表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の終わり  作者: 紅柚子葉
1/1

前編

いつからだろう。変な感じ。君のこと、考えるだけで胸が熱くなる。どうしてだろう。なんで君なんだろう。


太陽は文句を言ってやろうかと思うほどほど眩しい。

空を見ると、この季節だけ雲がもくもくと背伸びをしている。秋はあんなにうっすらしてるのに。

「はぁ〜、あっつい。」

口を開けば暑い、眠い、だるいしか言っていない気がする。

「美玖〜、大丈夫?スポドリあげよっか?」

「灯里〜!ありがと〜!」

私は親友の灯里から貰ったスポーツドリンクを一気に流し込んだ。

「ぷっはぁ〜っ、おいしいぃ!こんなに美味しかったっけこれ。」

「まぁ、この天気だとしょうがないよね。今日38度超えるって。」

「暑すぎるよ〜。死んじゃいそう。なんでこんな暑い日に部活なんてあるの〜?」

「まぁ、大会が刻々と近づいてるからね。先生も先輩も焦ってたよ。『あと一週間しかないーっ!』って。」

夏休みに入って二週目。我がテニス部はすぐそばまで近づいてる大会に向け、気合が入ってた。

と言っても、気合が入っているのは先生と先輩だけ。

一年の私達はやる気が全くもって出なかった。

「よしっ!今日の練習をはここまで!もっとやりたい気持ちもあるが、熱中症になってもらっては困るからな。しっかり休むように。」と先生は言った。

その言葉がまるで回復の魔法のように感じた。

「はぁ〜、ようやく終わったぁ。灯里、コンビニでアイス買わない?」

「ごめん、このあと塾があって。」

「あっ、そっか。じゃあ、またね。」

「うん。次の練習は木曜日だからね!忘れないでね!」

「そうだっけ?!忘れてた!ありがとー!」

(しょうがない、一人で買いに行きますか。)

駐輪場の自転車を押しながら、私はコンビニに向かった。


私が住んでいる街は、決して都会とは言えない海沿いの街。コンビニだって、近所に二軒しかない。しかも結構遠い。自転車通学で良かったと思える点がそれだ。

この時期はやっぱり飲めるアイスに限る。甘いバニラの香りがなんともたまらない。

冷たいアイスが喉を通る感覚を楽しみながら、家路を歩いた。

家に着いた時、隣の家のドアが開いた。

「おっ、よう美玖。部活帰りか?」

「星那、どこか出かけるの?今日サッカー部は練習ないでしょ?」

「お袋にパシられるんだよ。こんな暑いのに。」

「あ〜っ!それ、部活終わりの私に言う?!」

「お前、そのゴミ、絶対アイス食ってただろ。」

「ずっと外にいたんだからそのくらい食べさせてよ」

「ま、いいや。とりあえず行ってくるわ。じゃあな。」

「うん。じゃあね。」

星那は自転車に乗って走っていった。

その背中を、私はボーッと見ていた。

(はっ!なんであいつの背中見てるの私?! 疲れてるのかな?)

早く休もう。私は家に入り、吸い込まれるようにベットに飛び込んだ。


木曜日、また地獄の練習日だ。

上からこれでもかと暑い光が降ってくる。

(シャワー浴びたい。もう溺れるくらいシャワー浴びたい。)

そんなことを暑さでやられている頭で考えながら、ただただ黄色いボールを打ち返していた。

休憩中、灯里の口からとある言葉が溢れた。

「美玖、私ね。好きな人できた。」

「え?!そうなの?!」

あまりの驚きに暑さが吹き飛んだ、気がした。

灯里は私の学校でも上位に入るくらい顔が良い。ファンクラブがあるくらいだ。それに友達も多い。こんな私とずっと仲良くしてくれるのが不思議なくらいに。でも、今まで恋の話なんてしてこなかった。だからこそ驚いたし、嬉しいかった。

「誰?!誰なの?!」

私は、やや食いつき気味に聞いた。

灯里の顔は、少し暗かった。

「あのね、美玖にはあまり言いにくいんだけど。私の好きな人は、、、」

その言葉に続いて、灯里は重そうな口を開いた。

「、、、飯島、星那くん。」


「、、、え?」

頭が真っ白になった。灯里から聞いた名前は間違いなくあいつだった。一言一句同じ名前。

「飯島星那って、あの?」

「うん。美玖の幼馴染の、飯島星那くん。」

「な、なんだぁ〜!星那が好きなんだぁ〜!知らなかった!ねね、どうして星那のこと好きになったの?」

「サッカー部の練習を見てて、サッカーを全力で頑張る姿を見て、カッコいいなって。」

「なるほどねぇ〜」

私は出来るだけ声のトーンと表情を明るくした。

もちろん心はそんなに穏やかではない。

(、、、ん?なんでだろう。なんで私はこんなに動揺しているの?)

自分でも分からなかった。私の鼓動は心と裏腹にどんどん加速していた。

(でも、灯里の初恋なんだ。応援しなきゃ。)

灯里にはいつも助けられていたし、友達として大好きな人。

そんな灯里の恋は応援したい。親友の恋は応援する、それが普通だろう。

「星那はさ、いい人だよ。優しいし、明るいし。本当に、いい人。だからさっ!付き合って損はないっ!幼馴染の私が保証する!」

私は灯里に満面の笑顔を見せた。

「、、、美玖は、優しいね。ありがとう。」

「でもあいつ、恋には鈍感そうだからなぁ。よしっ!私も協力するよ!」

「ほんと?!」

「うん!大切な友達の恋だもん!応援しなくっちゃ!」

「みくぅ〜、ありがと〜〜」

「おい!!城田!池本!いつまで休憩している!練習再開するぞ!」

「あちゃー、呼ばれちゃったね。灯里、行こ!」

「うん!」

灯里はとても明るい笑顔になった。私はそれが嬉しかった。

でも、何かスッキリしない気持ちがあった。

心に黒いモヤがかかったような。


夏休みといえば海!青春といえば海!

海沿いに住んでいる私達からすると海なんていつでも泳げるけど、今日はちょっと特別だ。

それは、[灯里と星那をくっつけよう大作戦!]

灯里の恋に協力すると言った以上、何か手助けになることをしたかった。

とりあえず、くっつくような環境を用意しようと思い、私、灯里、星那、そして星那の友達の秋村悠斗くんと一緒に海水浴に来たのだ。

ちなみに悠斗くんはこっち側、協力者だ。

彼は灯里ファンクラブの一員。「灯里の水着姿見れるよ〜」なんて言ったらすぐに協力してくれた。

悠斗くんは灯里をアイドルとして見ているようで、灯里が誰を好きになろうが関係ないらしい。

そんなこんなで、私達は海での1日を過ごしたのだが、ここで問題が起きた。

((やべぇ、くっつけ方が分かんねぇ。))

ただ今、悠斗くんと私で緊急会議中である。

そう。環境を用意したのはいいものの、中身を全く考えてなかった。

今の状況は、ただ仲良し4人組が楽しく海で遊んでいるだけだ。

そうこうしているうちに、夕方になってしまった。

「やばい、こっからどうする?」

「んー、ぶっちゃけ俺は池本さんの水着姿見れたから大満足なんだけど。」

「それを条件に協力を要請したんでしょう?!あーもう、どうしよっかなぁ。」

頭の中は絶賛混雑中だ。そもそも、恋愛経験のない私が2人をくっつけようなど無理にもほどがあった。

「秋村くんさ、男性代表として聞くけど、どんな状況だと女子に惚れる?」

「そーだなぁ、いっそ2人きりになれば惚れるかもな。」

「ふーん、、、あっ!そっか!!」

そうだ!簡単な話だ!2人きりにすればいい!

「秋村くん!そういうことだよ!」

「はぁ?2人きりにするってことか?なんかベタすぎねぇ?」

「そうかもしれないけど、それでも惚れるんなら問題ない!」

「楽観的だなぁ。」

そうと決まればあとは作戦だ。どうやって2人きりのするか。

2人きりになるということは、私と秋村くんが離脱しなければならない。

それも自然に。ちゃんとした理由を考えなくては。

「じゃあ、こうしない?この近くにお墓あるでしょう?」

「あるけど、それが?肝試しでもすんの?」

「ご名答。夏といえば肝試し!即席のくじでも作ってそれで2組に分けるの。1組は驚かせる側になる。

灯里は結構怖がりだから、いい感じに相乗効果で好きになるんじゃない?」

「安易な考えだな。ま、それ以外方法思いつかねぇし、それでやってみるか。」

「よし!それじゃくじを作ろう!あの2人がペアになるようにね!」

「驚かせるペアって、どうやって決めんの?」

「大丈夫、星那はじゃんけんめちゃくちゃ弱いから。」

「なるほどね。」

こうして、灯里と星那をくっつけよう大作戦は終盤を迎える。


計画は順調に進んだ。灯里と星那がペアになり、星那はジャンケンで負け、私と秋村くんが驚かせる側になった。

「ルールは簡単!この階段の上にある墓場にペアで行って帰ってくる、それだけ!」

「おい美玖、マジでやんのか?あの墓場、出るって噂のとこだぞ。」

「えぇ〜〜、出るのぉ〜〜?」

怖がりの灯里は案の定、まだ始まってすらいないのにブルブル震えている。

「へぇ〜?星那、あんた怖いの〜?」

「そっそんなわけねえだろ!いいよ、行ってやるよ!」

「よしっ!それじゃあ、私と秋村くんは上に行くね。準備ができたら連絡するわ。」

そう言って、私と秋村くんは階段を登った。

「なぁ、さっきの震えてる池本さん。めっちゃ可愛かった。」

「はいはい。さ、着いたよ。」

その墓場は崖の上にあった。

(噂では、この崖で飛び降りた人の霊が出るんだっけ。落ちないように気をつけなきゃ。)

「なぁ、城田はそこでいいのかよ。崖のすぐそばじゃん。」

「大丈夫、結構距離とってるから。じゃ、連絡するよ。」

「おう、気をつけてな。」

私と秋村くんは身を隠し、2人の到着を待った。

「ほ、ほほほんとにででで出るのぉ?」

この分かりやすいビビりっぷり、灯里の声だ。

「だ、大丈夫。ただの噂だよ。」

星那の声、ちゃんと2人で到着したようだ。

少し間を置いたあと、

「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

恐ろしい雄叫びと高音の悲鳴が聞こえた。

(秋村くん、マジになりすぎだって。私もちょっと怖かったよ。)

秋村くんが驚かせたということは、次は私の番だ。

少しずつ2人の足音が近づいてくる。

(よし、思いっきり驚かせちゃおう。秋村くんに負けないようにね。)

2人の足音が目の前に来た瞬間、私は飛び出した。

その時だった。湿気をたくさん含んだ地面が私の足を滑らせた。

私の体は勢いよく飛び出した分、ものすごい勢いで後ろに傾いた。

その先は崖だった。戻ろうとしても私の体は言うことを聞かなかった。

そして、私は空中に浮いている感覚を覚えた。

(嘘、私、本当に。)

少し星那の姿が見えたような気がした。

そこで、私の記憶は途切れた。



楽しんで頂けましたか?

この作品は二部構成となっています。

次回、いつになるかは分かりませんが、

暇つぶし程度でも読んでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ