ディダの問いかけ 弐
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「姫様に、その覚悟はあるのか?」
そう言ったディダの表情は、いつになく真剣そのものだった。
「戦いになればそりゃ、相手を殺すことが求められるし、自分が傷つき死ぬことだってある。姫様の号令一つで皆がそういう場に立たされる」
「………ディダ」
ライルがここにきて、咎めるように名を呼んだ。
「殺される覚悟を持って、相手を殺せと姫様は命じることができるのか?」
「ディダ!!」
それでも尚口を閉ざさないディダに、ライルの鋭い声が響き渡る。
シン、とその一瞬場が静かになった。
「戦に出るならば、誰もが覚悟をしなければならない。自分の命が失くなることも、剣を持つこの両の手が相手の血に塗れることも。お嬢様一人が背負う必要はない」
ライルの言葉は、静まり返ったその場に酷く響いた。
その甘い響きに、一瞬揺らぎそうになる。
「そりゃ、俺も覚悟はしているさ。けど、姫様に必要な覚悟はそうじゃないだろう?
姫様の号令で、戦場は如何様にもなる。直接兵を率いることはなくても、姫様の命が俺たちの指針だ。俺たちは自身とその背後に立つ民達の命を背負う。けれども、姫様は戦場に立つ全ての者たちへの責任とそして“その後”に責任を持たなければならない。……そうだろう?」
ディダの問いかけに、ライルが口を閉ざす。
「そして直接手を下さない、けれども命令書にサインをするならば、姫様の手も血に塗れるも同然だ」
けれどもディダの言葉は正しく……だからこそ、胸に突き刺さる。
知らぬ存ぜぬでは、いられない。
……例え民がどう思おうが。
私の指示一つで、事はなされる。
守る為にと言いながら、戦えと命を奪えと指示をする。
私の指示一つで、本当に命のやり取りがなされる。
争いを望まない民達をも、巻き込んで。
……もしも戦いが起きた場合、私は戦えと命じることができるのかしら?
「……今、すぐにその覚悟を示せとは言わないけどさ。でも、先を見据えて備えろと指示を出すのならば、姫様も先を見据えて今から覚悟を決めた方が良い」
自身に問いかけたけれども、答えはでない。
「そうね。……貴方の言う通りだわ、ディダ」
随分と情けない声だった。
けれども、どうしようもなかった。
本当に、情けない。
ディダやライルに備えろと指示を出しながら、自分はまるで備えられてなかったのだから。
「私はまだ、貴方のその問いに答えることはできないわ。少し、時間をちょうだい」
「分かりましたよ。じゃ、俺たちは先に備えておくんで」
てっきり、私の答えを聞いてからでないと動いてくれないと思ったのに。
先んじて備えてくれると言ったディダの言葉に、少し驚いた。
「……ええ。宜しくね」




