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終末と写真と丘の上の館  作者: あおまめ
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 その部屋は凄く広く豪華なデスクが奥にあったりするのだが、膨大な量の資料が積み重なり、まるで塔の様に何本もそびえ立っているためその圧迫感から感じる。その部屋のソファだけは、資料が侵食してなくこの部屋唯一の真面な空間である。

 そのソファには一人の少女と男が腰かけて、ゆったりとくつろいでいた。男は整った顔をしているのだが、ボサボサの髪にひげが所々伸びている一目で不潔そうな印象を受ける。そんな男と対照的に少女は、その金髪を綺麗に整えていて身なりもきっちりいている。

 その場にあまりそぐわないその少女は、男の膝に座りお菓子を食べていた。男はそんな少女を眺めながら笑い、視線を外しどこか一点見つめながら煙草を吹かす。そんな、光景が繰り返されていた。

 しびれを切らしたのは少女の方であった。お菓子を食べ終わり、暇になったのだろう。少女は男の服をつかみ引っ張る。

「退屈」

 そう呟きながら、服を引っ張り続ける。男なそんな少女に苦笑いを浮かべつつ、立ち上がり話かけた。

「そうか、暇かぁ。おじさんが出来る事はいつもの話ぐらいだけど、それで良いなら話をしよう。検査まで時間があるしね」

「うん。それで良い」

 男の言葉に少女は即答する。男はボリボリと頭をかきながら、資料の海を眺める。一番取りやすくかつ、退屈でないものはどこだろう。考えながら資料を眺めていると、男はある事を思い出した。

「確か、お前写真とか絵とか好きだったけ。その手の本とか持って行ってたよな。資料があった気がするんだが、この前研究で集めたんだよな」

「そうなんだ。写真は好きです」

「じゃ、決定。資料探すからちょっと待ってなと、すぐだと思うから」

 そう言って男は、資料の山の中に潜り込む。少女はその姿を不思議そうに見つめ、時々クスリと資料と格闘する男を見て笑うのだった。

 そうしている間に、男はいくつかの絵や写真を持って資料の中から出て来てソファーに座る。そして、少女は当たり前のように男の膝に座り男を見つめる。その微笑ましい光景に男は少女の未来を心配しつつも、今はこの幸せに答えるように笑っている。

「じゃ、話を始めるぞ。今日の話は、僕の永遠の研究テーマで人類滅亡のきっかけになったとされる花についてだ」

「まだ、絶滅していない」

「そうだね。私に、君もいる。もしかしたら、他にも生き残りがいるかもしれない。だが、絶滅だ。全盛期、人類が繁栄を築いた時代には実に七十億、いや八十億もいた人類はその姿を地上から消した。もうこれは絶滅と言っていいレベルだ。二、三百人生きていたところで過去の遺物だよ。食物連鎖の外にいると考えていいと思うよ僕はね」

 そう言って男は煙草をくわえる。ぷはぁーと吐く息と共に煙が舞い、空間を曇らせる。少女の前で吸うバカがいるかと、クレームが付きそうなものだが、そんな事を言ってくれる人なんてこの世界にいるのだろうか。一人、二人居たらいい方だ。男はそんな事を考えながら、灰皿に煙草を入れ続きを話す。

「最初の異変が確認されたのはいつだっただろうか、それは二十一世紀に起きたとされている。気が付いたのがその時だ。本当はもっと早くから、この異変は始まっていたのかもしれない。最初に気が付いたのは、宇宙飛行士というこの星を外から見ている人たちだった」

「宇宙て?」

「あーそこからなの。宇宙とはこの星を出た先の世界の事さ。科学技術が発展していた当時は、そういった事が可能だったんだ。人間は月にだって行けたのだからね。案外、月に人類のどれだけかは逃げているのかもしれない」

 少女は、宇宙について考える。そもそも、彼女に科学の知識はない。そんな少女からすれば、素晴らしい事でありおとぎ話の産物だ。それはさながら、大魔法を操る魔術師を私たちが思い浮かべ、憧れるそんな心情に似ているのかもしれない。

「えーこほん。話が脱線したが、その宇宙飛行士が最初に異変に気が付いた。ある日突然、彼らが地球を見ると、そこには大きな虹色の花を何本も咲かせた地球が彼らの目には映った」

 男は持ち出した資料の一枚を少女に見せる。それは地球が描かれた一枚の絵だった。その地球にはまるで生け花でも刺したように強大な花が七本、地球から生えている所が描かれていた。その絵を、少女は興味深そうに見つめていた。不思議な物を見るように、綺麗なものを見て感動する様に。

「それが絵であるのには理由がある。その花はあらゆる計測器で観測できず、人間の目以外で確認する事が出来なかった。いや、実験で動物にも見る事が可能だったらしいんだが、結局は生き物にしか見る事が出来なかったんだ。時を同じくして、人類はある病気に苦しめられた。人間だけでなく、生きとし生けるもの全てがその病気に苦しめられることになる。その名を・・・」

「魔化」

「その通りだ。よく覚えていたね」

 そう言って男は、少女の頭を撫でる。少女は、表情には出さないものの嬉しそうであった。そして、男は別の資料を持ち話を続ける。

「その魔化と呼ばれる病気は、動物の体を異質なものに変えていった。鳥と呼ばれる種族はドラゴンになり、海を泳ぐ魚は半魚人となるなどして生態系がめちゃくちゃになっていったんだ。もちろん人間もその体が変質していき、見るも無残な姿になる者も多くいた。その病に侵された人間たちは知性を失い、暴れ出す者が多数いた。これも混乱を拡大させる要因になったと言われている」

 男は幾枚かの写真を少女に渡す。そこには、空を飛ぶドラゴンやどこかに行進するオークなどが写し出されていた。特にドラゴンを映した写真を念入りに見る少女、戦隊もののヒーローにはまっている少年の様だった。

「まぁ、そんな事が起き始め所を境に人類は新しい技術を獲得する。それが魔法だ」

 そう言うと男は、新しい煙草を取り出し何もない手から炎を出し火を付けた。ふぅーとそれを吸いカッコつけるも、少女は今だ渡された写真に夢中だ。あれと肩を落としながらも、そろそろ良いところなので気合を入れる。

「コホン、魔法はその時初めて使用された訳ではない。科学が発展していた時代に影に追いやられていたものが、この時初めて表舞台に出て来たのだ。それは、科学では対処できない事態が起こっていたという理由ともう一つ、今までの威力とはかけ離れた魔法を使用できるようになったためである。地球に花が咲いて以降、同じ魔法を使用しても雲泥の差が生まれた。それは、花が何らかの要因であるのは間違いないという事。私の研究はそんな花を調べ、花が咲いて以降の不可解な出来事を解明するのが目標なのだ」

「誰か見てるの?」

「ふむ、痛いところついて来る。魔法が人類の歴史に出て来たからと言って魔化を防ぐことは出来なかった。それどころか、軍事に利用されたり人類事態の内部崩壊を誘発させる原因になり、人類は地球からほぼ姿を消した。確かに今更研究をして原因を突き止めても、人類は戻ってこない。しかし、私は一人の人を種族ではない個を、守りたいから研究を行うのだよ」

 男は言い終わると、外を見る。景色でなく、どこか遠くの誰かを思うようにして。少女はその姿を時々見かける。それは決まって、過去を語るときや花の話をするときに多い。その姿はいつもぼさっとした冴えない姿でなく、決意に満ちた目をした男の姿であった。その姿に少女は・・・。

 ピピピピピピピピppp----

 どこからともなく電子音が鳴り響く。

「もうそんな時間かぁ。検査の時間になったみたいだ。行くぞヨルム」

 男は、少女の手を引き部屋を出る。少女は手にした写真を握りしめたまま、検査を行う部屋に向かうのだった。


最近よく体調を崩します。皆様も体調管理は大切に

キューブの方も近いうちに投稿出来たら良いなと考えています

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