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暗黒転生/異世界がマジで殺しにきてる  作者: 猿谷ちひろ
2nd - Girls Just Want to Have Fun
24/41

#08. 屋敷の調査(2)

 レイシィとイツキが、屋敷の主の部屋を調べていると、一階を調べ終えたリオンも合流した。


「広間と応接間、台所や貯蔵庫もひととおり見てきた。絵画に銀食器、酒まで、金になりそうなものはだいたい盗まれてる。

 侵入者は足跡の種類から見て、六人から八人。

 どこから入ったのかははっきりしない。少なくとも壊されている出入り口はひとつもなかった」


「なるほど。じゃあリオン、この部屋はどう見る?」


 使用人の部屋とちがい、広く、金のかかった内装だ。手前は書き物机と本棚があり、奥は寝室になっている。

 しかしひどく荒らされている。金目のものがいちばん見つかりそうな部屋だから、当然だろう。


「んー、まず、あたしには価値はわからないけど、一か所、まとめて抜けてるな」


 リオンは本棚を指さした。そこはイツキも気になっていた。


「そうね。ナタン・ウラントの『農耕』原本は全四巻だと聞いたことがある。

 スペースから見て、たぶんまちがいない。それなりの値がつくでしょうね。

 ただ、足がつきやすい盗品だわ。販売ルートを持ってるのかしら」


「けっこう手慣れた感じがするな。

 この部屋もだし、一階でも、無価値なものはうっちゃらかしてあったよ。

 アホな盗人ならなんでも持っていくからな。時間はあったみたいだし」


 ふたりのやり取りを聞きながら、イツキも自分なりに観察してみる。

 たしかに……ヒントなしでは気づかなかっただろうが、これは手当たり次第ではない。

 ある程度、金目になりそうなものを、ピンポイントで探した感じだ。


 そして、寝室の床に、これも仰向けの死体。

 服装から見ても、この遺体がウラント氏でまちがいあるまい。


「なにでやられた? んー、飛び道具? ……このにおい……火薬だ」


 リオンが検分しながらつぶやく。


 レイシィは眼鏡をずらして、裸眼で周囲を見まわしながら、生返事をした。

 そして、ふと気づいたように言う。


「イツキ、あなたも眼鏡で視えないものが視えるんでしょ?」


「あ、ハイ、そーいやそうデシタね」


 イツキは、「魔法の眼鏡よ、視えろ、視えろ~」と、心のなかで念じてみる。

 フィルタをかけたように、彩度が色褪せて、世界が異なるかたちで眼前に広がった。

 しかし……。


 なにを、どう、視ようというのか。

 イツキの自覚がはっきりしていないと、視えるものも視えないらしい。

 この感覚、うまく伝わるか心許なかったが、レイシィに話した。


「ああ……たしかに、最低限の理論が頭にないと、魔導器も扱えないものね。

 イツキに基本的な知識がないから、機能が引き出せないということか。

 えっと、魔法というのは、使われると、痕跡が場に残るものなのよ。

 魔法によって、残りやすいもの、そうでないものがあるし、使い手が痕跡を意図的に隠そうとすることもある。

 だから読み取りは、技術と経験がいるんだけど、少なくともわたしは、ここで、だいたいどのくらい前に、どんな魔法が使われたのかが、わかる」


「ハェ……。そーゆーもんデスか」


 ──ホントに鑑識みたいデス。

 ──まるで指紋、あるいは線条痕デスね。


 どのくらい前に、どんな魔法が使われたか、痕跡が残る。

 それが自分にも、視えるはず。

 そうと意識して、イツキはもう一度目を凝らす。


「……アー!」


 思わず大声をあげてしまった。

 いきなり情報が流れ込んできたのだ。視覚情報ではあるのだが、これはなんとも、未知の感覚だ。

 圧倒されながら、どうにか、自分に理解できるかたちに落とし込もうとする。


 たとえば……。これはサーモグラフィーで録画された、再現映像なのだ、と考えてみた。

 すると途端に、視ているものの意味がクリアになった。


 ──なにコレ、面白ーい。


「加害者は、男性。被害者に向けて、冷たいナイフを、イッパイ飛ばしてマス。

 コトが起きたのは……二四日前、から、その翌日にかけての真夜中」


 イツキの言葉に、レイシィは少し驚く。《解析アナライズ》は基本にカテゴライズされるが、わりと高度な魔術だ。

 もしかすると、知識がきちんとあれば、自分以上に、イツキの方が視えるのかも知れない。


「これは、《氷結片アイス・シャード》という、気象魔法の一種。

 それと、魔法の練度は、五段階で表されるの。

 厳密な線引きはあいまいになるけど、見習い、初級、中級、上級、達人……」


「その区分なら中級という気がシマス。この使い手は、気象魔法の中級者。

 ア、待ってクダサイね、それに」


 レイシィの言葉をさえぎったイツキは、眼鏡越しに視えるものに意識を集中した。

 まだまだ、もっと、わかることがある。


「この使い手、隠そうとしてナイ、イエ、隠す能力がアリマセンね。

 二五歳くらいかナァ。階層は外道、異国の人だと思いマス。

 水のほか、風にも適性アリ。ダケド、ぜんぜんきたえてナイ。自覚ナイのカモ。

 魔術を放った時、かなり気持ちが乱れてたミタイ。ビックリしてあわてて撃ってル。

 デモ、殺しに躊躇があったワケじゃナイっぽい。ってコトは反撃された?」


 レイシィは絶句していた。自分にはそこまで視えないので、正誤の判断がつかない。

 しかしイツキが出まかせを言う理由もないので、信頼性は高い。


「おーい、火薬のにおいがするんだってば、あたしの話も聞けよお!」


 蚊帳の外に置かれたリオンが不服な声をあげる。

 レイシィは気を取り直して、思考をめぐらせた。


「ちょっと状況を整理しましょう」


 ◆


 深夜、住人が寝静まってから、使用人の一人が、玄関を開けて野盗たちを手引きする。

 侵入者は六人か七人。


 ひとりめの使用人は、睡眠中に殺される。

 ふたりめの使用人は、異変に気づき、空き部屋に逃げたが、やはり殺害される。


 ウラント氏も騒ぎに気がつくが、籠城をえらんだ、もしくは外に逃げるには遅すぎた。

 室内で、ゲルグ銃を構えて待ち伏せる。

 侵入者に発砲するが、弾は外れた。

 おそらくウラント氏が次弾を装填するか、賊の魔法の発動が先か、きわどいタイミングだっただろう。

 だが遅れをとったのは屋敷の主人の方だった。


 内通者は野盗たちに合流して、ともに金品を荒らし、屋敷をあとにする。

 もちろんゲルグ銃も盗んだ。

 バルデンは世界一、銃の生産量が多い国だが、それでも希少で高価な品だ。盗まれないはずがない。


「ほら、寝室の壁にフックがあるでしょう。銃はもともと、そこに掛けてあったのよ」


 イツキとリオンは指された箇所を見て、納得する。

 フックの形は、ちょっと独特で、剣がかかっていたようには見えない。銃だと言われると、なんとなくそう見える。


「屋敷に裏切者がいたって話も、うなずけるよ。

 無理やり入った感じがないからな。

 あと、イツキは犯人が異国の人間だって言ったな? わかんのか?」


「この世界の地理を知りマセンケド、ブライヒェンの人々とは、なんかチガウ気がしマス。

 といって、リオンにはぜんぜん似てナイ、確実に、獣人ではナイ。

 ダカラ、外国の人なのカナーと」


「あたしたち、魔法は使わんからね」


 そう、獣人ではないだろう。レイシィは考えてみる。

 イツキはこの世界に来てから、バルデン王国の人間としか、接していないはずだ。

 それに比して「なにかちがう」というのなら、位置的にイスペルタ共和国の人間である線が濃い。


「イスペルタの盗賊の一味が、本国で活動しづらくなり、くにざかいを越えてきた……ありそうな話。

 この屋敷は立地が悪い、六人以上もいれば襲撃できそう。

 ただ、力押しを避けて、わざわざ使用人のひとりを抱き込んでるんだから、リーダーはなかなか慎重なのね」


 これだけのことがわかれば、十分ともいえるのだが。

 レイシィはこれ以上、調べるか、仲間と相談して決めることにする。

 外では、西日が傾き始めていた。





 読んでくださってありがとうございます♪


 【次回】#09. 屋敷の調査(3)、6月19日(金)更新予定。


 内容としては、屋敷の調査のシーンの最終話です。酒飲んで一泊します。余談ですが、作者は酒も煙草もやらないので、作中のキャラクタにやらせて楽しんでるようなところがあります。

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