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狂気的愛撫

作者: 鬼火

私は愛と欲望を結びつけることができない。

愛が善ならば欲望は悪である。

愛の対象を欲望の眼でみることはできないし、その逆もまた然りである。

しかし、思念の中で、激しい自己嫌悪を伴いながら、限りなく美々しく麗しく……そう試みることがある。

愛と欲望の究極の折衷だ。

それはいかにも恐ろしい虚妄である!


君の唇を塞ぎたい

真っ赤に燃え上がるその薔薇の唇を

息を止めて、生命を止めて

絡みつくほどに、お互いの個体的境界線は融和され

二人は個を失うの

そこでは生も死も融和してしまった


君の頸筋に接吻する

狂おしい感覚の蠕動を感じながら

今や二人は予期的行動をのみ看取する

熱のほとぼりが冷めるまで!


蛇のように指と指を絡ませて

温もりを授けあい

未来を頑なに信じて解くのも惜しむ

お互いの無垢な手が悪魔に騙され、そのために命の木から果実を取って食べてしまわぬよう!


その代わりに二人は知っている

神が作りたもうた命の木の成すよりも稀覯な果実

この世に三つとない崇高な果実をば

それをしとやかに差し出すのだ、献身的に


なだらかな丘陵に繁茂する悩ましげな甘美

生命的で、感覚的で、不条理な甘美

なにも望んではいないのに

なぜこうも淫らな形に、

湿潤が


その激情的な節目に二人は差し掛かり

私はこう猜疑する

「これが美しい物語?」




ーー斯くしてこの虚妄は莫大な崩壊音を轟かせて砂塵と消えるのである。

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