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暗黒転生/異世界がマジで殺しにきてる  作者: 猿谷ちひろ
2nd - Girls Just Want to Have Fun
27/41

#11. チコ一家(2)

 レイシィとリオンは、洞窟の前に立つ。

 空は暗くなり始めている。

 暗くなるのが早すぎる。風が強まり、黒い雨雲が垂れ込めていた。


「どうやら()()()()()()ね」


「ああ、()()()()()()()な。本気で暴れられそうだ」


 リオンは戦斧を手に、先に進む。

 レイシィは杖を構え、その後ろについた。


 洞窟内は、等間隔に、たいまつの光が灯っている。

 外から、雨音が聞こえ始めた。ここまで音がとどくなら、かなりの大雨だろう。


 道はほぼ直線、ゆるやかにくだり、方角は東に向いている。

 ここまで、西進して、洞窟の入り口を見つけたのだから、やってきた道の地中を逆行しているかたちになる。


 奥から、野盗のひとりがやって来た。そいつは用心深く警戒し、足音を消していた。

 嵐になったことに気がつき、しかも日が落ちたのに、見張りがもどらないことを怪しんだのだろう。

 かなりの慎重さと判断力だ。すぐ回れ右して、奥に走り出した。

 リオンとレイシィも追いかけるが、内心で舌打ちしていた。逃げ出す前に仕留めるのが、理想だったのだが……。


「おおい! 敵だ、侵入者だ!」


 当然ながら、大声をあげる。

 真っ向勝負するしかないようだ。


 通路を駆け抜けると、その先が広く、そして明るくなっていた。

 中央におおきなかがり火があり、壁際には物資が積んである。屋敷からの盗品もある。広間として利用している空間らしい。

 レイシィとリオンは、そこで三人の野盗に出迎えられた。


 ◆


 リオンが、先ほどからあきらかに攻めあぐね、イラついている。

 相手の得物は剣である。ピアージョという男でまちがいないだろう。

 この剣士、南の出身のはずなのに、なぜか、北に使い手が多いラギスト流の剣術だ。守りからのカウンターを狙う流派である。


 使っている剣はアネラスと呼ばれる、刀身が頑丈で打ち込みにも強いものだ。ちゃんと戦い方に合わせて選んでいる。

 強度のない武器ならば、リオンの斧〝盾裂き〟を正面から受け止めるとたいていは壊れてしまうのだが。


 気の短いリオンとは相性が悪い。ふところに飛び込もうとしても、剣のリーチを活かしてけん制されている。

 ピアージョは冷静にふるまい、ほぼ互角の状況に持ち込んでいた。


 それに、最初に鉢合わせした男も加勢している。こいつが狙っているのは投石か、側面から近づいてダガーを振るうつもりだ。

 外で殺してきた見張りの兄、アルゴ。この男も心得たもので、むだに仕掛けてはこない。慎重に隙をうかがっている。

 このまま長引くと、リオンの不利は明白だった。


 レイシィの魔法は本来、こんな時にこそ真価を発揮する。かく乱にもっとも適しているのだ。

 だが、こっちも水術使い(ハイドロ)の相手で手いっぱいだった。こいつ、莫迦のひとつ覚えのように《氷結片アイス・シャード》しか撃たないが、威力を引き換えに、連射でたたみかけてくる。単純だが、無難に効果的な戦法。

 おかげでレイシィのリソース……魔力と集中力は、杖の先端から《防壁シールド》を展開するのにほとんど費やされ、リオンのフォローまで手がまわらない。


「そらそら、どうした? その杖は、壁を作ることにしか使えないのか?」


 安い挑発に乗るレイシィではない。しかし実際、レイシィに直接攻撃手段がとぼしいのは事実であり、それを見抜かれている。

 加えて、このネフという男の声は、きんきんと甲高く、まったくもって気にさわる。


 いまのところ、戦況は一見拮抗しているが、地の利と人数という点で、負けている。このままではじり貧になる。


 いっそ大胆に攻めてみるか、もしくは、退くのも手だ。

 ここは比較的、広くなっているが、来た道をもどって狭い通路に誘い込めば、ピアージョの剣は振りまわしにくくなるだろう。接近を余儀なくされれば、リオンに分がある。

 迷っている暇はない。

 じき、バランスがくずれる。ひとたび、天秤がこちらの不利にかたむけば、そこからまき返すのはむずかしくなるだろう。


 レイシィは攻めを選んだ。


 《防壁シールド》を解除、ネフの攻撃をサイドステップで避けながら、杖でべつの魔術の発動準備に入る。左手では、忙しく呪印ムドラを結び、指向性の異なる魔力の凝聚を始めた。

 たとえるなら右手と、左手に、それぞれペンを持ち、同時に異なる絵を描くようなものだ。しかも、相手の攻撃を身ごなしで避けながら。

 さすがに複雑なことは不可能だ。レイシィがやっているのは、右手では慣れた、記号的な絵を描きつつ、左手では、グー、チョキ、パーをくりかえし作っているようなものである。

 処理能力的に、これが限界だ。


 避けそこねた氷片が体を切り裂いても、致命的でないものは無視することに決める。


 向かって、左へ、左へ回避をつづけ、洞窟の壁にぶつかる直前、杖から魔術を解放リリースして、《残影シェイド》を発動。

 ネフは、一瞬、レイシィにとうとう直撃させたと思ったことだろう。だがそれは残像であり、その隙にレイシィは短距離を走ってネフの右側面にまわり込んでいる。

 この至近距離で《氷結片アイス・シャード》を食らったら、ずたずたに切り刻まれる。

 だが予想どおり、ネフの反応は遅れた。レイシィはネフのみぞおちに、左の拳を見舞う。正確にいえば、破壊エネルギーを接点からじかに送り込む《魔拳フィスト》。

 技と呼べるほどたいしたものではないが、直接攻撃手段にとぼしいレイシィは、じかに触れることで最大限の火力を叩き込んだ。


 果たして、ネフはうめき声をもらして、くずおれる。


 この魔法使いは安全志向だったという。

 つまり互角以上の敵とやり合った経験が少なく、それに打たれ弱い。

 そう推測してレイシィは攻めたのだが、正解だった。


 ◆


 リオンに向けて、アルゴが放った石つぶてが飛んできた。

 これだけならなんでもないが、いいタイミングでピアージョが踏み込む。

 戦斧で受け止められるのはひとつの攻撃だけだ、リオンは後ろに飛び退いた。

 ピアージョの剣の切っ先で、腹を水平に浅く斬られる。


「っ貴様らァ! 調子こくのも大概にしろよオ!」


 いい加減、頭にきた。いちかばちか、突っ込むか。

 この並んだカボチャ頭の、どっちか一方でもかち割って脳みそをぶち撒けてやれば、さぞかし気分がいいだろう。

 その快感を想像すると、多少のリスクはどうでもいい気がしてくる。


(そもそも、こんなちんたらした戦い方はあたしの柄じゃない……)


 リオンは斧を構え直し、一気に踏み込むため、両脚に力を入れる。

 この時、レイシィの攻撃でネフが沈んだのが横目に見えた。


 パートナーが獲った白星のおかげで、リオンの頭も冷えた。

 自分が、危うく死の崖っぷちまで追い込まれていたことを悟った。

 それはいただけない……追い込むのは、こっちだ。


「なあ、あんたの弟、命乞いしたんだぜ?

 それって兄貴的にどうなん? 恥ずかしくない?」


 アルゴの顔が、白くなる。


「殺したけどな、首、持ってきてやればよかったよ、感動の再会をさせてやれたのに。

 でもまあいいよな、これからすぐに地獄で会えるんだからさ」


 アルゴは、ピアージョの制止を無視して、接近戦を挑んできた。

 これまで防戦一方だったリオンの、実力をあなどったこともあっただろう。

 だが、リオンの斧の間合いに入るのは、自殺行為でしかない。


 リオンはまず、ダガーを突き出してきた相手の腕を、下段から振り上げた刃で斬り飛ばす。

 間髪を入れず、逆方向に斧を振り下ろし、反対側の刃をアルゴの左肩に叩きつけた。肩から入った刃は、アルゴの腹まで達して止まる。

 一瞬のできごとだった。

 自分の体がどんなふうにさばかれたのか、理解できていない表情に向かって、リオンはとびきりの笑顔をみせた──たぶん死んでるだろうけど。


 血潮を噴くアルゴの陰から、気合とともに放たれたピアージョの突き。

 さすがに鋭い。

 しかしリオンは落ち着いて、ただ、手首をひねった。

 体の中心に斧を食い込ませたアルゴが九〇度かたむいて、肉の盾になる。


 ピアージョの渾身の一撃は、アルゴの後頭部から深々と入って口から刀身を突き出した。

 はずみでアルゴのあごが外れ、飛び散った歯が洞窟の床でぱらぱら音を立てる。

 リオンは柄を握りなおすと、思いきり力を込めた。


 斧を、フルスイングで叩きつける。

 斧頭とひとつになった肉の塊、そして、それに根元まで刃を埋めた剣を握りしめているピアージョ、もろとも地面に激突した。


 びたーん、というしめった音は、おもに、アルゴだった肉塊が発したものだろう。

 これだけ深く裂かれ、しかも勢いよく叩きつけられたのだからたまらない。

 もしもイツキがこの光景を見ていたら、


「お好み焼きをひっくりかえすの、失敗シタみたいデスね。

 まだ早すぎて、粉がベチャベチャで具材も固まってなかったーミタイナ」


 と現実逃避気味にコメントしたことだろう。


 飛び散った汁と具材は、レイシィにも直撃した。

 レイシィは頭から鮮血をかぶり、肩から腸をぶらさげたまま、深いため息をついた。

 自分の手があいたので、リオンの手助けをしようと近づきかけていたら、このざまだ。


 ピアージョは尻もちをついている。

 はずみで抜けた剣の柄を、まだ手放していないのは、たいした戦意であるといえた。

 しかし床に叩きつけられた際、あばらを数本折っていたし、それに失禁していた。


 リオンは斧を、地面に向けて一振りする。

 斧頭にいまだにからみついていた肉片を、びちゃりと振り落とす。

 そして、ピアージョにトドメを刺すために一歩、進んだ。


 ──轟音。


 リオンの肩を、後ろから熱がつらぬいた。

 痛みより、じゃまされた怒りの方が勝っているのだろう、顔をゆがめて、リオンが振り返る。

 そのリオンに、レイシィはぶつかっていき、いっしょに地面に身を投げた。


 ゲルグ銃、しかも、背後からだ。

 いつの間にまわり込まれた?

 何人いる? 三人か?

 狙いが正確すぎないか?


 瞬時に疑問がいくつか浮かぶ。


 うかつに立つと危ない。

 だが、ぐずぐずしていると、ピアージョが立ち直る。

 手負いとはいえ、こいつは強い。

 挟撃される。

 これは……まずいかも知れない。





 読んでくださってありがとうございます♪


 【次回】#12. チコ一家(3)、7月10日(金)更新予定。


 内容としては、引きつづき、戦闘シーンです。

 位置づけとしては 2nd のクライマックスであり、初心者の力試しという感じでできるだけ描写を書き込んでいます。

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