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化かし合い

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さて、今日は件の商会会頭との会合の日。


よし……と気合を入れ直してから、馬車に乗り込んだ。


これからむかう商会は、私の破門騒動の時をついて、従業員の面々を引き抜いた商会の一つ。


前にウチのお店の中で騒いだ男……ダンメもいたところだ。


王都の中でも栄えている土地の一角にあるその建物の前で、馬車は停まる。


店を少し覗いてみたが、中にいる客は少なく閑散とした様子だった。


セイが店の者に私が到着したことを伝え、すぐさま応接室のようなところに通される。


……なんだか、ちぐはぐな雰囲気。


それが、応接室を見た時に初めに思ったことだった。


沢山の調度品。重厚な……ウチの領の商業ギルドの応接室にあるようなそれらと同じ雰囲気を持つモノもあれば、一方で、目がチカチカするのではないかと思うような派手な調度品や美術品も置かれていた。


まるで気の合わない2人がそれぞれ好き勝手した結果、このような……全体的に見て、ちぐはぐとしたものになってしまったようではないか。


それと、幾つか不自然に調度品と調度品の間にある何もない空間が、また更にちぐはぐな印象を与える。


恐らく、以前は何か置いてあったのだろう。


その証拠に、壁の不自然に空いた一角にはかつて絵画が掛けられていたのであろう跡が見受けられた。


……模様替え中?いやいや、まさか。そんな模様替えの途中で客を部屋に入れるようなことはしないでしょ。


……売ったのかしら?その可能性の方が高いわね。


そんな考察をしていたら、会頭が現れた。


派手。それが、第一印象だった。金糸をこれでも使っている衣服。全体的にレースが多く、男性の服ながら何だか重そうだ。


「初めまして。私の名前は、ヴルド・ランカム。この商会の会頭を勤めています」


「初めまして。アズータ商会会頭のアイリスです。以後、お見知り置きを」


互いに柔かな笑みで会話がスタートする。


「それにしても、話題のアズータ商会の会頭の方にお会いできるとは」


「私の方こそ。王都で一・二を争う商会の会頭にお会いできたのですから、またとない幸運ですわ」


ほほほ、と扇で口元を隠しながら笑う。この笑い方って、何だか物語の中にある悪役令嬢のそれよね、と内心自分自身でツッコミながら。


ピクリと、相手のヴルドは眉を僅かに顰めた。


はて、早速私は彼の神経を逆なでることができたのかしら?揺さぶりは、もう少し和やかに話してからにするつもりだったのだけれども。


「……王都で正しく一・二を争う商会であるアズータ商会の会頭の貴女が、何を仰いますか」


あら、早速突っついて良いのかしら。


「まああ……過分なお言葉、痛み入りますわ。けれども、所詮私どもはアルメニア公爵領から参りました新参者ですから。貴方様の商会のように、歴史がある訳ではありません。それに、貴方様の商会はエドワード王子様の覚えも目出度く……。本当に、羨ましい限りですわ」


そう言った瞬間、ヴルドはすぐに笑みを浮かべる。立て直したか。


「……そんな、恐れ多い。ですが、そうですね。エドワード様は私の商会を重用してくださいまして。とても有り難いことだと思っております」


ああ……。エドワード様を盾にするのか。この商会の盾であり鉾は、正しくそれ。私が会頭である故の、アズータ商会のウィークポイントをよく理解した上での武器。


「……ところで、このお部屋に置かれている美術品はとても素晴らしいものでございますわね」


私はここで話題を切り替える。まどろっこしいが、自分から望むものを早々に提示するのは具の骨頂。相手に足元を見られてしまう。


例え資本でこちらが優勢に立っていても、そんなこと関係ない。向こうは、エド様との繋がりを盾にして、少しでも有利に進めようと目論んでいる。


一か零かの勝負ではないこの場で、私も私の望む形で話を纏めるには、少しでも気を抜いてはならない。


「……そう言っていただけて、嬉しく思います」


向こうも、いったん攻勢の手を緩めた。


「ええ。どれも素晴らしくて、ついつい魅入ってしまいましたわ。“全てが”揃っていたら、さぞや壮観でしたでしょう」


またもや、ピクリと彼は反応を示した。不自然な間がある理由について、私の考えは当たりかしら?


「……丁度、模様替え中でしたので。不完全な部屋をお見せしてしまい、誠に恥ずかしい限りです」


そう言った彼の顔は鋭く、僅かに気を張っている様子が見受けられた。これがウチの領の商会の会頭達だったら、そんな動揺も見せずに自然に笑って場を和ませるような一言でも添えたでしょうに。


あの人達との交渉を重ねたおかげで、少しはこういう場のスキルも上がったのだから感謝はしているけど……全く、こうして彼と対峙していると、彼らがどれだけ狸なのかよく分かるわ。今後はもう少し手加減して欲しいと、切に願う。


「まあ、そうでしたの。きっと、全てが揃ったらそれはそれはとても素晴らしい部屋になるのでしょうね。次はあちらに何を飾るのかしら?」


「………まだ、思案中でして」


「左様ですか……不躾に質問を繰り返してしまいまして、大変失礼致しましたわ。ルドルフ侯爵様とも仲の宜しいヴルド様ですもの。当代随一の風流人であらせられるルドルフ様のツテで、きっと素晴らしいものをお手にされるのでしょうね」


そう言った瞬間、目の前の彼から仮面が剥がれ落ちた。



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