第96話 終の崩落
柚希が気を失って数分。セカイは、それに呼応するように変動した。
「も、もうなのかッ?」
「〈影騎士〉ッ!?」
動揺する〈影騎士〉。そこへ、なんとか〈朧〉の猛攻を交わしたヴィヴィアンが近付いてくる。
「これはいったい、どういうことッ!?」
ヴィヴィアンは、掴みかかるように〈影騎士〉に質問攻めする。
「どうやら、崩落が始まったようだ」
「え……?」
緊急の事態に動揺していたのは、地上も同じ。
「オズッ」
「やっぱり、予定より早い………」
「な、何?『予定』って」
大きく蠢く大地の激震に耐えながら、少女達は現状を把握する。
「《皇》が消失してから〈崩落〉するまでの時間」
どのセカイでも、《皇》が消滅してから〈崩落〉が始まるまでには多少の時間があった。
だが今は、まるで《皇》の消失と同時に〈崩落〉が始まってしまったかのよう。
「もしかして、《零時計画》の影響?」
考えることはできても、答えは一向に見付からない。
「どうするの?」
サヤカがユーフィリアに問う。
この中で、〈崩落〉を直に経験しているのはユーフィリアだけ。
「…………」
そのユーフィリアはしばし考えて────、
「まさか、ここで《虚幻計画》が完遂されたってこと……?」
未だ完遂には到っていないと思われる《計画》の中から、最も可能性の高いものを口にする。
「まだ、最後の計画《零時計画》が完遂されてないっていうのに……………」
それは、不自然な現実だった。
本来の《虚幻計画》であれば、完遂には他の三十六の《計画》の完遂が絶対の条件てあったはず。
それなのに、《虚幻計画》の方が先に完遂扱いに為ったということは────、
「まさか、柚希───」
そう。考えられるのは、その一つだけ。
《虚幻計画》は、あくまで他の《計画》の土台として用意された策。
だが、今回のようにそれ自体が意味を成さなくなった場合は別だ。
「ちょ、ちょっと、オズッ。一人で思考してないで、私にも説明してッ。いったい、このセカイはどうなるの?」
「崩落する。もう、止められない」
「なっ………」
「ど、どうして……?」
「柚希に掛けていた〈封印〉が解けた」
ユーフィリアは、それ以外に考えられないと言うように既に絶望していた。
「姫様………」
そんなユーフィリアとは違い、サヤカは僅かな可能性になるとも分からない賭けにすがった。
大地は活断し天が裂けていく中、天空を漂う浮游城はその影響を然程も受けていなかった。
受けているのは、その身が城よりもか弱い人類種の性だろう。
「ど、どうするのッ?」
「とりあえず、あの娘をどうにかするしかないッ」
二人の目の前には、どんな強敵をも軽々と凌駕してしまいそうなほどの覇気を纏った幼女の姿があった。
「柚希…………」
ヴィヴィアンが、その名を呟く。
現状。神威柚希は、自身を封じていたクサリから解き放たれ、放心状態に近い状態となっている。
「くっ。ここにきて、こんな大物かよ」
〈影騎士〉が呆れたように舌打ちをする。
「〈影騎士〉。何か勝算はあるの?」
柚希と対峙するように剣を抜いた〈影騎士〉に、ヴィヴィアンが問う。
「無い」
が。その〈影騎士〉は、問いを一刀両断するようにスパッと否定した。
「なっ───」
予想だにしていなかった返答に、ヴィヴィアンは失望する。
「だが、このまま何もしないって訳にもいかないだろう」
「そ、そうだね」
「だから、せめて気を失わせるくらいはさせてもらう」
それ以外に方法は無い。
それが最善の策だと、ヴィヴィアンも理解はしていた。
しかし、それが頭ごなしに理解しきれないことも直感で感じていた。
そこは、どこまでも遠く雄大でありながら、音も風も誰もいない何も無い空間。
ワタシは、この場所を知っている。
「《竜皇の冥樹》…………」
それは、ワタシの中にある───いや。《竜桜樹》という存在そのものを現界し続けている生命の大樹。きっと、それがワタシの正体。
《人工生命体》として『基盤』が創られ、《神桜樹》の『叡智』と《竜》の『呪い』をその体樹に封じた。
封じこまれた権能は、十年の刻を経て、『元の存在』へと還元される。
そこまでは、これまで携わったモノ達の思惑通りだろう。
だが、そうは問屋が卸さない。
ワタシは、同時にワタシの過去を全て思い出していた。
その中には当然、ワタシがワタシ自身で決めた〈望み〉も存在する。
「ようやく、目覚めたか………」
「──ッ───」
「というより、『至った』の方が正しいのかもしれないな」
突然、黙示の空から声が響いた。
その瞬間、四つの〈光〉がワタシの目の前に出現する。
ワタシはそれらに見覚えがあった。
「気分はどうだ?」
一番左側の〈赤の光〉が、訊ねる。
「もう、大丈夫みたいです」
ワタシは、しばし間を置き、両手をニギニギしながら答える。
「そうか……」
〈赤の光〉は、安堵したような声で呟く。
「さて、それじゃあ。現状の整理から行こうか」
次は、〈黄の光〉が声を発する。
ワタシは、その言葉に耳を傾けるように眼を閉じ、意識を集中させる。
ワタシが今いるこの空間は、まるで〈無〉そのもの。
それを書き換えるべく、ワタシはワタシの幻想を連想する。
『何処?』と訊ねられて『此処。』と言えるようや場所は、ワタシの中には存在しない。
だが、そうなりつつある場所はある。
ワタシはその場所を連想し、この〈無〉のセカイをその思い出と似せるように書き換える。
足下は、しっかりとした頑丈な鋼鉄の床。頭上は、それほど高くない巨大な壁画で覆われた天井。周囲は、雄大であり広大な庭の風景。
そのどれもが懐かしく、哀しい思い出のある印象的な過去の記憶。
「これが、キミの〈罪〉………」
〈緑の光〉が、そう呟く。
そう。この思い出は、ワタシの〈罪〉。
ワタシが力不足だったせいで、考えなしだったせいで、総てを奪われ喪ってしまった『原点』とも言えるべき汚点。
そして、ワタシはそんな過去を洗い流す為、その元凶を造り出した世界を壊し、再構築した。
〈炎〉の『災厄』と〈大地〉の『呪い』を用いて、人類種に《試練》を与え、世界を自己相克させ続けてきた。
時に〈風〉の『概念』と〈水〉の『理』を利用して、世界を『事象』の波で追いやりもした。
だが、それでも人類種は一向に諦める気配を見せなかった。
これまで行われた三十六の《計画》。
そのどれもを、人類種は乗り越えた。
だからもう、最後の《計画》は必要ない。
ここから先は、ワタシ個人の問題。
ワタシが撒いたタネを自らの手で回収していくだけ。
「本当に、それで良いのか?」
ワタシの思考を読んでか、〈黄の光〉が訊ねてきた。
「……………」
ワタシは、思い出から構築した懐かしい長椅子にドッと腰を降ろす。
「本当に良いのか?ようやくヒトが総てを成したというのに、キミがそんなで」
〈黄の光〉の言いたいことは分かる。
だけど、これはもう避けられぬ運命。自ら定め、自ら歩んだ結果だ。
それに他人を関与させるなど、場違いに等しい。
だからこそ、ワタシは人類種の姿を象っている。
だからこそ、始めよう。
《人類種》と《竜桜樹》の幾度目かの〈試練〉をッ!
「ちっ。………これほどの実力差があったのか」
全ての猛攻を防がれた挙げ句、大きな一撃を受けた〈影騎士〉は戦局を読み直す。
「〈影騎士〉ッ!?」
〈影騎士〉にトドメを挿すべく動く柚希。その一撃から庇うべく間に入るヴィヴィアン。
「よせっ!ヴィヴィアンッ!?」
ヴィヴィアンが大剣を盾にして防御姿勢を取るも、柚希が放つ砲撃と相違ない一撃がヴィヴィアンの姿勢を大きく仰け反らせる。
届かぬモノは、どのように足掻いても届かぬもの。
そのクソッタレな現実を打ち破るべく、騎士達は、足掻き続けたはずだった。
今回は、相手が悪すぎた。
《神》という絶対無二の存在に、人類種に何ができよう。
そんなもの、始めから解りきっていた事だ。
───なら。諦めるのか………?
いいや。人類種とは古来から、諦めの悪い生命体だ。
だったら、やれることは一つ。
「ヴィヴィアンッ。そのままもう少しだけ堪えてくれ」
「え?あ、うん。いいけど………」
困惑するヴィヴィアンであったが、防御の姿勢は崩さず、逆に力を込める。
「何故、《神威兵器》を顕現しないのかが疑問ではあるが、それならそれで好都合だ」
今の柚希は、まるで《竜》の権能のみを用いて応戦しているかのよう。
なんとも無気味な戦局だが、〈影騎士〉はそれを好機と取る。
「“零風・華旋斬”ッ!!」
ヴィヴィアンが堪えきれなくなった頃を見計らい、〈影騎士〉は業を発動する。
が。その攻撃は柚希には届かず、数センチ程手前辺りで霧散した。
「なっ!」「へ?」
突然の『現象』に困惑する二人。
だが、それが人類種と《神》の違い。
「斬撃系は皆無、攻撃は一才届かない」
まさに、八方塞がりである。
「か、〈影騎士〉…………」
心配そうに〈影騎士〉を見つめるヴィヴィアン。その瞳には、若干の躊躇いの色が混じっていた。
「流石は、《超導姫》と云うべきか………」
「?それ、何?」
聞き馴染みのない単語に、ヴィヴィアンは小首を傾げる。
「……………」
〈影騎士〉は、額に三指を突いた後、ヴィヴィアンに説明した。
そもそも、ヴィヴィアンは神威柚希という幼女がどんな存在なのか未だ明確には理解していなかった。
そのことも踏まえ、〈影騎士〉は自身が知っていることの全てをヴィヴィアンに話した。
それは、今まで自分達がしてきたことの重罪さと未熟さを思い知らされる現実。
「そんな…………」
ヴィヴィアンは酷く絶句した。
だが、それでも何か出来る事があると、〈影騎士〉はヴィヴィアンを宥める。
とはいえ、現実問題、柚希に斬撃も砲撃も通用しない。
魔術的攻撃ならは、或いは……とも考えたが、実際問題、二人にその術の才は無い。
〈影騎士〉の影依を纏った剣撃も、実際には普通の斬撃と何一つ変わらない。
「〈影騎士〉…………」
ヴィヴィアンが、命乞いのような眼差しで〈影騎士〉を見る。
まだ手を尽くしたとは言えない。だけど、そのどれもが届くはずがないと錯覚していた。
「あ、コチラに居られたのですね?」
と。上斜め後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
ヴィヴィアンと〈影騎士〉が振り返ると同時に、声の主は次の攻撃に移ろうとしてい柚希の動作を封じた。
「「リーシャッ?」」
二人は、その見覚えのある人物の名をほぼ同時に叫んだ。
「どうして此処に………」
少し考えれば判ること。だが、〈影騎士〉は口を滑らせるように訊ねていた。
「ご主人様の御戻りが遅いので捜しに来ただけですよ」
まるで人を迷子のような扱いをするリーシャ。
「それで、お二人はコチラで何をされていたのですか?」
ある程度の状況は理解しているはずのリーシャだが、現状はそれを悠に超していた。
「そうですか…………」
顎に手を当て、しばし考え込むリーシャ。
「でしたら、私がなんとかしましょう」
胸の上に手をやり淡々と言うリーシャは、二人の足下にその為の“陣”を構築する。
「これは………」
「な、何をしたの?」
〈影騎士〉は素直に受け入れたが、ヴィヴィアンは戸惑い訊ねた。
「お二人の〈可変数式〉を書き換えておきました」
「ん?」
「……………。これで、攻撃は一応通るはずです」
「モノは試し。ということか」
「そうなります。一応、援護は行いますが、彼女にどの程度届くは分かりません」
「いや、十分だ」
「ホントに大丈夫?」
「〈可変数式〉は彼女と同じもののはずです。ですが、彼女が複計数以上の〈式〉を展開している場合は別ですが」
「どのみち、やってみなくちゃ分からんさ」
先程よりは通るはず。それが、唯一ヴィヴィアンの理解が及ぶ範疇だった。
そんなの言葉を頼りに、ヴィヴィアンも剣を握る手に力を込める。
「オォオオオォォォォォ~~~ッ!!!」
「ハァアアァァァァ~~ッ!!!」
そして、共に高めあう后撃。
それは、互いに意識しあい、共鳴しあうからことおこる現象。
その不可思議の領域に、二人が戸惑うこともない。
「「“双覇・龍聖弾”ッ!!」」
二つの言霊が、戦局を揺さぶる。
先程よりは確かに手応えを感じられる。だが、所詮はその程度だった。
人類種が紡ぐ奇蹟では、それが限界であった。
「…………」
頭上に出現したスクリーン状の視界に映し出された〈外の界〉を、ワタシはボーッと眺めていた。
「視てみろ。ヒトはまだ、我のが運命を諦めてないようだぞ?」
〈赤の光〉が、諭すように嫌味を言ってくる。
だけど、ワタシにはそれが単なる『無駄な足掻き』にしか見えなかった。
「どうやら、彼らは自分達の未来を守ろうとしているようだぞ?」
続けて嫌味を言う。
ワタシには、単に悪足掻きをしているようにしか見えなかった。
「どうして…………」
ようやく発したのは、そんな嘆息だった。
「ヒトの子とは、いつの時代も強いな?」
嫌味を言われすぎて、もう聞く耳も持てなくなっていた。
彼らは確かに強い。
だが、それは彼らが〈個〉であるが故。
一生に一度の人生、その限られた〈空間〉でヒトは幾朴かの願いを叶える。
だけど、ワタシは違う。
過去を繰り返し、未来をやり直す。
同じ刻を何度も遡り、同じ出来事を微調整していく。
そんな事をやりつづければ、セカイもワタシも、壊れないわけがなかった。
「……………」
そう。ワタシは────畏れているのだ。
繰り返された悪夢に。何一つ変わらぬ現実に。
だから、今回も同じだ。と思わざるを得なかった。
「なぁ。今の状況で、一つだけ違うことがある。それが何か分かるか?」
唐突に、〈黄の光〉がそう訊ねてきた。
ワタシは、促されるまま、しばし思考した。
その答えとは────。
「彼らは、一度たりともキミのせいなどとは考えていないということだ」
「────ッ」
それは単純に、考えが至っていないだけ。という風にも視て摂れる。
「でも、ワタシは…………」
「まだ、迷っているのか?」
図星を衝かれ、ワタシは再び沈黙する。
前回も、前々回も、ワタシは何も出来ずに時代を閉じ終らせた。
決して、良いとは胸を張って言えない。
それがワタシの過去。
だから、もういいかな?って、今はそう諦めている。
でも────、
「キミが、少しでもやり残した事があると思うなら、最後までやり通すのが条じゃないのか?」
それは人類種の話だ。
そうツッコんでやりたかったが、今のワタシはそこまで心に余裕はない。
「なら、逃げるのか?」
そはれも良いかな?っ。心の底から感じたこともある。
「────あの人みたいに」
……………。ああ、そうだ。
どうして忘れてたんだろう。
ワタシはずっと、その為に頑張ってきたはずだったんだ。
「キミは、あの人を取り戻したくて、あの人が抱えてきたモノを少しでも軽くしたくてと、ここまで必死になって走り抜けて来たんだろ?だったら、最後まで走り抜けよッ。キミが求めたモノはもうすぐ目の前にあるんだから。後もう一息、もう一踏ん張りさ!」
ああ、そうだね。確かにその通りだ。
もうじき、この悪夢から脱せられる。
もうじき、総てが完遂される。
その刻こそ、ワタシは──ワタシ達は、永年の悲願を達成することができる。
「……………」
でも、だからといって、この状を一変出来る手立てはワタシには無い。
あるとすれば、それは……………
「なんだ。まさか、もう忘れたのか?」
「え?」
「ワレらは何だ?」
そこだけ聞くと、そっちがもの忘れしているように聞こえる。
この場にいる四つの光。その色合いと存在から導き出されるのは一つしかなかった。
「ワレらが時間を稼ぐ。その間に、最後の《計画》とやらも終わらせてくれ」
そう言って、四つの〈光〉は、それぞれ別の方向へと散って行った。
《超導基》─────それは本来、四つの大陸を虚界に留めておく為の云わば〈楔〉の役割を果たす存在。
それが何年も前に抜き取られ、なおかつ十の世界も崩壊してしまった今では、《虚幻計画》という前提の影響がなくなり、虚界という世界そのものも機能を失っている状態。
それを、もう一度元の状態に戻す。
これで、もう一日だけこの虚界は崩壊から免れることができる。
その内に、最後の《計画》を何としてでも完遂させねばッ。
そう勢い立ち、ワタシは気を籠めて意識を戻した。
その少し前────。
〈外〉───つまり、浮游城の中層にある野原のような情景を思わせる庭園では、三人の騎士が万全を期した〈神〉と対峙していた。
〈神〉の背からは白銀の豊翼が生え、頭上には神々しく煌めくの光輪が浮かんでいる。
それはまさしく、〈神〉────いや。その風貌は、彼女が無意識の内に構成した、過去の自分の内の一つ。
「くっ───。おい、もう他に手立ては無いのか?」
ここまで、なんとか援護を続けてきていたリーシャに、〈影騎士〉が問う。
「おそらく、無理でしょうね」
リーシャは、きっぱりと言い跳ねる。
「そんな………」
「なら、後はあの娘が自力でなんとかするしかないってことか」
「そうなります」
手立てが無いわけではない。ただ、彼女と彼らとの力量の差があまりにも大き過ぎたため、全てが無駄になっているというだけ。
所詮、人類種では神には勝てない。
それは、間違うことなき絶対の摂理。
それは彼らは挑み、そしてその全て無と期した。
「ねぇ、今………」
その絶望を打ち破るように、ヴィヴィアンが声を上げた。
〈影騎士〉とリーシャは、ヴィヴィアンを一瞥した後、彼女の視線の先を追った。
「こ、これは…………ッ」
「どうやら、タイミングが良かったみたいですね」
困惑気味のヴィヴィアンと〈影騎士〉を他所に、リーシャはホッと胸を撫で下ろす。
当然だ。今、三人の騎士達の目の前では不可解な現象が起きているのだから。
「──────ッ」
急に動きがおかしくなったかと思えば、〈神〉の肢体はまるで何かに抗うように蠢き、四色の光の塊を文字通り四方へと飛ばした。
「あれは…………」
「《超導基》…………」
リーシャが、その正体をポツリと呟く。
「お?」
それから程なくして、世界の揺れは治まり、崩れかかっていたセカイは再び最後の状態へと戻った。
それはまるで、消えたヒトも、消えかかっていたモノも総てを再構築して、最後の戦に備えるかのよう。
そして柚希の身体が4~5メートル上空から落下してくる。
「あ、危ないッ!?」
ヴィヴィアンが一目散に地を蹴り、柚希の華奢な身体を寸手の所でキャッチする。
一応の回収が済んだことを認識すると、〈影騎士〉とリーシャは自身の足下に闇色の陣を敷く。
「リーシャッ。〈影騎士〉ッ」
気を失ったままの柚希を抱えた状態で、ヴィヴィアンは二人の騎士の名は叫ぶ。
「これで、条件は揃いました」
「《夜天騎士団》のお役目も、もうじき終わりか…………」
リーシャが不意討ちのように言い、〈影騎士〉が一人感慨に浸る。
「ヴィヴィアンさん。他の方々にお伝え頂きますか?」
「え……?」
「私と御主人様は、この先の最終会場でお待ちしております。と」
「ちょ、ちょっと待ってよッ」
ヴィヴィアンが物を訊ねようとした瞬間。リーシャは不穏なことを言い残して〈影騎士〉と共に虚空へと消えた。
「もう一度出逢えることがありましたら、今度は別のカタチでお逢いしたいです」




