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夜天幻時録  作者: 影光
最終章 冬郷輪廻編
81/102

第80話 竜皇の叡智

 このセカイにある《超古代遺失物(オーパーツ)》の手掛かりは、その地にある同じ遺失物(・・・・・)が知っている。

 それは偶然の産物か、あるいはその点在の仕方に何か意味があるのか。

 しかし、ここ秦には《ディル・ディ・レイの永柩図書館》以外にも五つの名のある《超古代遺失物》が存在しているはずなのに、一つとして関係が繋がるような点は見付からなかった。

 その問題に関して、サヤカさんはある可能性を挙げた。

(ここ)には、建造物以外の形をした《超古代遺失物》が存在している?」

 そこに確証はない。

 それは、リッチさんも同じだった。

 リッチさんが持つ〈十三皇〉としての知識の中に、《超古代遺失物》に関する情報はサヤカさん達と同じように皆無に等しかった。

 図書館、学園、古城、教会、祠の五つ。

 この内、関連していそうなのは、学園と古城、そして教会の三つだろうと、リッチさんとサヤカさんの意見が一致した。

 この三つに該当しない図書館と祠は、それぞれ別の存在(・・・・)だと認識したほうが良さそうだ。

 そう方針を決め、今いる場所から最も近い(・・・・)教会へと向かった。

 その教会は、以前ワタシは訪れたことのある《亜原大聖堂》だった。

 一度は訪れたことがあるだけあったて、ワタシには此処にあるのは《ディル・ディ・レイの永柩図書館》にあるような書物と大して変わらないものしかないことを既に知っている。

「ア、ハラ………」

 聖堂には到着したが、その敷地内に入る直前でサヤカさんがポツリと呟いた。

 しかし、そう呟いた後、一度立ち止まり聖堂を正面からぐるッと見渡して勘違いだったのか、先行していたアヤカさん達の元へと駆けていった。

「柚希さん」

 と。そこへ、ワタシと同じようにサヤカさんの動向を気にしていたリッチさんが、声を掛けてきた。

「あの方の行動、どう受けとりますか?」

 先に聖堂に入っていった三人に覚られぬように、歩幅を小さくして歩き出しリッチさんの問いに答える。

「今はどうとも言えません」

「そうですか」

 ワタシの返答を聞き、リッチさんは安堵したように小さく肩を竦めた。

 あの時の答えを、リッチさんはまだしていない。

 その答え次第では、おそらくサヤカさんの対応も変わるだろう。それは、リッチさんも理解しているはず。

 今のサヤカさん達は、ヴィヴィアンさんの存在があるお陰か目立った行動は何一つ見せていない。

 それは好機ではあるのだろうが、サヤカさんの指示に従ってばかりのアヤカさんの動向にも要心は必要だろう。

 聖堂を訪れたワタシ達を出迎えてくれたのは、あの時のシスター。

「あ。いらっしゃいませ。まぁ~、お久し振りですねぇ~」

「あ、はい。お久し振り、です」

 およそ半年振りの再会。

 ワタシの方は何となく記憶しかないが、目の前のシスターはまるでワタシが来ることを心待ちにしていたかのように喜び、過度な挨拶を交わしてきた。

「ふぐぅっ……」

 息苦しささえ覚えてしまいそうな胸の圧迫感に、ワタシの意識は遠退き掛かる。

「そのくらいにしとかないと、さすがに度が過ぎると思うけど?エリーゼ」

「あははっ、そうだね?『唯一の希望』さえ手に懸けちゃうのは、ワタクシ達としても不本意ですしね」

 ゆっくりとだが、エリーゼと呼ばれたシスターはワタシから離れていく。

「ぷはっ、はふぅ~………」

 ワタシは、彼女の魅惑的な束縛から解き放たれ、数分振りの清い空気を肺いっぱいに吸い込む。

「で?アナタはこんなところで何をしてるの?」

 まるで知り合いであるかのように、サヤカさんはシスターに訊ねる。

「ユフィからの命で、この地の守護をしておりました」

 それが嘘か誠か、ワタシにもヴィヴィアンさんにも一才分からないこと。

 だが、ワタシ達以外の三人はシスターの正体を知っているようだ。

 その内でも、特にサヤカさんはシスターと面識があるようだ。

「とは言っても、ここはそれほど荒れてないし、アナタのような人がこの地を守護するほどの環境下にあるとは思えないけど?」

「それは失言(・・)ですよ」

「…………」

 まるで、二人の間で高度なやり取りが行われているかのように話が進んでいく。

「この地は不思議ですよ。『あの場所』に似せた大地に、『かの存在』を真似たような伝承」

 それは、この秦のみが持つ奇妙な類似点。

「それはまるで、あの時の出来事を彷彿とさせているかのよう」

「なら、そうだと感じているアナタは、この状況をどう見ている?」

「《計画》そのものは順調に進んでいると思いますが、あと一手。何かが欠けているようにも見受けられます」

「そう、なんだよね。これまで、三十以上の《計画》が実行され、その内の半数以上が既に完遂済み」

 ワタシはその時、初めて知り同時に驚いた。

 これまで行われた《計画》は、三十六。

 その内、二十八もの《計画》は既に完遂されている。

 特にワタシが知り得ている《計画》の中で、〈竜皇(ワタシ)〉という存在が誕生したことで《竜廟計画》は完遂という扱いであり、ずっとこのセカイを歪め続けている《虚幻計画》は今も尚、その影響が残っている箇所があることから完遂扱いではないとのこと。

 そして現在、西洋、北欧では、東方(ここ)と同じように幾つかの《計画》が完遂されようとしている。

 その後任を担っているのが、何を隠そうヴィヴィアンさん達《夜天騎士団》の面々であり、ヴィヴィアンさんもその為に(ここ)に来ていた。

 ヴィヴィアンさんがこの地で行うのは、最終計画である《零時計画》完遂の手助け。

 だが、肝心のヴィヴィアンさんが、その計画の概要さえ全く覚えていなかった。

 後日。彼女と同じ《夜天騎士団》に所属しているマルクトさんにその事を訊ねたが、マルクトさんも一切知らないと言う。

 それどころか、騎士団それぞれが異なる役目を与えられており、その概要も内容も託された本人にしか分からないとのこと。

 それに深く関わる事で、西洋では騎士団の一人がそこの本島に本部がある《聖皇教会》と激突、北欧では帝国を戦地とした戦争が終結しかけていた。

 そして、《零時計画(これ)》がこのセカイに住まう住民にとって最期の《計画》。

 これが完遂された時、セカイはようやく本来の姿を取り戻す。

 騎士達全員がそう聞かされここまで従ってきた。

 だけど、この手の謳い文句と最終計画の名称を聞かされて、普通は良いものなど想像できようはずがない。

 それでも、ヴィヴィアンさんやマルクトさん達がその《皇》という者の言葉を信じるのには、何かそれなりの理由があるのだろう。

 それが何なの か見当も付かないが、それが問い詰めるほどワタシには彼らに興味もない。

 が。問題は、ヴィヴィアンさんがワタシの元に来ることをマルクトさんは既に把握していることだった。

 それは、まるでヴィヴィアンさんがワタシの元に来るまでの間に、マルクトさんがその穴埋めをしているかのよう。

 ヴィヴィアンさんに託された役目を知らないと言っていたマルクトさん。けれど、そのマルクトさんは彼女が(ここ)へ来ることを知っていた。

 それは違和感を感じさせるほどに不自然な認識だ。

 そうなれば、マルクトさんのこれまでの行動に疑念が生まれる。

 だが、今肝心なのは、この秦にいったい『何』があるのか、だ。

 その為に、サヤカさんはこの亜原大聖堂を訪れた。

 ワタシも前に訪れた。だけど、その時見た資料はこの国に関してのものばかりだった。

 とても、セカイそのものについて書かれている資料があるとは思えない。

「ここにあるのは、本当に『過去、百年分の書物(もの)』だけなんだね?」

「ええ」

 ワタシはシスターに頼み、この国で起きた過去十年分の資料を求めて地下書庫にあった過去三十年分の資料を大まかにあたった。

 だけど、サヤカさんのやり方は、その時のワタシとは違っていた。

 サヤカさんは、地下書庫のことを聞くことなく、この建物に保管されている書物の年層を訊ねていた。

 その刹那、ワタシはそのやり方を見て、以前サヤカさんが言っていた事を思い出した。

 『《超古代遺失物》のことは、その地にある同じ遺失物が知っている』

 そして、この聖堂も《超古代遺失物》の一つ。

 情報は、ここの書庫にあるのではなく、この建物そのものにあった。

 亜原という名に聞き覚えがなくとも、この地に存在し、その建物内に保管してあることこそ、何よりの証拠であり情報へと繋がる。

 その情報は、この建物が図書館と学園を繋げる唯一の接点であり、他の《超古代遺失物》二つをも結び付ける中継点となっていることを報せていた。

 その他二つ。古城と祠。

 古城は薗にあり、祠は帆にそれぞれ存在していた。

 それと同時、いや。これはその二つの元に向かった後に気付いたのだが、学園、古城、祠の三点を三角形のように地図上で結んだ時、それらのほぼ中央に神代神社が存在していた。

 それが偶然であるかは定かでないし確かめようもないことだが、神代神社が《超古代遺失物》の一種でないことは確かだった。

 《超古代遺失物》に囲まれるようにして存在する建物。

 無論、その三つを結んで出来た円の中にある建物は、神代神社だけではない。

 ただ、その円の中にある建物の中で、唯一神代神社だけが特別な建物というだけ。

 その建物に、サヤカさんは疑念を抱いた。

「この神社は、他の神社と何か違うんでしょうか?」

 一見、他と大して変わらない普通の神社。

 違うとしては、この間ようやく全ての修繕が完了したので他と違い真新しいことくらいだろうか。

 ちなみに、ここ秦には、神代神社(ここ)とは別に薗や帆にも小さいながら神社は存在する。

 その三国の中で、一番大きく円の中に存在する立の神社。

 その謎は、ワタシが一度体験した此処での出来事の中に登場していた『あるモノ』が関係していた。

 その正体こそ…………、

「………《竜器(ディゾール)》」

 それが、以前ここの管理者である神宮寺阿莉子が『竜杖』と呼んでいたモノの正体であり、この神社が円の中央に存在している理由だった。

 だが、この《竜器》が原因で阿莉子が神界へ追放されることとなったのだが、それは今は後回しとなった。

「では、竜杖(アレ)は元々神代神社(ここ)祀られていた(・・・・・・)モノだったのですかッ?」

「ええ、おそらく」

 それが、当然の真実。

 だけど、被害者でもある阿莉子さんは信じられないと言いたげな表情のまま唖然としてしまっていた。

「(それにしても、こんな地に何故《竜器》が?それに、此処へ来る前に通りかかった二つの国。あれじゃあまるで…………)」

 そんな阿莉子さんとは裏腹に、真実を告げたサヤカさんは一人考え事をしているように見えた。

「もののついでと言ってはなんですが、(ここ)が三国で分かれていた時の国章(・・)を御存知ですか?」

「え?ええ………」

 それを聞いてどうするのだろうと思ったが、サヤカさんにもサヤカさんなりの『想うところ』があるのだろうと解釈して、それを訊ねなかった。

 それから数分後。ワタシ達は神代神社を出た。

 その帰路で、ワタシはサヤカさんの納得しきっていないような表情が気掛かりだったが、それは後日、サヤカさんの口から出たとんでもない発言にワタシが逆に悟ってしまった。


「「……で、だれ?」」

 突如として訪れた納得しきれない状況に水を差すように、火垂さんとアヤカさんが同時に声を上げた。

 少し呆れぎみのサヤカさんや苦笑しているリッチさん達を尻目に、ワタシは互いの紹介をした。

「それじゃあ、始めましょうか」

 サヤカさんのその言葉で、戦地として用意された『演習場』に集まっていたワタシ以外の全員が同時に武器を構える。

「で。ところで、これから何が始まるの?」

 再び水を差す火垂さん。

 勝手に参加しておいて場違いなことを言う火垂さんに、サヤカさんだけでなくワタシまで呆れそうになる。

 ワタシは面倒に感じていたが、サヤカさんは既に呆れ果てていたので改めて重要な部分だけを火垂さんに伝えた。

「ふふぅん。なら、やっぱり私も参加だねッ」

 さも当然のように、火垂さんは胸を張り鼻を鳴らす。

 これで、戦力差は倍半分。

 一見して姉妹側が不利なように思えるが、その戦力差は埋るどころか悠然と越えていくこととなる。

「では、コレが『開戦』の狼煙ですッ」

 そう言ってサヤカさんは、詠唱もなく天へ突き上げた〈竜杖〉から白黄色の発光体を飛ばした。

 それは確かに開戦の合図だろう。その証拠に、火垂さんとヴィヴィアンさん、アヤカさんはほぼ同時に地を蹴り相手の陣営えと突撃した。

「やはり、単調な猛進ですか」

 サヤカさんは、現実を改めることなく、再び〈竜杖〉を天へと捧げた。

「“ヴァリュアブル・コーティング”」

 サヤカさんが発したその言葉で、アヤカさんの全身が青紫色のオーラに包まれる。

「柚希さんッ」

 その変貌とも見える息の合い方を見て、リッチさんが途端に声を挙げた。

「私は、先攻したお二方の援護を行いますので、柚希さんはあの方をお願いします」

「一人で大丈夫ですか?」

 訊ねているのは当然、リッチさんの身の心配ではない。

「おそらく………。ですが、コチラは三対一。ソチラは一騎打ちとなります」

 当然、苦戦を強いられるのはコチラ側だけだろう。

「それに、あの方は貴女を試すと言っていました」

 そう。それが、今回あの二人と戦う理由。

 サヤカさんは知りたがっていた。

 組織(じぶんたち)招いた種(・・・・)がどのように変わったのか、何故《竜廟計画》は続けられた(・・・・・)のか。

 サヤカさんは、この戦いでその真意を見出だそうとしていた。

 それに引き換え、ワタシ達は…………。

 特に深い意味もなく、戦闘と聞いて勝手に参戦している火垂さん。この間のリベンジ、と言って妙に活気立っているヴィヴィアンさん。自分も《竜》の行き着く先を見たいと、何故か参戦しているリッチさん。

 三者三様に理由はあれど、それは果たして『正しい選択』なんだろうか。

 どう考えたところで、それはワタシ(・・・)がねじ曲げていいものじゃない。

 それくらいは(・・・・・・)、理解しているつもりだ。

「………分かりました。では、ソチラはお任せします」

 ワタシはいつも、自分が『外野』だと思っていた。

 それは、《局》での暮らしがそう認識させていたのだろう。

 (ここ)へ来て、もうそろそろ一年。

 セカイは取り戻しようもないほどに変わっていっているが、ワタシもそれなりに変われていけているだろうか。

 ワタシとリッチさんは、大した作戦も立てぬまま、自身の持ち場へと付いた。

アナタ一人(・・・・・)で、何が出来るというのですか?」

 火垂さんとヴィヴィアンさんが、アヤカさんを足止めしている間に縮めたサヤカさんとの距離。

 その速度を一切殺さず生かし続け、既に抜いていた小太刀を構えてサヤカさんの腹部目掛けて突進する。

「甘いッ!」

 その言葉の刹那、もう半歩というところでサヤカさんの姿が消えた。

 いや。サヤカさんは、その場にしゃがんでいたのだ。

 気付いた時には既に遅く、構えられていたサヤカさんの左拳が、ワタシの鳩尾に直撃した。

「グフッ!」

 重心を捉え放たれた正拳は、ワタシの身体を数十メートル後方へと弾き飛ばす。

「柚希さんッ」

「よそ見は禁物ですよ?“カタストロフ・フォース”、“セイクリッド・アクセル”」

 二つの呪文が、アヤカさんに同時に掛けられる。

 「ぐっ!」「うあっ!」

 サヤカさんの助力を得たアヤカさんは、相殺していた火垂さんとヴィヴィアンさんの攻撃を弾き返した。

 一対三でも、圧倒的な力量を見せつけるアヤカさん。

 そんな息の合っていないはずの二人のコンビネーションに、ワタシ達は戦意を欠き始める。

「これで、終わり?さすがに呆気ないと思うけど」

「…………サヤちゃん」

 挑戦的に幻滅するサヤカさんと、そんな妹の言動に衰迷するアヤカさん。

 二人の反応は違ったが、さすがは《夜天二十八罫》の一角かと納得しかかってしまうほど、この二人はお互いを理解している(・・・・・・・・・・)

「何故、〈自分〉を畏れるんです?」

 ワタシの心理を揺さぶるように、サヤカさんは口を開く。

 畏れて当然だろう、と心の中で吐き捨てた。

 サヤカさんの手元には、一時的とはいえ阿莉子さんから拝借している〈竜杖〉がある。

 ワタシはソレを畏れていた。

 一度だけとはいえ、ワタシはソレの強大さを身をも

って知っている。

 リッチさんやサヤカさんの話では、《竜器》は《竜皇(ディエルゴ)》の分身、あるいは断片。

 確かにそれは、〈(ディンギル)〉の一部で、そのチカラは知れている程度だとされている。

 だが、ワタシはそのチカラを懸念していた。

 以前阿莉子さんとやり合った時に、それがチカラの片鱗だとしても、そのチカラはワタシに『畏怖』を植え付けるほど。

 後でどれほど後付けされようと、一度受けた畏怖は一長一短で抜けやしない。

 きっと、サヤカさんはそれに気付いている。

 だからこそ、サヤカさんはその『畏怖』を逆手に取ろうとしているのだろう。

「……………」

 なら、その余興に乗ってやろうと、ワタシは心痕のことを一時忘れ、ワタシの中にある《竜皇》を呼び覚ますことにした。

 そこから先は、ほぼ何も覚えていない。

 リッチさんの安堵した顔や、サヤカさんの納得した表情を見て、ワタシも少し気が晴れたような気分になった。


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