彗星
私は世界の終わりが好きだ。今までも数限りない世界の終わりを見てきた。積極的に関わっていたこともあるし、ただ観測していただけの時もある。途中で気づいて手を出して失敗したことだってある。だがどれにも言えることだが、それは大変な、そして特有の面白さがあるということだ。黄昏時に妙に心が躍るように、滅びていく世界には心を打つものがある。一瞬で終わる時の華々しさ。じりじりと消耗して消えていく時の趣深さ。そしてそこに知的生命体がいれば、よりその面白さ、美しさは増す。滅びを受け入れることをよしとしない者達もいいし、滅びを受け入れる者達もいい。どれも等しく混乱し、等しく恐怖し、等しく静寂を迎える。その様が素晴らしく、毎度興味をそそられる。
滅び、それも消えていく様というのは大体地獄という奴だ。阿鼻叫喚とはまさにこれが起きた時に対しての言葉だと、私などは思う。そしてどれくらいの地獄になるかは、結構まちまちなのが面白い。その中でも今回は彗星によって滅びた世界の話をしよう。それもレアケースだ。
彗星で滅びる世界は中々多い。私が見た中でもトップ3の理由になる。ちなみにトップ2が資源の枯渇によるじり貧の滅亡で、トップ1が恒星の寿命だ。派手な終わりは実際の所レアケースな場合が多いのである。だから彗星による滅亡の話になったのではあるが。
それはさておき、彗星による滅亡でのレアケースの話だ。彗星を二回避けた世界の話だ。どうせするなら派手な話の方がいいだろう?
彗星を避ける、というのが無茶なことは言わなくても分かると思う。そういう話は、私の見てきたいくつもの世界の終わりの中で無かった事ではない。それは色々な方法を使っていたりする。地軸にロケットをぶっ刺して噴射で避けるというとんでもない作戦を考えた世界もあった。だが、今から話す世界はもっと無茶だ。先に書いたように、三回も避けたのだから。
先に書くと、その世界は恐怖で支配されていた。一つの惑星が、一つの力で統治されていたのだ。統治と言えば聞こえはいいが、逆らえば命はないというのは、恐怖で締め上げているのとなんら変わりはない。それでも、その世界の人達は疑問を差し挟まなかった。それ以外の選択肢が今までなかったのだからだし、、その疑問が生まれ、改善をしようとした時には即時に消されていたのもあるから、当然と言えよう。その力による恐怖政治。それがその世界の基本だった。それが長く続いたせいで、被支配者層はその支配に恐怖するのを忘れるくらい、当然のことだったのだ。
一つの惑星を支配できる力とは何か、その根源は何か。そこにはあまり興味が無い。その力を持ってしても、滅びを、その地獄を回避出来なかった、その事実の方が私には興味深いのだ。その力より強い、その滅びの力に心踊らされるのだ。その力を有していても起きる、滅びの様に心ときめかすのだ。どうやろうと始まる世界の終わりが。その様が。
話がまた逸れた。戻そう。とにかく、その惑星の世界は、恐怖で支配されていた。それも長年の積み重ねで、恐怖を忘れるくらいにだ。だから、この惑星の滅びの予兆である、最初の彗星が来た時はまるで統率は乱れなかった。それがぶつかれば世界が終わると言うのに、慌てる者はほとんどいなかった。元々長年の恐怖政治で支配に疑問を差し挟まないようになっていたのもあったし、その彗星の危険性に気づいて警鐘を鳴らした者もいたが、そうやった側から支配者の超自然の力で殺されたのもある。そうして、世界の危機に、言ってしまえばのほほんという長閑さで、その世界の人達は彗星の衝突という事実と相対した。
そして、その彗星との衝突は回避される。
先にその力に興味は無いと書いたが、それでもきちんと知ってはいる。あの惑星は、その惑星自体が一部の者に支配されていたのだ。その力はその惑星の公転すら変えることが出来たのだ。その公転移動によって、最初の彗星を回避した。
だが、その影響でその惑星の環境は激変した。大地震が起き、大津波が起き、気象は荒れ狂った。公転軌道を元にすぐ戻したのだが、その動きでまた惑星には影響が起きた。そしてそれによって起きた惑星への負荷は拭えるものではない。それでも、その惑星を支配する者の力で、その変化も多大な犠牲を残しつつもひとまず収束した。
しかし、その惑星に再び彗星が迫った。支配者は、また公転軌道を修正し、回避したのだが、ここで誤算が起きた。再び起きた惑星の大変化で、支配されていた者達が、支配者に反旗を翻したのだ。長年の抑圧から解放されたかのように、被支配者層は怒り狂った。その惑星の度重なる変化は、既に情報操作や心理操作、そして恐怖でどうにか出来る範囲を越えてしまっていたのだ。
そして、大戦争が起きた。
支配者層と被支配者層の戦いは熾烈を極めたが、いかんせん支配者層は全体からすると一握りである事と被支配者層と同じ、脆い生き物でしかないがゆえに、その惑星を自在に扱えるとはいえど数の暴力には敵うはずもなかった。支配者層は徐々に駆逐されていった。支配者層は追い立てられ、その力も弱まっていった。そうすれば当然被支配者層は勢いづく。そしてとうとう、支配者層が駆逐される日が来た。最後の一人に武器が刺さり、その命が途切れる。そのことに、滅ぼした者達は歓喜を持った。勝利だった。
その勝どきに呼応するように、三回目の彗星が登場したのだ。
その世界の者達は、どうするか考えた。どうにか避けないと、世界は終わる。しかし、その世界の者達に、それをどうにかする力は、残っていなかった。支配者層の持っていた超自然の力は失われている。そしてその力に頼った生活が長かったのと、支配者層を倒す為に資源を使い過ぎた為、技術面でどうにかすることも出来ない。
それから、何が起きたと思う? それはそれは素晴らしく滑稽で素晴らしく美しい様式だった。
その世界の者達は、自分達が殺した支配者層の生き残りを探し始めたのさ。その超自然の力で、破滅の道を回避する為に。そんなのが居たかって? 当然、そんな訳がない。彼らは完全に自分達を支配していた者を駆逐していたんだ。
しかし、彼らにはもうそれにすがるしか方法が無かった。そして捜し、捜し、捜して、最後に捜し出した。そう、捜し出したのさ!
当然、偽物をね!
その偽物が必死に公転をずらそうとした。でも、出来る訳が無い。偽物なんだから! それでもその世界の者達は希望を持った。自分達を支配していた力を、そして自分たちで駆逐した力を、再び求めたのさ。
結果? 当然、彗星に衝突されたよ。そして既にガタがきていたその世界の者達は、彗星の衝突自体の影響と、それに付随する粉塵などの影響で、あっという間に滅び去ってしまった。あれは美しかった! 全く、こういうのがあるから堪らないんだよ、滅びを見るのは。この美しさの為に、私は世界の終わりを見ているんだ。分かるか?
何? もっと滑稽なのは無いかって? 良い質問だし、良い興味の持ち方だ。だから教えてやろう。あれはそう……。
三題噺メーカーのお題に答えようシリーズ第11回。お題は「地獄」「彗星」「恐怖の世界」でジャンルは「偏愛モノ」。とりあえずまとめたものの、これを膨らませたらいいのかなー、という状況にあります。いつか挙げられたらいいですな。
追記:一箇所訂正した。感想でつっ込まれた部分です。後で直そうと思ってたのに、ですよ。