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1 : ストーカー

※この作品はフィクションです。実際の人物、団体等とは一切関係ありません※

 4月、誰もが期待や不安を胸に新たな環境へと羽ばたく季節。


 しかし地元の有名大学の受験に失敗し、両親に家を追い出され、地元から離れた中堅大学である央城大学(おうじょうだいがく)に進学した私は、虚無感に苛まれながらも、大学の入学式に出ていた。


 ぼーっとしたまま式が終わり、各学科の教室へと移動して、よくわからない書類を書いたり、学生証やパンフレットを貰って初日は解散。

 特に人と会話する気も起きないし、そそくさと教室を出てとっとと帰る……つもりだったのだが、まあそうすんなりとはいかない。


「あ、あの!」


 教室を出ようとしたところで、茶髪のお団子ヘアで、少し背の低い可愛らしい女子生徒が話しかけてきた。


「はい?」


 反射的に返事をしてしまった。


「え、えっと、私! 水橋 雫(みずはし しずく)って言います! 良かったらちょっと話しながら帰りませんか……?」


 何この子? 距離の詰め方がダイナミックすぎない? まあこっちから積極的にコミュニケーション取って友達作るのもめんどくさいし、向こうから話しかけてくれるのはありがたいといえばありがたいけど。


「水橋さん、ね。いいよ、私は篠宮 蘭(しのみや らん)。よろしく」


 こちらも適当に自己紹介を済ませる。


 そして教室を出て歩き始めると同時に、水橋さんが話し始めた。


「あの、篠宮さんはどこの出身なんですか?」


「私は兵庫だよ。大学からこっちに来たの」


「へぇ〜兵庫かぁ……私は北海道! ……本当は地元の大学に行きたかったんだけど、センターで失敗しちゃってさ……去年のボーダーにすら100点以上差があって、それでここに来たんだ。まあ半ば家から追い出される形だったけど」


 水橋さんは苦笑いを浮かべながら話を続ける。


 というかここに来たのは私とほぼ同じ理由なのか……


「あっ! 別にこの大学が頭よくないとかじゃなくてさ? えーっとその……」


「大丈夫、別にそんなこと思ってないよ。私もここに来たのは同じような理由だし」


「そうなんだ! 凄い! 本当に一緒だね! 運命感じちゃうかもー! なーんて……」


 ひと昔前のナンパみたいなことを言う。 まるで初対面とは思えない距離感だ。


「ねえ、水橋さん」


「ど、どうしたの?」


「別にいいんだけどさ、結構グイグイくるよね」


「えっ! あ、ゴメン……」


「いや、大丈夫、知り合いもいないし、最初からフレンドリーに接してくれる分私としては話しやすいし……」


 などと話しながら、大学を出たところで何か背後に嫌な気配を感じた。


 すぐに振り返ったが誰もいない。

 だが気のせいにしては何だか気持ち悪い。


「ねえ……今後ろに誰か……」


 そういいながら水橋さんの方を見ると、青ざめた顔で少し震えていた。


「そんな……まさか……何で……」


「水橋さん? どうかした?」


「いや……なんでもない……」


 そうは言っているが明らかに様子がおかしい。


 心当たりがあるようだけど……まさかストーカー? だとしても水橋さんはこっちに来たばかりじゃ……

 それに『まさか』『何で』って……

 ……とにかく私たちを、というより恐らく水橋さんを尾けてる奴がいるなら振り切らないと!

 私は水橋さんの左手を引いて走り出す。


「とりあえずこのまま私のマンションに行きましょう! セキュリティのしっかりしてるマンションだから多少は安心できると思う!」


「えっ!? う、うん!」


 私のマンションまでそんなに距離はない。とにかくそこまで行ければ……


 私たちが走り始めたと同時に、背後から私たちの後を追うように走ってくる音が聞こえ始めた。

 やっぱり気のせいじゃない。 


「ここ曲がったらすぐだから!」


 そういってマンションまでの最後の角を曲がろうとしたとき、ぐいっと後ろへと引っ張られる感覚があった。

 反射的に後ろを見ると、同い年くらいのこれと言って特徴のない黒髪の眼鏡の男が水橋さんの右手を掴んでいた。


「追いつかれた……!」


 私は別に足が速いほうではない。相手が男なら追いつかれても何の疑問もない。

 だが……


「何で……隠れてコソコソ尾けてたようなやつがちょっと走って逃げただけでこんなに大胆に……」


 今は周囲に人がいないが、かといって別に普段から全く人気がない場所というわけでもない、そんな場所でこんなに大胆なことをして、叫ばれでもすれば一発アウトなのに……

 明らかに違和感がある。だがその違和感をじっくりと探っていられる状況ではない。


「すみませんが、どちら様ですか? あとその手、放してあげてくれません?」


 私がそう男に尋ねると、男は挙動不審になりながらも答える。


「ちちち、違う! み、水橋さんが怯えてるのはあんただ!」


 はぁ? 何言ってるんだこの男……?

 どう動いていいものかと考えていると、水橋さんが泣きそうな声で私に向かって言った。


「逃げて……警察……」


 逃げる? こいつの狙いは水橋さんじゃ……

 そう思いつつ男の方をよく見ると、右手にナイフを持っているのが見えた。

 ナイフを見て私が動揺した一瞬、掴んでいた手が緩んでいたのか、私の手をするりと抜けて水橋さんは男の方へ引き寄せられる。


「水橋さん!」


「ストーカー女が! ブッ殺してやる!」


 男は水橋さんを乱暴に後ろへと突き飛ばし、こちらを睨みつけてくる。


「はぁ!?」


  あー、あー! なるほどね……! こいつ自分がストーカーなんじゃなく、水橋さんの怯えてる姿を見て『自分がストーカーから水橋さんを守ってる』って思いこんでるのか! 多分だけど……


 男は奇声を上げてナイフを振り回しながら私の方に向かってくる。


「ッ……!」


 興奮状態でまともにこちらを狙えていないようで、めちゃくちゃにナイフを振り回している。

 おかげで避けるのはさほど難しくはない。


 突き飛ばされた水橋さんがスマホで何かしようとしているのが見える。おそらく警察を呼ぼうとしているのだろう。


「お前のせいで水橋さんがあああああああ!」


 興奮状態の男は叫びながらまた私に襲い掛かってくる。だが興奮しているからか水橋さんが通報していることに気づいてない。

 このまま時間を稼ぎたいけど、まあ正直警察が来るまでってなると無傷じゃいられないよね多分……

 などと考えていると、男の叫び声で少しずつ人が集まってきた。


 ざわつく野次馬達、中にはスマホで動画を撮っている人なんかも目に入った。


 それを確認した私は男のナイフをかわした後、できる限り大きく高い声で叫んだ。


「誰か助けて!!」


 すると野次馬の中でやりとりを見ていた黒いキャップを被った男性がこちらへ走ってきた。


「やめろ!」


 そう言って黒いキャップの男性はストーカー男を無理やり取り押さえる。

 ストーカー男は取り押さえられてなお何かを叫び続けていたが、よく聞き取れなかった。


 数分後、警察が到着し、ストーカー男はそのまま手錠をかけられ、私と水橋さん、そして黒いキャップの男性は事情聴取で警察署へ行くことになった。


 事情聴取が終わった後、水橋さんにはものすごく感謝され、それと同時に一緒にあの男性にちゃんとお礼を言いに行こうということになった。

 受付の人に男性の居場所を聞くと、すぐ外で待っているとのことだった。

 外に出ると確かにその男性がいた。


「あの!」


 水橋さんが先に男性に話しかけた。


「ああ! 大変でしたね……もう大丈夫なんですか?」


 男性は優しい口調で答えた。


「まあ私は大丈夫ですけど……篠宮さんはケガとかなかった……?」


 水橋さんが言った。


「一応無傷、心配しないで!」


 私は笑顔でそう返す。


「お二人ともご無事そうで何よりです」


 男性はニコニコしながら答える。


「いえ、あなたが助けてくれたおかげです……本当にありがとうございました!」


 私は男性に深く頭を下げる。


「あの、お名前を伺っても……?」


 頭を上げて男性に尋ねる。命の恩人といっても差し支えのないレベルの恩人だ。名前くらい知っておきたい。


「そんな……名乗るほど大した事してないですよ」


「そんなことないです。恩人の名前くらいは知っておきたいんです。またいつかしっかりお礼をさせてください」


「恩人って……そんな……まぁでも、分かりました。感謝の気持ちを無下にするわけにもいかないですし。僕は 目 誠一(さがん せいいち)、すぐそこの大学の一年生です」


「え……?」


 私と水橋さんは目を見合わせる。


「どうかしましたか?」


 目さんは不思議そうな顔をする。


「いや、私たちもそこの一年生で……」


 水橋さんが言った。


「そうなんですね! 初日から大変でしたね……」


「はい……お互い……あ! 名前を聞いておいて自分が言わないのは良くないですよね。私は篠宮 蘭といいます」


「私は水橋 雫です!」


「篠宮さんに水橋さんね、また大学で会ったらよろしくね」



「そうだ! これも何かの縁ですし、連絡先交換しましょうよ!」


 少し間をおいて水橋さんがそう言ってスマホを取り出した。


「えっ……」


 目さんが一瞬微妙な顔をした。


「えっと……嫌でしたか?」


 水橋さんは申し訳なさそうにする。


「いやいや、構わないよ」


 目さんはニッコリと笑いながらスマホを取り出す。


「じゃあ私も」


 私もスマホを取り出す。

 そして私たちはメッセージアプリで3人それぞれの連絡先を交換した。


 その後、もう一度二人で目さんにお礼を言ってその日は解散になった。





 少し後、目は二人を見送った後、ゆっくりと篠宮のマンションと同じ方向へと歩き出した。


「はぁ、直接干渉する気はなかったんだけどな~……ま、仕方ないか! 篠宮さんは僕のことを完全に初対面だと思ってたみたいだし、今後の『観察』に支障が出るレベルのことでもない。

 さ、帰ろ帰ろ! 『いつもの』帰ってすぐのシャワーには間に合わないかもしれないけど……

 まあでも、初日から友達出来たみたいでよかったよかった! それに、死なれちゃ僕の生きがいが減っちゃうからね」






最近リアルがすごく充実してるんですが、エンジョイしすぎて2ヶ月以上睡眠時間と休みらしい休みがほぼとれてないのでちょっと最近死を垣間見ました。

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