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夜天幻時録  作者: 影光
最終章 冬郷輪廻編
98/102

第97話 夜天の空

 目を覚ました時、目の前には幾度なく見てきた天井があった。

 何度目だろうか、こうして目を覚ますのは……………。

 もう考えることさえ億劫に感じながら、ワタシはゆっくりと上体を起こした。

「今、何時だろ…………」

 ふと、思い立ったかのように懐をまさぐる。

 と。そこでようやく、ワタシは自身の身体に異変が生じていることに気付く。

「いつ……………」

 それは、正確にはワタシの四肢ではなく、ワタシが今着ている服についての違和感。

 ワタシの中にある最後の記憶では、確か普通の動きやすい服装をしていたはず。だが、今のワタシが着ているのはどう見て触れても、寝間着だった。

 明確な記憶はどれだけ探しても出てこず、ワタシはひとまず自身のベッドとおぼしき場所から立ち上がる。

 そして、辺りを見渡し鼻を鳴らして、微かな記憶と照合する。

 それにより、この場所がワタシが自室として利用している部屋で間違いないことを認識する。

 と同時。部屋の隅に、置いた覚えのない物置が存在していることに気付く。

「ヴィヴィアンさん…………?」

 よく見れば、それは物置ではなく、ワタシとあの浮游城に潜入した《夜天騎士団》の一人。

「ん…………。あ?」

 ヴィヴィアンさんは三角座りをし、両足の間に顔を埋める状態で眠ているようだった。

「柚希……?」

 が。それも程なくして、ヴィヴィアンさんが起床してしまった。

「あ。えと、おはようございます」

「おはよ~」

 自分のせいで起こしてしまったのではと感じ、ワタシはやや後悔の念に苛まれた。

「どう?身体の調子は」

 問われ、しばし思考する。

「特に異常はないみたいです」

 真っ直ぐな瞳で、そう答えた。

「そう」

 ヴィヴィアンさんはゆっくりと立ち上がり、部屋を出ていった。

 ワタシはしばし考えた後、その後を追った。

 部屋を出て階段を下り居間へと続く長い廊下を歩いていくと、部屋に近付くにつれて数人の話し声が聴こえてくる。

 一瞬疑念を感じた後、吸い込まれるようにして居間の戸を開けると、そこには見知った顔がいくつも並んでいた。

 先に入ったヴィヴィアンさんが「起きたよぉ~」と軽い感じで言ったため、ワタシが次いで入った時には皆の視線が一斉にワタシの方を向いた。

「ああ、よかったッ!」

 ひしっ。と、風音さんがワタシの身体を抱く。

 やや動揺するワタシは、微かに風音さんの身体が震えていることに気が付いた。

「風音、さん………?」

 ワタシは更に動揺し、問う声もやや震えていた。

「……よかった、本当に………よかった、よぉ………」

 どうしてそんな感情になれるのかと疑念を抱いたが、その感覚はすぐに伝染した。

「ごめん、……なさい………」

 自身の感情に素直になり、ワタシは風音さんの身体にすがるよえに強く抱き返した。

 しばしお互いに抱き合ったまま数分が経ち、情が落ち着いたところで、改めてこの場に集まっている人たち全員に頭を下げ非礼を詫びた。

 皆、そんな事など気にしていないかのように振る舞い、先程まで話し合っていた議題が再び浮上する。

「うん。それじゃあ改めて整理するけど…………」

 風音さんが中心となり、幾つかの議題が選出される。

「この世界を保っていた《虚幻計画》はギリギリとところでセーブされ、残るは《零時計画》のみ」

 厳密には、この虚界(セカイ)は一度崩落している。だが、その真実を知るものは誰もいない。

 彼女達の中では、先日の出来事は『世界的大規模に発生した巨大地震』とい認識に置き換わっている。

 それが、《虚幻計画》の恐ろしさだ。

 そして、その《虚幻計画》を維持したことで訪れる最終計画とも呼ばれる《計画》。それが《零時計画》。

 全ては〈呪い〉を浄化する為。───そう銘打っていた。

 だが、実際は違った。

 実際には、〈呪い〉を利用した世界の再錬成。

 その地盤として用意された《虚幻計画》。それ以外の三十五の《計画》はそこに一種の『チップ』をはめ込む為のもので、最終計画とも称される《零時計画》はこれまでに完遂された他の《計画》をこの世界に未来永劫的に留めておく為のもの。

「それで、オズ。貴女が言ってた『全ての《計画》を完遂させた上で、それらを全て反転させる』というのは?」

 反転、とは少し語弊がある。

 正確には、『並べ替える』が正しいだろう。

 そもそも、三十七の《計画》が何のために存在し、どういう順番・配置で進んで来たのかが今だ分かっていない。

 〈神の器〉を創造する《神創計画》。〈竜〉を体現する《竜廟計画》。今分かるのは、この二つと先程の二つのみ。それ以外に、あと三十以上もの《計画》が存在する。…………途方もない数だ。

「その為に、まずは《零時計画》を完遂に到らせるのに必要な〈影の王〉を打倒を目指す」

 風音さんは、グッと拳を力強く握る。

 あまり猶予は残されていない。それは、風音さん達は知らないこと。いや、知らなくていいことだろう。

 なにせ、この世界はもうじき終わる。

 この最終計画が完遂されようが、しまいが、結果は同じ。

 逃れえぬ運命。定められた現実。

 ただその環境から逃げるわけでもなく、彼女達は必至に最後の選択をしている。

 正直、無駄な足掻き───、労力の無駄遣いにしか思えない。

 これが、人類種(ヒト)が〈人〉である由縁なのかもしれない。

 だから、ワタシはその想いに応えるように過去を自分のモノとし、権能(チカラ)を全て解放した。

「とりあえず、まずはあの二人をどうしかしないと」

「………………」

 まだ話は再開されたばかりだが、ワタシはこの場所の居心地は悪く感じ、無言のまま立ち上がった。

「……?柚希?」

 隣で風音さんが首を傾げる。他の人達も、まだ完全ではないのか、と怪訝と動揺の表情をする。

「いえ。少し、外の風にあたってこよう思っただけです」

「………そっか」

 別段心配する素振りを見せることなく、風音さんは会議を続けた。

 それにつられて他の人達も風音さんの話に耳を傾ける。

「柚希、ちょっと待って」

 玄関で靴を履いている最中、後方から声がかかった。ワタシは、靴を履ききってから声のした方へと振り向く。

 廊下を歩く、会議の間たいぎそうにしていたヴィヴィアンさんが近付いて来ていた。

「どうしました?」

 何を思っているのかは察しが付いていたが、とりあえず訊ねてみた。

「うん、なんかね。長話は嫌いみたい………」

 まるで他人事のように、ヴィヴィアンさんは後頭部を掻く。

「だから、私も気分転換」

 『も』というのが気に掛かるが、一人では不安があるという他の人達の意見もあると見える。

「分かりました。では、行きましょう」

「え?…………あ、うん」

 歓迎するワタシに、ヴィヴィアンは笑顔を綻ばせる。

「それで、行き先は?」

「特に決めてません」

「え?」

 宛も無く、街を歩くワタシとヴィヴィアンさん。

 ワタシの目的は、あくまで現実逃避。行く宛も無く歩くのは当然のこと。

 が。ヴィヴィアンさんは眼を丸くしていた。

 宛も無く歩くこと、一時間ほど。ワタシ達は、商店街へとやって来た。

「何度来ても、おっきなとこだねぇ」

 ヴィヴィアンさんは、感嘆の声を呟く。

 ワタシは、どの店に立ち寄ることなくまっすぐ進んでいく。

 だが、ヴィヴィアンさんは違っていた。

 ヴィヴィアンさんは、通りかかった店全てに立ち寄り、眼に止まった商品を見定め勝手に手に取り口に運んだ。

「あッ!?」

「はぁ~………」

 なんとなく危惧していた言動に、ワタシは咄嗟に対応した。

 後で分かったことだが、ヴィヴィアンさんは東方(こちら)のお金を一銭も持っていなかった。今まではアヤカさん共々、サヤカさんが既に会計を済ませていたらしい。

「ご、ごめん…………」

 ヴィヴィアンさんは謝罪するが、ワタシは何も気にもしてないような様子で先を歩く。

「あ、あれ?」

 ヴィヴィアンさんは、一度キョトンとした素頓狂な声を上げたが、すぐさまワタシの後を追ってきた。

 商店街を歩くこと、二十分ほど。ワタシは一店の店舗の前で脚を止めた。

「柚希?」

 ヴィヴィアンさんが首を傾げる。ワタシは気にせず視線も動かさない。

 そういえば、未美さん達は病院だった。

「ここは、旅館?」

 とは言え、雅さんくらいは居るだろう。

 そう儚い望みを抱きながら、ワタシはその店の戸を開けた。

「いらっしゃいませぇ~」

「ん?」「あ……」

 いつも通りの挨拶をする茶髪に団子頭の店番少女と、こちらの存在に気付き振り向く見覚えのある朱髪の少女と碧髪の少女。

「火垂さん、葵さん?」

 目の前の見慣れぬ光景に、ワタシは一瞬硬直する。

 意識を戻し、改めて店内を見渡す。どうやら、リグレットさんは病院で確実のようだ。

「それで、注文は?」

 まだ席にも着いていないのに、調理服を身に纏った店番少女、高塚雅はメニュー表を手渡し注文を伺おうとしていた。

「…………」

 ワタシは一度頬を掻き、ヴィヴィアンさんと共に適当な席に着く。そしてメニュー表を受け取り中を開く。その時、くぅ~という可愛らしい音が店内に響く。

 そういえば、起きてから何も食べてない気がする。

 ふと思い出したよえにお腹を擦り、一人では食べきれないであろう量を注文した。

 料理を待つ間、ワタシはカウンター席で楽しそうに食事をしながら会話している二人に話し掛けた。

「それで、二人はどうしてこの店に?」

「んぁ?」

 スパゲティとおぼしき料理を口に運ぼうとしていた朱髪の少女、鳴滝火垂が振り向く。

 火垂さんは一息考える素振りを見せた後、ワタシの問いに答えた。

「親睦会を兼ねた夕飯?」

 なぜ疑問系なのかが逆に疑問だが、訊ねたのはそういう意味合いのものではない。

 が、とりあえず今は乗ってみよう。

「二人で?」

「へっ?………あ、うん。神代さんには断れちゃった」

 何故、最初に驚いた?

 と言うか、その話題を引っ張るんだな………。

 とりあえず、相手が飽きるまでそれで会話を繋げよう。

「そうですか。けど、二人がここにいるのも珍しいですね?」

「まぁ、普段はこの街の眼とかがあるし」

 気にするべきはそこではない気もするが、まあいい。

「変わってますか?」

「少しずつ、だけどね」

 少しだけ、擽ったそうに返す火垂さん。

 世界だけじゃない。この国も変わりつつある。それは、《虚幻計画》の影響なんかじゃない。

 人と人とが紡ぐ、唯一の変化。

 これが、セカイの調和。

 ワタシはその一端を目の当たりにして、しばし面喰らっていた。

「おまたせぇ」

 そこへ、タイミングを見計らっていたかのように、雅さんが料理を運んできた。

「ところで、此処へ来る時に神宮寺のところの巫女さんにお逢いしたのですが────」

 甘辛く煮込まれた肉団子を口に運ぼうとした瞬間、火垂さんが唐突に話題を切り替えた。

「何かおかしな事を言っててね……?」

「『もうじき世界が終わるのに、まだ会議なんてしてるんですね?』だって」

 回想するような仕草をする火垂さんの隣で、葵さんが追随するように言う。

「…………」

 どうやら、神宮寺の巫女はこの異変に気付いているようだ。

 元から何かあるような気はしてたが、この話から確信が真実になっていってるような気がする。

 その後もワタシ達は食事をしながら会話をしていた。

 ワタシとヴィヴィアンさんが食べ終えた後も残っていた二人は「もう少しゆっくりしてから帰る」と言うので、店に残してワタシとヴィヴィアンさんは会計を済ませて店を出た。

 外へ出ると、空はオレンジ色に染まっていた。懐中時計で時刻を確認すると、既に夕方間近だった。

「どうする?」

 懐中時計とにらめっこしていると、ヴィヴィアンさんが顔を覗きこむように訊ねてきた。

 ワタシは、再び宛も無く歩き出す。その行動を予測してか、ヴィヴィアンさんは何も言わずワタシの後を付いてくる。

 次に脚を運んだのは、港だった。

 特に要という用件は無い。ただ気が向いたから脚を運んでみただけ。

「此処もここでおっきいねぇ」

 ヴィヴィアンさんが、今度は歓待の声で呟く。

 学園同様、此処の名に神代という言葉が使われているのは不思議だが、秦の港は此処にしかない。それは此処が海側からの唯一の玄関口ということ。

 一応、神代港と一括りにはされているが、この港には幾つかの区分がされている。

 その中でも、ワタシ達がいるのは航海機の発着場として利用れている区画。

 そして、その区画でたまたま居合わせてしまった事態にヴィヴィアンさんが首を突っ込んだが為に、今ワタシは面倒事に巻き込まれていた。

「ありゃりゃ……、また」

 ヴィヴィアンさんは、始めため息まじりでその現場を傍観していた。

 ワタシは面倒事には巻き込まれたくなく即座に廻れ右して踵を返そうとしたのだが、ヴィヴィアンさんに上着の襟を掴まれ現場の中へと引きずられるようにして連行された。

 現場では、十代後半くらいの少年二人が血気盛んに血味泥の殴り合いの喧嘩をしていた。

 先程のヴィヴィアンさんの呟きから、彼らとヴィヴィアンさんが知り合いか顔見知りだということは想像が着く。だが、この時点で此処にいることが不思議でしょうがない。

「あ。ヴィヴィっ………」

 二人の傍にいた三十代くらいの女性がヴィヴィアンさんに存在に気付き近付いて来る。

「ニコ……、まだ?」

「まぁ、いつもの事だし」

 止めないのだろうか?と疑念が過ったが、おそらくこれが《夜天騎士団(カレら)》の日常なのだろうと悟った。

「ところで、そっちは?」

 女性が、ワタシに眼を向ける。

 ヴィヴィアンさんが、それなりに紹介する。少し色が付いているように感じたが、それが彼女の認識だと思い込み、ワタシは女性に軽く会釈した。

「で、何時から?」

「んん………。始まったのは十五分くらい前だからまだまだ掛かるんじゃないかな?」

 全く止める気配すら見せることなく、ヴィヴィアンさんと女性───ニコ・スレプニルは話を雑談へと切り替えていく。

 そして、およそ十五分ほど語らった後、少年二人を放置したままヴィヴィアンさんは女性と共に先程入った雅さんのお店に再来店した。

「い、いらっしゃいませ…………」

 店の扉を開けると、先程とは違う人物が出迎えてくれた。この店でウエイトレスをしているリグレット・ヴァーミリオンだ。

 リグレットさんはまだ人見知りが完全に完治しておらず、先頭で入店したヴィヴィアンさんや女性の存在にビクついていたが、最後尾で入店したワタシの姿を認識するとそっと胸を撫で下ろし、ずっとワタシの背後に付く。

 ワタシの背に付いたまま二人から注文を受け取ると、リグレットさんは脱兎の如く厨房へと消えた。トトロさんのいない状態での彼女の行動は珍しかったが、それが彼女の本来の性分なのだろうとしばらく傍観していた。

 ちなみにワタシは先程の食事を多少多めに摂っていた為、注文はしていない。ただの付き添いということになる。

「それで、三人は何しに此処へ?」

 料理が運ばれてくるのを待ってる間、ヴィヴィアンが女性に訊ねる。

 女性は一封の便箋のようなものをヴィヴィアンさんの目の前に差し出すと、ヴィヴィアンさんはそれをワタシの前にスライドさせた。

 ワタシは一度ヴィヴィアンさん、女性という順に眼をやり、一応の了承を得ると封を切り中の手紙を取り出して中身を黙読した。

「なんて?」

 手紙を読み終えた頃、ヴィヴィアンさんが訊ねてくる。

「よく分かりませんが、《騎士団》に召集の命が下ったような事が書いてありますね」

 そう答え、手紙を便箋の中に戻し女性の前に置いた。

 女性はしばし困惑したような表情をしていたが、ワタシ達の関係を再認識してか何も訊ねることはなく便箋をしまった。

「此処で何が行われるのかは想像もできないけど、この手紙はいつものとは違う感じがしてる」

「確かに、色がおかしいもんね?」

 疑問視するのがそこなのかは分からないが、とりあえず二人が疑念を感じている箇所がだいたい同じなのはなんとく察した。

「ひとまず、これの差出人が誰なのかはおいておくとして───」

 女性は訊ねる。

 此処で起きた事。これから何が起き、自分達がいったい何に荷担してきたのかを。

 だけど、それは誰にも分からない。

 女性の話では、《夜天騎士団》はそれぞれに大きな過去を持ち、それを償う為に行動してきただけに過ぎない。

 それは、ヴィヴィアンさんも同じ。

 だから、もう隠し事は不要。

 それに納得したのか、ヴィヴィアンさんは〈皇〉から託させた《計画》について話した。

 その内容は、ワタシが認識しているものと多少のズレがあった。

 そして、小一時間ほど他愛もない話なども語らった後、ワタシ達は店を出て帰路を歩く。

 その道中────、

「あれ?何か忘れてない?」

 女性が何かを思い出そうとするが、特に見付かる様子もなく、帰路を進み続けた。

 自宅として利用している元旅館に戻ると、そこはド派手な宴会場と化していた。

 《ルヴァーチェ商会》の面々にリシュト・クロイスが連れて来た《D》の少女達、風音さんと共にやって来た《烙奴隷(ディザストル)》の少女達。そして《夜天騎士団》に所属する数人の騎士にその協力者達。

 その光景はさながら、お祭り騒ぎというよりは道頓堀といった感じだ。

「あ、ニコ」

「まったく、俺たちを放って何処行ってたんだよ」

「あれ?晴くんに、ヤマト?」

 宴会場の一角で、全身を包帯や湿布で覆った見覚えのある少年二人を発見した。

 この二人こそ、先程港で殴り合いをしていたヴィヴィアンさんや女性と同じ《夜天騎士団》のメンバー。

 二人は先程の港での死合がまるで嘘だったかのように、仲良く晩御飯を食べていた。

「ゆ~ず、きッ」

「ふひゃっ!」

 空を靡かせるような鈴言と共に、背後から何かがワタシに覆い被さった。

 臭ッ!

 背後から漂う鼻を突き刺すような異臭。それはワタシにしてみれば異臭だが、ここまでの大人となると一種の麻薬と同等の効果を発揮する代物。

「か、風音さん……………」

 発酵酒のような異臭に耐えながら、ワタシに覆い被さっている人物を引きずり降ろした。

 地面に埋もれるように倒れ込んだ風音さん。どうやら、かなり泥酔しているようだ。

 ヴィヴィアンさんに手伝ってもらい、潰れた風音さんの身体を近くの縁側へと放り投げた。

「うわぁ……、雑な扱いだな」

 いつものことなので、ワタシは気にせず自室に向かった。



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