第0話 終焉の根源
視界を覆う、深紅の世界。
何処までも続く、鮮血の如き───赤。
護るべきはずだった街も人々も、その『全て』を空腹の獣の如く喰らい葬る───紅蓮の炎。
それは、外郭を焼き、内郭を蒸す程に究極にして、最凶の焔。
少年が今まで見てきた数多の《神威兵器》など、この焔の前では稚戯に等しい。
その街の総てを喰らい尽くすまで、決して消えることのない、災禍の燈火。
「サク、ヤ…………」
少年が少女の名を呟くも、その言葉に、少女はもう応えられなかった。
少年の傍らには、綺麗な桜色の髪をした少女が横たわっている。
少年に突き刺さる、たった一つの真実。
そう───少女は、死んだのだ。
少年の流した涙が、少年の頬を伝い、少女の顔に落ちる。
少年は泣いていた。
幾星霜の刻を経てなお、その身を共にすると誓った彼女。
少年にとって、少女は何物にも代えがたい───かけがいの無い存在だった。
そんな……少年の目の前で、大切な者達を漆黒の獄炎へと姿を代えた焔は、無慈悲なまでに蹂躙しひたすらに総てを燃やし尽くした。
何の罪も無いはずの人々を巻き込みながら、彼らの人生を……その魂の叫びを否定するかのように、災禍の炎は命を種火により強き業炎となって、少年の身へと襲いかかる。
その場を動かぬ少年の姿は、逃れようのないその現実を否定するような、最も愚かしき行為だった。
少年は涙を拭い、上空を見上げた。
「災禍の、神威兵器使い……………」
少年は怨むように呟き、上空に立つ人物を睨み付けた。
そこに立っていたのは、漆黒のローブに身を包んだ、少年の知人。
彼は、少年の全てを奪い、少年の総てを壊した、その張本人であった。
「裏切り者……………」
少年の呟きも虚しく、彼は、少年を嘲笑するような表情をすると、その場から離脱した。
「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ……………」
少年の叫びに呼応するかのように、紅蓮の炎は総てを焼き、少年をも飲み込み始めた。
その紅蓮の炎は、そのまま大地を焼き尽くし、蒼窮を深紅に染めた。
それと同時に、世界はひび割れ、分断された。
そして、一つの小さな世界が、生まれた。




