第84話 覇導極振
三国に散らばる《超古代遺失物》。それらの中央に存在する〈神の社〉。その建物に奉られている《竜器》。
何故そんなものがあり何のために存在しているのか、その理由は定かではない。
今解るのは、その存在こそがこの『終末』を終らせるのに必要ではないかということだけ。
だが、それも確定はしていない。
その真意を確かめるべく、ワタシ達はサヤカさんの提案とリッチさんの了承で各所を改めて廻ってみることにした。
まずは、一番近い立から。その場所は無論、神代学園。
ここが本当に《超古代遺失物》の一つであるのなら、その証拠が何かあってもいいものだが、生憎、わざわざそんなものに〈装飾〉を施すような彼らではないと、リッチさんには前以て補足されていた。
似て非なる存在である、《超古代遺失物》。
だからか、この建物のそばにある図書館を見るサヤカさんの目は、どこか懐かしげて寂しげな目をしているように見えた。
立の《超古代遺失物》神代学園は、サヤカさん達にとって今の叡智や衣食住を得る為の〈孤児院〉だった。
此処で、衣服や食糧、勉学や修練に必要な書物や武具を受け取っていた。
そして、この先にあるもう一つの街、『真の神成市』は、リッチさん達〈上位〉の者達が住まう御屋城であった。
つまり、今のワタシ達が暮らしているこの街は、彼女たちにとっての城下町ということになる。
この惨状のせいか、サヤカさんには未だ『似て非なる存在』という認識が拭えないでいた。
それとは反対にリッチさんの話では、このセカイそのものは夢幻を体現したものであり、世界的文明もその地に元からあった《超古代遺失物》が存在しているだけ。
だから、学園の傍に図書館があるのも、それら三点の中央に《竜器》が奉ってあることもなんら不思議ではない。
「なら、このセカイはいったい何の為にあるの?」
サヤカさんは、リッチさんにそう問うが、当然、リッチさんはその問いに答えられるほどの情報を持ち合わせていない。
それは、帆の祠の時も、薗の古城跡地の時も同じだった。
唯一の手懸かりとなり得そうだったのが、先日の〈竜杖〉の一件の時のみ。
《竜》という存在に関しては、リッチさんもサヤカさんも以前から認識していたので、互いの見識がくい違うことも糸口を見付けられないこともなかった。
だが、それ以外の事に関しては別だ。
そもそも、《超古代遺失物》とは、当時でも謎多き存在であった。
過去でも現代でも、当時の文明技術では創造・解析不可能な技術で造られている品々。その多くは装飾品としての認識が高いがリッチさんやサヤカさん達が所属していた組織では、その多くは建造物であった。
とはいえ、今この地にあるものは、どれも《超古代遺失物》とは言い難いほどの現代風な造りをしている。
それはまるで、《超古代遺失物》と銘打っているだけで、その存在は全く別物であるかのよう。
だが、それが正解だった。
これは別物。此処にあるのは総て、架空の存在。
そう判断した時、ワタシの脳裏に二つの単語が過った。
それは、《虚幻計画》と《対魔術兵器遺失物》だ。
ずっと、時間を巻き戻すだけが《虚幻計画》の概念だと思っていた。
だが、計画完遂に関して、この《計画》だけが明確な意図と見出だせないでいた。
そもそも、この《虚幻計画》が一番始めに始動した計画であるにも関わらず、それが完遂されたかどうかも解らないというのは不可解というもの。
現に、過去の《竜廟計画》は不慮の事故によって完遂され、これから始動される《零時計画》はヴィヴィアンさん主導で行われようとしている。
ならば、謎がある《虚幻計画》も主導者が存在し終端もあるはずだ。
「……………」
それは以前から思考していた事。だけど、結局何も見付からない。
だが、ワタシはそれに繋がりそうな小さな糸口を見付けた。
「これが、《虚幻計画》。この存在こそが、計画が今もなお続いているという証」
「あっ……」「そっか……」
リッチさんとサヤカさんは、それぞれで納得する。
「何なに、どうゆうこと?」
アヤカさんは首を捻る。それを真似るように、ヴィヴィアンさんも頭に疑問符を浮かべる。
「ですが、では何故この配置なのでしょうか?」
サヤカさんが、簡潔にアヤカさんに説明している間、リッチさんが此処へ来た理由と同じことを訊ねる。
学園、古城、祠。この三点はどれも建造物。
古城はすでに跡地なので解らないが、学園と祠ではその大きさも利用価値も違う。
唯一の共通点は、図書館や教会と違い彼女たちの中のだれ一人として住んでいなかったということ。
学園は関所、祠は墓標塔。ならば、古城は元から跡地。だったと考えれば、この配置には説明が着く。
そうなると、問題はこの配置の意味。
何故、この三つなのか。その点が解明されれば、この計画そのものにも納得ができる。
その納得に足る要素が、《対魔術兵器遺失物》にあると見た。
《対魔術兵器遺失物》とは、ある意味『人工的に造り出された魔術兵器』。その概要は、古の時代に造り出された〈魔術兵器〉に対抗する為、それに似せて造られた、謂わば『異物』。
この《対魔術兵器遺失物》の中にも、無論要塞や砲台のような建造物は存在する。
もし、その建造物が『何か』に対抗する為にこの配置になっているのであれば、その『何か』に共通するものがこの三点にはあるはず。
そう判断したワタシは、二人のそれを述べた後、神代家を訪ね改めて学園を調査することを確約し、今日のところは大した収穫もなく撤収した。
後日。リッチさん、サヤカさんの二人とともに神代学園を改めて訪れた。
「今日は、よろしくお願いします」
リッチさんが、案内人に選出された男性に早めのお礼を言う。
本当は、神代家の現当主である宝さんに頼むのがやりやすいが、今の宝さんは当主の座を継いで間もないので、そちらを優先すべきと判断し、彼女の祖父に話を通したらこの男性が選出された。
「それで、どちらから案内すれば宜しいでしょうか?」
「…………」
何故、敬語?
男性の歳は見た目では四十代前後くらい。ここにいる面子の誰よりも歳上のはず……。
「柚希?」
「とりあえず、一通り施設の場所を案内して下さい」
サヤカさんがワタシの顔を覗きこみ、リッチさんが男性に順序を伝える。
「……分かりました」
一瞬首を傾げかけたが、用件を呑み男性は学園の中へとワタシ達を案内し始めた。
入り口は、生徒や教員が使うような通常の下足場ではなく、来賓用の玄関だった。
初めに案内されたのは、特別教室のある校棟。
ワタシにとっては、特に代わり映えのしない校舎たち。されど、リッチさんとサヤカさんにとっては初めて訪れると同じだろう。
リッチさんもサヤカさんも、教室に入るたびに物珍しそうな瞳で室内を見渡していた。
その時、サヤカさんだけでなくリッチさんも学校に通ったことがないのだと判断した。
「こちらには特に何も無いようですね」
特別教室と学級教室、合わせて十三ある校棟を見渡し終えた頃、リッチさんがそう呟いた。
およそ半年程度経つが、合わせても一月ほどしか此処に通っていないワタシでも特に何かに気付くような点は見受けられなかった。
勿論。此処に来る前に通っていた局の軍学校と比べれば、随所随所で疑念や不審な点は見受けられただろう。だが、それでも〈学校〉という概念を考えれば、どちらも普通としか言いようがない。
神代学園があるのは、神成市でも山岳に近い位置に存在している。
此処を越え、真の神成市をも越えると、二千メートル級の岳峰が数十キロにも続いており、この秦という国は唯一他の国々から隔離された地形を持っている。
この国への入国は主に、海港からとなるが、帆側の岳峰の一部にやや大きめの山遂道が存在する。
その他にもこの地に建てられている理由を模索したが、二人が納得しそうな要因や接点は見当たらなかった。
「改めまして。どうも、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ」
リッチさんの丁寧な謝礼に、同じような謝礼で返す男性。
「いえ、そんな。無理を申し上げたのはコチラですから」
「ですが、他国からの友好的な対応は初めてですので、丁重にせよと理事長より仰せ遣っておりますので」
……!? 今、何と?
空耳のように聞こえてきた言葉に、ワタシは耳を疑った。
「それは、本当に理事長さんが言っていたのですか?」
「え?……ええ」
「そうですか………」
納得はしきれないが、そう受け取り再び思考する。
「どうしたの?柚希」
これが、《虚幻計画》の影響。
過去を『歪める』のではなく、『書き換える』計画。
それによって生じるのは、不可解な疑念。
「もし、この地に二人の知らないモノがあるとしたら、どうしますか?」
ワタシは、不意に確証の持てない質問を投げ掛けてみた。
「え?…………ううん」
案の定、サヤカは深く考え込んでしまった。
「それは、ワタシ達が《超古代遺失物》という認識をしていないモノがあるかもしれないということ?」
「可能性としては」
「…………。だとしたら、この配置に意味はないと?」
「いいえ。この配置がどうこうではなく、それぞれの《超古代遺失物》そのものがこの場所にあることこそ、何か意味があるのではないかと」
そうだ。ワタシ達は、『根本』を勘違いしていたのだ。
《虚幻計画》は、過去を書き換えるのではなく、未来を定めるという〈理〉を体現させる意図があるのではとワタシは推察した。
その理由として、夏ごろに起きた《虚幻計画》の実証とも言える現象。事件の直前へと巻き戻されたあの一件。
その時のあの場所は、《超古代遺失物》の一つである古城跡地だった。
その古城跡地は《神桜珠》だった〈氷桜柱〉と何かしらの関係があった。
それは、立の学園も、帆の祠も似たようなもの。
祠は〈炎桜柱〉と関係があり、学園は〈巖桜柱〉以外の五人が生徒として通っていた。
そう考えると『小さな可能性』だし、図書館と教会には差した関連性は見出だせない。
「…………」
そこまでの考察を二人に一応話した。
「信憑性はゼロじゃないね」
「ええ……」
二人とも、納得はしてくれたようだ。
だが───、
「確かに、全ての《超古代遺失物》を、と考えると不明なモノも出てきますね」
そう。ワタシはそこに引っ掛かっていた。
「………いえ、そうとも言えないかもしれませんよ?」
「どういうことですか?」
「先程柚希さんが推察していたことを借りるなら、ワタシ達が《超古代遺失物》として認知していないモノが存在しているということですよ」
「……………。だとしたら、いったいどんなモノがあるって言うの?」
「…………」
だが、リッチさんはそれを上手く説明できないでいた。
無論、その考察も外れという可能性もある。
ただ言えるのは、今ワタシ達が解明しようとしている『役割も存在価値もそれぞれ違うモノの意外な接点』ではおそらく違うということ。
大前提として、これらの《超古代遺失物》がこのセカイに存在しているのは《虚幻計画》が要因と仮定するとしよう。
では何故この〈遺失物〉なのか、何故この配置なのか、その意味と必要性を改めて模索する。
そして、これらの《超古代遺失物》に関わりがあるかは分からないが、一応《虚幻計画》とは関係がありそうなので、二人に〈神桜樹〉と〈師法研究所〉の事も踏まえ、この国でこれまで起きた事をワタシが記憶している限りで話した。
「───ッ!」
そんな話をした途端、二人は急に顔を強張らせ互いに顔を見合わせて何かを共有するような素振りをした。
「『接点』はソコにあったんだね」
一人、総てが繋がったように呟くリッチさん。
そのリッチさんが言うには、《虚幻計画》が本当に彼の地を模して行われているのなら、〈神桜樹〉とは切っても切れない関係にあるとのこと。
その理由は、組織の大株がそこにあり、それが総ての始まりにして終わりだから。
それに、もう一つの共通点である〈師法研究所〉は、組織そのものに大きな恩恵をもたらし続けてきた。
「これは噂程度の情報ですが、『師法』という姓はユウヤさんのお母様の旧姓らしいですよ」
その情報に、今度はワタシとサヤカさんが驚く。
「では、小薙美琴が師法隆充に近付いたのには意味があるということになりますね」
「私は、それは初耳ですけどね」
小薙美琴が師法隆充に近付いた意図。それは、もしかしたらソチラが意図されていたのかもしれない。
ワタシの脳裏に、一瞬だけ二人の無邪気な日常風景が過った。
「──いつッ!」
だが、そのフラッシュバックはワタシに微かな痛みも与えた。
「……大丈夫?」
「………何か『見え』ましたか?」
「? どういうこと?」
三度、首を傾げるサヤカさん。
「あ、いえ。一瞬でしたので、どんな内容かまでは」
「そうですか……」
「なんだか、訳アリっぽいね」
こういう時、頭の切れる人は面倒だ。
「やはり、最終計画まで来れば〈混流〉は避けられないようですね」
どうやら、ワタシが度々記憶のフラッシュバックを起こすのは、ワタシの存在そのものに原因があるようだ。
これは、《竜廟計画》には無かったもの。
だからか、リッチさんはワタシの存在にずっと疑問を持っていた。
それは、組織の中枢にあった〈竜〉という存在すら疑念を与えてしまうほど。
「こう繋げてみると、総てが納得できますね」
ようやく繋がった、光明への糸口。
それは、決して《虚幻計画》に関連するものばかりではない。
何故この地なのか。何故、この《超古代遺失物》なのか。
そこに意味は確かにあって、そのヒントはずっと前から提唱されていた。
だが、その関連性にも小さな疑念があった。
《超古代遺失物》であるものと、そうでないもの。
その関係性までは解明できていない。
それでも、一つだけ解っているのは、この配置には、それだけの意味が込められているということだろう。




