はつい目を細めてしまった。


 それはまるで、一輪の花を白い花で飾り付けているかのような、幻想的な光景だった。

 とても綺麗なハートが、華々しく咲いていた。


「う……ぁ……」


 僕は、一瞬で目を奪われた。


「スペード……よね?」


 名前を呼ばれたものの、僕は返事すらも忘れて、ただただ見入っていた。

 本当にハートなのか、本当にこの人が僕の好きな人なのか、本当に好きでいていいのかを、ずっと確かめていた。


 突然、ハートに手を取られて、握られた。


「ね? スペード……?」

「あ……! あぁっ……!?」


 手を触れられたことで、意識が戻ってきた。

 じっと見ていたことがなんだか申し訳なくなって、僕は急いで真横に目を逸らした。

 今のハートは、僕が見てはいけない。

 僕なんかが、直視していいわけがない。

 だって、こんなにも……


「ダメ。こっちを見て?」

「……っ」


 綺麗過ぎる。

 綺麗過ぎて、逆らえない。

 僕は、ハートに……


「可愛い、かな?」

「……!」


 絡め取られてしまっている。



――♧――



「おぉー」

「や、やべえなこれ」


 見てるこっちがドキドキしてきた。

 ハートのやつ、ちゃんと俺が教えたことを実践してやがる。

 流石、男殺しの極意だな。

 スペードが釘付けにされてるわ。

 あれを俺に伝授したのは、たらしマスターだ。

 名を弦野弓月というそうな。

 

「狩装束に似た格好にして、良かったよぉ」

「ん?」

「スペードの服ね、狩装束モチーフなんだぁ」


 そう言われれば確かに、上と下が黒色で、狩装束に近い。

 狩装束のようにキッチリとしているが、それよりも更にスペードのスラリとしたスタイルが目立っている。

 通りかかる人達も、スペードをチラチラ見ている。


「ハートは、狩装束を着たスペードが好きそうだったからねぇ」

「ハッ、なるほどな?」


 俺から見ても、あいつはイケメンと言えるだろう。

 スペードと初めて戦った時はガリガリだなと思ったが、実際はそうじゃねえ。

 余分な筋肉が付いてねえんだ。

 そら10年もあんなキツい訓練を続けてたんじゃ、筋肉だって付くに決まってるわな。

 あいつは細身だが、全身が有用性に溢れた肉体になっている。


「ハートもすごく可愛いねぇ」

「だろ」

「あららぁクローバー? 自分が褒められたみたいにニコニコしちゃってぇ」

「んぁ?」

「ハートを可愛く出来て嬉しいんだねぇ?」

「うっせ」


 自分のことのように喜んだ顔をしていたらしく、なんだか無性に恥ずかしくなった。

 まあ、あのワンピースを選んだのは俺だから、その部分を褒められたという意味で捉えるとしよう。


「この後、ぼく達はどうするのかなぁ?」

「しばらくはあいつらの様子を見る。それで平気そうだったら、放っておいてやろうぜ」

「クローバーって、根が優しいよねぇ」

「あーはいはい」


 ていうか、さっきからずっとダイヤをおんぶしてるんだが、なんで俺はこんなことさせられてんだ?

 俺には兄弟がいねえから、弟が出来たような気分になるな。

 いや、妹か?


「なあダイヤ、お前の性別って……」

「そんなのどうでもいいじゃんかぁ。ほらほら、二人に近付いてみようよぉ」

「……」


 未だにダイヤの性別が分からんままで、好奇心を燻られた俺は、何か確かめる方法を模索しだした。

 でも、今はおんぶしてるから確かめようがねえ。

 ダイヤの尻を支えているから、どうしても……


「ん?」


 尻……尻か。

 むしろ、今がチャンスなんじゃね?

 支えている手でふにふにと揉んでみた。


「んにぁっ!?」

「あー? んんー……? 分かんねぇな」


 ホットパンツの硬くて柔らかい感触が、俺の指を包む。

 だが、尻の弾力だけじゃ、男女の判別がつかなかった。


「もー……えっち」


 耳元で、ダイヤは恥ずかしそうに(ささや)いた。

 そして、俺の耳をかぷっと甘噛みしてきた。

 ていうか、気になるからって何してんだ俺。

 ダイヤも。


「ほぁ、もうひょっほ近付いぇみへ」

「耳を食いながら喋るな!」



――♤――



「ど、どうかしら?」

「あ……その……」

「ちゃんと、可愛い?」


 綺麗なピンク色の虹彩の目で僕を見つめて、口をキュッと結んでいるハートは、僕の手をにぎにぎと握ってくる。

 触られている手がじわりと汗ばむ。


「かわ……いい……」

「えへへ、ありがと」


 そう言って照れながら、ハートは僕の手を開かせて、自分の手をずらし、また握ってきた。

 指と指が一本ずつ交互に絡み合って、密着する。

 こ、これって……


「あたしと……デート、しない?」


 恋人繋ぎだ。

 秘技・弓月殺法

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