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感情の色  作者: そつぼのろんしっし
乖離する運命 目覚める狩人
11/65

11.嬲られる想い

――♧――



「獣を人に戻したいのなら、神にでも祈るがいい。だが、神は君の望みを聞いてはくれども、決して応えてなどくれない。ましてや、君が追い求めている答えすらも与えない。だからこそ人間の手で真実を掴み取り、正しい選択をしなければならないのだ」


 こいつらが言っていることは……正しいのかも知れない。

 でもそれが正しいと思えば思うほど、同時に間違っているとも思った。

 獣化の原因も、解決方法も分からない。

 そんな状態のままで、獣になってしまった人達が殺して欲しいと願っていても……殺しに甘んじるなんてのは許されることじゃない。


 もはや俺は、獣化を対岸の火事などとは呼べなくなっていた。

 世界中の人が出火の元栓となって、火の手がすぐ近くまで伸びてきているのに、平気でいられた方がおかしかったんだ。


「君達の特別な力なくしては、獣化を止める手段は他には存在しない。そしてそれこそが、私が君に固執する理由でもある」

「俺の、力だと……?」


 あの大剣で獣を……人を殺してくれって言うのか?

 そんな残酷な殺戮に手を貸せと……!?

 それを続けてどうなるっていうんだよ!?


「お前らはあの獣を見ても何も感じないのか? そんなことで獣化が終わるとでも、本当に思っているのか!? 例えあいつらが死を望んでいたとしても、それを叶えてあげることが本気で正しいとでも!?」


 無能な国々が行う政策と同じで、こいつらもそうだとしか考えられない。

 殺して、殺して、殺し続けて……その先に何が残るって言うんだよ!?


「それって……それって、人間が一人残らずいなくなるまで、殺し尽くせって言ってるようなものなんじゃないのかよ!? 人を救うために人を殺すことに手を貸せだって!? お前らは人を諦めてしまったから、皆殺しという矛盾に逃げてるだけだろ!?」


 獣化の原因が分からないままじゃ、こんなことを続けていても意味が無いのは、誰でも理解出来るはずなのに……

 獣化を終わらせるためには、人が獣になった結果を潰すんじゃなくて、人が獣になる前の原因を潰さなければダメなんだ!

 そうしなきゃ、この悪夢は終わらないんだよ!!


「私達がいつ、人を諦めたと言った? 説明を()(つま)んだからか、要らぬ誤解を招いたようだな」

「誤解……?」

「君の熟慮(じゅくりょ)や情けを裏切る形になってしまって悪いと思うが、既に私は獣化を終わらせる術に見当をつけている。そのために、獣を狩っているに過ぎん」

「!?」


 こいつらに従えば、本当に獣化を食い止められるっていうのか……?


「今現在、私達は街に現れた獣の居所(いどころ)へと向かっている。その狩りを終えても尚、君が生き残っていたら……」


 左手の人差し指を口元に立てる羽鳥は、仮面の裏で微笑んだ。

 実際に笑っているのかは分からないけど、俺にはそう見えたんだ。


「答えを教えてやろう」


 まだ信じられないけど、この余裕の言動には大きな根拠を感じた。

 そう思わせる何かが、羽鳥にはあった。

 神が決して示してくれない真実に導かんとする、白い翼を仮面に携えた悪魔には……


「……」


 知りたい。

 天使と悪魔が溶け合っている羽鳥が、人間を捨ててまで掴み取った、その答えを。



――♧――



 静寂に耐えられなくなって、俺は辺りを見渡し始めた。


「この黄色い光は……?」


 自分達を包んで飛翔する黄色の光が、どこを見ても目に入る。

 分かりやすく言うなら、バリアを張っているようなドーム型の光だ。


「あ、ぼくの力が気になるのぉ? もっと見たい?」

「えっ……?」


 黄色に光る手を(かざ)し、前を向いている少年に話しかけられた。

 周りの光に気を取られていた俺は、時間に差を置いてそれに気付く。


「あ、あぁ……」


 よく見るとその少年の髪も、俺達を包んでいる光と同じ色でぼんやりと輝いていた。

 あまりにも不思議で突飛な光景に、これから起こることに予想もつかなかった。


「でもお生憎(あいにく)様、そろそろ着いちゃうよぉ。まったく、ぼくってば久しぶりに日本に帰ってきたのに、人遣い荒いよぉ羽鳥ちゃん」


 徐々に、少年の髪と周りの黄色い光が弱まっていく。

 そして光が弱まっていくのと同時に、後ろへと流れていた景色が低速化していく。


「これも、ペンダントの力なのか……?」

「ああ。獣がどこへ現れようとも、ダイヤの力で移動にかかる時間を短縮することが出来る」


 左手に持っていた手帳を懐にしまいながら、羽鳥は俺に向かって口を動かす。


「ここだねぇ」


 低速になった背景は完全に静止した。

 俺達を包んでいるダイヤの力で、今度は地上へと降下し始める。



――♧――



「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「ぎっ……! ああああああああああああああ!!」

「たっ、助け……!」


 地上に降り立つ前に、痛々しい悲鳴と肉を引き裂く音が俺の耳を(つんざ)く。


「獣が人を!!」


 人通りの少なそうな住宅地の道路。


 灰色の体毛を全身に生やした獣が、その口で男の腕を噛み千切っていた。

 そして、その近くで腰を抜かしているもう一人の女が、地面に手をついて失禁していた。

 もしもあの時、赤い大剣が現れなければ、俺と弓月もああなっていたのか……?


「ハート!! スペード!!」


 羽鳥がバッと左腕を振ると同時に、二人の男女がすぐさま動いた。


「【狂喜】!!」


 ハートと呼ばれた女は先程のダイヤの少年と同じように、束ねた髪と手を光で輝かせる。

 だがそれは黄色の光ではなく、ピンク色だった。


「あっ……」

「え……?」


 ハートの女が前方の被害者達に手を(かざ)すと、彼らは力を失ったように倒れた。


「お、おい! あれ大丈夫なのか!?」

「無力化し、気絶させただけだ。狩りの邪魔になると面倒だからな」


 羽鳥は落ち着いた様子で二人の継承者を見ている。

 こいつら……そんな力を持っているのか?


 ハートの女が彼らを気絶させると、今度はスペードの男が、手と髪から青い光を放つ。

 そして、そのまま光る手を前に突き出した。


「待たせてごめん……! 君達を【悲劇】から解放する……!!」

「青い、霧?」


 気絶した彼らから青い粉末状のような、謎の物質が出てきた。

 その霧を、スペードの男が光る手から吸い取っていく。


「す、すごい」

「クローバー」

「なんだ!?」


 すっかりとその名で呼ばれることに慣れてしまった俺は、羽鳥の話を聞く姿勢になる。

 だけど心臓がバクバク鳴り、うるさくて集中できない。


「獣を狩れ。君の力を見せてみろ」

「お、俺がやるのか!?」


 てっきり俺もサポート役に回れと言われるかと思ったが、どうやら違うらしい。


「他の奴らは!?」

「ハートとスペードは新たな人がここに来ないよう、力を広範囲に拡散させて行使している。動ける状態ではない」


 二人を見ると、前方へと向けていた手を左右に広げ、それぞれの光を強くしていた。

 さっきのダイヤが出していたようなドーム型の光ではないものの、確かに広範囲に展開させているような印象だった。


「ダ、ダイヤは!?」

「今は自分のことだけに集中しろ!」


 俺が本当に、獣を……?

 全身が震えて、動こうにも動けずにいた。

 だって、あれは……あの獣は!


「でも、あれは人……」

「君が死ねば、弓月が君の代わりに戦う羽目になるのだぞ」

「……はっ?」


 時が止まり、辺り一面の音がぱったりと消えたような感覚がした。

 人はあまりにも理解し難い話を突きつけられると、少しの間固まってしまうらしい。


「はぁあああっ!?」

「言ったはずだ。君が死ねば、弓月も死ぬと。それは君の代わりに彼女がクローバーとして戦う羽目になり、命を落とす結果にも繋がり兼ねないということだ」

「弓月が戦う!? なんでそうなるんだよ!!」

「詳細は後だ! 来るぞ!!」


 羽鳥がそう叫ぶと……


「ガァアアアアアアアアッ!!」

「!?」


 獣が敵を目掛けて一直線に走り寄りながら、捕食を邪魔された憎しみをぶつけようと、俺の頭の上から右腕を振りかぶっていた。

 咄嗟に避け、俺の身代わりになった道路からは土煙が上がる。


「グルルルルゥ……!」


 地面にクレーターのような穴が空き、獣の瞳孔が妖しく光る。

 あまりにも近すぎる目前の死への恐怖に怯え、足の震えは止まることを知らなかった。


「あ、あんなの食らったらひとたまりも……!」

「……情」

「え……? 羽鳥?」


 いつの間にか羽鳥が俺の背後に立っていて、耳打ちをするような姿勢で呟いた。


「私は、クローバーの役割は弓月でも構わないと考えている」

「は!?」


 本当に弓月を戦わせるつもりなのか!?


「お前何を……!」

「だが、君はそうじゃない。弓月が戦うことを望んではいないのだろう?」

「! そんなの……」


 そうだ、弓月を戦わせる気なんかない。


「そんなの当たり前だろ!」

「狩れ、クローバーの継承者よ! 弓月の持つ力よりも、君の心が強いと証明してみせろ!!」

「俺の、心!」


 弓月が戦わないで済むように、俺がやるしかない!!


「はぁあああああああっ!!」


 片割れのクローバーのペンダントを握りしめ、俺は再び決意する。

 あの時のように。


「弓月を戦いに巻き込むわけにはいかない!」


 握りしめたペンダントが、(てのひら)の中で赤く輝く。


「グゥウウウウウッ!!」

「お前も……! 元は人間だったのなら……!」


 俺が……


「同じ人間を襲うなんて! そんな事するなよ!!」


 弓月を……!


「人を……!」


 救うんだ!!


「諦めるな!!」


 戦いの火蓋が切られたことに反応したペンダントは、あの時に現れた赤い大剣へと姿を変えていく。

 その大剣の(つか)を両手で握りしめ、俺はまた自分を奮い立たす。


「ガアアアアアアアアアア!!」

「は、速っ!?」


 俺が大剣を手にしたと同時に、獣は全速力で突っ走り、首を飛ばさんと腕を振るう。


「ガァ!! グァアア!!」

「ぐっ!! うぅ!!」


 大剣を盾にしながら、ひたすら俺は獣の攻撃を受け止める。


「ガルルウゥァアア!!」


 まるで硬い壁に阻まれているように、俺を殺すことが出来ない獣はイラつきを見せつつ、何度も何度も打撃を繰り返してくる。


「く、くそ!」


 大剣を盾にしていれば、ある程度は受け止められるけど……!


「ガァアアアアアアア!!」

「ぐ、ぅぅっ!!」


 どうすれば、この猛攻から抜け出せるんだ!?


「攻撃を受け流して、獣の隙を自ら作りだせ!! その後、奴の胴を穿(うが)て!!」


 背後から、羽鳥が指示を出してきた。


「分かった!」


 瞬間、大剣が赤く光る。


「ガァッ!!」


 【異様に発達している右手の鋭い爪が、俺の左から迫り来る】

 だがその光景は、俺の脳内で再生された映像で、実際にはまだ獣が右腕を振りかぶる途中だった。


「見えた!!」


 大剣の背で、爪をガードし……


「受けて! 流す!!」

「グ、アアッ!?」


 そのまま流れる川の如く、全力でその攻撃の振りを左から右ななめ上へと押し流した。

 円を描くように腕を大きく回され、受け流しによって体勢を崩した獣は、後方へと倒れかけていた。


「はぁっ……!」


 ごめん……!!


「ここだああああああああああああ!!」


 受け流して生まれた隙を無駄にしないように、俺は大剣を持った腕を伸ばし、獣の体を貫くために地面を蹴る。


「グゥゥウ!?」


 届いた。

 刺した。

 大剣の刃が、獣の脇腹に刺さった。


「ガッ……!」

「今のうちに……!!」


 次の攻撃を畳み掛けるために踏み込もうとするが、何故か右足は動かなくなって、バランスが崩れた俺は真横へと転び、倒れた。


「え?」


 ぴくりとも動かなくなった俺の右足を見ると、深い爪痕によって肉が抉れていた。

 太ももに刻まれたその傷から、ビチチと音を立てて鮮血が噴き出した。

 怪我を認識した俺の体は、最大限の危険信号を、痛みとして脳と神経に送り始める。


「ぎぃッ!?」


 気付けなかった。

 倒れかけた獣は足に生えた爪で反撃して、俺の足の肉を引き裂いたらしい。


「いでぇえああああああああああああッッッ!?」


 焼けた鉄を直に当てられているような感覚が、足から脊髄、脳を巡り巡っていく。


 右足の筋肉を大きく抉られたせいで力が入らなくなり、どう足掻いても膝立ちの状態にしかならなくなってしまった。

 足からは容赦なく血が流れ出てきて、俺の周りの道路はどんどん赤くなっていく。


「ガゥゥウアアア!!」

「あっ……! あぁっ!!」


 体勢を直した獣が俺を睨みつけ、殺意の(こも)った視線を俺に突き刺してくる。

 それは、この殺意を物理的にも貫き通してやる、という死刑宣告だった。


「ガロゥアア!!」


 咆哮と共に凄まじい速度で地を蹴り、宙を舞う獣。

 そのまま空から爪を向けて降下する化け物に、無残に蹂躙(じゅうりん)される未来が頭に(よぎ)った。

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