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夜天幻時録  作者: 影光
第2章 夏帳怪奇編
43/102

第42話 氷河期の終焉

 永きに渡る眠りは、そのモノに大きな〈時差〉を与えていた。

「此処、は…………」

 ワタシは、ゆっくりと目を開く。

 まず始めにワタシの視界に映るのは、暗闇の中にいるような真っ暗な世界だった。

「あ……………」

 徐々に、ワタシの瞳はその世界から僅かな明るさを感知する。

 そしてゆっくりと、現状を再確認した。

「えと…………」

 目の前にあった見知らぬ人物の顔に内心で驚き、それを気付かれないようにしながら上体を起こした。

「……………」

 目の前の人物は、ジッとコチラを見ていた。

「…………」

 もの凄く見ていた。

「………」

 あれ………?

 ここでようやく、とある違和感に気付く。

 『風』が…………。

 そう。いつの間にか、『風』が消えていたのだ。

 だが、それでも感じる不思議な気配。

 それは、目の前の人物から感じられている。

「貴女は…………?」

 ワタシは訊ねた。

「麻鶴木、このは」

 その人物は、淡々とそう答えた。

 今まで、この人の顔をワタシは一度として見たことがなかった。

 けれど、その名には確と聞き覚えがあった。

 それは以前、学園の中庭にて。鳴滝(なるたき)火乃華(ほのか)に紹介してもらった影と『風』しかつかみどころのなかった人物の名。

 あれから今まで、その『風』を何度かは感知していたが、肝心の本人の存在までは感知できていなかった。

 そして、一昨日の出来事。

 そこで初めて、この人の顔以外の存在を認識した。

「…………」

 ここで、ワタシはしばし思考する。

 この場の現状。此処に到るまでの経緯を。

 そして、ようやく全てを思い出す。

「────ッ!」

 ワタシは、視線をこのはさんの後ろへと向けた。

 そこには、倒れる直前に霞む意識の中で見たとある人物の姿があった。

「葵、さん…………」

 声に出して、その人物の名を口にする。

 ワタシの目の前には、巨大な試験管のような円柱状の分厚いガラス。

 その分厚いガラスの中に、その人物────水瀬(みなせ)(あおい)の姿がある。

 それに、その分厚いガラスから微かに漂う覚えのある『ニオイ』。

 それは、隣にいるこのはさんが此処にいる理由にも繋がる。

「違う」

 と。その隣のこのはさんに突然否定された。

「葵、否」

 このはさんは、そう続ける。

 その言葉を聞き、ワタシは再び分厚いガラスに目を向けた。

「あ…………」

 ワタシは、声に出して驚いた。

 そう。目の前の人物は、水瀬葵ではなかったのだ。

 葵さんによく似た顔立ち。しかし、どこか違和感があった。

「胸囲、微小」

 このはさんが、また発言する。

 ワタシは、視野を全体から一部分へと移した。

 その一部分とは、このはさんの言葉通りの『胸』だ。

「………」

 ………無い。

 そう。葵さんと思っていたその人物の胸元からは、数日前に出会った本人にあったあの強大なインパクトを感じない。

 なら何故、この人物を葵さんと誤って認識したのか。

 答えはもの凄く簡単だ。

 彼女は、水瀬家の以前の当主───水瀬(みどり)だった。

「…………」

 ふと、このはさんは、その翠さんに近付いていく。

 このはさんの目的が何なのか未だに不明だが、その行動が気に掛かりワタシはこのはさんの後を着いていった。

「………ッ!」

 先程倒れた時と同様、ワタシの脳内が何か嫌なモノを感知したかのように激しく警告音を響かせる。

「大丈夫?」

 このはさんは、ワタシの異変に即時に気付き、ワタシに肩を貸し安静を促す。

 ワタシの中での麻鶴木このはとは、不可思議で半透明な存在だった。

 だが、その概念はこの場の状況で変わりかけていた。

「はい、大丈夫です…………」

 何とか痛みに耐え、ワタシは身体を起こす。

 それでも、その痛みが一部として退いた訳では無かった。

 ただのやせ我慢で、自分の脚を奮い立たせているのだ。

「…………」

 ここまで、このはさんは表情を一度たりとも変えることはなく、無表情のままワタシに肩を貸し続けている。

 二人の間に、大した会話など無い。

 だが、それでも分かっていた。分かってもらえているような気になっていた。

 フゥウゥゥゥ~~~…………。

 ワタシは、心の中で大きく息を吐いた。

 これで、余分な力は抜ける。

 そのおかげか、ワタシの身体から段々と痛みが退いていく。

 それと同時に、微かな違和感を感知する。

 そして現状を改めて再認識する。

「さて、どうしましょうか?」

 ワタシは、そう切り出した。

「宝具、探索」

 このはさんは、そう反してきた。

 ワタシは小さく頷き、

「そうですね。一応、探してみましょう」

 と言って、このはさんとあるかどうかも分からないモノを探し始めた。

 ワタシは、自然と分かっていた。このはさんが此処へ来た目的。

 だが、それがワタシと何の関係があるかは分からないままだ。

 それでも、ワタシはこの場所を隈無く探した。

 しかし……………。

「無い…………?」

 このような場所には無いのだろうか。

 そう判断しかけた時、このはさんは口を開いた。

「宝具、皆無」

 そう発言する。

 それは、この場所に無いという意味ではなく、そもそも〈宝具〉と呼ばれているモノが存在していないという意味。

「……………」

 ワタシはふと、巨大な水槽、そのガラス張りの向こうで眠っている翠さんに視線を向けた。

 ワタシは既に、彼女から微かな違和感を感知していた。

 もしかしたら……………、

 ワタシは、思考する。

 そして、一つの『可能性』に至る。

 ワタシの視線は、未だ翠さんに向けられたまま。

 その翠さんから感じる『違和感』は、先程ワタシが意識を失った原因とは全く異なっていた。

「気配、消失」

 ワタシの視線の先から、おそらく同じモノを感じとったこのはさんは、そう呟いた。

 そして、ゆっくりと目の前の巨大な試験管に近付き、そっとそれに手を触れた。

 それは、その刹那であった。

「─────ッ!!ゴフッ!グプッッ!!」

 と。ワタシは、大きく吐血する。

「ゲハッ、ガハッ!アッ───!!」

 突如、全身を締め上げられるような感覚に襲われ、ワタシはその場に倒れた。

 それは、先程気を失った時と違い、威力はあっても、意識を完全に失わせるに至らない感覚だった。

「アアァァァァアァァァァァァァァ~~~~────ッッ!」

 それでも、終わりの分からない痛みは、いつまでも続いた。

「…………」

「───ガフッ!アッ………。ハァハァハァ……………」

 ようやく激しい痛みから解放され、ワタシはその虚ろな瞳で目の前の状況に眼をやった。

「ハァハァハァ………、ウグッ………」

 激しい息切れは止まらない。

 そんなワタシを差し置いて、目の前ではこのはさんが巨大な試験管に大きな亀裂を与えていた。

 その亀裂は内部の水圧によって破壊され、そこから大量の緑色をした液体が放出された。

 緑の液体は、このはさんの全身を覆うように浴びせかけ、中にいた翠さんをその勢いに任せて試験管の外へと吐き出す。

 翠さんの身体が外に出た事で、ワタシが感じていた違和感はさらに高まった。

「───ッ!!」

 さらにここで、嫌な気配を感知する。

 しかし、それに気付いたところで、それはワタシの今の反応速度では間に合わない。

 目の前で唐突に行われる現実に、ワタシは咄嗟の反応で手を伸ばす。

 その目の前では、このはさんがどこからか取り出した小さな鉄の塊を翠さんの胸元に降り下ろそうとしているところだった。

 もう、間に合わない────。

 そう確信しつつも、ワタシは僅かな可能性に賭けた。

 このはさんが降り下ろす鉄の塊はクナイで、クナイはこのはさんが発生させた『風』を纏って翠さんの心臓を貫いた。

 このはさんの顔と辺り一帯に、翠さんの鮮紅の如き血が無造作に飛び散る。

 それは、その刹那だった。

 ワタシの中で、何かがプツリと音を発てて切れた。

 それが、違和感の正体だったのだと気付くのに幾分の時間を労した。

「────ッ(バタッ)!!」

 突如、ワタシの目の前で起こる物音。

 その目の前に、翠さんに覆い被さるようにこのはさんが意識を失って倒れていた。

 そして、そんなこのはさんと入れ替わるカタチで、翠さんの身体が宙に浮き始める。

 ワタシは咄嗟に、このはさんの鼓動を確認した。

 鼓動は正常だった。

 しかも、ワタシが触れた性か、このはさんはすぐさま意識を取り戻した。

「ッ…………」

 このはさんは、頭を軽く押さえながらゆっくりと立ち上がる。

 そしてワタシ達は、現状を再認識する。

 その時、頭上では、あり得ない事が起こっていた。

 宙に浮いた翠さん。

 その翠さんの胸元の傷口に、床の血や、部屋の壁に散布されていた血糊達が集まっていく。

 ワタシとこのはさんは、その不可思議な現状に眼を奪われていた。

 辺りの血が集まっていくにつれ、部屋の温度と湿度が段々と下がっていく。

 赤黒かった部屋の壁は徐々に蒼白色に染まり始め、途端にワタシ達の吐く息が白銀と化す。

 ワタシは、もう一度状況を再確認した。

 その時、ワタシの視線は部屋の外で止まった。

 なんと、その部屋の外は全くこの場の影響を受けていなかった。

 ワタシは、咄嗟の判断を思い付く。

 そしてそれは、このはさんも同じであった。

 ワタシとこのはさんは、急いで部屋の外へと駆け込んだ。

 ワタシ達が部屋の外に出たとほぼ同時に、部屋の中に設置されていた機器類は突然にショートし大きな爆発と共に、目の前の部屋もろとも崩壊し始める。

 その崩壊は、地下通路全体に亀裂を与えた。

 ワタシもこのはさんも、急ぎその場を退散するように出口目掛けて走り出していた。

 崩壊の波はワタシ達のすぐ後で、その背を追うように迫い来る。

 この地下通路は、地上から十数メートルほど離れた場所に造られている。

 さらに、この上にある雪の積雪量は、二メートルもない。

 迫り来る崩壊の波は、ワタシのすぐ背後。

 このまま走り続けたところで、どのみち崩壊には呑まれるだろう。

 ならば…………、と。

「このはさん」

 ワタシは、とある提案をこのはさんにする。

 このはさんは、そんなワタシの意図を読んでいたのか、小さく頷いた。

 ワタシ達は、走るスピードを上げた。

 そして、充分な差が着いた所で踵を還し、一気に地を蹴って崩れゆく瓦礫の中へと飛び込んだ。

 崩れ落ちる瓦礫。だが、その僅かな隙間を見逃さず、ワタシもこのはさんも、出来た小さな落石の間を縫うように身体を捻り、その上にある雪飛沫の中へと身体を突っ込む。

 ………………。

「ぶはっ!!」

 始めは左腕。その左腕で分厚い雪の層を押さえ、残りの身体を持ち上げる。

 多少時間は掛かったが、何とか作戦成功となった。

「………ッ!」

 数秒ほど待つと、このはさんが先程のワタシと同じように雪の中から身体を抜かせた。

 ワタシは辺りを見渡し、現在地を模索する。

「此処は……………」

 いくら思考しても、此処が何処なのか検討もつかなかった。

 ただ分かるのは、

「油久井、違う」

 という事だけだ。

 あの地下の入口から大きな部屋のところまでの距離は、おおよそ理解してはいる。

 だが、その部屋からこの辺りまでの距離を、ワタシは知らなかった。

 ゆえに、現在地を知らないのは当然であった。

 そこに、このはさんは言う。

 どうやら、此処は油久井ではないらしいと。

「…………ッ!」

 ワタシは、咄嗟にある事を思い出し、辺りを見渡した。

「上……」

 隣で、このはさんがそう言った。

 ワタシは、降雪の弱まっている空を見上げた。

「…………」

 それは、その真っ白な空の少し下だった。

 其所に、宙に浮いている水瀬翠の姿を確認した。

 決して積もることのない雪達は、まるで翠さんの周りを飛び交うように降り続いていた。

「《氷菓の心臓(グラセウム・セプレウム)》……………」

 ワタシは、そう呟いた。

 その〈鼓動〉も〈脈〉も、それはまるでワタシの一部であるかのように、ワタシの中で同じようにその脈を打っている。

 ドクンドクン………ッ、ドクンドクン………ッ。

 その〈鼓動〉は、優しかった。

 トットットットットッ………………。

 その〈脈〉は、均一だった。

 それは、全てが心地好く、総てが馴染みのあるものだった。

 ワタシは、その余韻に浸っていた。

 そして、ゆっくりと気付く。

 ワタシ達の目の前にいるのが、水瀬翠であり、水瀬(あおい)でもあるという事に。

「葵………」

 このはさんが、その名を口にした。

 まさしく、ワタシ達の目の前にいる人物は、水瀬葵であった。

「───ッ!」

 ワタシとこのはさんは、咄嗟の判断で互いに違う方向に回避行動を取った。

 その刹那─────、

 ズッボゥォォォォォォ…………────ッ!!!

 先程ワタシとこのはさんがいた場所は、その強烈な爆発音とともに、大きな窪みに変わった。

 それが、目の前の葵さんの『攻撃』と認識するまで、数秒ほどの時間を労した。

「グッ、カハッ!」

 葵さんからの攻撃は、幾分も続いた。

 氷柱のように鋭く凍った、白銀の矢。小さな粒一つ一つが強大な威力を備えた、真っ白な手榴弾。灼熱の刃のように触れるモノ全てを焼き切る、紅玉の風。

 その全てが凶器であり、それらはどれも統一性が無く、ワタシとこのはさんを追い詰める。

「…………ッ!───ッ!!」

 乱雑に繰り出される攻撃をワタシは交わしきれず、攻撃のいくつかをその身に受けてしまう。

 マイナスを超えた刃を、人間の身は火傷と認識する。

 それは、凍傷と呼ばれる現象の一種で、受けた傷を赤々と腫らす。

「───アッグッ!…………っ?」

 しかし、その凍傷した傷口から、何か不可思議なモノがワタシの脳内に転送された。

「あ…………」

 それは、〈情報〉だった。

 今、この状況でワタシが最も欲していた情報。

 それが、次から次へと流れ込んで来たのだ。

 ワタシは、急ぎその〈情報〉を解読していく。

 その中には、何故《氷菓の心臓》がワタシのモノで、それに共鳴するようにワタシの鼓動も脈を打っているのかも記されていた。

「《氷河(グラシアル)………、時代(エイジ)》……………」

 気が付けば、ワタシはそう呟いていた。

 それが、この湯球(ゆだま)市の現状であった。

 けれど、それも『ここまで』であろう。

 ワタシもこのはさんも、必死の回避行動を止め、途端に臨戦態勢に入る。

 その戦闘は、長々と続いた。

 だが、それをそうは続かなかった。

 ワタシは、次々と繰り出される葵さんの攻撃を、〈読取〉し、〈解析〉していく。

 そうした事で、僅かずつながらだが、小さな〈情報〉が解明されていった。

 そして、それに伴い現状にも『変化』が及び始める。

「…………」

 葵さんとこのはさんは、ほぼ同時に空を見上げた。

 その空は、徐々に黒みを帯びだす。

 それは、この不思議な雪が止むことへの前兆であった。

 ワタシは、《天》に向かって、両手を拡げた。

 そうして、雪は段々とその威力を弱め、終にはパッタリと降かなくなる。

 それが、〈総て〉の決定打だった。

 ─────ドサッ!!

 と。すぐ近くで、大きな音が鳴る。

 あの不可思議であった天候が消えた事で、葵さんはその脅威を失い、墜落したのだ。

 そして、それとほぼ同時にワタシと葵さんを繋いでいた心地好い〈鼓動〉も止んだ。

「ウクッ………」

 それでも、その余韻は残る。

 その余韻を引きずりながら、ワタシは葵さんに近付く。

 真っ白な地面は往々とした深緑色に戻り、元の湯球市の顔を見せる。

 それは、奇怪に思える現象であった。

 分厚く存在していた雪の層は、溶けるような素振りを見せること無く途端にその場から、まるで自然消滅したかのように消え、真夏を感じさせる日差しを浴びせる。

 この時点で、湯球市における怪奇現象〈氷河期〉は終了した。

 しばし、その場に静寂が訪れた。

 ワタシは、ただ目の前の葵さんの回復を待っていた。

「ぷはっ!!…………ハァハァハァ────ッ!!」

 それは、然程の時間を用さなかった。

 葵さんは、喉の奥に詰まっていたものが取れたそうに息を吐き、荒い呼吸とともに徐々にその意識を取り戻していく。

「あ、あれ………?ゆず、ちゃん……………?」

 最初はキョロキョロと辺りを見渡していた葵さん。ようやくワタシの存在に気付くと、葵さんは途端に首を傾げた。

「此処は?」

 葵さんは、そう訊ねてくる。

「分かりません」

 ワタシは、正直に答えた。

 見た感じ、此処が森の中なのは分かっているが、その地名までは知らなかった。

 だが、それでも唯一ワタシに分かる事と言えば、

「おそらく、湯球市だとは思いますが…………」

 という事くらいだった。

「ゆだまし…………」

 葵さんは、何かに引っ掛かっているかのように呟いた。

「立てますか?」

 今、この場に居続けるのは危ないと感じ、ワタシは葵さんにそう訊ねた。

「え?あ、うん………」

 葵さんは、一度困惑し小さく頷くと、ワタシの手を借りてゆっくりと立ち上がった。

 そして、ワタシと葵さんは、早々にその場から立ち去った。

 その時、ワタシはこのはさんの姿も気配も無くなっている事に気が付いた。

 それが何時からかなのかは分からない。

 だけど、きっともう一度会える気がした。

 そこに確証は無い。あるのは、そんな〈予感〉だけだった。




 それから五日後…………。

 湯球市と、それと同じ旧国に属した町村の在り方は、大きく変わり始めていた。

 水瀬家の衰退と、その国力の低下により、現在、薗に所属する四つの市町村は選択を迫られていた。

 その選択は二つ。

 立に取り込まれるか、帆に取り込まれるか。あるいは、滅亡の路を逝くか。

 当然、答えは一つ。………のはずだった。

 しかし、薗はどちらも選ばなかった。

 水瀬家の人間である、水瀬葵がいたからだ。

 そして、薗は葵さんを現当主へと祭り上げ、尚も防戦の意思を示した。

 それが、火種だった。

 立は沈黙を主張するも、帆はそうもいかなかった。

 帆は、薗に向けて、再び牙を剥き始める。

 そんな国内での争いに、葵さんは酷く悩んでいた。

 そして、その事をワタシに相談した。

 無論、ワタシは首を横に振った。

 一人の武力でどうにかなるほど、世界は甘くないのだ。

「これで、薗は墜ちるのかな?」

 ワタシの隣で、朱髪の少女はそう訊ねてきた。

 その少女は、薗に同盟持ち掛けた國の一つである、帆の関係者。

 そしてワタシは、葵さんに一端考える時間が欲しいと進言し、その少女───鳴滝(なるたき)火垂(ほたる)との『交渉』を進めた。


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