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夜天幻時録  作者: 影光
第2章 夏帳怪奇編
31/102

第30話 天啓の巫女

 事件は、唐突では無かった。

 その前兆は──前触れは、数年から指摘されていた。

 しかし、そんな事に世間は全く聞く耳を持たず、結局、何の対応も音沙汰も無いまま最後の〈政〉は行われた。

 最初は何とも無かった。

 世間も、やっぱり嘘だったんだと、安堵のため息を漏らす中、《事件》は唐突に起こった。

 《神桜樹》は突然発光し、桜公園一帯はその謎の光に包まれていった。

 謎の光は罪も人達を、まるでお腹を空かせた獣のように襲い狂い、多くの犠牲者を出した。それは、少女も例外では無かった。

 少女は、この〈政〉の舞手であった。

 しかし、別に少女が最も《神桜樹》に近い位置に配置されていた訳では無かった。

 少女の身内は全員、謎の光によって命を奪われ、少女の身は人拐いにあったかのように何処か別の場所へと連れ去られてしまった。




「神代家と神宮寺家の件に関しては、あまり深く詮索しない方が良いと思うよ」

 以前、葉月(はづき)さんからそういう忠告を受けた。

 しかし、ワタシはどうしても気になった。

 神宮寺家の事を気に掛ける神代家と、その意見を拒む神宮寺家の、その関係性に関わる過去を。

 二家の間には必ず何かがある。

 だが、両者はその件に関して、お茶を濁すばかりだった。

 埒の明かないと分かっていても、それ以外にワタシが『答え』に辿り着ける方法は無い。

 だからこそ、どうにかしてでもその『答え』に辿り着かなくてはならない。

 この………謎の《神災》を止める為にも……。

 …………。 あれ?

 この時、ワタシはふと思った。

 ワタシは……何で、こんな事を………?

 不明確な疑念を抱いたが、ワタシは次なる目的を目指して行動を開始した。

 そのはず、だった…………。

「柚吉。今度はソッチをお願い」

「あ、はい。分かりました……」

 何故、こうなった?

「あっ、こらっ、小薙(こなぎ)。それは植えてあるヤツだ!」

「えっ!そうなの?」

 ほのぼのとした日常の風景。

 ギンギンに降り注ぐ紫外線が、夏の兆しを示し、先日までの梅雨の怠さを忘れさせる。

 そして、六月は後半を迎えた。

 これから次第に暑くなる。

 それに、この時期からとある業務は忙しくなる。

 その内の一つ。農作業を、ワタシ達はお手伝いしている。

 主な作業は草むしりだが、その作業は困難を極めていた。

 作業内容は草むしりもは名ばかりの重労働。

 正確には、何十年と放置されていた土地の除草作業。

 二十メートルほどまで伸びた竹藪と、その足元を覆う根を深く張り巡らせている珍しい雑草。

 他にも沢山の雑草が点在し、それらの雑草に混じって多年草の草木が存在している。

 その区別に、少し離れた場所は何やら奮闘していた。

 まぁ。奮闘とは少し違う気もするが。

「ねぇ、柚希?」

「はい、何でしょう。葉月さん」

「あの娘は、誰?見ない顔だけど」

 葉月さんは、伊織(いおり)さんを指差す。

「えと………」

 まぁ。此処に部外者に近い人物がいたら、そりゃあ不審にも思うか。

「小薙、伊織さんです」

 ワタシは、作業を続けながら返答する。

「小薙………。ということは、最中(もなか)の妹?」

「…………」

 まぁ。パッと見では、そう見えなくもないか。

「いえ、お姉さんですよ」

「えっ!?」

 葉月さんは、無意識に驚く。

 端から見てもそうなのだから、それが世間の見え方なのかもしれない。

「最中。いい加減作業に専念しなさいよ」

「う~~ん。分かってはいるんだけどねぇ~」

「何よ?」

「ううん」

 姉妹の会話。

 あれが普通の会話と呼べるかは分からない。

 けれど、あれはあれで良いと思えた。

「姉妹………か」

 背後で、神代さんが呟く。

 その表情は、どこか羨ましそうな感じに見える。

「何? やっぱり宝(たから)は後悔してるの?」

 後悔………?

「い、いや。そんなことは無いけど………」

「けど?」

「ううん。やっぱり、後悔してるのかも」

「そっか……」

 そんなヒソヒソ話をしていた二人だが、何やら重苦しい雰囲気を残したまま作業に戻った。

 除草作業は、丸三日掛かった。

 その間も、《神災》や、それに似た事件が起きることはなく、平穏そのものな日々が続いた。

 けれど、そんな平穏にも、異変は起き始めていた。

「ねぇ、柚希?」

「はい、何でしょう?」

 訊ねられ、素直に耳を傾ける。

「神社の方、どんな感じ?」

「どう、とは?」

 ワタシは、首を傾げて聞き返した。

 正直、神社に行ったのは初めての事なので、そう訊ねられてもどうとも答えようが無い。

「いえ、えと………」

 急に、神代さんの態度が、たどたどしくなった。

 ワタシは、首を更に深く傾げて、怪訝な顔で神代さんを見つめた。

「あ、いえ!神社の巫女さんはどのような方なのかな?と訊ねたくて…………」

 神代さんは、慌てたように取り繕うような発言をする。

「そうですか……」

 やはり、何かおかしい。

 疑念を抱きつつも、ワタシは敢えてその挙動を指摘しなかった。

 それは、この後の展開を予想し、自分の得たい情報を得る為の策だった。

「そうですね。小さな女の子でしたよ?とは言っても、ワタシに比べれば大きいですが………」

 深々としたことを言わず、敢えて遠回りな返答をする。

「歳はどのくらい?もしかして、十三・四くらい?」

「えと、どうでしたでしょうか………。おそらく、そのくらいの歳には見えましたが。それが、どうかしましたか?」

「え?ううん。特には無いかな……?」

 神代さんの目が泳ぐ。

「ほら、この先の祭り事なんかを考えると、その辺も関係してくるじゃない?」

 神代さんは、取り繕うように喋り出す。

 正直、そこまでの情報は必要としていなかったが、その発言が、ワタシに妙な確信を抱かせていた。

「そうなんですか?」

 東方の祭事はよく分からないが、それが場を紛らせるものだとは理解した。

 農作業の前準備。耕すという作業は完了した。

 この後は、この農場に水を張り、数日置くそうだ。


 翌日、翌々日、また翌日と、こういった作業は続いた。

 それが終わる頃には、既に暦は七月を迎えようとしていた。

 そして、七月に入り、元々あった依頼をこなす中で、ワタシはとある情報を耳にした。

 それは、神代家と神宮寺家が、元は本家と分家のような関係であったという情報だ。

 そこが曖昧であるのは、三百年ほど前の『いさかい』で、両家が対立したからだという。

 そうなれば、阿莉子さんのあの態度も頷ける。

 しかし、少々不審に思えた。

 それは、神代さんの態度だ。

 神代さんは、どこか神宮寺家を心配しているというよりも、そこに勤めている人物のことを気に掛けているようであった。

 だが、最近の神代さんは、それが出来ない状況に追いやられているようにも見えた。

 もしかしたら、両家の間には既に蟠りなど無く、ただの行き違いがあるのでは無いかと思えた。

 それを確かめるべく、ワタシは神成神社へと向かった。

 その道中、伊織さんに捕まり、ワタシは咲良(さくら)さんを含めた三人で神社への石段を登り始めた。

 その石段は、やはり辛い。

 それは、先程から何度も休憩している伊織さんが、いい見本だった。

 伊織さんを待っている内に十分近くが経ち、ワタシ達はようやく神社の境内に到着した。

 到着して早々、境内を掃除中であった阿莉子さんと遭遇した。

「あら、いらっしゃいませ」

 阿莉子さんもコチラに気付き、営業用の挨拶をする。

「本日はどういったご用件でしようか?」

 本来であれば、神社(ここ)へ訪れる理由は参拝くらいしか無いのであろうが、ワタシがこれまでその為に来ていなかったので、阿莉子さんは自身に用があると理解しているのだろう。

「はい。少々、訊ねたい事がありまして」

「また、回りくどい言い方」

 自分でも重々承知している。

 しかし、やはり体裁というのは大切だろう。

「数百年前に起きたとされる『いさかい』についてなのですが………」

「いさかい………?」

 阿莉子さんは、首を傾げた。そのまま、しばし思考し、「あっ!」と言ってポンと手を叩いた。

 どうやら、何かを思い出したようだ。

「三百年ほど前の《七廻戦争》についてですね………?」

「それは、どのような戦争だったのでしょうか?」

「え?えと………」

 何故か、再び頭を抱える阿莉子さん。

 その時にワタシは思う。

 この《秦(くに)》は謎が多いな、と。

「詳しくは私もよく知らないのだけど、聞いた話では、ここ《秦(しん)》とその他いくつかの國との間で起きた争いだと伺ってはいますが………」

 それは、挨拶な発言だった。

「ですが、このいさかいが切っ掛けで、《秦》は出来上がったとも伺っています」

 それが、《秦》ができた切っ掛け。

 それに、《秦》以外ともこの出来事に巻き込まれた國が………。

 その國の事も調べた方がいいだろうか?

 思考していると、阿莉子さんが言葉を紡いだ。

「私が知っているのはこの程度ですが、お役に立てましたか?」

 阿莉子さんは問う。

 その表情には、以前の形相は無く、ただ、心配する眼差しを向けるのみだった。

「あ、はい。助かりました」

「で?」

「?」

「今度は、どんな事を調べているの?《神桜樹》に《神災》。それで今度は《七廻戦争》だなんて………」

「いえ。特にコレといって重要な事でも無いと思われます」

「そお?」

 おそらく、そうだろう。

 これは、個人的な疑問の解消のその延長のようなものだ。

 なので、前者二件のような重要度は無いと判断している。

 だが、それに近いような感覚もある。

 ワタシは、これ以上の情報を持ち合わせていないと言われ、阿莉子さんに一礼して神社を跡にした。

 結局、神代家と神宮寺家の間に起きたとされる『何か』は謎のまま、ワタシはしばし空を見上げて悩んだ。

 必ず何かはあった。

 しかし、とちらもソレを話そうとはしない。ただ、ぎこちない雰囲気が続くだけ。

 それは何なのか。それが何を意味するのか。それが分かりさえすれば、全てが解決するはずなのに…………何故。

「柚希?」

 道中、伊織さんに疑問系で呼び止められる。

「上を向いたまま歩いてると、危ないよ?」

 言われ、足下を見る。

 ワタシの右足は、既に崖すれすれにあった。

 ワタシは慌てて右足を引っ込め、安全域に避難する。

「また、考え事?」

 今度は、咲良さんに訊ねられる。

「えと………」

 ワタシは、指を顎に添え、悩む。

「それは、さっきの話の件?」

 伊織さんが、疑問を紡ぐように問う。

「そうですね」

「何か気掛かりでも?」

「……………」

 しばし、沈黙する。

「二人は、神代さんの家と阿莉子さんの家について、何か感じませんでしたか?」

 捉えられぬ何かを掴むように、ワタシは二人に訊ねた。

「そうだねぇ………」

「私は……、特に何も感じなかったけど」

「もしかして、その両家の関係性について?」

 伊織さんは、正解を掠めるような解答をした。

「というか、両家の対立理由ですね」

「対立、ねぇ…………」

 伊織さんの表情が、訝しくなる。

 その顔は何か知っていそうだったが、阿手にならなさそうではあった。

 なので、改めて問うことはしなかった。

 その代わりとは言えないが、ワタシはとある場所へと向かった。

「で。柚希は、いったい何処へ向かおうとしているの?」

 言われ、素直に答える。

「亜原大聖堂です」

 言って、すぐさま到着する。

「おや、お久しぶりですね」

 早々、その建物の入口を掃除していた人物が、先に声を掛けてくる。

「はい。約三ヶ月ぶりになります」

 軽い世間話のようなものを済ませ、ワタシ達は中へと通された。

 中へ入って早々粗茶を頂き、一息吐いて本題を切り出す。

「はぁ~……、《七廻戦争》についての資料、ですか………?」

 シスター服の女性は、困惑したような顔をして聞き返す。

 今回の資料も、学園には無かった。

 なので、つい思い付いたかのように、この聖堂に足を運んだのだ。

「以前の件とは異なり、資料の数もかなり減りますが大丈夫ですか?」

 シスター服の女性は、何故かそんな事を釘指す。

「大丈夫ですよ」

「分かりました。では、コチラへどうぞ」

 粗茶を残り粕ごと喉に流し込み、シスター服の女性の後を追った。

 うっ、苦い。

 シスター服の女性に通された聖堂の資料室。

 そのな中から、ワタシ達は一つの棚の前へと案内された。

「コチラが過去の資料になります。二百年以上も前のモノとなりますとあまり数はありませんし、それらのどの内容も上部のような事しか記されておりません」

 言われて、ワタシは棚から一冊の書物を取り出し、パラパラと一通り目を通した。

「みたいですね。あまり詳しくは記されてはいないようです」

「それでも探すの?」

 咲良さんが、おずおずと訊ねる。

 どうやら、少々埃っぽいことを気にしているようだ。

「はい」

 短く答え、作業を開始した。

 確かに、量はそれほど無かった。

 見付かった資料は三冊。どれも、厚みはあまり無い。

「柚希、これって…………」

 咲良さんが、再びおずおずと訊ねる。

「みたいです」

 ワタシも短く答える。

 取り出した資料は、どれも同じ年号、時期、事件、関係者が記されていた。

 それらの事件の詳細に、大きな違いは無かった。

 その中で唯一違っているのは、事件前後の時間帯くらいであった。

 ワタシは、資料を読み進め、とあるページで手を止めた。

「《七廻戦争》…………」

 そのページの冒頭には、そう書かれていた。

 内容は………、

「《慧》《薗》《帆》《立》《唐》の関東五國と、《謂》《亘》《赳》《寧》の近畿四國を中心とした大国九國の間に起きた………『小競り合い』」

 と、いうもの。

「小競り合い………」

 手元の資料には、そう記されていた。

 そして………、

「この小競り合いにより、《慧》《薗》《立》《謂》《赳》《寧》の六國は滅亡。《秦》《唐》《亘》の三國は、『丈夫な地盤』と『強固な権力』を手に入れた」

「丈夫な地盤と、強固な権力…………。それって、どんなの何だろうね……?」

 伊織さんは訊ねる。

 『地盤』と『権力』。

 その二つは似ているようで違うモノ。

 それが指し示すモノは何なのか。

 そして、それがワタシの知りたかったモノとどう繋がるのか。

 それは、次のページに曖昧な表現で記されていた。

「尚、この小競り合い時、各國で奇妙な人影を視認。その口調は十四・五歳くらいの少年であったが、フードで顔を覆っていた為その顔立ちは目撃者の誰もが確認はしていない。そんな折、その少年とおぼしき人物に接触する、十歳くらいの少女の存在を確認」

「十歳くらいの少女………。いったい、どんな子何だろうね?」

 伊織さんは、先程と同じような口調で問う。

 その声音は、既に総ての答えを知っているかのようだった。

 だが、ワタシは敢えてそれを追求しなかった。

 どんなに訊ねようと、伊織さんがそれを話してくれることはないと理解しているからだ。

 資料は、最後のページを迎える。

「この小競り合いの最中、黒服の少年は、一人の少女と接触。少女は少年から〈何か〉を受け取った模様。その証拠として、少女が所属する《薗》は、この小競り合いに勝利し、『莫大な功績』を得た」

「その少女の名は…………。神宮寺、阿莉子……」

 最後の文章を、伊織さんが代わりに読み上げる。

「「「……………」」」

 三人同時に無言となる。

 それは、そう繋がった。

 だが、総てが繋がった訳では無い。

 繋がったのは、三百年前に何があったか………だ。

 そして、その小競り合いに携わった人物も数人ほど明らかとなった。

 しかし、ここでワタシは一つの疑問を感じ、それを口にした。

「《七廻戦争》という単語は何処から出てきたのでしょうか?」

「え?」

 咲良さんと伊織さんは首を傾げ、資料を隈無く目を通した。

 無論、そんな単語などどこにも記されていない。

「これって、どういう事なんだろうね………?」

 伊織さんは、大きく首を傾げた。

「…………」

 ワタシは、思考する。

 阿莉子さんが嘘を吐いた可能性や、歴史が書き換えられているかもしれない真実を。

 小競り合いを起こした國は、九つ。

 その各国が何の為にその小競り合いに参加したのかは、どこにも記されていない。

 それに、この小競り合いの前後が曖昧に記されている。

 ただ、まし阿莉子さんが嘘を吐いているかもという疑問については、すぐさま解消された。

 それは、先程のシスター服の女性が証人だ。

 シスター服の女性は、ワタシが《七廻戦争》についての資料が見たいと訊ねた時、訝しげな表情など一切しなかったのだ。

 ならば、書き換えられた可能性………?

 しかし、これもすぐさま解決した。

 確かにこの三冊の資料どれにも《七廻戦争》という単語は存在しない。

 だが、もしこの資料そのものが、七つあったとするならば………?

「────ッ!!」

 そうだ。

 何故、『七廻』というのだろうか。

 七つの國? 七回の出来事? 七度の書き換え?

 おそらく、どれも違うだろう。

 ならば何なのか。その謎は考えれば考えれるほどに深まるばかりだった。



 神成神社、境内。

 どんな《神災》に見舞われても、決して影響を受けない場所。

 そこに、伊織は一人で訪れていた。

「特に何の影響も受けないのに、精が出るね?」

 伊織は、目の前で石の廊下を掃き掃除する巫女の後ろ姿に、嫌味を含んだ言葉で訊ねる。

 すると、その巫女こと神宮寺阿莉子は、手を止めゆっくりと振り向いた。

「あぁ……、貴女でしたか。お一人でいらっしゃるなんて珍しいですね?」

 阿莉子は、伊織の言葉に返さず、逆に訊ねた。

「それは、お互い様でしょ?」

「……………」

 阿莉子は、伊織のその言葉の意味を考察した。

「いえ。その事ではなく…………」

「ん? ああぁ…………、大丈夫大丈夫。アタシ、こう見えても地位は高い方だし、何より貴女達と事を構える気は毛頭無いから」

「そうですか」

 阿莉子は、掃き掃除を再開した。

 その後、二人は何を話す訳でも無く、数分ほどすると伊織は神社から出て行った。

「……………。はぁぁぁ…………」

 伊織が結界の外へ出て行ったことを認識すると、阿莉子は途端にため息を吐いた。

 阿莉子にとって、現状伊織達と対峙する事はどうしても避けたかった。

 その理由は二つある。

 一つ目は、戦力の温存だ。

 阿莉子の権能(チカラ)は、伊織の権能(ソレ)と同等のものだろう。だが、阿莉子はその内のいくつかを既に消費している。

 その性でもあり、阿莉子は神社に籠ることを余儀無くされている。

 二つ目は、個人的な思想だ。

 阿莉子は、元々神宮寺の家の娘では無い。

 けれど、そんな彼女がこうして〈個〉を持って居られるのは、間違いなく《彼》のお陰だろう。

 だからこそ、阿莉子は探し出さなければならなかった。

 そして、今度こそ自分の手で、この『復讐』に終止符を打たなければならない。

「もう、後戻りは出来ないから………………」

 阿莉子には、時間が無かった。

「お兄様……………」

 最後に、ちゃんとお礼を言いたい。

 ちゃんと、ご奉公がしたかった。

 ただ、その一心で、阿莉子は突き進み続けていた。

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