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夜天幻時録  作者: 影光
第1章 春桜開花編
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第16話 突然の襲撃者

 段々と雑になってゆく日の巡りを受け、ワタシはそっと空を見上げた。

 ここまで、ゆったり来たような気もするが、此処から激戦となるのだろうか?

 若干の不安を抱きつつ、ワタシは《学園》の医療棟に向かった。

 目的は当然………、

「う~~ん。今のところは快調かな?」

 検診だ。

 あの時の一件以来、自身の身体について不安があり、目の前のハルナさんは新たな『研究対象』を発見したかのように、それを受諾してくれた。

 あの時の現象は、今だ分からないけど、その糸口が見付かればと思って、こうしてハルナさんの元を訪ねている。

 しかし、その結果は………、

「特に変わったトコロも無いし、だいたい、貴女が《人工生命体(ホムンクルス)》?っていうのなら、尚更、あの子に聞いてみた方が良いんじゃないの?」

 それは何度も聞いた。

 しかし、その結羽灯(ユウヒ)さんも、まったく同じ回答だった。

 それに、結羽灯さんの話では、自身は『錬金術士』じゃないから、その辺は詳しく無いとの事だ。

 で。また違う意見として、その『錬金術士』である入衛(イリエ)さんからの話では、製作者以外の人には、その辺は分からないとの事だ。

 なので、一番手っ取り早く、かつ多くの情報を持ち得ているハルナさんが適任だと思った。

 それに、違う面でも聞きたいことがあったのだ。

「『目』も『痣』も特に問題無いみたいだし。ホント、貴女って何なんだろうね?」

「…………」

 どう言えば良いんだろう………。

 ただの《人工生命体》です。とは、さすがに言い切れないし、かと言って、『人間(ヒト)』です。というのは、また逆におかしい気がする。

 それに、あれ以来、ワタシの身に変化は無い。

「とりあえず、コンタクトは新しいの出しとくから」

「あ、はい。ありがとうございます」

 ハルナさんから顕偽視鏡(コンタクトレンズ)を受け取り、ワタシは帰宅した。

 その帰りの途中、ワタシは左腕に意思を込め、《烙封印(ディザーズ)》を発現させようとする。

 しかし、結果は呆気なく、何の反応も無い。

「はぁ~~………」

 深いため息を吐き、帰路を急ぐ。

 特に用事などは無いが、何かが起こる予感がしていた。


 それは計算されていたのか、その日の午後、事件が起きた。

 その概容は『強襲』。

 しかも、その規模は神成市全体を捲き込む程のモノだった。

「いったい何事!?」

 街の住人は声を揃えて驚く。

 数多の事件が起きてきた《秦》とはいえ、この程度の事件は今まで起きてこなかったのだろう。

 街中は、混乱の渦と化していた。

「さてと………」

 そんな中、ワタシはこの現状を冷静に整理する。

 こういう場合、変にテンパっていては、逆に命が危ない。

 なので、まずは冷静に現地へ向かう。

「それそれソレそれ~~~~ッ!!!」

 現場は商店街から少し離れてはいるが、そこはれっきとした街の一部であった。

「それそれそれソレそれそれ~~~~ッ!!!」

 黙々と、かつ迅速に行われる破壊工作。

 その中心部に位置する場所に居たのは、一人の少女だった。

 少女は一心不乱に地面を殴り、その衝撃波が辺りに響き街中の建物を無尽蔵に破壊していく。

 もの凄い破壊力だと感心していたが、辺りに人の気配が消えたことで我に帰り、少女の目の前に立った。

「………?あはッ」

 少女はワタシの存在に気付き、満面の笑みを向ける。

 その時、ワタシはふと感じた。

 この少女が『人間(ヒト)』では無いことに。

「ッ!!」

 少女は地面への攻撃を止め、その対象をワタシに向けて来た。

 ワタシは咄嗟に剣を抜き、少女の一撃を受け止める。

 受けた余波によって足下にヒビが入り、荒く削られた地盤は粉々に砕けた。

 ───くっ!なんて力………。

 元々の力量差は然程も無いだろう。

 しかし、ワタシと少女で、その一撃に掛けた威力には、大きな差がついていた。

 そのため、ワタシはその一撃を流すことも出来ず、その場で堪えることしか出来なかった。

「ハァァアァァァァ…………ッ!!」

 鍔迫り合いの最中(サナカ)、少女の背後から声が聞こえた。

 その声の正体は、シルヴィアさんだった。

「ッ!」

 少女は咄嗟の反応でシルヴィアさんの一撃を回避し、ワタシは少し遅れて背を反らし、シルヴィアさんの剣が額に直撃するのを回避した。

「オっ?」

 少し遅れて、少女の懐に小さな影が忍び寄る。

 影は少女に一閃を放つが、少女は咄嗟にその攻撃を悠然と交わす。

「大丈夫?」

 影の正体であるセレナさんがワタシから少女を引き離している間、シルヴィアさんはワタシの隣に立ち訊ねてくる。

「大丈夫ですが。二人はどうされたのですか?」

「セレナが『嫌な風』を感じて、その次にものすごい爆発音が聞こえたから来てみたら、貴女があの()と交戦しているのが見えて………」

 それで加勢に来たのか……。

「それで、この先はどうする予定でしたの?」

 シルヴィアさんが訊ねてくるが、ワタシ自身、特に作戦などは無い。

 ただ、この破壊工作を止めようとしていただけだ。

「いえ、特に無いです」

「そう。でしたら、あの娘をどうこうしようといわけでは無いんですのね?」

「そう……なりますね」

 いったい、何を考えているのだろう………?

「セレナ。その娘を気絶だけさせて!」

 シルヴィアさんがそう支持すると、セレナさんはコクッと小さく頷き、少女と激しい交戦に入った。

「柚希……」

「あ、はい!」

 突然呼ばれ、ワタシは慌てて返事をする。

「此処へ来る途中、『大瀬橋』に向かう人影を見ました」

「………分かりました」

 なんとなく予想は付いた。

 おそらく、シルヴィアさんはそちらの人影の方が気になっていたが、コチラの状況が心配でコチラに急行したのだろう。

 大瀬橋は、結羽灯さんがいる島に唯一架かっている橋の名前だ。

 少し気掛かりではあるが、ワタシは踵を返し大瀬橋の方へ向かった。


 向かった現場は、すでに戦場と化していた。

 大小様々な機械の軍勢が島を取り囲み、爆発と粉塵が大瀬橋の中程まで伸びる。

 半壊状態の橋の骨組みを跳躍で渡り、ワタシは島の内部に進入する。

 その戦場に近付くにつれ聞こえてくる戦闘音。

 どうやら、すでに誰かが戦っているようだ。

最中(モナカ)さん!!」

 その人物の姿を認識し、その人物の名を叫ぶ。

「柚希……」

 最中さんはすでに息絶え絶えのようで、あちこちに切り傷や焼け焦げたような怪我をしていることが、遠目でも認識できた。

 機械の軍勢との距離を詰めると同時に、ワタシは《全能虚樹(アーケフォルチャ)》の『根』に回路(ヒドゥン)を接続する。

 …………“対戦闘覇戒兵装(ウルキスオルム)”。

 第九(ディヴァート)第八(ヴァチェーツ)第七鎖環(ズィモーイ・ロウ)………解除(マウル)

 三つの鎖を外し、血の流脈の活性化を感じたワタシは、手と足に一層の力を込め、機械の軍勢の一陣を薙ぎ倒す。

 一陣の軍勢を破壊したことで、その爆発により軍勢の二陣、三陣が破壊され、最中さんがいる場所への道が拓けた。

「大丈夫ですか!最中さん」

 最中さんの背後に回り、即座に機械の軍勢と対峙する。

「ま、私は大丈夫だけど、博士が………」

 最中さんの視線の先を気にし、その視線の先を見つめる。

 見つめた先は、結羽灯さんの研究所。

 ───もしかして、『本体』が……?

 そう思ったが、現状がそうはさせてくれなさそうだった。

「そう、どうしたら良いんだろうね?」

 誰に訊ねたのか、最中さんは機械の軍勢との戦闘に専念し続ける。

 その表情には、焦りのようなものが見受けられた。

 なので、ワタシはそんな最中さんに提案する。

「最中さんは此処で食い止めていて下さい」

「柚希………?」

 最中さんは不安そうな顔をする。

 その表情は、逆にコチラが不安に囚われそうになる。

「ワタシが、結羽灯さんの元に向かいますから」

「うん。おねがい………」

 そう、小さく言い残し、最中さんは機械の軍勢の中へと飛び込んで行く。

 そんな最中さんを残し、ワタシは結羽灯さんがいるであろう研究所へと向かった。


「結羽灯さ~~ん!!」

 声を張り上げ、迷宮のような所内を駆け回る。

「ごほごほっ!」

 所内は真っ黒な煙が充満し、視界が著しく悪い。

 それでも、ワタシは五感を走らせ、人の気配を辿る。

 思えば、『人助け』は、これが初めてのはずだ。

 今まで、沢山の人や動物を殺してきた。

 《局》にいた時もそうだし、《北》の実験所にいた時もそうだった。

 『命令』されれば、何だって壊し、殺してきた。

 だが、今はどうだろう………。

 ほぼ、無意識に近いが、人助けをしている。

 そんな自分が、どこか気持ち悪く思えた。

「ッ!!」

 数分ほど走り回ると、銃声に似た音が聞こえた。

「くっ!逆か!!」

 慌てて踵を返し、音の聞こえて来た方角へ向かう。

「結羽灯さん!!」

 視認した人物の名を叫ぶ。

「柚希………ちゃん?」

「ハァァアァァァァ………!!」

 ワタシは、手前に存在する後ろ姿に向かって、強い一撃を放つ。が───

「くっ!」

 その一撃は、人型のような中型の機械によって阻まれる。

「このっ!」

 止められた剣を力の限り降り下ろし、機械人形を破壊する。

 そのせいか、剣は折れてしまったが、ワタシは即座に結羽灯さんと、その『敵』との間に潜り込んだ。

「大丈夫ですか?結羽灯さん」

「あ、うん。私は大丈夫だけど………」

「対象ノ、増殖ヲ確認………」

 目の前に立つ少女は、蓄音機のような声で喋る。

 少女の姿は、先程商店街で暴れていた人物と顔は瓜二つだが、その髪の色と、所持している武器が違っていた。

 先程の少女は、手甲を装備していたが、目の前の少女は、杖を所持している。

 先程の少女と違い、これだけの軍勢を動かしているとなると、腕力は無いが、知力が高いのだと判断される。

「全軍、突撃……」

 少女の支持を受け、廻りの機械が一斉に向かって来る。

 ───くっ!

 ワタシは、心の中で舌打ちし、刃折れの剣で機械達と対峙する。

 途中、刃折れの剣にヒビが入りったので、ワタシは《全能虚樹》の『根』に再接続し、“対戦闘覇戒兵装”の『拘束』を解除する。

 第六(シェート)第五(ピャコイ)第四鎖環(シャトゥヴェール・ロウ)………解除(マウル)ッ!!

 ───ズキズキッ!!

 他の『根』には回路を接続していないとはいえ、大方三文の二のも『拘束』を解除したせいか、全身に激痛にも似た痛みが走る。

「グッ!アッ………」

「だ、大丈夫?柚希ちゃん………」

 結羽灯さんは、ワタシのことを心配してか、ワタシの身体を支えようとしてくれる。

「だ、大丈夫………です」

 正直、大丈夫なんて言えるはずも無い。

 しかし、ワタシが痛みを顔に出すと結羽灯さんが余計な心配をする。

 なので、ワタシはその痛みに耐え、結羽灯さんを安心させる。

「でも、顔色が………」

 結羽灯さんは、心配そうに訊ねてくる。

「だ、大丈夫です。顔色は元からですから………」

 なるべく、場を落ち着かせるように発言する。

 それと同時、ワタシの脳裏に変な疑問が浮かんだ。

 ───何でワタシ、こんな事言ってるんだろう?

 今までだったら想像もしなかっただろうに………。

「と、とりあえず、結羽灯さんはその場にいて下さい。この場はワタシが何とかしますから」

 自分の身体から溢れ出る『衝動』を難とか押さえ付け、機械の軍勢の中へ飛び込む。

「ハァァアァァァァ………!!!………アグッ!!」

 機械の数は、中型が三。小型が八の計十一体だ。

 数十分にも及ぶ激戦を繰り返し、ワタシは機械の軍勢を難とか倒した。

「ハァハァハァハァ……………グッ!」

 荒く息を吐き、辺りを見渡す。

「あれ?結羽灯さん?」

 何処を見渡しても、結羽灯さんと少女の姿がなかった。

 ───くそっ!

 心の中で舌打ちし、五感を走らせる。

 まだ遠くには行ってないな………。

 ワタシは踵を返し、五感を頼りに奥へと進む。

 所内を走っている間、ワタシにはどうしても気掛かりな事があった。

 それは、此処で会った少女と、商店街で出会った少女。

 その二人に共通するのは、顔や容姿だけではなかった。

 どこか見覚えのある。されど、初めて見るような感覚。

 まるで、《機巧人形(マシンドール)》と呼ばれる《西洋》の『玩具』に似ている気がしていた。

 此処、《東方》で言えば、カラクリ人形に類似するらしいが、《機巧人形》の場合、その動力がカラクリ人形とは全く異なっている。

 ゼンマイとテコの原理で動くカラクリ人形に対し、《機巧人形》は、電子回路と呼ばれる謎の装置によって稼働しているらしく、そのシステムは旧世紀時代の《自律型駆動兵器(オートマタ)》に似ている。

 しかし、商店街で戦った《機巧人形》には、類似する《自律型駆動兵器》とは異なり、皮膚のような感触があった。

 実際には違うのだろうか………?

 まぁ、類似しているだけで、同一とは限らないのだ。

「結羽灯さん!!」

 結羽灯さんの姿を視認し、その名を叫ぶ。

 先程の中型機械が装備していた鉄槍を剥ぎ取り、一時的に装備したワタシは、鉄槍を大きく振りかぶり、少女の背中目掛けて降り下ろす。

 ガギギッ!!という音と共に、少女によってワタシの攻撃は防がれるが、勢いがついている分、その威力はコチラの方が上だ。

 ワタシは、腕に一層力を入れ、勢い良く降り下ろす。

「ハァァアァァァァァァァ……!!」

 降り下ろされた鉄槍は、少女の杖を降り、その先端は少女の身体を裂く。

「腹部ノ、破損ヲ……確認。撤退ヲ、提案スル………」

「うくっ!」「ひゃっ!」

 少女は、紅い発光灯を発した後、姿を消した。

「テレポート………?」

 思考を廻らせながら、結羽灯さんの近くに向かう。

「大丈夫ですか?」

「あ、うん。大丈夫………。それにしても、今の子は何だったんだろうね?」

「……………」

 分からない事は多い。

 だが、ワタシには、今の少女が先程言っていた言葉が気掛かりとなっていた。

「柚希!博士!」

 前方から、最中さんの姿が近付く。

「大丈夫だった?」

「はい、コチラは───」

「うん。スッゴく楽しかったよぉ~~」

 は?楽しかった…………?

 一瞬、よく分からない言葉が聞こえたが、ワタシ達は、いったん研究所の外へ出ることにした。

 外へ出たワタシ達を待ち構えていたのは、山積みとなっている大量の金属の塊だった。

「これ………何?」

 それを見て、結羽灯さんが首を傾げて訊ねる。

「此処に襲って来ていた機械の残骸」

 最中さんが瓦礫と化した機械の破片を引きずり出しながら答える。

「あ、いました………」

 ふと、声が聞こえた。

 そちらに目をやると、この島に到着したばかりと見えるシルヴィアさんとセレナさんがコチラに近付いて来ていた。

 二人と合流したワタシ達は、ひとまず、現状の報告をしあった。

「どうでしたか?そちらは」

「ダメ。貴女が飛び出した後、すぐさま逃げられた」

 ワタシの問いに、セレナさんが答えた。

「そうですか………」

 その言葉を聞き、ワタシは彼女達の『目的』が予想出来た。

「何か分かったの?」

 突然、最中さんが訊ねてくる。

 その言葉を聞き、他の三人の目がワタシに向けられる。

「いえ、考えていたのは、この機械達の出所です」

 しかし、ワタシはその答えを口にせず、別の話題で反らす。

「それは何か分かったの?」

「えと、どちらかと言うと、見当が付いたといった感じですが………」

「ふぅ~~ん」

 ワタシは、その答えを証明する為、その場所に入衛さんを呼んだ。

「…………」

 入衛さんは、瓦礫の山を一周すると、その中から中型の機械人形一基分のパーツを引きずり出した。

「えと……、《西》の技術に間違いないだろうげど………、それと私を呼んだ理由は何?私、こう見えてもけっこう忙しいんだけど?」

 嘘だ………。

 呼びに行った時、入衛さんは近くの釣り堀で釣りをしていた。

 そんな奴が忙しいはずがない。

「あ、えと……。先程、此処にこの機械達を連れた機巧人形とおぼしき者達が襲って来ましたので………」

「??? 此処、《西》に狙われるようなモノがあるの?」

「いえ、無いと思います」

 そう返すということは、何も知らないのだろうか………?

「ただ、此処が、師法さんの研究所で、ソレが何か関係あるのかな?と思っていたのですが…………」

 何となく引っ掛かっていた。

 研究所で出会った少女は、ワタシが現れた時、「対象の増殖」と言っていた。

 それはおそらくワタシの事で、その前の対象は結羽灯さんの事だと思われた。

 その点を考慮すれば、相手の目的が《人工生命体》であり、相手の存在が、錬金術士と何か関係のある人物だと推測した。

 なればこそ、その錬金術士を自称する入衛さんなら、何かのヒントのようなものを持っているはずだ。

「えっ、マジ!?此処って、師法博士の研究所なの?」

「あ、はい………」

 それは間違いない。

 入衛さんを呼ぶ前に、結羽灯さんに訊ねていたのだ。

 そして、結羽灯さんは、以前入衛さんが言っていた師法隆充の娘であることを認めた。

 それが、交換条件となるという訳でも無いが、何かしらの情報が聞ければ良いとは思っている。

「そっか~~、此処が……」

 そう呟いて、入衛さんは島全体を見渡す。

「あの、一つ、訊ねても良いですか?」

「何?」

「入衛さん達は、『オジサン』?の依頼で、ワタシに接触しているんですよね?」

「そうだね………」

 今の入衛さんは、機械の部品の一部をばらしている。

 そんな入衛さん達《七罪聖典(セブン・シンズ)》は、『オジサン』とやらの依頼で動いているらしいが、彼女達はその『オジサン』の目的を知らず、ただ《夜天騎士団》の《皇》と呼ばれるトップの人物を倒す手伝いを頼まれているらしい。

 しかも、彼女達は、その『オジサン』と《皇》という人物がどんな人なのかよく分かっていないらしい。

 それでも従う理由は何なのか………。

 ワタシは、それが知りたかった。

「特に理由は無いよ?」

「へ?」

「他の奴もそうだと思うけど、私は『オジサン』ととある『取引』をしているから、その為に活動している感じかな?」

「………」

 その回答は酷く曖昧で、凄く非効率なモノだと理解した。

「ちなみに、差し支え無ければ、その『取引』とはどのようなモノなのか訊ねても良いですか?」

「ん?ん~~。まぁ、私の場合は《人工生命体》の研究……かな?」

「………」

 ワタシは、その答えの返答に困った。

「けど、別に『オジサン』に頼まなくても、こうして研究出来たりするののらそれも良いかな?とは思ってるよ」

「はぁ………」

 それはそれで良いのだろうかと思えてしまう。

「ねぇ」

「え?あ、はい。何ですか?」

「これ………」

 入衛さんは、機械の部品の一部と思われる小さな鉄板を放り投げた。

 その鉄板には、何かの『記号』のようなモノが刻まれていた。

「これは……?」

「此処を襲った『敵』の正体、何となく見当は付いたよ」

「本当ですか?」

「うん。多分、襲った軍団の親玉は錬金術士だろうけど、この機械達を製造したのは、その『紋章』を刻んだ人物で間違いないね」

「………」

 つまり、襲ってきた人物と、この機械達を製造した人物は別ということだ。

「現状、錬金術士は私を含めて八人。その中から《人工生命体》の研究に興味を持っている人物は、私を除いて二人いるからどちらかだとは思う」

「では、この機械達の製造者は?」

「それね。あまり思い出したくは無いけど、その『紋章』を刻む人物には一人しか心当りがないね」

「それは?」

「『白亜の殉教者』………。そう呼ばれていた人物が、《聖皇教会》に存在していたの……」

「存在……していた?」

「うん。五年前に、その人は《教会》を去った。その理由も、その後の彼女の動向も、掴めないでいたけど、まさか、こんなカタチで出くわすなんてね………」

 その言葉には、どこか重みを感じた。

 『白亜の殉教者』………。

 殉教者とは…………。

 宗教上、信仰のためなら、死をも厭わない人物のことを指す言葉だ。

 そんな人物が裏で糸を引いているとなると、今回の事件も一筋縄では行かない気がしてきた。

 しかも、入衛さんの表情を見れば、その『白亜の殉教者』と呼ばれる人物は、入衛さんが『苦手』とする人物なのかもしれないと予測させる。


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