第48話 妖魔の恐撃
その出来事は、随分と前からあった。
それが何時だったのか。それを思い出すことに何の意味があるのかは分からないが、おそらく、あれは初夏の頃だったように記憶している。
「くっ、さすがに手に負えないかぁ………」
そう呟き、何とか戦線を維持していたのは、他でも無い最中さんだった。
唐突に始まった謎の魔獣の進撃。
それにより、神成市は大混乱となっていた。
六月十八日。
この日が、妖魔の最初の襲撃だったように記憶している。
この時、始めに事態に感付いたのは、伊織さんだった。
それと、ワタシ達はまだこの時、伊織さんとははっきりとした面識はなかった。
唯一あるとすれば、最中さんの見覚えのある顔という発言のみ。
この数日前に、ワタシは彼女と会っていたが、それをわざわざ言う事はしなかった。
そして、伊織さんはこの数日後にワタシの家に唐突に訪れるようになり、それから時々寝食を共にするようになっていた。
そんな伊織さんに違和感を感じたのは、つい最近の事だった。
鳴滝家での一件の時、ワタシと最中さんは伊織さんの正体を明確に知らしめる出来事が起こる。
それから伊織さんは一度姿を消し、その後五日ほど前に姿を見せたが、その数日後には再び姿を消した。そしてそのまま今に至る。
そして今回、妖魔の襲撃は十数回目を向かえていた。
襲撃してくる妖魔の数はそれほど多くないが、その種類は様々だ。大型なのが二~三体に、小型が数十体。青年くらいの背丈のが五~六体。
いずれも個々の戦力は想定内と言えるが、その団結力が桁違いだった。
正直、ワタシと最中さんの二人だけでは心許ない。
それでも、始めは上手くやっていた。
何故なら、当時は伊織さんが妖魔の知識を最小限でも持っていたからだ。
しかし、今その伊織さんはいない。それに、いくらコチラが以前と同じ妖魔と戦っていても、それは妖魔側も同じ事だ。
それに、分が悪い事は重々承知だ。ワタシ達は、そんな状況下を難とか脱してきた。
だが、今回ばかりはそうもいかなかった。
コチラは最中さんと二人だけ。それに対しアチラは数種類の妖魔が増え、その数に乗じて戦術の幅も桁違いに跳ね上がっていた。
「どうする?柚希」
妖魔の攻撃を寸前で交わした最中さんが訊ねてきた。
特に作戦など思い付かない。
今できるのは、この状況を切り抜ける事だけだ。
「ハアァァアァァァァァァ───ッ!!!」
「グガッ~~!」
後方から聞こえた激しい吐息とそれに呼応するかのような叫び声。
そして…………、
「大丈夫ッ?」
と。見覚えのある朱色の長髪の少女が話し掛けてきた。
「火垂さん…………」
ワタシは、その少女の名を口にする。
その少女───鳴滝火垂の左手には、見覚えのない刀が握られている。
「よかった………」
ワタシと最中さんの姿を再確認すると、火垂さんはホッと胸を撫で下ろした。
「チッ、まだ仲間がいたのか。おい、撤収するぞ!」
今回の指揮官とおぼしき大妖怪によって、妖魔達は次々と去っていった。
「ふぅ~、ようやくなんとかなったみたいだね」
その場が静まり返ったことを認識した最中さんが、肩の荷をおろした。
まだ完全に安心できる訳ではない。おそらく、向こうは何らかの策を講じて再び現れるはずだ。
だけど、それはその時にまた考えれば良い。
それよりも、今は…………。
「どうして此処へ?」
ワタシは、帰路を進む中で火垂さんにそんな質問をした。
「えぇと………。それについては、私も知りたいかな?」
火垂さんは、軽く首を傾げ此処へ来た経緯を説明した。
火垂さんと《紅の牙》は、競売会会場で亡くなっていた火垂さんの父、鳴滝豢蔵とその身付人の人達の葬儀の為、少し前の事件の際には秦にいなかった。
「お父様の葬儀が終わって戻ってみましたら、街は崩壊してますし、空は真っ黒になってましたので、葵さんに現状を聞き及び、柚希さん達が向かったとおっしゃられていた方向に大急ぎで駆け付けたところでしたが…………」
そこまで聞くと、状況はあまり呑み込めていないように見受けられる。
とりあえず、ワタシは火垂さんにここに至るまでの経緯を簡潔に話した。
火垂さんは、時折首を傾げたり、小さく頷いてみたりとせわしなかったが、話が終わると途端に奇妙な事を言った。
「では、この後はいよいよ敵の本陣に突撃するんですね?」
ワタシは、自分の耳を疑った。
如何にもお嬢様という感じの彼女から、そのような言葉が飛んでくるとは思ってもいなかったのだ。
「もしかして、付いてくるの?」
最中さんが訊ねる。
「ええ」
火垂さんは、真っ直ぐな瞳で頷く。
「ダメですか?」
しかし、すぐさま不安の色を浮かべた。
本当に大丈夫だろうか。ワタシは、一物の不安を感じた。
それでも、それは大きな戦力だった。
火垂さんが所持している長刀。名を〈大村主〉と言い、鳴滝家に伝わる宝刀だそうだ。
そこから伝わる微かな《神桜樹》の気配。
おそらく、《炎桜柱》の《神桜珠》がそこに入っていたのだと思われる。
だが、今はそんな事はどうでもいい。それよりも気になるのは。
「火垂さん。剣術が使えたんですね?」
先程の一件ではどうとも思わなかったが、どうやら火垂さんは剣の扱いには慣れていたように見えた。
「へ?ええぇ、基本程度ですが」
今の言葉は、何だか端切れが悪かった。それに、火垂さんの瞳が一瞬くすんだように見えた。
基本程度、か……………。
ワタシは、そこが何となく引っ掛かった。
そうこうしている内に、ワタシ達は自宅に到着した。
とは言え、そこは火垂さんの家ではなく、ワタシと最中さんが住まわせてもらっている家だ。
「此処がアナタ方の拠点、ですか」
その表現はどうかと思うが、今はそれを指摘する気が起きない。
「お、おじゃま、いたします…………」
火垂さんは、おどおどしながら最中さんの背に付いて家の門を潜る。
導かれるように最中さんの背に付いていく火垂さんは、居間に到着すると縁側に足を伸ばして最中さんと共に寛ぎ始めた。
時刻は既にお昼を廻っていた。
早朝から動き詰めだったワタシ達は、だいぶ遅れた昼食を摂った。
昼食を食べ終わった後は、情報共有と意見交換を行った。
「先程のが、妖魔………」
その存在を、ワタシ達が知る限りで火垂さんに伝えた。
「では、あの妖魔達がお父様を?」
「確証はありません。ですが、ワタシは彼らが無関係では無いと考えています」
それは、今この場にいない伊織さんに関しても言える事だ。
伊織さんは、予定通り競売会会場に姿を見せた。
それ自体は意図していたもの。
しかし、そんな彼女の周辺ではおかしな事が起こっていた。
彼女は会場の三階にいた。競売会は始まっていたので人気が少ないのは当然と言える。
だが、そんな彼女の周りには警備員などの姿はおろか、人の気配そのものが遠くにあった。
それが偶々ということは無いだろう。
何せ、彼らはとても殺気立っているように見えたし、伊織さんと話している間にも誰一人としてコチラに近付いて来る気配すら感じなかったのだから。
「それで、やっぱり敵陣に突撃するんですよね?」
「……………」
火垂さんは、ずっとその一点張りだ。
最終的には、そうなるだろう。
だが、それは意地でも避けたい。そこに理由は無い。
今までのワタシなら、そんな事を考えなかったはずだ。
これが、環境の変化あるいは、《炎桜柱》による書き換えの影響だろうか。
そして、ワタシ達は今後の行動について話し合った。結論からすれば、現状維持。
しかし、それも何時まで持つことか。
現在のワタシ達に伊織さんの存在が無い以上、この状況を打破する事は不可能に等しい。
秦国境近辺。
そこは、廃墟と化した街の惨状が今尚残る場所。
そこに、人の姿は無い。あるのは、妖魔の大群のみ。
「チッ。やはり、そうそう上手くはいかないか」
「ま、分かってはいた事なんだけどな」
荒廃とした街、その内の一つの民家で二人の妖魔が囲炉裏を挟みぼやいていた。
「しっかし、何なんだ?あの銀髪の小娘は」
妖魔達の中で最も引っ掛かったのは、とてつもない力を発揮した柚希について。
「お嬢の話じゃ、あれがお嬢の探し人の手懸かりになるやもしれんそうじゃねぇか」
「…………」
小薙伊織の探し人、小薙悠哉を見つける唯一の存在。それが、神威柚希。
だが、それはあくまで憶測。伊織がそう感じ取っていたに過ぎない。
「あれ?泊も漣も、まだ帰ってないんだ」
と。そこへ、噂の人物小薙伊織が姿を現した。
「ああ、二人とも出掛けたまんまだな」
「そっかぁ~~」
馬顔の妖魔の返答に、伊織はあからさまに肩を落とした。
「ああ~と、ちょっと待てッ」
「何?」
「珪が探してたぞ」
「そう。で、その本人は何処に?」
「さぁな。だが、直に会えるさ」
二人とも、不適な笑みを浮かべた。
「へぇ~、そういう事」
伊織は、自身で納得し彼らの反逆の誘導に乗った。
そして、場所を移して同じく荒廃した大きな建物の中。そこは、先程の民家と変わらない、いや、同じ街にある何かの施設跡地。
「ご足労頂きありがとうございます。お嬢」
その建物の中でしばし待つと、大柄な妖魔が姿と見せた。
「やっぱり、アンタが黒幕だったんだね。珪」
「オレ達の虚動には、何時から気付いてたんだ?」
「編成が始まった辺りからかな」
「随分と早いな」
「まぁね」
「だが、それもここまでだ」
「ッ!」
「おい。アレを持ってこい」
「何をする気?」
「ふっ、なぁに、大したことでは無いさ」
妖魔の一人が持って来たのは、黄金色の宝珠。その宝珠の中で、赤黒い渦が這っている。
「まさか………」
「ご名答」
珪はほくそ笑む。
その存在は禁忌であった。
それは、伝承の中だけに存在する忌むべき産物なのだから。
鶯亭、中庭。
今更知ったのだが、ワタシが住んでいるこの家は、そういう名前らしい。
時刻は、午後七時を回ったところ。
そして、此処の中庭は、随分と賑わっていた。
だが、その賑わいは以前の時より人数は少なく、場所も違っている。
特に使い道も無かった駄々っ広い中庭も、こうして使えばその場の雰囲気を存分に味わえる気がする。
そこで行われている事は、以前の時と全く一緒だ。
しかし、集まっている人物やその場所によってこうも違うのであれば、それは良い結果と言えよう。
ワタシは、家の縁側ならそんな彼女達が賑わっている姿を眺めている。
この宴会には、各国の首脳が集まっている。とは言え、その人物達はワタシ達のよく知る人物だが。
宴会の主催者である火垂さん。その火垂さんの知人として招かれている葵さん。さらにその知人として招かれた神代家のお三方。
それに最中さんが連れてきた葉月さんに、《七罪聖典》の面々、それとどういう経由か阿莉子さんまでいる。
主な面々だけでも、十四~五人くらいはいる。そこに《紅の牙》と《碧の翼》までも数人ほどが警護のような形でいる。
確かに人数は然程も無いだろう。しかし、その状態は圧巻に相当するものがある。
「貴女は混ざらないの?」
それは、宴会が始まって三十分ほどが経った頃だろうか。目の前に、葉月の姿が現れた。
ワタシは、葉月さんから黄色い液体の入った紙コップを渡される。
一応匂いを確認してから一口飲むと、それはただのオレンジジュースだった。
「賑やかなのは、嫌いですから」
「ふふっ………」
ワタシの返答に、葉月さんは微笑した。
「ホント、あの人みたいですね?」
そして、そう発言した。
言ってる意味は何となく理解している。だから敢えて訊ねなかった。
が、代わりに別の質問をした。
「宴会は、やる意味があるものなのでしょうか?」
目の前で繰り広げられている宴会。その中央の火は、まるでキャンプファイアのように高々と天高く燃え上がっている。
「意味があるからやるのでしょう」
やる意味…………。
ワタシは、しばらく思考した。
だが、いくら考えたところでその答えは見つからなかった。
「決起集会」
「へ?」
「そう見えませんか?」
そう言われて、改めて目の前の光景を見る。
ただ騒いでるだけにしか見えないその光景は、本当に『決起』と呼べるのか。
ワタシはオレンジジュースを一口二口飲み、首を傾げた。
『決起』とは、大きな出来事に対して前以て備えをする事だが、これではただの宴会だ。
それに、葉月さんはこの光景を『決起集会』と言った。
ということは、此処にいる面子全員が戦支度をしているということになる。
おそらく、それは誰も予想打にしていないだろう。
きっと、本当にただの宴会なのだ。
だが、もしかしたらこれは本当に必要な事なのかもしれない。
それは、今の火垂さんを見ていると途端にそう思えてきたからだ。
多分、火垂さんは不安なんだ。
先日の一件で、家族を沢山失った。
それに、急いで来たとはいえその家族の葬儀が終わって早々に戦に参戦するのだ。それは、彼女にとって色々と大きな心境にも関わるはず。
それでも、参加も望むということは、それだけ彼女自身の決意が固いということに他ならない。
ならば、ワタシはその想いを酌む必要がある。
だからこその、決起集会。だからこその、この面子。
それが、鳴滝火垂が導き出した新たな試みとなる。
そうして、宴会は日を跨ぐように続いた。
いつまでも続くドンチャン騒ぎ。飽く無き宴は、近所迷惑にまで発展しそうだが現状はそう簡単ではない。
何せ、この宴会が始まる直前。この辺り一帯の近隣住民は高級ホテルに移動させられ、一夜限りの贅を満喫しているからだ。
どんなに騒いでも、どんな羽目の外し方をしようとも、そんな事は関係ない。何せ、この場には各国の未来のこの国を担う者達が揃っているのだから。
「フッ………」
「どうかした?」
「へ?」
「顔、緩んでるよ?」
「あ………」
葉月さんに言われて、ワタシはすぐさま表情を戻した。
「やっぱり似てるね」
「そうでしょうか?」
正直、自分ではよく分からない。
「その方は、具体的にはどのような人物だったのでしょう?」
なので、率直に訊ねてみることにした。
「そうですね…………。一言で言うと、不思議な方、でしょうか」
それは、とても大雑把だった。
しかし、葉月さんは言葉を紡いだ。
「どんな些細な事でも、困っている人がいれば手を差し伸べるし、どんなに無理や無駄が重なっても、意地でも助け救う。そんな人ですよ」
そう聞いても、やはりワタシとは似ても似つかないとしか思えない。
「でもね。そんなあの人は、どれも自分から進んで実行してなんかいない。たまたま、偶然と奇跡が重なっただけ」
葉月さんは、そう続けた。
「貴女もそうでしょ?」
そこだけは合ってる気がした。
だけど、本当にそれだけなのだろうか?
もっと大きな理由、あるいは共通点があるような気がする。
結局、宴会は朝方近くまで続いた。
皆騒ぎ疲れ、その場に倒れるように眠りについてしまった。
こんな時、これだけ多くの男手があるのだから全員担いで帰ってもらえたら楽だったのだが、何故か家に泊まらせてあげてとお願いされてしまった。
言っていることの意味はあまり分からなかったが、こういう時はデカ過ぎる家が得となった。
翌日、遊殻亭。
ワタシと最中さん、火垂さんは、此処で昼食を摂っている。
「凄いですねッ。前菜に始まり、食後の甘味物まで出るなんて。それに、どれも美味しいです」
火垂そんは、歓喜の声を上げ三人前ほどの料理を意とも容易く平らげていく。
「そうでしょッ?まぁ、此処にいる娘達は誰もそう言ってくれなかったから、アナタのその言葉はとても新鮮に聞こえるんだけど」
お店の奥から、《七罪聖典》の一人、高塚雅が更なる料理を持って現れる。
「これは、何と言うお料理なのですか?」
「ストロベリーシャーベット」
火垂さんの目の前に置かれた、赤一色の半球状な冷気を発する料理。
その直前の料理、杏仁豆腐を突っついたスプーンで、シャーベットの山を抉り何一つ躊躇する事なく口に運んだ。
「んっ、んん~~~ッ!!」
一度パニクったような表情を見せた火垂さんであったが、すぐさま顔を綻ばせて身悶え始めた。
「こちらのお料理もとても美味しいですッ」
「あ、ありがとう…………」
雅さんは、ほのかに頬を赤く染めて、火垂さんから
顔を背けて左手人差し指で頬を掻いた。
「あ、珍しい。雅が照れてる~~」
少し離れた席から、同じく《七罪聖典》である入衛未美が、雅さんをからかう。
それは、日常の一駒。今の状況ではまずありえない平穏だった。
「うわぁ~もう疲れたぁ~~!」
と。そこへ、お店の扉が開き、このお店の従業員が帰ってきた。
「雅ぃ~、何でも良いから料理ぃ~~。お腹減ったぁ~~」
そう言って、未美さんがついている席に相席する二人の少女。
二人とも、雅さん未美さんと同じ《七罪聖典》のメンバー。先程から酷く弱音を吐いているほうが、トトロ・グリリンスハート。そのトトロさんの真後ろにぴったりとくっついているワタシくらいの背丈の少女が、リグレット・ヴァーミリオン。
そんな二人にはある件を依頼していので、今はその帰りと言うことになる。
「どうだった?」
運ばれてきたドデカな皿に特盛で盛られた料理にがっつくトトロさん。そこに、ワタシではなく、彼女の目の前に座る未美さんが訊ねた。
「ほおえぇ、がえ」
何を言ってるのか聞き取れなかった。
「やっぱり、荒れてる?」
だが、未美さんは違っていた。
流石は長い付き合いと言うべきか、二人は意思の疎通がとれていた。
そして、そんな未美さんを通して、ワタシはトトロさんの言葉を知る。
ワタシが彼女達《七罪聖典》に依頼していたのは、ここ最近その活動を急激に始めた妖魔達の動向の調査だ。
この異界の住人達は、何の目的があってこの地にやって来たのか。
ワタシには、それがずっと疑問だった。
伊織さんは、自身の目的が実の兄である小薙悠哉の捜索である事を既に話してくれた。
だが、だがらこそその他の妖魔達の目的には疑問ばかりしかない。
トトロさんは五分ほどで料理を平らげ、お茶を飲み口に残る料理を流し込んだ。
「ぷはッ。それと、柚希が言ってた女の子の姿はやっぱり見なかったよ?」
全てを飲み込んだトトロさんは、そう付け足した。
「で。これからどうするの?」
未美さんが、ワタシの次の指示を待つ。
この場の皆が、その意思で統一されているようだった。
次の計画など、特に無い。
だが、これで相手の行動が読める。
今だ妖魔側の意図が見えないのは痛いが、それでもこの状況を打破する事は可能だ。
「では、次は───」────ガチャッ!
「柚希ッ、居るッ?」
と。唐突に扉が開き、この店の客ではなさそうな人物が入店する。
「あ、居た…………」
その来店者は、ワタシの姿を見ると胸を撫で下ろした。
「宝さん…………?」
その来店者とは、神代家及びこの神成市次期当主兼市長と謳われる少女、神代宝だった。
宝さんは、息を整えながらワタシの目の前にまで近付く。どうやら、とても急いで来たようだ。
「柚希ッ、阿莉子がッ!」
言葉の一つ一つに物凄い覇気を感じる。
「阿莉子さんがどうかしましたか?」
「んっ。あのねッ、今、凄く大変な事になってて」
「何処がですか?」
「ああぁもうッ!言葉で伝えるより、見てもらった方が早いわねッ!!」
なんだか、要領を得ない。それに、とても落ち着きがない。
「はい、お水」
「仕方ない。ワタシとリリが、その神成神社の様子を見てくるから」
未美さんが宝さんをワタシの隣の席に座らせ、雅さんがお水を出し、トトロさんとリグレットさんが店を出て、現状の再確認へと向かった。
こういう時、人手が多いのはありがたい。
そして、お店に残ったワタシ達は、一度宝さんを落ち着かせて詳しい話を聞く。




