44.大人な子供
――♧――
「ダイヤ、お前っ」
「にしし。クローバーって、弱いんだねぇ」
「くっそ!」
「ぼくに好き勝手にされて、抵抗も出来ないなんてさぁ?」
なんで……なんで、こんなガキに負けなきゃいけねえんだよ!
いや、そりゃ実質的な歳は俺より上だが、どうしてここまで好きにされる!?
弄ばれて、シュッシュと出され続けて、それで終わっちまうのか!?
「あたしとスペードはもうヤり終えたんだから、早くしてよね」
「最後……いっぱい出せて気持ちよかったな……」
「あの量はビックリしたわ。いくらなんでも溜めすぎよ」
「僕のすごいところ……ハートに見せたかったんだ……」
チクショウ、出涸らしどもめ……!
俺が追い込まれてる状況なんか気にせずに、満足した顔しやがって!
こっちはそんな余裕なんか無えんだよ!!
ダイヤは容赦なく攻めて来やがるし、もう俺には為す術無しなのか?
いやらしい目つきでこっちの反応をじっくり見ながら、色んな手口を使って楽しそうにしてやがる。
どうして俺がこんな目に……!
何も出来ねえまま、負けてたまるかってんだ!
俺はダイヤに負けたりしねえ!!
「あっ、もう出尽くしちゃいそうだよぉ?」
「や、やめろ、ああっ!?」
このままじゃ負ける!?
負けちまう!!
「そんなに連発したら、俺、俺はっ……」
「ここら辺が丁度良さそうだねぇ? じゃあそろそろ、フィニッシュにしちゃおっかぁ?」
「やめっ……」
「だーめ、待たないよぉ」
あっ。
「はい上がりぃー! クローバー弱すぎぃー!!」
「うっせえバーカバーカ!」
「むっ……大富豪で負けたくらいで、ムキにならないでくれるかなぁ」
俺達は飯を食い終わったものの、今日はダイヤがいたこともあって、洗い物をする役を決めるために、四人で大富豪をしていた。
ハートとスペードは料理を作ったので、洗い物をするのは俺かダイヤの二択だった。
つまり、ほとんど俺とダイヤの勝負みたいなもんだった。
しかし、やはりトランプを使った遊びは、四人以上はいねえと面白くねえよな。
「ていうか俺、最後の方は何も出来なかったじゃねえか。どんだけ強えカード隠し持ってたんだよ……」
「あっははぁ! 楽しみは最後に取っておくのが、ゲームの醍醐味だよねぇ」
ローカルルールをふんだんに含んでいた大富豪は、中々にインパクトがあり白熱もしたが、そのルールのせいもあって無惨にボコボコにされちまった。
ジョーカー二枚と最強札の全てがダイヤの手中にあり、スキップや強制流し、押し付けといった役持ちのカードもふんだんに使われ、終盤は何の手も打てずにゲームが終わってしまった。
最初からダイヤは、ハートやスペードなどは眼中になく、俺を陥れるために強い札を持っていたようだ。
勝とうと思えばいの一番に上がって、真っ先に勝つことだって出来たのに、俺の負けと自分の勝ちを楽しむためだけに、わざと手の平の上で転がされていた。
「そんな良い札何枚も持ってたとか、運良すぎだろ」
「あーそうそう。ぼくってば、昔から運だけは良いんだよねぇ。運要素が絡むゲームだったら、ぼくは負けなしだよぉ?」
「順番を決めた時のじゃんけんも、一撃で一人勝ちだったしな……」
まあ、負けたもんはしょうがねえか。
洗い物くらいなら俺でも出来るし、ダイヤがいねえ時はいつもやってるから、そんくらいは構わねえんだけどよ。
にしても、今日の飯も美味かったな。
菓子ばっか食ってるダイヤの体を気にしてか、今日は典型的な和食だった。
炊き立ての白米に、皮がパリッと焼けた鮭、豆腐やわかめ、揚げといった具の味噌汁に、鰹節と刻みネギを乗せて醤油をかけた冷奴と、小鉢に入った胡瓜の浅漬けだ。
でも、こういうのが一番美味いんだよな。
弓月と同じく、ハートもそういう文化を分かってるから、食べることに飽きが来ねえ。
和食って、食い終わった後に妙な満足感があるから好きだ。
ちなみに俺はパンより米派だ。
「ご飯作ってくれてありがとねぇ、ハート。それにスペードもぉ」
「ふふっ、どういたしまして?」
「ダイヤ……珍しくいっぱい食べてたね……?」
「美味しかったもん、お腹ぱんぱんだよぉ」
キッチンへと向かった俺は、三人の会話を聞きながら、丁寧に皿を洗い始める。
意外と汚れたりしてるから、皿の裏とかもちゃんと洗わねえとな。
「満足してそうで良かったわ。でも、いつでも気軽に帰ってきていいのに、なんで外でお菓子ばっかり食べてるのかしら?」
「うーん、アジトに帰りたくないってわけじゃないんだけどねぇ。気になることがあっただけなんだぁ」
「何……? 気になることって……?」
ん?
遊んでばっかりじゃなかったのか。
狩りなんて片手間にしているだけで、着の身着のままに観光旅行みてえなことしてんじゃねえのって思ってたわ。
羽鳥と特に親しいからか、こいつも掴みどころがねえな。
類は友を呼ぶってやつだ。
「えっとねぇ、ここ最近で分かったことなんだけどねぇ。なんか、1年周期で獣化する場所が被ってるんだよぉ」
「ほう?」
皿を洗いながらも、ダイヤのその発言だけは聞き逃さなかった俺は、その話に興味を唆られて、少しだけ身を乗り出した。
食堂とキッチンの間には仕切りがあって、テーブルに着いている奴らの様子とかが見えるようになっている。
所謂、キッチンカウンターだな。
俺の家はシンクに体を向けると、リビングに背中を向けるような構造だったが、アジトの造りはそれとは正反対だ。
「丁度1年前に獣が現れた場所に、またそこで獣化が起きてねぇ。それも一ヶ所や二ヶ所じゃなくて、何回も起きてるんだぁ」
「なるほど。そいつの調査をするために、アジトに帰らねえ日が多いってわけだ」
「うん、まあ絶対にそうなるってわけじゃないんだけど、なーんか引っかかっちゃってねぇ。独自に調べてたんだぁ」
んじゃあ、獣が1年前に現れた場所に、黒い塵もそこに残留してるってことなのか?
だが、あの塵はそのままにしておけば、風に流されて散り散りになったりするだろ。
塵だけに。
ごめん。
ダイヤが担当する獣は、無差別的な獣化だと決めつけていたが、本当はそうじゃねえのかもな。
この町にいる人が獣にされる理由は、俺達への当て馬として充てがうためだが、あぶれた獣もそれなりの意味があるのかも知れねえ。
『獣の狩人』を目の敵にしている、『完全な獣』のお粗末なカモフラージュなのか、それとも別の理由があるのか……
「一つだけ確かなことは、その周期が起きるのは、ぼくが狩った獣だけなんだよねぇ。お国さんの武装勢力や民間軍事会社の傭兵、自警団とかに任せて狩りを行わなかった日は、1年後に被ることなんてないんだぁ」
「てことは、ダイヤが狩った日だけが、再び同じ場所で獣化したのか」
また新しい謎が出てきたな。
『完全な獣』には悪知恵があるというのに、なんでそんな周期制なんかにしてやがる?
獣の出現地に由縁でもあるのか?
または、ダイヤを嵌めようとしている罠か?
どうにも……『完全な獣』の目的が分からねえな。
「実はねぇ、密かに君達の狩りの日とかも計算してたんだけどぉ、それらと同じような周期があるって判明したんだぁ」
「俺達も?」
「この1年の周期は、継承者が獣を狩った日にしか起きてないんだよねぇ」
俺達だけ、ということは……
「ペンダントに関係があるってことかしら?」
そういうことになるよな。
「うん、かも知れないんだよねぇ。でも、今の段階じゃ何がなんだか分かんなくって。一応、羽鳥ちゃんにも軽く教えておいたんだけどさぁ」
「羽鳥様にも……伝えたんだね……」
獣と関係の無い武力行使なら、黒い塵はそのまま霧散してしまうんだろう。
だがその場合、次に来る獣化すら予測が出来なくなる。
獣化の場所を一年周期で再び特定出来るんだから、やはり俺達が獣を狩る必要性はあるな。
てことは、羽鳥のあの手帳は、その周期を元にした予言だったりして。
それなら納得がいく。
んで、黒い塵は……獣の力と似たペンダントに反応して、再度集まろうとするんかね?
獣化に十分な量になるまでに、1年という時間が必要なのか?
ペンダントも弓月のいる場所に引っ張られたし、俺の大剣もブーメランのように手元に戻る。
意思があるかのように一人でに動いたりするから、黒い塵にも似たような機能があるのかもな。
例えば、元に戻ろうとしている、とか。
割れたペンダントは一つになるために、大剣は使い手である俺の手元に、黒い塵は最初に送り込まれた場所に。
しかし、勝手に動くとか、今更だが気持ち悪いな。
「でも羽鳥ちゃんも、さっぱりぴーまんって言ってたよぉ」
「おいコラ。そんなふざけた単語、羽鳥が言うはずねえだろ」
「えへへぇ、バレちゃった」
手帳を持っている羽鳥でさえも、獣化の周期については未知の情報だったのか。
てか、羽鳥が知らねえなら、あの手帳を作ったやつって誰だよ?
羽鳥が書いたもんじゃねえのか?
なら、どこで、誰から渡されたんだ?
「とりあえず、ぼくはこの辺でサヨナラしよっかなぁ」
「え? ダイヤったらもう行っちゃうの?」
「もう少し……ゆっくりしていけばいいのに……」
「いや、止めるのは悪いだろ。こいつにだって、気にかかることがあるんだろうし」
獣化の周期については、俺も早くきっかけが欲しいからな。
それにダイヤは、常に動いてなきゃ気が済まねえタイプの人間だ。
頼りにしてるぜ、先輩さんよ。
「ありがとねぇみんな。次に帰ってくる時には、お土産買ってくるからねぇ。じゃ○りことか……」
「じゃが○こは要らねえからな。そもそもどこでも買えるだろうが」
「でもまた、ぼくとポッ○ーゲームしたいでしょぉ? クローバーも押すな押すな理論が好きだから、そんなに求めて……」
「じゃがり○は! 要らねえ! からな!?」
「むうぅっ! クローバーのいけずぅ!」
――♧――
ダイヤがアジトから出ていった。
今日は狩りも無いので、俺は自分の部屋でのんびりと過ごしていた。
獣化に関してちょっとだけ進展したから、今日は休みに専念しよう。
ベッドに寝転がって、部屋の内装を見渡してみる。
最初に来た頃は殺風景だったが、二ヶ月以上経ったのもあってか、今は内装がかなり変化していた。
ハートの部屋ほどとは言わねえが、自分の部屋として上手く使えてると思う。
まあ、大したもんは置いてねえんだけどな。
ベッドに、椅子とテーブル、本棚やクローゼット、その他諸々の家具類があって、普通に人一人が生活出来るような空間となっている。
本棚には、俺が好きな漫画や獣化についての本など、様々なものを入れている。
ちなみに、俺の家具類は全て、ダイヤが【極楽衝動】で持ってきた物だ。
あいつはのらりくらりと世界中を練り歩いているが、大抵は時間を持て余している方が多いらしい。
周期の調査をしているとはいえ、獣化が起きるのは22〜2時だから、それ以外はいつも暇に近いと言っていた。
それでも、何がヒントになるかも分からねえから、様々な所で目を光らせているとも言ってたな。
そのせいもあってか、訓練が終わった後とかに通信を飛ばしたりすると、いつも真っ先に応えてくれていた。
常に気を張っているからなのか、そういう話を持ちかけると、テンション爆上げで帰ってきたりする。
あいつは自分から休みを取ろうとしねえ。
「たまには休めよ……まったく」
最初にベッドを一人で持ってきた時は、「どーだ、すごいだろぉ」とドヤ顔で、ふんすと仁王立ちにふんぞり返ってたっけ。
まるで便利屋みてえな扱いになっちまって悪いと思ってるが、ダイヤの能力は何かと便利なのには違いねえな。
あ、それとちゃんと、会計を通して買ったってさ。
「楽しそうだったな、あいつ」
大富豪でボコボコにされても、俺があまりイラついてなかったのは、家具の件も含めて色々と、ダイヤに世話になっていたからだ。
肉体も精神も歳を取らず、子供なままだからか、さっきのあいつは心から楽しそうに遊んでいた。
世話してもらったお返しといっても、今の俺には何も出来ねえから、こういったことになるべく付き合うようにしている。
だけど、仮面の通信越しのダイヤはどこか、寂しげな声で会話するんだ。
使命があるとはいえ、俺達と離れて一人ぼっちだから、心細くなってるんじゃねえかな。
俺達の前では余裕を見せる大人でもあり、寂しがり屋な子供でもある。
ハッ、あいつも『獣の狩人』ってわけだ。
「ん?」
ふいに、扉の前に人の気配を感じた。
この感じは……ハートだ。
多分、今からノックしてくるんだろうが、それより先に察知出来るほど、感覚が鋭くなっている。
読み通りに鉄の扉がノックされたが、何故か開きはしなかった。
入ればいいのに、ハートは入って来ない。
「ハートだろ? なんの用だ?」
「あ、えっとその、スペードの……」
「スペード? あいつがどうした?」
「こ、好みについて、です、けども」
あのことか。
「あー……そんな話もあったな」
「ほ、ほら、あんた言ってたじゃない! スペードの好みを聞いてやるって!!」
「うおおっ!?」
「だから、そのっ……!」
「ちょいちょいちょい! ちょっと待て!」
俺は急いで扉を開けた。
そんな大声で叫んでたら、本人に聞かれるかも知れねえだろうが。
「いいから、落ち着けって。とにかく入れよ?」
「う、うん」
この話の最初の方で、邪な想像をしてしまった愚かな人は、自分の浅ましさを心から反省してください。
僕はしました。




