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感情の色  作者: そつぼのろんしっし
乖離する運命 目覚める狩人
19/65

19.人として

――♧――



「ごめんね。ぼくもスペードが過去のことを気にしてるのは、知ってたはずなのにさぁ……」

「ううん……いいんだよダイヤ……」


 どうやらスペードは、自分の過去に大きなトラウマでも持っているようだな。

 俺には聞かれたくねえくらい、それを(うと)ましいと思ってるみてえだ。


 もしかして、俺からお姉ちゃんの記憶を消したことや、俺が家から外に出た記憶を消したことに、負い目を感じてたりとかしてんのか?

 『獣の狩人』を隠すために、仕方なかったんだろ?

 別に恨んでなんかねえよ。

 お姉ちゃんがどんな人だったかなんて、覚えてもねえし。

 俺の記憶を消したことと、能力の目覚めが関係してんのかは知らねえが、話したくねえなら聞くつもりもねえよ。


「そうまでして隠すのは気になるっちゃ気になるが、お前が俺に気を許せるようになったら、話してくれりゃいい。俺がここに来てから、まだ日も浅えしな」

「クローバー……」

「ハッ! しょうがねえだろ、話したくねえもんは。焦る必要もねえ」


 俺にもトラウマはある。

 小さくて幼かった弓月にキモい芋虫を充てがわれそうになって、全力疾走で逃げた上に、犬のう○こを踏んだ過去とかあるし……それは話したくねえ。

 そんなの情けなさすぎるしな。


 スペードの場合は、俺のそんな軽いトラウマみたいな程度じゃなさそうな感じだったし、無理に引き出すのも気が引ける。


「ありがとう……いつかちゃんと君に……」

「おう、んじゃあその時になるまで待つ。そんだけの話だろ?」

「う……うん……」


 温厚なスペードがあんなに声を荒げたんだ。

 誰にも、人には聞かれたくねえ過去の一つや二つくらいあるってもんだ。

 強引に深掘りするのは良くねえわな。



――♧――



「じゃ、気を取り直してぼくの話でもするかぁ。面白いから期待しててね、クローバーぁ?」

「お、おう。まあこの際、お前の話だけでいいや」


 スペードに何があったかは知らねえが、いつか話してくれるんならそれでいい。

 第一、哀しみを司るってんなら、力の目覚めもそれに連なった記憶なんだろうな。

 トラウマになるのも無理はねえ。

 ダイヤも悪気があったわけじゃねえんだし、さっきのは誰も悪くねえ。


「あたしのも聞……」

「おう、また今度な」

「なんでよもー! アホクローバーめ!!」


 クソハートの話は俺までお花畑になりそうだし、いいや。


 ダイヤは覚醒を終わらせてるし、羽鳥を殺すつもりなら何か手掛かりがあるかも知んねえな。

 こいつらの過去の中で一番、有益な情報が隠されてるって言ってもおかしくねえか。


「ちょっとだけ、ぼくの話はややこしいよぉ」

「構わねえ」


 ダイヤは小学生高学年程度の見た目ではあるが、どこか大人びた印象も持ち合わせている。

 羽鳥に次いで、謎多きガキンチョだ。

 精神的にはまだ子供っぽいところもあるが、難しそうな話でも普通に理解してるから、只者じゃない雰囲気を持ってやがる。


「それとこの話をすると大抵、ズルいって言われちゃうんだぁ。だけどここは! 可愛い新人くんのためにぃ! 一肌脱いであげるぜぃ!!」

「……しゃーす」


 ダイヤならマジで全部脱いで、事細かに体の隅々(すみずみ)まで説明しかねないという偏見が頭を(よぎ)った。

 何をしでかすか分かんねえからこそ、怖えんだよな……


「本当にズルいのよダイヤは……あたし達が何年も達成出来てない覚醒なんて、初めてペンダントを持った瞬間に終わらせちゃったんだから」

「え、はあ!?」


 ちょっと待て!?

 今一瞬で覚醒を終わらせたって言ったか!?


「それってズルじゃねえか!!」

「あっ、やっぱりクローバーからもそう言われちゃうかぁ。うーん……でも、君達は覚醒に苦労してるし、しょうがないよねぇ」

「あ、ありえねえ」


 羽鳥はさっき、俺が未覚醒だって言ってたよな。

 十三日も飲食禁止で監禁され続けて、やっとこさペンダントの力を使えるようになったってのに。

 どうなってんだよ?


「どっから話したもんかなぁ。力の目覚めの経緯が分かるなら、色々掻い摘んで話してもいいよねぇ?」

「お、おう」


 もう何度も見ている無邪気な笑顔で「んんっ」と咳払いをしながら、ダイヤは話し始める。

 こうして見ても、ただの幼い子供にしか見えねえんだがな。


「えっとねぇ。僕の髪と目は元々黒色で、普通の小学生だったんだよぉ」

「……俺と同じように、急に力が目覚めたのか?」

「少しだけ、目覚めるっていう意味合いが違うかなぁ。クローバーは前世とかって信じるタイプ?」


 前世?

 急に何言ってんだこいつ?


「さあな。今の俺には関係ねえし、前世があったのかさえ覚えてもねえよ。それがなんだってんだ?」

「うん、みんなもそんな感じで前世を覚えてないんだよねぇ。だけどぼくの場合はねぇ、いきなり前世の記憶が蘇ったんだぁ」

「何?」

「そして、その記憶の中でもぼくは……」


 え、まさか。


「今と変わらずに、ダイヤの継承者だったんだよねぇ」


 前世でもダイヤだったっていう経験を、そのまま現世に持ってきているってのか……

 道理で一人だけ、桁違いな強さのはずだわ。


「あ、ペンダントはねぇ? 落ちてたところを見つけて、拾ったんだぁ」

「え? 拾ったのかよ」


 俺もお姉ちゃんにペンダントを渡された記憶が消えていたから、自然と拾ったんだと思っていたが……今考えるとこんなヤバイもん拾ったって覚えてた方がヤバイ。

 つまりダイヤは相当ヤバイ、ダイヤバイ。


「拾った途端に前世の記憶が蘇って、このペンダントの力を使えるようになってねぇ。最初は人智を超えたこの力に戸惑ったんだけどぉ……」


 ダイヤは満面の笑みで微笑む。


「いざ獣を狩り始めたらさぁ! なんだか楽しくなってきちゃってねぇ!! 面白いっしょぉ!? んふふっ!!」

「は、ははっ、そっすね……」


 笑い事じゃねえわ。


「前世で覚醒も済んでたおかげで、最初からするんってハンマーも作り出せたし、【安楽】も【極楽衝動】も使えたんだよぉ。今と同じように前世でも獣を狩ってて、強くなった後だったんだよねぇ」

「なるほどな、前世でも獣、を……?」

「どうしたの……? クローバー……?」


 スペードが俺の様子にいち早く気が付き、問いかけてくる。

 そのスペードが感じたものよりも大きな疑問符が、俺の頭にポツンと浮かび上がった。


 おかしい。

 獣化は10年前に発生し始めた現象のはずだろ?

 ダイヤは小学生高学年程度の見た目だ。

 つまりは12、3歳くらいなんだよな?

 じゃあ、なんでこいつは前世でも獣と戦ってたんだ?

 どう考えても年齢と、獣化の発生時期が噛み合わねえだろ。

 前世で獣と戦ってるんだったら……こいつが生まれるよりももっと前に、獣化が起きてなきゃ不自然なんだ。


「……」


 こりゃあ考えても全然分かりゃしねえな。

 不審な点が多すぎて、真実に辿り着けそうもねえ。

 俺の考察じゃ埒が明かねえし、こいつらに聞いても多分、同じ答えが返ってくるだろう。

 とりあえず、ダイヤの前世の状況を聞いてみるしかねえか?

 何か、真実に繋がる糸口があるかも知れねえしな。


「前世のお前はどんな感じだったんだ?」

「んー? あー、えっとねぇ。狩りを楽しんでたから、要するに今のぼくとあんまり変わらないんだよねぇ」


 何か分かるかも知れねえと思ったが、前世の状況も今とさほど変わらなさそうだな。

 獣化する人が世界に現れて、継承者が獣を狩る、それは変わらねえみてえだ。


「あ、でもねぇ、すっごく強かったんだよぉ」

「そ、そうですか」


 自分で自分を強いと言えるやつは、二種類に分けられる。

 ただただヤバイ思考の持ち主でバカなだけなのと、冷静な客観視を持っている者の二つに別れる。

 ダイヤさんが通常の物差しで測れるわけもなく、この場合はどっちの意味も含まれますけども。


「でもやっぱり、今のぼくとは違うところもあってねぇ」

「ん? 違うところ?」


 現在の世界の状況と、違う何かがありそうだな?

 継承者の状態が違うんなら、獣化にも関係してくるかもな。


「前世で戦っていた時のぼくも、今の君達よりは年上だったよぉ」

「「も」ってなんだよ……いくつだったんだ?」

「もう成人してたから、二十代だったはずだよぉ」


 大人になってから、ペンダントの力が発現したってことなんだろうか?


「しかも、前世ではオタクっぽかったから、ぼくってばメガネかけてたんだぜぇ? あははっ!!」

「ハッ、それは今のお前からは想像出来ねえな」


 戦っている時よりも楽しそうに話すダイヤは、今でも普通の小学生のように見えた。

 いくら前世の記憶が蘇ったからと言って、精神までそう大きく変わりゃしねえか。


 しかし、また新しい謎が増えやがった。

 現実に似た夢。

 消えていたお姉ちゃんの記憶。

 羽鳥の素性。

 ペンダントの力。

 黒い塵になる獣の亡骸。

 『完全な獣』の正体。

 そして、獣化が起きているダイヤの前世。

 分からないことだらけだな。


「今は羽鳥ちゃんと動いてると楽しそうだから、ぼくも『獣の狩人』に入ってるんだぁ。元々ぼくは羽鳥ちゃんと敵対してたんだけど、戦ってるうちに惚れちゃってねぇ」

「敵対?」

「うん。羽鳥ちゃんは獣化を撲滅しようとしてるんだけど、ぼくは狩りが楽しいって思ってるじゃん? その点で、最初はウマが合わなかったんだよねぇ」

「ああ、なるほど」


 羽鳥はずっと、獣化を止めるために動いてたってわけか。


「獣になった人はもう、どうやっても元には戻せないんだぁ……羽鳥ちゃんはこの絶望的な世界を終わらせるために、活動してるの」

「獣化を根絶させて、世界に救済を(もたら)す『獣の狩人』、か」


 ああやって羽鳥は、獣化した人を副産物の獣って言ったり、狩りとか言ってるけど……実際は人を救うことを諦めてねえんだ。

 そう思わなきゃ、殺人という罪に耐えられねえ。

 歩みを止めれば現状を打破出来ず、どんどん獣が増えていっちまう。

 人を諦めてねえから、人を諦めたんだ。


「ぼくも羽鳥ちゃんとぶつかってくうちに、その正義に惚れちゃったんだよねぇ。今クローバーが考えてること、ぼくにも分かるよぉ?」

「うっせえ、羽鳥みてえに思考を読むんじゃねえよ」


 だが、牢獄に閉じ込められた過去は離れねえ。

 あいつは殺すと決めたんだ、甘えは許されねえ。


「……『完全な獣』を狩るために、獣になった奴は殺さなきゃいけない。それを分かろうとしないで、お前らに酷えことを言っちまったな」

「そんなのいいんだよぉ。ぼくは獣を狩るのは好きだけど、君の考えだって分かるしねぇ」

「うん……だからあの時……クローバーが怒った理由も分かるよ……?」

「それでも戦うしかない。あたし達は獣を戻す力じゃなくて、狩る力を与えられたんだから」


 俺とは別の考え方で、こいつらは人を諦めてなかったんだ。


「お前らを疑って悪かった。一緒に獣と……いや、獣化と戦わせてくれ」

「「「もちろん!」」」


 こいつらは……最初から血迷ってなんかねえ。

 最初は殺人集団とか、変な組織とか思ってたけど、誰だって人を殺してえわけじゃねえよな。


「ありがとよ」

「あらあら。すっかり素直になっちゃってクローバーさん? あたしと言い争ってた時の威勢は一体、どーこにいっちゃったのかしらね?」

「いやでも、お前は何度も鞭で打って気絶させたよな? まだ俺は許したわけじゃねえからな?」

「あ、えっと、うぅー……そ、それは反則よぉ! あたし以外に気絶させる能力を持ってる人はいないし! あんたに怒りを慣れさせるために、仕方なかったって言ってるでしょう!?」


 こいつの扱いが段々と分かってきたわ。

 こうやって攻め込めばいいんだな?


「おう、悪気がなかったのは認めてやるけどよ。でもその前に、人として言うことがあんだろ? 例え悪気がなくても、だ」

「うっ」

「悪いことしたらごめんなさい。常識だよな?」


 実はもうそんなに怒ってねえけど、こういうのはハッキリさせとかねえとな。

 ただ、決してこいつが困ってる姿を見るのが面白いとかじゃねえが。

 そう、そんなことはない。

 ククク。


「ご……」

「ご?」

「ごめんなさい……」


 これ以上やるとハートの血管がブチ切れそうだし、そろそろお終いにしてやるか。

 一応、謝罪はしたしな。


「ん。俺の器はまったくもって全然小さくなんかねえし、許してやるよ」

「なんでさっきの言葉気にしてんのよ」


 『完全な獣』と殺り合うためには俺、ハート、スペードの覚醒が必要不可欠だ。

 でも、覚醒ってどうすりゃいいんだよ?


「んじゃダイヤ。お前、前世だとどうやって覚醒したんだ?」

「あー、残念だけどそれは覚えてないんだぁ」


 覚醒したという前世の記憶を覚えてはいるが、覚醒した際の記憶はねえってか。


「そう簡単に上手くいくわけねえわな……」


 羽鳥に聞くのが一番だろうが、それは俺のプライドが許さん。

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