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暗黒転生/異世界がマジで殺しにきてる  作者: 猿谷ちひろ
1st - Die Die My Darling
15/41

#14. 旅の仲間

「二八、二九、三〇枚あるわね。

 ……ふぅん。意外とやるじゃない」


 レイシィは、どこか面白くなさそうだった。


「やりィ! えらいぞイツキ。さぁレイ、三枚の約束だよな」


「チッ。わかってるわよ」


 舌打ちして、リオンに金を渡すレイシィ。賭けをしていたらしい。


「それにしても、どうやって稼いだの? ぜったい無理だと思ってたのに」


 ──無理だと思ってたんデスか。

 ──この人、ドSだナァ。


 やはり、余分に稼いだ一〇枚は隠し持っておこう。

 いずれにせよ、レイシィに借金があることは変わらないが、バカ正直にいま渡すよりも使い道があるかも知れない。


 イツキはレイシィに答えて、夜魔のこと、コリーとメラニーのことを話した。


「はあ? 夜魔を倒した? 初耳なんだけど」


「す、スミマセン。いろいろあって言いそびれてたってゆーか。

 ってゆーか、言ってマセンでしたっけ?」


「怪物に襲われたとは聞いたけど、てっきりオオカミだと思ってたわよ」


 レイシィは思い出す。


「でも、足首の傷を見た時、みょうに断面がきれいだとは思ったわ。

 だけど、その時点ではすでに化膿がひどくて、あんまりわからなかったのよね。

 ベルガに、イツキを見つけた時の状況をもっとくわしく訊くべきだったか……」


「まあ、すぎたことはいーんじゃねえの。

 それよか、あたしはイツキに夜魔を倒せたことのが不思議なんだけど」


「そうね、リオンの言うとおりだわ。

 その、板みたいな道具が光るのは見せてもらったけど、夜魔を遠ざけることはできても、倒せるとは思えない」


 宿の、室内である。他人の目がないので、実演してもいいだろう。

 イツキはスマコンを操作して、フラッシュの機能を見せた。


「わッ!?」


 レイシィとリオンはそろって声をあげ、ぽかんとしている。


「な……なんなのよそれ!? そんなこともできたの!?」


 レイシィが心底、驚いているのを見るのは、イツキ的に、ちょっと気分がいい。

「うへへ、スゴイでしょ」と無意識にドヤ顔になる。


「なんて強い光……信じられない。そりゃあ夜魔も即死するわ。

 そんなことができるのに、なんであなた大ケガしたのよ」


 それは、あの時はイツキが夜魔というものを知らなかったせいだ。

 いや、いまだって、楽勝だとは思えない。

 イツキには戦いの心得がまったくないし、夜魔はすばやく、狡猾だ。 

 スマコンを取り出しても、もし夜魔が、それが武器であることに気づいたら?

 フラッシュを浴びせるのに先んじて、手首から斬り飛ばされたら、終わりだ。そのあとどんなふうに殺されるかは考えたくもない。


「なるほど……。わたしの魔法、リオンの体術、それにイツキの光。

 息がぴったり合ってたら、夜魔退治で鳴らせそうだけど、甘く考えない方がよさそうね」


 レイシィはうなずいて、それからイツキに笑顔を向けた。


「ともあれ、あなたは合格よ。

 借金は返してもらうけど、もうどこかに売り飛ばすとは言わないわ」


「もとからそんな気、なかったろ」


「あら、リオン、わたしがそんなにやさしいと思う?」


「思わないけど、こんなめずらしい人間に興味持たないはずがないもん。

 面白がって手放さないだろ、レイの性格なら」


 イツキは、自分がこのふたりに出会ったのは幸運と思うべきなのかどうか、悩んでいた。

 しかし、まあ、なんだかんだでまだ生きている。それは事実だし、それだけで十分かも知れない。

 頭を切り替えて、べつの疑問を投げかける。


「ところで、あの姉弟に会って、チョット気になったコトがあったんデスケド」


 イツキは、レイシィの緑黄色オリーブグリーンのツインテールを見つめながら言った。


「あのふたり、レイシィと髪の色がおなじデシタ。

 ダケド、市内では青灰色ブルーグレイの髪の人もチラホラ見るんデスよね。

 それと、村の人たちはみんな茶色い髪デシタし、ベルガだけは例外的に灰色……。

 もしかして、もしかすると、髪の色と身分が関係アリマス?」


 レイシィはちょっと黙っていた。なにか、虚を突かれたという感じ。

 代わりにリオンが、


「イツキってさ、あたしより莫迦?」


 いや、と気を取り直したらしいレイシィが入る。

 イツキの国ではきっとそうじゃないんだわ、だとすれば、そこに気づいたのはむしろ察しがいいのかも。

 そうひとりごちてから、説明してくれた。


「そうよ、髪の色でその人間が属している階層がわかる。

 農民は茶、庶民は青、自由民は緑、騎士や学師は赤で、王侯貴族はきれいな金髪。

 その、メラニーとコリーって商人、それにわたしは、風層階級。

 おもに商人、冒険者、芸術家、魔法使いなんかの階層ね」


 基本的には、それぞれの階層で住み分けており、他の階層とかかわるのは、めずらしいことらしい。

 おなじ階層の者同士でしか、結婚しないから、生まれてくる子どもも当然その階層に属すことになる。

 ただ、新生児の髪は、そのままなら灰色だ。

 聖職者から、身分に相応しい洗礼を受けることで、髪の色が変わる。


「エ、髪の色が変わル?」


 思わず訊き返したが、あたりまえでしょう、という顔をされる。


「だから外道というのは、五柱神、いずれの祝福も受けていないということなのね。

 犯罪を犯したりして、司祭から祝福の取り消しを受けると、消炭色チャコールの髪に変わる……正確にはもどると言うべきかしら。

 外道はつまり、本人が罪人であるか、罪人の子孫。または孤児や私生児なの。

 それでも、まっ黒の髪の人間なんていないから、イツキは異質で不吉なのよ」


 この世界で、髪の色が、いかに重要視されるかはわかった。

 イツキも聖職者の祝福を受ければ……いや、だめだ。

 まず、聖職者どころか、人前に出ていけないのだ。それに、異世界人である自分の髪は、変色しないかも知れない。

 ……ふとイツキは思いついた。


「染めればイイのデハ?」


「ああ、それ、重罪。

 それに髪だけ染めたって、生まれた時からの立ちいふるまいや雰囲気で、まず、所属階層はバレる。

 髪をぜんぶ剃るのは聖職者だけで、そうじゃない人間が勝手にやったらこれも罪になる。

 ついでに言うと、病気や、高齢者で、髪がまったく生えてない場合は、首に色のついた布を巻いたりして、所属を示すことになってるわ」


 だめか。いいアイデアだと思ったぶん、イツキは落胆した。

 どうにかならないものだろうか。頭巾で髪を隠していても、こんなもの、ちょっとしたはずみで解けてしまう。

 気が気ではなくて、ものすごくストレスなのだ。


「なあイツキ。灰色に染めたらいいんじゃね?」


 リオンが言った。


「……エッ?」


「染めてることがバレたところで、黒髪がもともとヤバいんだからさ」


「…………」


 そうだ。黒髪というだけで殺されるなら、髪を染める罪なんてリスクのうちに入らない。

 立ち居振る舞いに関しても、この世界の常識を知らないイツキは、どの道、″無教養の外道″以外の真似はできない。


 イツキは、思わず、両手でリオンの手を握りしめた。

 髪を染めて外道に成りきれば、この世界でも、人目を気にせずにやっていける。

 あはははは、笑いながら握った手をぶんぶん振る。

 リオンはされるがまま、ただ、呆れた顔をしていた。


「やっぱイツキ、あたしより莫迦だろ」


「ハイそうデスね」


「わたしはとっくに思いついてたけどね」


 イツキもリオンも、同時にレイシィを振り向く。

 レイシィはにこやかに言った。


「いつイツキが自分で気づくかなと思って、見てた」


「転生したらご主人サマがドSすぎる件について」


「なに言ってるのかわからないけど、わたしなりの親切よ?

 この世界にあなたの保護者はいない、なんでも自分で考えないと、長生きできないもの」


 まあ、それはたしかにそうかも知れない。


「それと、借金は忘れてもらっちゃ困るけど、もうわたしご主人さまじゃないわ。

 大金を貸しているとはいえ、基本的には対等というか、まあその、仲間? みたいな?

 いや、わたしに借金が銀一七〇枚残ってるという、立場はわきまえていて欲しいけど」


 ──メチャクチャ借金、強調してくるじゃナイデスか。


 とはいえ、ほぼ、仲間と認めてもらえたようで、それは正直なところうれしかった。





 読んでくださってありがとうございます♪


 【次回】#01. 日記アプリ、4月24日(金)更新予定。


 内容としては、第二章のオープニングであり、イツキ自身が書いている文章からの抜粋、みたいな設定です。

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