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夜天幻時録  作者: 影光
第3章 秋星大祭編
53/102

第52話 季節外れの祭典~絢華祭~

 九月も中頃に入り、街の樹々達もこの時季に合うように葉の色彩(カタチ)を変えていた。

「紅葉…………」

 通学路としている道を歩く中で、伊織(いおり)さんが突然のように呟く。

「何?それ」

 と、隣で燈架李(ひかり)さんが反応する。

 空を見上げた伊織さんに連れるかたちで、上を見上げる燈架李さん。ワタシも連れて天を仰ぐと、通学路の上空を染める紅色の葉達の姿があった。

 しかし、燈架李さんはこの光景を見るのが始めてかのように、口を紡いだ。

虚界(コッチ)の樹は、色を変えるんだね?」

「ん?」

 その発言に、今度は伊織さんが驚く。

星界(ソッチ)は、変化しないの?」

 伊織さんが問う。

「そうだね。星界(アッチ)じゃあ、咲かない樹は咲かないし、咲く樹は一生色なんて変わんないかな」

 燈架李さんは、素直に答えた。

 その二人の会話は、先日のいさかいなど微塵も感じさせないほど普通だった。

 それはおそらく、二人の出身が全くの正反対にある事が関係していると思われる。

 脂身の少ない淡泊な肉類を好む伊織さんに対し、燈架李さんはあっさりとした鮮度の高い野菜を好むようで、先日の二人はその事で大いに揉めた。

 だが、それ以外では意気が合うようで、現に今も軽やかな会話が続いている。

「へぇ、じゃあ今度。そっちの妖界(セカイ)にも遊びに行こうかな?」

「え?あ、うん…………」

 妖界から『破門』状態にある伊織さんは、苦し紛れのように小さく頷いた。

 そんな二人の何気ない会話を、少し先を歩きながら盗み聞いていた。


 その日の昼食時(ランチタイム)、学園の食堂の一角にて………、

「今度、皆で花見をしようっ」

 と。堂館中に響き渡るほどの大声で、入衛(いりえ)未美(みみ)は宣告する。

「「…………」」

 ワタシと高塚(たかつか)(みやび)は沈黙のまま、定食に付属している味噌汁を同時に啜る。二人は、未美さんの性格をよく知っての行動だ。

 だが、それを知らない伊織さんと燈架李さんは違っていた。

「花見、かぁ…………」

「良いね!やろうっ!」

 と。二人とも乗り気だった。

 この先には、嫌な予感しか浮かばないが、それを止めるのは野暮のような気している。

「ん………?」

 ふと、ワタシは微かな気配に気付き視線を向けた。ワタシの目の前に座る雅さんが、アイコンタクトでコチラに何かを伝えようとしていた。

 どうする、の?

 雅さんのアイコンタクトは、そう言っているように感じた。

 それが合っているかは分からない。だけど、ひとまずそう認識したと仮定して、今度はワタシがアイコンタクトを送った。

 それを途端に理解したであろう雅さんは始めムスッとし、すぐさま次のアイコンタクトを送ってきた。

 私、嫌な予感しかしないんだけど?

 今回のは、少し長かった。

 その返事もアイコンタクトで返す。

 そのすぐ後、雅さんは伊織さん達に聞こえそうなほどの小声で深く大きなため息を吐いた。

 結局、ほぼ何の口論などに発展することなく、花見の開催が決定された。

 そしてそれは、どのような手口(ルート)を駆使したのか分からないが、その情報はおよそ半日足らずでワタシの知る人物達全員の耳に入っていた。

 さらにその日の放課後になれば、その事態を否応なく対処しなくてはならなくなっていた。

「あのぉ~~…………」

「では、お弁当は各自持参ということですか?」

「そう………なりますね」

「ねぇ………」

「では私は、団員の皆さんに頼んで豪勢なのを用意してもらいましょう」

「あ、ズルい。ワタシも一応、村の皆に声かけてみようかな」

「ちょっと………」

 何処から湧いて出てきた、というか、どうやってこの学園に入って来たのかは聞かずにおいておくとして、水瀬(みなせ)(あおい)鳴滝(なるたき)火垂(ほたる)の両名は二人だけで盛り上がり、嵐のように去っていった。

「…………ふぅ」

「ねぇ、柚希(ゆずき)?」

 ため息を吐いた刹那、二人かしの空間となった生徒会室で、頭の辺りから何か言いたげだった葉月(はづき)さんが声をかけてきた。

「柚希はいったい、何をしているの?」

 葉月さんは、そう訊ねてきた。

 無論、その言葉の意味は表面的なものではない。葉月さんが訊いているのは、ワタシ達が今やっていることの真意だ。

「花見の受付です」

 しかし、ワタシはそれしか答えられなかった。

「それは知ってるよ。燈架李さんが楽しげに報告しに来ましたから」

 そう。でなければ、ワタシが今生徒会室(ココ)にいるはずもない。

「じゃなくて、柚希はなんで此処にいるの?」

 葉月さんは、質問をさらに掘り下げてきた。

 だが、正直ワタシにも分からない。放課後になり、伊織さんの姿は忽然と消え、傍にいたはずの燈架李さんには、この参加者用名簿の紙を渡され、生徒会室(ココ)に行くように指示されただけ。

 それに、流石は神代学園か。授業にも出ずこんな用紙を作成していても何も言われないようだ。

「分かりません」

 今度は、率直な意見で答えた。

「律儀ね」

 葉月さんは、クスッと微笑した。

 その後しばらくの間、無言の空気が流れた。

 特にする事もやりたい事も見当たらなかったので、暇潰しと思って葉月さんの手伝いをすることにした。

 結局、夕暮れ時になっても伊織さんや燈架李さんが姿を見せることなく、その日も終了した。そして何故か、帰宅したワタシを待っていたのは、酷く険悪なムードになっていた二人の仲持だった。

 あぁ~~、めんどクサッ…………。


 何時振りだろうか、ワタシは小さな〈夢〉を見ていた。

 満開に咲き誇る黄色の花。まるで、春の陽気に誘われるように、その一帯には蒼と緋の花を咲かせる樹々も、ちらほらと点在していた。

 その中で賑わう大勢の人々。その中の一角に、ワタシの視線は向かっていた。

「お、ようやく来たか」「重役出勤だな」

「あ、来ましたか?」

「コッチですぅ、コッチコッチ~~!」

 十に満たない数の少年少女達。彼らは、このワタシの友人。

 けれど、この時のワタシは彼らを僅かながら避けていた。

 彼らがワタシに何かをした訳ではない。ただ、ワタシ自身が彼らに対して後ろめたさを持っているからだ。

 毎年行われているという年一の行事、花見は大きな賑わいを見せていた。

 この場に集った誰しもが、そよ風に舞う数種類の桜の花びらの中で、意気揚々とこの場の雰囲気に浮かれ、酒を酌み交わし、この一瞬に近い一時を楽しんでいた。

 それは、ワタシの目の前にいる『友達』も同じであった。

「ユウ、飲んでるかぁ~~?」

 酷く酔っているような口調で、一人の少年が近付いてくる。無論、彼らはお酒など飲めない。法律によって飲酒は二十歳からと定められているからだ。

 そんな彼らの顔が火照っているのは、この雰囲気に酷く高揚してからなのだろう。

「まったく、相変わらずユウは無愛想だなぁ?」

 肩に回された彼の腕を苦とも思わず、ワタシは無表情のまま始めに渡されたペットボトルのお茶を口に運んだ。

 今だ『感情』、人の心がどのようなモノか解らないワタシでも、この光景は見ていて飽きないモノがあった。

「ねぇ、飲んでる~?飲んでる~~?」

 焦げ茶色の髪の少女が、その隣に座る金髪の少女に寄って掛かる。

「うるさいわねぇ~~、って。あなたそれ、お酒じゃないッ?しかもホンモノだしッ!」

 金髪の少女は目玉をひんむき、酷く驚いて焦げ茶色の髪の少女からお酒を奪い、その中身を敷物の外に放り投げた。

「ああぁ~~………、私のお酒………けっこう高かったのに………」

 焦げ茶色の髪の少女は、惜しむように芝生に吸われていくお酒を見つめていた。その直後、ちょうどお酒が全身に行き渡り、少女はくぅ~という寝息を発てて眠ってしまった。

「はぁ~まったく、この娘は………」

 呆れ項垂(うなだ)れる金髪の少女。彼女は焦げ茶色の髪の少女の身体を仰向けにさせ、その頭を自身の膝枕の上に乗せた。

 それだけであれば、結局は仲の良い二人。という風に見えるのだが、金髪の少女は、それからこの宴会が終わるまで、少女のおでこを台座代わりにして湯呑みを置いていた。

「ユウさんユウさんッ」

 と。純真無垢と言っても過言ではない声に呼ばれる。

 顔を向けると、そこには大きな重箱を五つほどワタシの目の前に置く二人の少女の姿があった。

 どの重箱も三~四段程度のものだが、如何せんその数は多い───多過ぎる。

 その重箱全てを一段ずつ敷物の上に広げると、それらのせいでワタシの行く手を重箱達が囲む陣形(かたち)となってしまっている。

「少し、作らせ過ぎてしまいましたか?」

 と、朱髪の少女が訊ねる。

「一応、殿方のお口に合いますように、お肉のお料理を中心としてご用意させましたが…………」

 朱髪の少女は残念そうに言うが、その言い方に深みを感じるのはワタシだけだろうか。

 ワタシはとりあえず、その料理から一つだけ取り口へと運んだ。

 歯を入れた瞬間に広がる大量の脂気。それはまさしく男の料理といった感じそのものだ。

 噛めば噛むほど広がる動物性の重苦しい脂。その感覚は、夢を見ているだけのワタシでもはっきりとした味わいが感じられるかのようで……。

「どうですか?」

 朱髪の少女は、純真無垢な瞳で訊ねてくる。

 本来であれば、不味い、と正直に言ってやりたいが、それはさすがに控えたほうが良いだろうという自己判断のもと、

「…………」

 無言のまま噛み続け、次の料理をせびるかのように視線だけ別の重箱に向けた。

「では、次は私の方の料理ですね」

 言って、藍色の髪の少女は重箱を一段持ってワタシに近付く。

 その少女が持つ重箱に視線を向けると、先程のモノとはまるで別次元の食べ物かのように、その主張は大きかった。

 真っ茶色一色であった先程の重箱に比べ、こちらの重箱は色彩りの食べ物が互いの存在を引き立てるかのように詰められている。

「確かに、男性の若者といえばスタミナの付く物と捉えがちですが、やはり花見に来たのですからバリエーションに拘ったモノの方が良いですよね?」

 その言葉には悪意を感じ、この場の雰囲気を悪化させる。だが、それでも彼女達はある意味で親友同士。その発言も何気ない青春の一駒だと、この時のワタシでも十二分に理解していた。

 二人の少女が持参した弁当を均等に頂き軽い腹ごなしを済ませたワタシは、少し辺りを散歩してみることにした。

 そして、しばらく歩くと、不自然な風が吹く一角を発見した。当然、そんなおかしな風などは何処にも吹いていない。ただ、そんな気配がしただけだ。

「あ、ユウくん………」

 その気配の中心に、見知った人物の姿があった。

 目の前に映る銀髪の少女もワタシの存在に気付き、桜の樹に背を預けたまま視線だけをコチラに向ける。

「良かったのですか?」

 と、不意に銀髪の少女は訊ねてきた。

「あ?ああぁ………、まぁ、腹ごなしは済んだし……」

 適当な言い訳をし、話を紡ぐ。

「腹ごなし、って………。相変わらずヒドい言い方だね?」

 銀髪の少女は呆れたように呟き、持っていた紙コップに口をつける。

「仕方ないさ………」

 ワタシは、そんな少女にそう返した。

「で?」

「?」

 銀髪の少女は首を傾げるが、ワタシはそれを同じように首を傾げて返す。

「ワタシに、何か用?」

「いや、特には………」

「そ………」

 素っ気ない返事をすると、銀髪の少女は明後日の方向へと視線を戻した。

 そして、ワタシは再び歩き出す。

 時折吹く無尽蔵な風。その風に煽られながら遂には人気の無い場所へと来てしまっていた。

 そこは、総ての始まりの場所で、この先に起こる終わりの場所でもある地点。

 そして再び吹く一陣の風。ワタシの視線はゆっくりと下がり、同一化していた少年の顔がワタシの目の前数メートル先に映る。

 ────ッ!

 その顔を見た刹那、ワタシの心臓は大きく跳動した。

 あなた、は……………。

 しかし、そんな心の声も虚しく、ワタシの意識はゆっくりと現実へと引き戻される。


 ワタシが目覚めた時、そこはいつも変わらない自室であった。

 ワタシが横たわっていた寝台には僅かな隙間があるが、もうこの隙間を埋めるモノは何も無い。

 意識を引き戻し、現実の生活を再開させる。

 寝間着から普段着に着替え一階へと降りる。

「ハァアァァァッ!」

「ヨッ、ハッ!!」

 居間から見える縁側越しの中庭で、この家の居候たる二人が朝稽古に励んでいた。

 只今の時刻は朝四時。

 九月も中頃に入ったとはいえ、この時間帯でも外は朝陽が眩く照っている。

 ワタシは二人の姿を横目で素通りし、台所へと向かった。

 ワタシと伊織さんだけだった数日ほどは、どちらかの気が向いた時にだけ台所に立っていたが、燈架李さんが来てからは当番制で決めることにした。

 だが、時としてその担当は放棄され別の場所で食卓を囲むことも頻繁に起こる。

 とは言え、その食卓は一定の場所でしか囲まれていなかった。その場所とは、当然───遊殻(ゆうかく)亭である。

「くぅ~~ッ!おいっしぃ~~~ッ!」

 絶叫に近い歓喜の声で叫ぶのは、他でもない燈架李さんだった。

 ほぼ毎日のように訪れるこの店に、燈架李さんだけは常連のような赴きを見せる。

 次々と食卓に並べられる大量の料理、それらを颯爽と片付ける燈架李さん。ワタシと伊織さんは、そんな燈架李さんの目の前で彼女が注文した料理を拝借するかたちで小皿に移し口に運ぶ。

 無計画な朝食を済ませたワタシ達は、気分転換と明日の花見の下見を兼ねてお店を出た。

 この国で最も有名な名所でもある桜公園は、この時期に桜の花など咲いているはずもなく、花見を行うなど無謀の所業だろう。

 しかし、何も花が咲くのが春に限定されているという訳がなく、この季節でも咲く花は咲くのだ。

「此処が、明日の会場?」

 現場に到着して早々に、燈架李さんが開口一番で問う。

「へぇ~、スゴいね!こんな花、見たこと無いよ」

 と。誰かが答える前に、燈架李さんは感慨そうに咲き誇る樹々の中へと消えて行く。

「ま、アタシも此処へ来たのは始めてみたいなものだから意見は同じなんだけど………」

 そう言って、伊織さんは燈架李さんの後を追った。

「…………」

 そんな二人を遠目で見ながら、ワタシは一人干渉に浸っていた。正確には、昨晩見た〈夢〉のことを思い出していたのだ。

「何、もう始めるの?」

 刹那、不意討ちのように話掛けられた。

 振り向くと、いつの間にかワタシの背後に葉月さんが立っていた。

「あ、いえ…………」

 二人が消えた方へ視線を戻しながら、その問いに答える。

 二人が消えた方角。その先には半球状のテントが設営されており、そこでガヤガヤと騒々しく何かを話しているような物音が聴こえてくる。

「もしかして、何か思い出してた?」

 その問いに、ワタシの胸は小さく跳ねる。

 確かにそれは図星だ。だけど、どうしてかあの〈夢〉と明日行う予定のイベントが、微かにずれているように予期している。

 それと、何故この人はこうもコチラの思考が読めるのだろうか。どうにも、とても不思議な感覚だ。

「うはぁ~~ッ!お腹空いたぁ~~。柚希、さっきの店に戻ろう」

 葉月さんと別れたそのすれ違いざまに、ワタシの元に近付いてくる燈架李さんがそう呟く。

 既に一悶着起こした後のような目先の惨状に目を反らし、ワタシは燈架李さんによって引こ擦られる伊織さんと共に遊殻亭へと戻った。

 そして、そこでも騒動は発生する。

 ドゴォオォォォ~~ン……………ッ!!

 凄まじい轟音と共に、その館の屋根は晴天へと空高く打ち上がる。

「もぉおぉぉッッ!!いい加減にしなさいよ~~ッ!」

 その叫び声の刹那、店の戸は弾き飛ばされ、戸の内側にトトロさんの姿が垣間見えた。

「うわぁ…………」

 その一瞬の出来事に伊織さんは呆然と立ち尽くし、燈架李さんは颯爽と事件現場であるお店の中へと消えて行ってしまう。

 ワタシはどう動こうかと悩んでいた時、トトロさんの下へリグレットさんが駆け寄って行ったので、とりあえずトトロさんのことはリグレットさんに任せ、ワタシは燈架李さんの後を追うようにお店に入った。

 店の中に入ると、店内はとても殺伐としていた。

 均等に設置してあったはずの木製の机や椅子は粉々に破壊され、その木片は辺りに散乱している。

 その中に、残る一人───入衛未美の姿を発見する。

 彼女の下に駆け寄り心身の確認を行う。未美さんから目立った外傷は見当たらないので、強い衝撃を受けて気絶しているだけと思われる。

 それと、お店の奥。厨房に雅さんの姿が確認できた。

 この現状だけを切り取ると、雅さんの勝手な暴走によるものと見て取れるが、この惨状も出来事も、此処ではほとんど日常茶飯事というやつなのでだいたいは原因に予想もつく。

 しかし、今回は雅さんの怒りも意外と長く続いているようで、いまだ現状は収まりそうになかった。

 そして、雅さんは釜の火を用いて頭上に巨大な炎球を造り出した。

 その、刹那────、

「“溯流する星水(スプラッシュ・スター)”───ッ!!」

 だが、その炎球は燈架李さんの指鉄砲から放たれた大量の水によって、雅さんの意識と共に一瞬にして消失した。

 その後、リグレットさんの能力(チカラ)を借りてトトロさんを店の中に運び込み、三人全員が目を覚ましたところで経緯を確認した。

 特に改めて聞くような事でもないと思っていたが、こうしたいざこざはとても珍しいらしく、その燈架李さんの要望に応えて軽い調書を取った。

 回想に入ろうとしていた雰囲気を撃ち破り、もう数時間と差し迫っている宴会の準備のため、早急な下準備に奔走する。

 だが、食に関して厳しく口煩い雅さんは、ワタシ達の手伝いを悉くと断り一人手に厨房で黙々と作業を再開する。

 そんな折、ワタシ達は総出でお店の清掃と再設置に取り掛かっていた。

 いつもいつも同じ事態が続く中で、この四人は相変わらず懲りずと全く同じ作業に精を出す。

 その中でふと思った。

 彼女達は、この惨状をどのようにして今まで通りの店内に戻してきたのだろうか、と。

 そして、それはさも当たり前のように行われた。

 まず始めに、リグレットさんが大小様々で数体の人形を自身の足元に並べる。すると、その人形達は、まるで意思を持っているかのように自ら立ち上がり、トコトコと駆けて誰の指示も無く掃除を始めた。

 その間、未美さんとトトロさんは外に出した簡易性の机と椅子を広げて、堂々と寛いでいる。

 そんな二人を他所に、リグレットさんは次々と新たな人形を出し、その人形達は自ずと清掃に精を出す。

 粉々となった机や椅子は早々に撤去され、何処から運んできたのか、新たな木材がいくつも店の外に山積みにされ、それらを大型の人形達が決められた大きさに裁断し、それを店内に順番に運び込む。

 店内では、小型の人形達が箒と塵取りではなく工具をそれぞれが持ち、大型の人形達の支えを受けて早々に組み立てていく。それは、ものの数分ほどの出来事。

 そして、全てが終わったのは一時間と経っていない頃だった。

 その頃には、雅さんの作業も一段落終えていた。

 さらに、それらを見計らったかのように、未美さんとトトロさんはようやく店内に戻る。だが、その手には先程まで彼女達の手元には無かったはずの、多くの食材があった。

 そうして、無駄でしかなかったいざこざも一段落し、ワタシ達は帰宅する。

 自然と迎える当日という翌日。

 過去の出来事(デジャヴ)は現実へと昇華され、未来は途方もなく下流へと蒸発していく。


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