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感情の色  作者: そつぼのろんしっし
乖離する運命 闇の前触れ
26/65

26.怒りの境界線

――♧――



 時は少しだけ遡る。

 訓練が始まってから、一週間くらい経った頃の事だ。

 俺が誘拐されて、一ヶ月弱ってところか。


 どうにも、二人の動きについていけなかった。

 スタミナ面もそうだが、度々予知にムラがあり、攻撃を読めねえ時があった。


「あんたは無駄に感情を消費し過ぎてるわね」

「あぁ……?」


 スペードとの訓練の後、ハートが腕を組みながら偉そうに言ってきた。

 ボコボコにされてたし、感情と体力がすっからかんになってて足元も覚束(おぼつか)ねえっつうのに、それでも言い放ってきやがった。


「ちょっと待て、今疲れて……」

「まだあんたは【赫怒】に慣れてないわ」

「おい! ひとまず休憩させろって!!」

「えっとね、要するに」


 『獣の狩人』の奴らは人の話を聞かねえな!?

 それが入団条件なんですか!?


「あんたの戦い方、無駄な怒りにも反応しかねないわよ?」

「はあ?」


 なんか重要っぽい話だろうから、なんとか息を整えた俺は聞く体勢に入る。

 しかし、無駄とか、無駄じゃない怒りってなんだよ。

 相手の怒りを掌握しなきゃ、【赫怒】は使えねえんだろ?


「まず【赫怒】っていうのは、相手の怒りを掌握して、攻撃を予知する能力なのよ。それは分かってるでしょ?」

「……ああ」


 同じようなこと考えてるしよ。

 だったら、俺の戦い方は間違ってねえだろ。


「じゃあ、なんで怒りを掴んだからといって、攻撃を予知出来るのかしらね?」

「そりゃあ……攻撃する怒りみたいなのを読み取ってるんじゃねえのか?」


 攻撃をする時には、敵意が付き物だ。

 つまり、相手に対する怒りが乗る。

 それを【赫怒】で読んで、予知を見るはずだ。


「そう。人でも獣でも、攻撃には怒りを乗せてしまうのが必定なの。相手にダメージを与えてやりたい、自分が有利になりたいという怒りを込めた攻撃を、見破るのが【赫怒】よ」

「そんくらいなら、俺でも分かってる」

「でも、それ以外の怒りを拾ってしまうくらい【赫怒】に多くの感情を使ってると、誤作動が起きかねないわよ」


 それ以外の怒り?

 誤作動?


「どういうことだ?」

「そのままだと、戦いに対する怒りも掴んでしまうわ。本当に読みたい攻撃の予知まで邪魔しちゃうわよ」


 攻撃をする以外に、戦いにも怒りが乗るってのか?

 勝ちたい、殺したいというような、漠然とした怒りがあるってことか。


「なるほど?」

「つまりあんたは、攻撃()()を予知する【赫怒】を使えるようにならなきゃいけないわ」

「なら、どうすればいいんだよ?」

「ずばり、【赫怒】を使わずに【赫怒】を使いなさい!!」

「は?」



――♧――



「分かったかしら」

「ハッ、そういうことか。ふざけた言い方しやがって」

「別にふざけてないわよ!」


 ハートが言おうとしていたことを簡潔にすると、無意識下で【赫怒】を使えってことらしい。

 つまり、【赫怒】は意識せずに常に発動させておく、自動的な能力みてえだ。

 【赫怒】を使うことに集中してしまうと、余計に感情を費やしちまう。

 だから、絶妙で適切な(さじ)加減が必要になるんだと。


 それに加えて、今までのように意識の大半を割いて使ってると、無駄な怒りも拾っちまう可能性もあるんだってさ。

 確かに、俺は【赫怒】を使うぞと意気込んで発動していた。

 でも、それだと発動するのも遅えんだ。

 だから、こいつらの二段構えにも【赫怒】を使う暇すら無かったし、羽鳥の一瞬の連打に対処出来なかった。

 道理で、予知で見えねえ攻撃があるわけだ。

 相手が攻撃してから【赫怒】の発動を合わせるんじゃなく、相手が怒りを乗せた瞬間に有無を言わさず、どう動くのかを知ってなきゃいけねえ。


 何もしていない状態。

 ↓

 攻撃する準備(構えや踏み込み等の行動。実際にはここから怒りが乗り始める)。

 ↓

 攻撃。


 そんなプロセスに分解してみると、その差は一目瞭然だ。

 攻撃が来てから【赫怒】を使うんだと俺は考えていたが、攻撃の準備の時点で見破るんだ。


 そんで、攻撃に乗せる怒りは、戦いに対する怒りよりも、一層強いものになるらしい。

 その強い怒りだけを察知する、効率的な【赫怒】を使えるようになればいい。

 フィルターみてえなもんだな。

 ショボくて無駄な怒りは通し、でけえ怒りが乗った攻撃だけは捉える。

 (ふるい)の目の細かさは、俺が【赫怒】を使おうと意識すればするほど、狭まっちまうってわけだ。


 ちなみに、無駄な怒りを拾っちまうと、攻撃には関係が無え予知を見てしまうらしい。

 監禁された後の戦いで、スペードが自分の無力さに怒って油断した時の予知が、まさにそれだ。

 あん時だけは一応役には立ったが、獣相手に使っても意味がねえ。

 そんな予知を見ても、喉を鳴らして涎を垂らしてるシーンくらいしか見えねえんだってよ。

 本命の邪魔にしかならねえな。


「無意識に【赫怒】を使えるようになれば、戦いに全神経を集中出来るし、感情を無駄に費やすこともしなくなる。あんた全然気付いてないけど、まだ訓練時間が20分も残ってるわよ」

「あ?」


 そう言われて置いてあるタイマーに目を向けると、確かに20分残っていた。

 一時間戦っていたとすっかり思ってたが、実際は40分しか経っていなかった。

 そういや、アラーム鳴ってなかったな。

 なんで言われるまで気付かねえんだよ……バカかよ、俺。


「ごめんね……僕が休憩しようって言ったばっかりに……」

「あぁそうか。お前から休もうって言われたんだったな」


 てかむしろ、スペードは感情を使い果たした俺に気を遣って、休憩しようと提案したんだろ?

 全然悪くねえじゃねえか。


「無意味に自分を責めるのはやめろ。どうしてお前はそうやって、何でもかんでも謝ろうとしやがる?」

「ごめっ……あ……」

「いい加減、自信を持ちやがれってんだ。甘ちゃん過ぎるのも考えもんだぞ」


 スペードと関わり始めてすぐに、その性格は理解していた。

 こいつは自分の身を(かえり)みなさ過ぎる。

 自己犠牲をして、人に尽くさなければという理念を抱えてそうに見えるが……実際のところは自覚も無しに、自分の優先順位を叩き落としてるだけだ。

 まず、自分を犠牲にしているという概念すら、こいつの中には存在しねえ。

 始めから、そうすることが当たり前になってやがる。

 悪いようにされねえのはいいんだがよ。

 それじゃお前がどんどん割りを食って、負担になるだけだろうが。


「そんなんじゃいつか破滅すんぞ。たまには自分に優しくしろ」

「うん……ありがとう……クローバー……」


 ハッ。

 どうせそのクローバーって呼び方も、自分なんかが気安く名前を呼んじゃダメだーとか、そんな風に考えてんだろうな?

 だから俺のことを、頑なに情って呼ばねえ。


「クローバー、【赫怒】の話に戻していいかしら?」

「ん? ああ」

「【赫怒】を意識しないで使おうとするなら、まずはペンダントを使うことに完璧に慣れなきゃいけない。それも、ペンダントが自分の体の一部だと思うくらいにね」

「お、おう……おう?」

「あれ、何その顔。羽鳥様から聞いたはずでしょ? あたし達が使うペンダントの能力は、言葉や仕草みたいな感情表現の一つだって」

「聞いたが、それもよく分かってねえよ」


 感情を使う能力だってのは理解してるが、感情表現って言い方はいまいち分からん。

 体の一部と思えと言われても、ペンダントはペンダントだしな。


「言葉や仕草を使う時、あんたはわざわざ考えて、意識してないと出来ないのかしら?」

「何?」

「違うでしょ。そりゃ赤ちゃんの頃は言葉とか仕草を上手く使えなかっただろうけど、今のあんたはそうじゃないわよね? ペンダントの使い方を知ってる上に、他の感情表現は簡単に出来てるじゃない」


 物心がつく前に言葉を知っていたり、幼い頃から仕草をつけて感情を表現してきた。

 それは誰だってそうだ。


「それの応用よ。あたし達と訓練し続ければ、自ずと【赫怒】に使う適切な感情の量も身に付くわ。言葉や仕草を使うことに慣れていくように、力にも慣れていけばいいのよ。実践……もとい実戦あるのみね」

「戦うだけでいいのか。やけに楽だな?」

「あら、その大口を叩くのはまだ早いわよ? まだあんた、あたしとスペードを同時に相手してないんだから」

「は!?」


 同時!?


「【赫怒】の本領が発揮されるのは、不意を突かれた時でしょ? 見える攻撃だけに気を取られてちゃ、いつまで経っても力に慣れないわよ」

「あっ、はい」

「ふふん! 死にたくなかったら、死ぬ気で戦いなさい! もちろん、あたしは殺す気でビシバシ殺してあげるから!」


 本当の地獄の日々は、ハートのこの一言から始まった。



――♧――



 こいつらには、何度も訓練でボコボコにされた。

 俺が力に慣れるには、極力回避をせず、ひたすらハートとスペードの攻撃を受け続けなきゃいけなかった。

 【赫怒】の常時発動に慣れてから、今日初めて獣を狩ったが……二人の攻撃の方がよっぽど苛烈だった。

 獣に関しては、こんなもんかと落胆さえしてしまった。

 人の力じゃ受け切れねえ獣の攻撃も、受け流しちまえば関係ねえ。

 どうやって殴るか、蹴るか、裂くかのタネさえ知っていれば、対処は簡単だ。


 【赫怒】を分かりやすく言うとしたら、どうやって噛み砕いて説明すればいいんだろうな。

 予知は目に見えるんじゃなくて、直接頭の中に情報が流れ込んでくるんだ。

 「見える」というより、「もう知った」って感覚に近い。

 ()()()()っていうのは、このことを言うんだろうな。


「お前にゃコッテリ絞られたな? 監禁されてた時より死ぬかと思ったぞコラ」

「人間なんてのはね、死が隣り合わせじゃないと中々成長しない生き物なのよ。実際強くなれたんだから、あたしに感謝しなさいよね」


 こいつ……悪びれるつもりもねえのかよ。

 イキイキしながら、毎日毎日ビシバシ叩いてきやがって。

 いつかお前の生き息を、逝き域にして、遺棄行きにしてやるからな。

 ていうか今、徹底的にやり返して、地べたに這いつくばらせ、て……?


「ん?」

「はあ。まーた不愉快な目で見てきて、何よ?」

「あぁいや、絞られたお礼に、絞り返してやろうと思ったんだけどよ。でもお前の胸って、搾れるほどは無えよな」

【「【狂喜】ッッッ!!」】


 実戦訓練でも見せたこともない最速の、そしてノーモーションの鞭の打撃を、俺の顔面にお見舞いしてきたユニコーン。


「最ッッッ低! ぶっ殺してやる!!」

「ハッ! 残念でしたぁー!? お前が懇切丁寧に教えて下さりやがった【赫怒】で見えてまーす!!」


 予め大剣で顔を防いでたから、貧乳の鞭は不発だ。

 そんな怒り任せな攻撃なんて見え見えだっつの。

 大きい怒りに反して、胸は反比例してるがな?


「そして、お前の残念な胸囲も見えてまーす!!」

「あ゛ぁ゛ッ!?」


 今夜の狩りはこれで終わりだし、すたこらさっさだぜ。

 自分の部屋に逃げ込めば俺の勝ちだ、つるつるぺったんユニコーンめ。

 きっちぃ訓練の仕返しだ。


「待てやクローバーぁああああああああああああああああああああああああああッッッッッ!!」


 足裏にキャタピラでも付けているかのような爆音のギャロップを響かせながら、ハートは殺意を胸に抱いて俺を追いかけてくる。

 しかし、殺意なんか込めたところで、決して大きくはならねえけどな?



――♧――



「クソカスヘドロォ!!」


 は、速すぎだろ。


「どこ行ったァ!? 絶対ブチ殺してやるからなァアアアッ!?」

「……やべ」


 ユニコーンって一馬力じゃねえんだな、初めて知りました。

 途中で追いかけるのをやめて脇道に入ったと思ったら、俺よりも先にアジトの前に着いてやがった。

 今は桜を遮蔽物にしながらグルグルと回って、息を殺してあいつの視界に入らないようにしてるが……


「フシュルルルルルルルルゥァァアアアッ!!」


 あれ?

 俺が狩るべき『完全な獣』って、もしかしてあいつのことを言ってるんじゃねえのか?

 フシュルルルとか言ってますよ、あの人。

 違うか、あの獣。


「ハート……?」


 「ギヌロンッッッ!!」という音を立てながら、野獣と化したハートは、背後に現れたスペードを睨んだ。

 いや、視線を動かしただけで普通あんな音鳴る?


「あの男の子は……ちゃんと家に送って来たよ……僕達も帰ろう……?」

「スペードォオオォオオオッ!!」


 おいやめろ、近付いたらお前も殺されちまうぞ!

 そいつはもうお前の知ってるハートじゃねえ!!

 獣になっちまってるんだぞ!?


「ねっ……?」


 そいつは人を諦めちまってんだよ!

 いいから早く離れろ!!


「スペ、ド、ォォ?」

「!?」


 ま、まさか……


「ほら……帰ろっか……?」

「……うん」


 あの状態になっても、人を諦めてなかったのか!?

 昏睡◯◯◯!(狂喜的な意味で)

 野獣と化したハート先輩


 ちなみに、存在を忘れられていたスペード君は、気絶した男子高校生君の荷物を一人で調べ、住所(生徒手帳)を見つけて、彼を自宅まで送り届けました。

 二人に置いて行かれて(´・ω・`)としていたのは内緒です。

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