こうして始まる嘘(女装)の学園生活
───騙されたままだったらきっと傷つかずに済んだと思う。
きっと普通で細やかな幸せを得た生活を送ることが出来たんだと思う。
優しい嘘を吐くなら、その責任はきっと最後までその嘘で騙し通す事なんだと思う。だってそうじゃなきゃ───。
誰も救われないじゃない?
夢の中で自分が今夢をみていることに気がつくことがある。いや、この言い方は正しくない。正しく言えばこの夢なら、すぐに夢をみているのだと理解できるだ。何故ならこの夢の始まりはいつも同じだからだ。
染みが目立つ白い天井、何時だって最初に見えるのはこの病室の汚ない天井だからだ。何度も見ている景色、繰り返し見すぎてもはや染みの数すら覚えてしまった。いつも真っ先に天井を見ている自分に嫌気が差し、そんな自分に言い聞かせる。
いつまで天井を見ているんだ俺。もういいだろう?逃がしてないでちゃんと目を向けろよ。覚悟はもうしただろ?
夢の中の自分に言い聞かせ、天井を見上げていた視線を降ろしていく。視界が天井から壁へと変わり、そしてベットの上で体を起こしている小さな少女の姿を映す。少女もこちらに顔を向けてはいるがその視界にはおそらく何も映さずに、虚ろな眼をさだよわせていた。
「───ちゃん。」
彼女の名前を呼ぶが、少女は何の反応も示さない。分かってはいたが、それでも胸に痛みがはしる。今の彼女にこの程度の声が届かないことは分かりきってはいても、それでもこんな彼女を見るのは辛かった。
だから言おう。彼女に届く言葉を。例えそれがどんなに残酷なことなんだとしても、彼女がまた笑うことができるのならば吐こう。
さあ、嘘を吐こう。
この時ばかりは、嘘を吐くことに慣れた自分に感謝した。この嘘は決してバレてはいけないのだから。まるで自分が話している事が真実であるかのように話ながら、そんな自分に安堵する。最低であることは知っている。けれどそれは必要な事なんだと自分に嘘を吐けばいい。
そんなことを内心で思いながら、嘘を話し続ける。話が終わり、いつの間にかうつ向いていた彼女の反応を見る。
「─────ぅぁ」
ギリギリ聞き取れる程度の小さな音が聞こえた。
「──ろぉ、し」
少しずつ聞き取り易い音になっていくそれは彼女の声であった。彼女の声を聞くのは1ヵ月振りのことである。久し振りに使用された声帯はまだ上手く働かないのか、言葉にならない声を出すばかりだ。
彼女は何度か呼吸を整え、うつ向いていた顔をあげる。そこには虚ろだった表情はなく、その瞳も自分のことを見ていた。
「あ、あん・・・んた」
苦しそうに一言、一言を口に出す。そんな彼女を見て俺は安堵した。
ああ良かった────、
「こ─ろ──す」
ちゃんと騙せた。
意識が現実にへと引き上げられる感覚を感じながら、そう確信した。




