青い森
そこは空のように青が広がっていて、海のように日の光により多彩な青を見せた。だかそこは、空でもなく海でもない。森の中である。
木々が生い茂り、私の目の前には泉がある。色を除けばどこにでもある普通の森なのだが、そのすべてが青で統一されているため幻想的な風景が広がる。すべてが青でありながら、微妙な色の違いで木や泉がはっきりと分かり、また日の光の入りようでその風景を変えることからひとつとして同じ風景はない。
「ここはやはり当たりだな。遠くから眺めていてひょっとしたらと思っていたが、思った以上に素晴らしい風景だ。浸食が進むとこうなるのか、いやここだからこのような風景ができたのか」
青で統一された世界に全身で黒を被ったような服装をして、彼女はその場でその光景を目に焼き付けていた。髪は金髪長髪なのだが癖が強いのか跳ね回っていて、瞳は青と赤のオッドアイの美人なのだが眉間にしわをよせ険しい顔をしているためきつい印象を受ける。
そして、その黒で統一された服装はまさに魔女。帽子はとんがり帽子で、ローブを羽織その姿が私は魔女ですと叫んでいる。それに眼鏡をかけているため、インドア感がより一層にじみ出ている。そして何故か口を簡易的なガスマスクで覆っていた。そんな彼女は、その場所をさっきからうろうろしている。
「う~ん。ここは少し違うし、あっちは微妙だったからなぁ。なかなか良い場所を見つけるのが難しいな。フィルムの枚数も限りがあるから節約したいし、でも複数枚撮っておいてこれぞ一番てやつが欲しいなぁ。あークソ、もどかしい!」
何度も何度も両手で四方形を作り、風景に当てはめている。それをここに来て、二十分以上彼女は続けていた。時々彼女は、ローブの下に首からかけている大きなカメラを取り出し構えるが、なかなかシャッターを押さない。それどころか、首をぶんぶんと横に振り勢いよく別の場所に早足でかけていく。
この時代ではフィルムは貴重品なのだ。彼女がどんなに頑張っても、今持っているフィルム以外の物を見つけるのは至難の業であったりする。フィルムだけではない人類が作り出した物自体が、この世界では貴重品なのだ。彼女にフィルムを作り出す技術はないのだから。
「そうだ!あそこにしよう!あそこは木々の間から漏れる木漏れ日が綺麗だし、ちょうど泉も写る。ふふふふふ、完璧だ。なんて良いアイデアなのだろうか、私は天才だな」
突如、思い立ったように叫びだしその場でくるくると回り、不思議なダンスを踊りだす。笑っているのだろうが、眉間にしわ、目が鋭いので不気味な案を思い浮かべた悪役のようだった。そんな事は誰も見ていないので気にも留めないし、仮に誰かがいたとしても無視して喜んでいただろう。どっちにしろ気にしないのだ。
そんな彼女はスキップで今まで歩いた中で、自身のイメージに合った場所に向かう。彼女は別に写真家ではないし、本格的なテクニックなんかは知らない。ただ一つの古いカメラと限りあるフィルムで、このような幻想的な写真を趣味で撮っている。でも、趣味だからといって手を抜くような人物でもない。やるならとことんまでやる、だからこそ彼女は妥協しないのだ。
「ここ、この場所じゃん。おぉ、いいね。見るものすべてが青い森。その森の木漏れ日とそこに写る泉が、幻想的な風景をこれでもかと印象を跳ね上げる。この場所でこの森のいいところが全て、一枚に収めることができる。素晴らしい」
逸る気持ちを抑えつつ、彼女は自身のカメラとローブの下から取り出し構える。腕や指は緊張のあまり震え、このまま撮ればきっとブレてしまう。彼女のカメラはせいぜいフラッシュぐらいしか機能がないため、手ブレ補正など夢のような機能を有していない。だから、些細なブレですら致命的な失敗に繋がる。
彼女は自身の震えが収まるのを、じっとカメラを構え待つ。まるで時間が止まったかのような空間で、どれぐらいの時間が経っただろうか。カメラを覗いたまま固まっていた彼女の震えは止まり、彼女も覚悟を決めてシャッターを切ろうとする。
そんな彼女は気づいていない。さっきまでなにもなかった水面が揺らいでいることに。彼女を狙う魔物が水面の下からゆっくりと彼女を狙う。
彼女は自身の震えが完璧に止まったその瞬間を見逃さず、シャッターを押す。しかし、シャッターを押したその先には彼女が思い描いた景色はなく、大きな魔物が水面から飛び出しこちらに口を大きく開いていた。
「へぇ?」
気の抜けた声が出たが、その魔物が飛びついて来るの寸前のところでかわした。その魔物は三メートル程の大きな体をしていて半身が魚で、半身が人間のようであった。ようであったとは異様に顔面が大きく腕はついているが機能しているのだろうか怪しい。陸に上がった後も器用に魚の半身を動かしながら、彼女を狙う。
「ふざけんなよ!せっかくのフィルムが台無しじゃねえか!しかも、べちべち跳ねやがりやがって風景も台無しだ。どうしてくれるんだよ、この人面魚ヤローが!」
迫りくる魔物に、彼女はローブの下からマスケット銃を取り出す。突っ込んでくる魔物の突撃をかわし、木々をなぎ倒しながら止まったところに向かって撃った。
マスケット銃の引き金を引くと、銃身に文様が浮かび上がり弾丸が飛び出すさまに合わせて光る。銃口から飛び出した弾丸にも様々な文様が刻まれていて、薄く怪しく光っている。その弾丸が魔物めがけ飛んでいった。
「やべぇ。ついカッとなって使っちゃったけど、この銃試し撃ちしてないやつじゃん。あの脳みそまで腐った奴が作ったのが、普通の威力の魔術弾丸なわけないよな」
魔物に弾丸が食い込んだどうかというところで彼女は大きくジャンプして、魔物から距離を離す。弾丸はそのまま魔物に当たると、眩しい光を放ち大きく爆発した。その衝撃で木々から葉が飛び、いくつもの木が炎に燃える。さっきまで青で統一されていた景色は今や、炎の赤で染まりその後には炭が黒く残るだけだ。
「マジでか?ここまでの威力いるか?ふざけんなよ!この威力じゃ巻き込まれたら一緒にお陀仏じゃん。どうしたらこんな威力が出るんだよ。まてよ、あいつ確か最近、圧縮系の魔法を調べてたような気がするな。それとカガクと書いてる本を持って、床で寝てたよなぁ。それらが原因か?」
彼女は自分の中でなんとか納得のいく理由を探す。だが、なぜあのような威力が出てきたのか説明がつかない。それよりも今は風景だ。そのために下見や、遠出の準備などをしてきていたのだがあたりを見渡し大きくため息をつく。
「ダメだ。一面が火の海になってる。あーもお!このままじゃ私も焼かれる。まてよ。さっきギリ撮った写真が、もしかしたら綺麗に風景を残しているかも。それに賭けるしかないか」
最後はため息をつきながら、あきらめぎみにその場を去っていく。さっきまではしゃいで写真を撮っていた彼女の姿はそこにはなく、とぼとぼと去っていく後姿がそこにはあった。
明けましておめでとうございます
今年もあおまめをよろしくお願いします